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8.女神様からのクエスト

 

(これは女神様からのお願いか?)


 クエストには受ける、受けないのボタンが用意されており、選ぶことはできるようだ。選択できるということは強制ではなく、裁量はこちらにあるのだろう。


(おいしいお酒を献上しろではなく、造れと来たか)


 おそらくタケルが作った農作物で作ったお酒ということだと判断する。だが、すでにこの町では酒造りは行われているし、それをお供えしたこともある。それでは満足できなかったということだろうか。


 タケルが色々考えると、それにフィリーが気付いたようだ。


「どうしたの?」


「ん、ああ。今な女神様からクエストが出された」


「クエスト? どんな?」


 フィリーは当然女神様からのクエストが来るなんて言う話は聞いていないが、タケルの異常さに慣れてしまったため平然としている。


「おいしい酒を造れ、だとさ。一応やるかやらないかはこっちで選べるみたいだけど」


「どうするの?」


「それは……受けるに決まってる」


 フィリーに問われて思ったが、タケルに女神様からの頼みごとを断るという選択肢はない。女神様からもらった農業スキルにさんざん世話になっているのだ。よっぽど無茶な要望じゃない限り聞くだろう。


「サイラス呼ぶ?」


「そうだな。フォリン頼んだ」


「はいっす!」


 そして、フォリンがサイラスを連れてきた。


「うまい酒、そうだな名酒と呼ばれるくらいの物を造りたいんだが、協力してくれるか?」


「名酒ですか?」


「そうだ」


「……私、その、下戸なんですよね。それもあって正直酒の何がいいやらよく分からず……。私の好きな発酵物だとは理解しています! 理解していますが……いい酒を造るとなると私では難しいです……」


 酒の良さが全く分かっていない人が名酒を作ることは難しいだろう。いくら技術があっても方向性が決まらなければその技術を生かすこともできない。


「そうか。なら仕方ねーな」


「申し訳ありません」


「いや、わざわざ呼んで悪かったな。他の発酵物は頼んだぞ!」


「はい、お任せください!」


 サイラスは部屋から出ていく。


「うーん、どうしたもんかな」


 サイラスがダメとなると自分たちの力で作るのはちと厳しいのかもしれない。


「酒造りって言ったらドワーフよね」


「ドワーフか……引き抜くか」


「当ては……あるわけないわよね。どうするの?」


 当てはあるのか聞こうとしたが、タケルにあるわけがなかった。


「とりあえず話をしてみる。職人を動かす方法ならある」


「どうやって?」


「俺の作った農作物があるんだぞ? 最高の酒を造りたい職人なら、喉から手が出るほどの原料だろう」


「それなら……可能性はあるかもしれないわね」


 サイラスを見ていれば、タケルの作っている農作物を扱いたいという職人がいるのはおかしくない話である。多くはないだろうが、ゼロではないという感じだ。


「よし、それじゃあ、他の町に行ってドワーフを引き抜くとするか。行くぞ。ラグナ」


 そう言ってタケルは旅に出る準備を始めようとするが、それにフィリーが待ったをかけた。


「酒造りができるドワーフがいる場所、どこだか知ってるの?」


「知らん」


「はあ、呆れた。大まかな方向なら分かるから、教えるわ」


「……いっそのことフィリーも行くか?」


「え、私も?」


「場所分かるんだろ。それに俺は世俗のことはよく分からん。だから、フィリーがついてると心強いな」


「私も詳しいわけじゃないけど……タケルよりかはましね」


「じゃあ、決まりだな」


 タケルはニカッと笑う。


「俺っちもついて行っていいっすか?」


「おう、いいぞ」


「僕も僕も!」


「ジルも一緒に行こうな」


「やったー!」


 ジルはタケルとまた外に行けることを喜んだ。みんなが行くということでエルミィも行きたくなったが、自分なんかがそんな主張をしていいのか迷っている。


「私も行きたいにゃ……」


 なんとか小さな声で言うことができた。


「エルミィ、遠慮するな。行きたいなら行くぞ!」


「はいにゃ!」


「それじゃあ、みんなでドワーフの国に行くぞ!」





 それからタケルたちはドワーフの国に行く準備をした。


 ドワーフの国に行くメンバーに獣人三人、エルフ三人の護衛が追加された。護衛の隊長はシェイドだ。


 タケルとラグナだけだったら、護衛なんていらないが、フィリーとジルとエルミィがいる。一応フィリーは多少戦えるようだが、距離を取って魔法をぶっ放すという戦い方だ、護衛は居た方がいいだろう。


