7.魔人爆誕
交渉は無事終わり、道路工事が始まった。
グリムヴェイル大森林の道については、ラグナ達ホワイトウルフに協力してルート決めを行うようだ。強い魔獣が多く住んでいる場所は避けた方がいい。多少遠回りになっても安全性を優先させた。ルート決めはこちらで行うため、実際の道づくりの負担はネザリス王国側の方が少し多めという形になった。
そして、今日は収穫の日だ。
毎日のように収穫はしているが、今日は特別な農作物の収穫日だ。今日収穫するのは一切育成スピードを上げていない農作物の収穫だ。
皆を食わせるために育成スピードをガンガン上げて作っている農作物もたくさんあるが、畑の一部は通常のスピードで育てている農作もある。
時間をかければかけるほど農作物の品質は上がっていく。つまり、今回収穫するのは、最高品質の野菜だ。
「心なしか野菜が輝いているように感じるな」
大事に育てたトマト。いざ収穫するとなると、ちょっと感動ものである。スキルの力は使っているが、それでも時間をかけて育てたものに対して感慨深くなるのは当然だ。
今すぐ食べたい気持ちもあるが、グッと我慢して、女神様への神棚が置いてある。祠に向かう。
トマトをお供え、二礼二拍手する。
「女神アメリア様。いつもありがとうございます。これが今私に作れる最高の野菜です。どうかお納めください」
お祈りを捧げたあと再び一礼をして、タケルは家に戻る。
「収穫してきたぞ!」
タケルの家には、フィリー、ジル、ラグナ、カリュネラ、フォリン、エルミィがいた。
タケルとしては住民になら誰に食わせてもいいと思っているが、フィリーにそれは止められた。どれくらいやばいものなのかが想像つかないからだ。
ちなみに、すでに高品質も農作物は住民に配っている食料の中にも含まれている。特に戦う可能性が高い人には多めに配布して強くなってもらっている。
「ついにできてしまったのね……」
フィリーはそんなにうれしそうじゃない。これがどのくらいヤバいものなのか想像もつかないからだ。
一方でカリュネラとラグナは目を輝かせてトマトを見ている。これが自分たちを成長させてくれるものだと分かっているのかもしれない。
「主! 早く早く!」
「そうせかすなって」
みんなの前に一人一個ずつトマトを置く。
「あの、私も食べていいのでしょうかにゃ?」
普段とは違うトマトであることはエルミィにもなんとなく分かったようで、どこか恐縮したような感じでフィリーに問いかける。
「いいのよ。普通の人の反応も欲しいし」
フィリーはどこまでの人に食べさせるのか悩んだが、エルミィはタケルの料理を作っているのもあってそのうち触れる可能性太が高い。それなら最初かこの野菜の存在を知っておいた方がいいと判断した。
「なんかすごそうっすね!」
「そうだろ! これは最高傑作と言っても過言ではないからな」
フォリンはいつもタケルについて回っており、いつの間にか可愛がられているため今回の試食会への参加することができた。フィリーとしてもフォリンはタケルに懐いているので大丈夫だと判断した。
「もう我慢できないよ!」
カリュネラがよだれを垂らしまくっている。
「おお、すまんな。それじゃあ、みんなで一斉に食べるか。いただきます!」
「「「いただきます!」」」
皆で手を合わせていただきますをしてから、皆一斉にトマトにかぶりつく。
「ん!」
あまりのおいしさにタケルは言葉にならない反応をする。タケル以外の人達も同じようにそのおいしさに驚きを示す。
そんな中一人だけ、明らかに違った反応を示すものがいた。
「うまああああああああああああああああああああああああ!」
最初の方はおいしさを表現しているかのように感じたが、途中から悲鳴に近いものに変わっていった。その声にタケルが反応する。
「カリュネラ!」
カリュネラは光り輝き、姿がまともに見られなくなってしまう。
再び姿を現したときには、カリュネラは人の姿をしていた。その姿に一同騒然としていた。
「主!」
カリュネラはその場からタケルに飛びつく。
「僕ようやく進化できたよ! これも主のおかげだよ!」
「おお、それはよかったな」
あまりに衝撃的な出来事すぎて皆がうまく反応できなかったが、ようやく脳の処理が追い付いてフィリーがカリュネラに注意する。
「って! ちょっと服! 服!」
「えー、今まで何も着てなかったよ?」
「そうだとしても、人の姿になるなら服を着なさい!」
「ええー」
「ほら、あのヴァルザナード様も服を着ていたでしょ」
「確かに……」
カリュネラはしかめっ面を浮かべながらも渋々納得した。
カリュネラにとってあんまり好きではない相手ではあるが、自分よりもはるかに格上の存在。そんな存在ですらも守っていたルールだからだ。
