5.リオンの本当の目的
リオンが来てから一週間がたった朝。
「さて、十分に楽しんだことだし、そろそろここに来た本当の目的を果たするか」
外で日光に当たりながら体を動かしているリオンがそう独り言をつぶやいた。
リオンは真面目な話があると、タケルとフィリーに頼んだ結果、タケルの家での話し合いの場を設けてもらった。リオンはどこか緊張した面持ちでその場にいた。
「どうした? 改まって」
「まず話をする前に、一つ謝っておかねばならんことがある」
「なんだ?」
「我の名はリオンではない。ゼルファス・エルザリオン。これが俺の本当の名前だ」
「っ!」
リオンの本当の名前を聞いたフィリーは驚く。
「ふーん、で?」
「で? じゃないわよ!」
そう言ってフィリーはタケルを叩く。
「このお方はダークエルフの国ネザリス王国の国王様であり超越者の一人よ! タケルが失礼な真似をしてしまい、申し訳ありません!」
タケルに注意した後、フィリーは立ち上がりゼルファスに謝罪をする。
フィリーはタケルとやりあったことからも、貴族や騎士の可能性があると思っていた。だが、国王だとは思っていなかった。
しかも、超越者は人の力をはるかに超えたものがたどり着く境地だ。超越者に近い力を持ったものがいなければ、たとえ軍相手でも一人で勝利することができるような人間だ。絶対に敵対したくない相手なのだ。
「どうか頭を上げてくれフィリー殿! 別に頭を下げさせたくて名乗ったわけではないのだ」
そう言って恐る恐るという感じでフィリーは頭を上げる。
「で、話ってなんだ?」
「お前な……俺は王だぞ」
王だと分かったにもかかわらず、タケルの様子が全く変わらないので、ゼルファスは若干呆れてタケルに物を言う。
「だから何だ?」
「ふっはっはっはっはっはっは! そうだな! それがなんだという話だな!」
ゼルファスは王という肩書が煩わしく感じることがよくあった。だから、王という肩書を捨てたかった。しかし、今この瞬間、タケルよりも自分の方が王という肩書にとらわれていたことに気付かされてて大笑いした。タケルに王だと知られることで、距離を取られるのではないかと不安に思っていたゼルファスの心はだいぶ軽くなった。
「こいつ、頭いかれちまったらしいぞ」
「タケル!」
あまりに失礼な物言いにフィリーは再びタケルを戒めるように名を呼ぶ。
「いや、よい! 俺が王だと知ってもタケルは友でいてくれるのか?」
ゼルファスはどこか真面目な表情でタケルに問う。
「当たり前だろ? ただお前が王だからって横暴なことしてきやがったら縁を切るがな」
「ふ、ふはは! そんなことするわけがなかろう! タケルは世界一うまい野菜を作る男なのだからな!」
「よせよ。そんなに褒めんなって」
フィリーはとりあえず二人で問題になりそうなことはないと思いほっとした。
最初の頃と比べると場の空気が弛緩し、話しやすい場が形成された。
「それでは本題に入らせてもらおう。ここに来た目的はうまい野菜を食いに来たというのもあるのだが、国王としては我が国と交易を行ってもらいたくて来た。以前も少し話したが、現在我が国の食料事情は切羽詰まっているという状態ではない。しかし、余裕がある状態でもないのだ。だから、万が一に備え、交易ルートは確保しておいた方がいいと判断した」
「なるほどな、いいぞ」
「ちょっと待ちなさい。そう簡単に決めていい話じゃないわよ!」
「そうだぞ、タケル。お主はうちの国から何を出すのか知らんだろ」
なぜか二人から安易に決めるなと戒められるタケルはちょっとだけしゅんとする。
「うちから出すものは、主に鉱石関係になるだろう。我が国では鉱山が色々あってな、色々な種類の功績を用意できる。もちろん他の物を要求しても良い。ただこの町を見たが、鉱石類はほとんど手に入らんだろ。だから、うちの国から輸入しろ」
「なるほどな。悪くない取引だと思うけど……」
確かにこの町では鉱石なんていうのは一つも手に入らない。今までは既製品を買いに、他の町まで行っていっていたようだ。鍛冶師もいるが、主に修理をメインにしている。
ただこの町がこれから発展していくとなると、鉄製品も作れた方がいいに決まっている。
そんなことを思いながら、フィリーを見る。
「そうね。いい取引になるわね。ただ……ゼルファス様、一つ懸念があります」
「なんだ?」
「この町とネザリス王国をつなぐ道はありません。この点はどうするおつもりなのでしょうか?」
「それは作るしかなかろう。せめて馬車が通れるくらいの道は欲しいな」
鉱石を運ぶにも食料を運ぶにも、人の力だけでは大量に運べない。輸送のための道の整備は必須だと言っていいだろう。
「それでは、道を作る場合の負担の割合はどうなされます?」
ゼルファスが少し考えていると、タケルが発言をした。
「それは半々でいいんじゃないのか?」
フィリーは余計なことをと内心で思った。道を作るのは大変な事業だ。いかに相手の負担を増やすか、いかに負担の割合に応じておいしい条件を引き出すのかなどが交渉のポイントになるのだ。そんな適当な感じで決められてしまっては困る。
「いや、国力の差を考えれば、我が国の負担を増やした方がいいだろう」
「いや、ダメだ。あくまで対等な取引をする。負担を増やしたから安くしろなんて言うのは許さない」
「ふっ、バレたか」
「バレバレだ」
道を作るときの労力は重くなるが、その後の取引は対等というのであれば、そう悪い結果ではないとフィリーは納得する。
「フィリー、ちょうど仕事を欲しがってたやつらがいるだろ。あれに任せる」
「ああ」
「いや、待てよ。オークだけじゃなく手の空いてる獣人やエルフにもやらせよう」
「どうして?」
「みんなで一つのものを作り上げた方が団結力も高まるだろ」
苦労して作ったからこそ、それが出来上がった時の感動は何倍にもなる。
「じゃあ、ルート決めとかするか?」
「待ってくれ。いったん国に話を持ち帰らせてくれ。さすがに細かいところまでは俺では詰められない」
「それもそうだな」
「後日、そういうのが得意な連中を連れてまた来る」
「わかった。交易は行うってところは決定でいいんだよな」
「ああ、それで構わない」
タケルとゼルファスは握手をした。
こうしてタケルの町とネザリス王国の交易が始まるのであった。




