9.名酒造りのドワーフ1
「それにしても武器屋が多いな」
「ドワーフって言ったら武器も有名だからね」
「へぇ、ちょっと見ていくか」
タケルたちは適当にその辺にあった武器屋に入ってみる。
「いや、なんか武器屋ってテンション上がるっすよね」
フォリンとシェイドとジルはいつもより少しテンション高めだ。フィリーはあまり興味ないようだ。
タケルは立てかけてある剣を取り鞘から抜いて、刀身を見る。
「ふむ、結構いい剣だな」
ヤマトで作っている剣を見たことがあるが、あれよりも品質は上だ。やっぱり鍛冶師の腕というのにはドワーフに軍配が上がるらしい。
「兄貴は剣を買わないんすか?」
「そりゃあ、俺は農家だからな。剣なんて持ってるのおかしいだろ」
そう言ってタケルは見ていた剣をもとに戻す。
タケルは今まで農家だからという理由で、鍬とか斧でバトルをしていたのだ。剣を手に入れようと思えば、獣人たちからもらえばよかったわけで、それをしなかったのはひとえに農家であるという矜持があったからだ。
フィリーそんなバカみたいな理由で武器を持っていなかったことに驚いた。
冷静に思い返してみるとタケルがエルフの援軍に言ったとき、武器を一切持っていなかったことを思い出したのだ。あの時は気が動転していて気が付かなかったが、普通にあり得ない。タケルに何かあった時に困るため、絶対に武器を持たせるという意思を持った。
「バカなこと言ってないで買っておきなさい」
「いや、俺は……」
農家だからいらないと言おうとした。
「これ一つ頂戴」
しかし、タケルの反論を無視して、無理やりフィリーが買う。
「万が一のために持っておいて。あなたに何かあったらみんな困るのよ」
「フィリーがそこまで言うなら持っておくか」
フィリーから渡された剣を嬉しそうに見る。なんだかんだ言って武器は好きだからだ。農家というプライドが邪魔して今まで持てなかったのだ。
武器屋で剣を買ったあと、タケルたちは再び町を散策する。酒造店を見つけて話をしてみるが、タケルの誘いに乗りそうな人が全然いない。そもそもいきなり行って職人に合わせてほしいと言っても、合わせてもらえない。何名かには会うことができたが、職人というよりも仕事としてやっているという感じで、タケルの誘いに乗りそうではなかった。
「そう簡単に見つからないっすね」
「そうだな。あそこも行ってみるか」
「えっ、あそこっすか」
「試しだ試し」
他の酒造店と比べると、ボロボロだ。だから、フォリンが訝しむのも分かる。見るからに繁盛していなさそうなお店にいい職人がいるとは思えないからだ。。
でもタケルたちには贅沢を言っていられる状態でもないので、とりあえず行ってみることにした。
扉を開けると、中から言い争いをしている声が聞こえた。
「いいから出てってくれ!」
「こちらは親切心で言っているのですけどね」
「うるせー! 何度も断ってるだろうが!」
「じゃあ、借金はどうするのです? このままだとあなた路頭に迷ってしまいますよ」
「うるせーうるせーうるせー! どうにかするって言ってんだろうが!」
この店の店主のようなドワーフがやたらと上物の服を着ているドワーフを追い返すように大声で反論しているようだ。
しかし、上物の服を着ているドワーフは店主の反論を涼しい顔で受け流している。
そんな様子を見てタケルは思わず笑みをこぼす。
「これは当たりかもしれないな」
頑固爺すぎて店を傾けてしまったドワーフという可能性がある。いい職人であれば華やかな店を構えられるとは限らないのだ。腕はそこそこでも商売上手の方が店は繁盛する。
タケルは店主のドワーフと目が合う。
「客が来た。さすがに帰れ! 邪魔だ」
「客って……まあいいでしょう。また来ます」
「もう二度と来るな!」
鼻につくような上品の振る舞いをして上物の服を着ているドワーフは出ていく。
「この店で作っている酒を売ってほしいんだが」
「申し訳ねーが、うちで出せる酒はねえ」
「売り切れってことか? そんなに人気があるとは思えないんだが……」
店内を見回すと寂れた感じで、どう考えても人気店とは思えない状態だ。
「違う。俺が納得できる酒を造れねーからだ。そんなものを売るわけにはいかねー」
タケルの勘が当たった。こいつはありかもしれないなと思い始めた。
「それはお前さんの腕が悪いってことか?」
あえて煽る。この言葉になんも反応しないようであれば心の火が消えている。そんな奴にはおいしい酒なんて造ることはできない。
タケルの煽った言葉にドワーフはむっと怒るが、店主が言葉を出す前に店の奥の方から声が聞こえてきた。
「違います! 親方は、本当はすごい人なんです!」
「じゃかしい! お前は引っ込んでろ!」
「すごい人ってどんな?」
タケルは親方と呼ばれるドワーフを無視して突っかかってきたドワーフに話しかける。
「親方はかつてこの国の王様に献上し、クラウン・レッドの称号をいただくほどのお酒を造ったことがあるんです! 決して腕が悪いなんてことはありません!」
弟子のドワーフは親方にどやされても引っ込むつもりはなく、タケルに堂々と言い返す。
「へえ、それが何でこんな状況になってるんだ?」
「それは……」
弟子はその答えに言いよどんだ。
「それがわかりゃー苦労してねーよ」
親方が弟子の代わりに応える。王に献上するほどの酒を造れる職人だ。原因が分かれば、対処できるのだろう。
「この酒を飲んでみろ。ここまで突っかかってきたんだ。飲めるよな?」
親方から出されたのは木のコップに入ったワインだった。ジルを除いた人数分のコップが用意されている。
「ああ、もらうぜ」
タケルはそのワインを一口飲むと、思わず顔をしかめる。あまりに酸っぱすぎるのだ。これならタケルの町で作っているワインの方がはるかにおいしい。
「なんだこりゃ? 本当にワインか?」
このワインを飲んだフィリーたちも思わず顔をしかめている。
「はっ! 笑っちまうよな。かつて国王様に酒を献上したことのある職人がこんなまずい酒しか造れねーなんて」
「他の酒もこんな感じなのか?」
「似たようなもんだ。酸っぱかったり、甘すぎたり、最悪の場合は腐ってるのもある」
明らかに発酵の過程でミスをしている。ただ熟達した職人がそんなミスをするのか、いや仮ににしたとしてもそればかりというのは何か変だとタケルは感じた。
「お客さんよ。悪いこたーいわねー。ここじゃない他の店で酒を買いな」
タケルはどこか気落ちしているドワーフをじっと見つめ考える。このドワーフは当たりかもしれないが外れかもしれない。当然タケルにも何が原因でこうなっているのかは分からない。本当に腕が鈍ったのかもしれないし、何が他の原因があるのかもしれない。
そんな風にあれこれ考えているとフィリーがタケルの服を引っ張って小声で話しかけてくる。
「別のところ行きましょ」
「どうして?」
「どうしてって私たちの目的に合わないからよ」
おいしいお酒を造ろうとしているのに、不味い酒しか造れない職人を引き入れても無意味だ。そんなことはタケルにもわかっている。
「いや、でも、俺の勘がこいつは悪くねーって言ってるんだよな」
この親方には職人としての矜持がある。そんな気がするのだ。だったら、そこに賭けるのは悪い賭けじゃない。女神様のクエストには期限は設定されていない。最悪ダメでも他の人を頼ればいい。
「なあ、おっさん。俺の町で酒造らねーか?」