「エルミィ!」
「はいにゃ!」
とりあえずエルミィが持ってきた大きなタオルでカリュネラの体を隠す事にした。
「まさか、カリュネラが魔人に進化するなんて……」
冷静に考えれば、その可能性はあった。ラグナが魔獣から魔物に進化したのだ。カリュネラが魔人に進化することだって考えられたはずだ。しかし、想像したくなかったから、
「ラグナもすぐに進化するなんてことないわよね……」
「我は強くなった感じはするが、進化はすぐにできる感じはしない」
「そう、よかったわ」
タケルはくっ付いてくるカリュネラをのんきに撫でている。
「これは隠せそうにないわね」
「隠す必要あるのか?」
「……きっと何も知らないだろうから説明するけど、魔人は一人で大きな町を滅ぼすだけの力を持っているとされているわ。場合によっては、国が滅びることさえあるわね。だから、一般的に魔人が確認されたら国が討伐に当たるわ」
討伐という言葉を聞いてタケルは思わず眉を顰める。
「一般的に、ってことは例外もあるのか?」
「大体の場合が、魔人が村や町を攻撃したときに発見されるわけ。だから、暴れなければ国が動くってことはあまりないわね。まあ、地方の領主がどういう対応をするかは、ケースバイケース。でも、大人しくしている魔人にわざわざ喧嘩を売りにいくってことはほとんどないと思うけど……」
「まあ、喧嘩を売ってくるっていうなら、買うけどな」
カリュネラを一人どこかの国と戦わせるなんてことは絶対にしない。そんなことをさせるくらいならタケルも参戦する。
「そしたら、戦争よ」
戦争という言葉に思わずタケルの口が塞がる。喧嘩なら買う。でも戦争を買ってもいいことはないことぐらいタケルでも分かっている。
「できればそれを回避したいから隠したいけど、それも無理そう。ってことでカリュネラは大人しくしてるのよ!」
「はーい!」
あまりに能天気な返事にフィリーは困惑する。
「あなた、話分かってる?」
「分かってる。分かってる。他の村とか町に行って暴れるなんてことをしなければいいんでしょ。これまでと一緒じゃん」
カリュネラは好戦的ではあるが、言えばきちんと止まれる子である。
「ま、でも。この町に戦いを仕掛けてくる奴がいたら容赦しないけど」
「それでいいわ」
何やら大きな爆弾を抱えた気もするが、何とかなる気もしてきたので、フィリーは一息つく。しかし、その直後、再び爆弾が投下された。
「あの、すごく盛り上がっているところ悪いんすけど、俺っちもスキルが使えるようになったっす」
フィリーはカッとフォリンを見る。
元からヤバイ食べ物だとは自覚していたが、人がスキルまで使えるようにするとなれば、もはや革命だ。その信じたいような信じたくなうような事実を知ってしまった。
「秘密よ。いい?」
「は、はいっす!」
フィリーの圧にたじたじになりながらも、何とか返事をするフォリン。将来的には他の人たちにも食べさせることになるだろうが、誰に食べさせるかはコントロールしたいので、ひとまず秘匿することを選んだ。
「で、何が使えるようになったんだ?」
タケルはのんきにフォリンに聞く。
「危険察知とかいうやつっすね」
「フォリンにピッタリじゃねーか」
「そうっすね。これがあれば兄貴に喧嘩なんて売らなかったっすね……」
もっと早く欲しかったというフォリン。それにフォリンは斥候タイプの獣人なので、このスキルがあると生き残れる確率はアップするだろう。
「フィリーはなんか目覚めたのか?」
「私はもともとスキル一つ身についているから。これと言って大きな変化はないわね。まあ、食べ続けたら分からないけど……」
あり得ないほどおいしいけど、なんだか食べるのが怖くなってしまったフィリーなのであった。
「さすがに、もう問題はないわよね……」
「いや、問題はあるぞ」
「何?」
「まずこの野菜は数日どころか、一週間ぐらい品質を維持できる」
エネルギー密度が今までの高品質のものと比較しても圧倒的に高い。そう簡単に腐っていかなず、長い間おいしい状態を保つことができるというのが感覚的にタケルには分かった。
「じゃあ、外には出さないように!」
「あともう一つ重要な問題がある。成長しない野菜で、ここまでの味のものを作れるだろうか?」
「そこはもう無理しなくてもいいんじゃない?」
「農家としての矜持があるんだよ!」
むしろタケルにとっては一番の問題だ。ここまでの物を作れると知ってしまった以上、おいしいものを食べさせてやりたいという農家の矜持が妥協を許してくれないのだ。
「はいはい、頑張ってね」
ただフィリーにとってはどうでもいい問題なので、適当に流すのであった。
タケルの目の前に今まではなかったものが急に現れた。
・クエスト【おいしいお酒を造ろう】




