6.ネザリス王国との交易
ゼルファスはお土産にタケルの農作物をもらい、巨大なリュックを背負って国に帰ってきた。大きな荷物があれば動きが阻害されるが、それでも問題ないのは超越者だからだろう。
ゼルファスは王宮に戻ってきた。
「ただいま、戻ったぞ!」
「おかえりなさいませ。ゼルファス様」
執事長がゼルファスを迎える。
執事長はゼルファスが子供のころから面倒を見ているもので、付き合いが長い。普通なら引退してもいい年齢ではあるが、体が動く限り仕えたいと言っているため働いている。
「それにしても、その荷物は何ですか?」
「皆へのお土産だ。うまいぞ!」
「ありがたく頂戴いたします」
そう言って執事長が荷物を受け取る。
「お土産ではあるが、俺への食事にも出してくれよ」
「はい、かしこまりました」
「そうだ! 爺や。初めて友ができた」
ゼルファスは嬉しそうに執事長に報告する。
「それはようございます」
執事長は本当にうれしそうに朗らかな笑みを浮かべる。
ゼルファスは小さいころから周りと比べて強かった。ゆえに、周りの人間はどこかゼルファスと距離があった。同世代と話すことはする。部下もいる。しかし、対等な友がずっといなかったのだ。それを知っている執事長はようやくゼルファスに友達ができたことに心の底から喜んでいた。
「俺のことを王だと知っても無礼な態度のままでな。ふざけたやつだ」
言葉の中身は悪評価なのだが、なんとも嬉しそうにゼルファスは語る。
「それが友というものです」
「かもしれんな。この友情がずっと続くいいな」
「そうあることを爺やも願っております」
執事長の言葉に対して、笑顔で答えるゼルファスだった。
翌日。
ゼルファスは今回タケルの町であるヤマトとの交易の件を話すために大臣たちを集めて会議を開いた。
「余が食料ルートを確保するために、旅に出ていたことは皆知っていると思う。それで我が国はグリムヴェイル大森林にあるヤマトという町と交易をすることを決定した」
「全く、王の勝手な行動には困りますな」
国王派とは別の派閥の貴族派の筆頭であるモルガンが言った。貴族派は国王派の反対勢力で何かといちゃもんをつけてくる。
「だが、仕方なかろう。あの町はグリムヴェイル大森林のど真ん中。しかもホワイトウルフやディープスパイダーも従っている。余以外のものが行って話をつけるのは難しいだろう」
並のダークエルフではタケルの町にたどり着くのも簡単ではない。それに万が一、タケルに従っているホワイトウルフやディープスパイダーに手を出してしまったら、それはそれで話がこじれる。
ホワイトウルフやディープスパイダーが脅威にならず、うまくやり過ごせる人の数は少ない。また色々な決定権を持つものとなると、ゼルファスぐらいしかいないのである。
「失礼。町ですか? 噂の場所は村ではなかったのですか?」
モルガンとは別の大臣が、質問をした。
「余が言ったときには町というレベルの大きさだったな」
「それはちと脅威ではありませんか?」
再びモルガンが王に指摘する。
グリムヴェイル大森林によく分からない集団ができたのだ。村レベルであれば脅威としては無視しても大丈夫だが、街レベルの人口となるとそう簡単に無視できるものではない。モルガンの指摘も的外れではない。
「脅威?」
しかし、タケルの人柄やホワイトウルフやディープスパイダーの統率の取れ方などを実際に見たゼルファスにはそんな考えが全くなかったのだ。
「ええ、魔獣なんぞを従えており、この短期間で規模が大きくなりすぎている。しまいには、我らの国を飲み込もうとするやもしれません」
「それはあり得ぬ!」
友であるタケルを侮辱されたように感じたゼルファスは強い口調で言う。
「そうですか? まあ、あくまで可能性の話ではありますが」
モルガンは王の威圧を受けても涼しい顔で受け流す。それくらいでなくては貴族派の筆頭など務まらない。