 ちなみに、護衛にオークは参加していない。オークは身体が大きくホワイトウルフに乗ると、ホワイトウルフが疲れてしまい、距離を稼ぐことが難しいからだ。


 こうして、タケル一行はドワーフの国に酒造りが得意なドワーフを勧誘しに向かったのであった。



 ◆




「あれがカザルって町か」


 タケル一行は途中で村人や行商人なんかの話を聞きながら、酒造りで有名な街を目指した。それがカザルだ。ドワーフの国のグラニット王国の辺境に位置するが、かつては王に献上されるほどの酒を造っている人もいるくらい酒造りで有名だ。カザルの酒を好んで飲むドワーフの多いらしい。


「お前たちはここまでだな」


 ラグナから降りたタケルはラグナ達に別れを告げる。さすがに魔物や魔獣であるホワイトウルフやディープスパイダーを町の中に連れて行くことはできない。一般的なホワイトウルフやディープスパイダーは人を襲うので、連れていたら警戒されるとのことだ。


 ちなみに移動は森の中や人目に付かない場所など、普通の道を使わずに来たので問題は起こらなかった。


「主……」


 なんだかラグナは離れるのが不服そうだが、さすがに連れて行くことはできない。


「そんな顔すんなって、なるべく早く用事を済ますからよ」


 そう言ってラグナの頭を撫でまわす。


「じゃあな、大人しくしてろよ」


 こうしてラグナ達と別れた後、一行はカザルの町に歩いて向かった。


 特に何も起こることなく門番とのやり取りを済ませ、町の中に入る。


「おお、こんな風になってんだな」


 少しばかりタケルは感動していた。ずっと森の中に引きこもっていたので、こちらの世界の文明に触れることができて新鮮な気持ちになった。辺りを見渡してみると、全体的に中世に近い文明レベルだ。とはいえ、この世界には魔法があるため、科学文明とは違う発展の仕方をしているのだろうが。


 ジルも辺りをきょろきょろと見ている。


「ほら、きょろきょろしているとはぐれるわよ」


 そんなタケルとジルに対してフィリーが注意する。


「おう、じゃあ、まずは……」


 何をするべきだとタケルは考える。タケルは旅慣れているわけではないので、すぐに出てこない。


「宿屋の確保ね。とりあえず拠点にする場所を作ってから、色々動いた方がいいわ」


 複数人で移動をするなら、共通の待ち合わせ場所というのが必要だ。


「じゃあ、そのあとに酒造りのドワーフ探しつつ観光だな」


「観光って……まあいいけど」


 タケルはその辺に居る人におすすめの宿を聞いて回った。複数人がおすすめした宿があったので、そこに決めた。グレードはそれなりでお金はかかるが、安全性を重視した。以前エルフの里に農作物を撃ったときの金がだいぶ残っている。


 宿に着いたので、今後の動きを皆で話す。


「俺とフィリーとジルは一緒に行動するけど、お前たちはどうする?」


「俺っちは兄貴と行動するっす! シェイドたちは別行動しても大丈夫っすよ」


「いや、俺も同行する。お前たちは情報収集をしながらではあるが、自由に行動していいぞ」


 フォリンとシェイドが俺たちについてくるようだ。他の護衛の奴らは町中では自由行動だ。町中でぞろぞろと護衛されても邪魔だしな。


「私はおいしいもの食べに行ってきますにゃ!」


 エルミィはこの町でおいしいものを食べまくって、料理のレパートリーを増やそうと思っている。もちろんおいしいものを食べたいという私欲の部分もあるが。


「……誰かついて行ってやれ」


「はい」


 町中では大丈夫だろうが女が一人で行動するのは少々危険なため、念のため誰かがエルミィについていくようにシェイドが指示をして一人の獣人が答える。


 こうして一行はそれぞれ分かれて町を散策することになった。



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