「なら、安心せよ。それはないと余が断言する」
「万が一、交易でトラブルが発生した場合、王の責任になりますが、よろしいのですか?」
ゼルファスは内心でやられたと思った。モルガンの狙いは王の権力が何らかの形でもそぎ落とせるような言質が欲しかったのだ。当然これだけで失脚させることはできない。それでも多少の影響力は弱まる可能性が高い。しかし、ゼルファスは引くことはできない。
「当然だ。万が一の場合は余が責任を取る」
「それなら私はその町と交易をするのは賛成でございます。食料を手に入れられるルートは多ければ多いほどいいですからな」
モルガンは初めから強く拒否するつもりなどなかった。今回の話は国にとってはメリットも大きい話だ。ゆえにゼルファスがモルガンにしてやられたという形になった。
「この件に反対する者はいるか?」
モルガンが賛成したことで、他に反対する者はいなかった。
「それでは、ヤマトとの交易をすることを決定する。それにあたって、道の整備のために向こうと話し合いをする必要がある。使節団に参加するメンバーはマルキスに任せた」
「仰せのままに」
ゼルファスは国王派であり宰相でもあるマルキスに使節団の結成を頼んだ。
それから数日後、使節団を結成し、そこにゼルファスが加わる形でヤマトへと向かった。
使節団のメンバーはゼルファスの側近であるエイシスを筆頭に他は国王派が二名、貴族派が二名の合計五名となっている。
長い間タケルのところに世話になったこともあり、お土産として鉱石を持っていくことにした。
「では、向かうぞ」
タケルの町であるヤマトに使節団がやってきた。
しばらくの間いた町にいたゼルファスのことを覚えていたため、ホワイトウルフによる足止めはなかった。一緒に警備をしていた獣人が、ゼルファスに集会所に向かうように伝えた。
「ここがヤマトだ。活気のある町だろう」
集会所に向かい途中、ゼルファスが使節団の皆に、町を軽く紹介する。
「ええ、グリムヴェイル大森林にこのような町ができているとは……」
ゼルファスの側近であるエイシスが驚きながら、興味深そうに町の様子を見ている。
「皆の表情が明るいのもいいですね」
「だろ? まあ、ここには食べ物がたくさんあるからな」
国王派の二人もこの町に対して、驚きと興味が混ざっている状態だ。しかし、平気で魔獣が町の中にいる状態に、訝しむ者もいる。それは貴族派の人間だ。とはいえ、使節団として来ている以上、大きなトラブルを起こすつもりはなく、努めて平静を装っている。
そうして、使節団一行は集会所に到着し、タケル、フィリー、エルドール、リオス、バラル、バルガスが迎えた。
「よく来たな」
「ああ」
タケルとゼルファスは仲良さそうに握手をする。
「これは土産だ。前に世話になった礼として受け取ってくれ」
「ありがたくもらっておくわ」
鉱石がゴロゴロと入った袋をもらう。タケルには価値がよく分からんが、くれると言ったのでもらっておく。
皆が席に着き、これから真剣な交渉が始まろうとする雰囲気が漂っているが、そんなことを無視してタケルが話し始める。
「交易のための道づくりの話し合いってことだが、俺にはよく分からん! あとは任せた!」
「余もお主らに任せた!」
そう言ってタケルとゼルファスは立ち上がり、出口に向かっていく。
「ちょっと模擬戦でもするか?」
「おお! それはよいな。負けんぞ!」
「こっちのセリフだ」
何やら楽しそうにタケルとゼルファスは会場から出ていくのであった。
ばたんと扉が閉まる音がする。
「……」
両陣営にしばし沈黙が流れる。
「互いに苦労しますな」
「ええ」
エルドールが言った言葉にエイシスが苦笑いしながら同意した。こうして互いにどこか通じる部分があったおかげか、交渉はスムーズに進んでいった。




