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3.謎のダークエルフ

 

 タケルは家でフィリーやジルと一緒に昼飯を食べている。そこでフィリーが話しかけてきた。


「そういえば、バルガスが何か仕事がないかって相談に来たわよ」


 というのも、エルフが活躍してオークが不安がっているそうだ。エルフの多くがは魔法を使える関係上街づくりでも活躍しているし、調味料やポーションも作れると専門的な能力を持っている。


 それに対してオークは単なる肉体労働のみ。いくらでも代わりがいるような仕事ばかりなのだ。


「普通に町づくりに参加してるよな?」


「そうね。でも、あれは自分たちの住む場所を作るためっていうのもあるから、タケルや町に貢献できるような仕事が欲しいってことだったわね」


「そうはいっても、これといったものはねーな」


「そう。まあ、何か思いついたら仕事を頼むといいわよ」


 昼食を食べ終わったあと、タケルは一人森の中で開拓作業をしていた。


「町の発展に協力してるだけでも十分だと思うんだがな」


 先ほどフィリーに言われたことを一人考えていると、うっすらとした気配に気づいた。


「ん? なんだ、お前」


 気配がした方を見るとフード付きのマントを被った怪しい奴がいる。この町の周辺のラグナをはじめとするホワイトウルフたちが警戒をしている。そう簡単にはホワイトウルフに気付かれないで突破することはできない。


(ホワイトウルフに気付かれずにここにいるってことは……)


 タケルは謎の人物に対して警戒度を上げ、持っている斧を構える。


「まさか、気付かれるとは……」


 相手は自分の隠密行動に自信があったのが、タケルが気付いたことに少しばかり驚いていた。そして何を考えたのか謎の人物がうっすらと笑みを浮かべると、腰に差していた剣を抜く。


 謎の人物は地面を踏みしめ、一歩で距離を縮めてタケルの懐に潜り込む。距離が縮まったことで、相手がどんな人物かが分かった。


(ダークエルフっ!)


 そのダークエルフは剣を横なぎで振るってきた。


 タケルはあまりの速さに一瞬驚くが、紙一重のところで躱し距離を取る。


「これに反応するとはなかなかやるではないか」


「はっ、いきなり仕掛けてきておいてよく言うぜ」


 今の一撃でダークエルフが相当強いことが分かった。


 タケルの手に持っている武器は斧。柄の部分は木なので、あの攻撃を受けることは難しい。下手に防ごうとすると、柄もろとももっていかれる。回避主体でいけるか?いや、何とかするしかねーか。そんなことを考えていると思わず獰猛な笑みがこぼれてしまう。


(この世界には、こんなにつえー奴がいるんだな!)


 目の前の謎のダークエルフとの闘いにテンションが上がる。


 タケルは前世で皇極天武流の免許皆伝まで到達するくらい戦うことが好きだ。しかし、こちらの世界にやってきて体のスペックが上がったせいか。テンションが上がるような相手はいなかった。先日会ったヴァルザナードは強すぎてまともに戦いにはならないだろう。ようやくまともに戦えるような相手を見つけたのだ。しかも、相手から喧嘩を売ってきたのであれば、もはや買うしかない。


 タケルは守戦に回るのは不利と判断し、積極的に攻めることにした。


 先ほどのお返しとばかりに、一歩で距離を詰め、斧を振り下ろす。ダークエルフはそれを躱すが、タケルは連続攻撃を仕掛ける。三回攻撃を仕掛けたところで、ダークエルフがカウンターとばかりに、横なぎを放つ。タケルはそれをかがんで回避し、地面に手を置く。


「アースニードル」


 地面から土の槍がダークエルフに向かってまっすぐ伸びる。それをのけ反るような形で回避し、そのまま宙返りで距離を取る。


「ほう、魔法も使えるのか」


「まあな、これでも毎日土と格闘してるんでな」


 タケルは普段から農業で魔法を使っており、この世界に来た当初と比べればはるかに熟達している。戦闘で使うのは初めてだが、うまくいっているようだ。


「それでは次はこちらからいかせてもらおう」


 ダークエルフが猛スピードで近づいてくる。距離がだいぶ縮まったところで、


「アースウォール」


 タケルの正面に土の壁を出す。


「っ!」


 いきなり壁が現れたことでダークエルフは面食らう。このまま進んでいると壁にぶつかってしまうため、ギリギリのところで側から回り込むように移動する。そして攻撃をするために剣を振りかぶるが


(いない、だとっ!?)


 タケルはダークエルフの移動に合わせて、アースウォールの上から向こう側に移動していたのだ。ダークエルフは上から飛んでくる場合、無防備になるため左右のどちらかから来ると判断していた。


「皇極天武流闘拳術」


 そんな声が壁の向こうからダークエルフの耳に届く。


「【破岩拳】」


 タケルは自分が作り出した壁もろとも拳でダークエルフをぶん殴った。ダークエルフは反射的に剣で攻撃を防ごうとするが、攻撃のモーションが見えなかったためその剣を避けてタケルの拳が当たり、ダークエルフは吹っ飛び倒れこむ。


「む?」


 ダークエルフに一撃を与えたにもかかわらずタケルの表情は優れない。ダークエルフは起き上がる。


「やるな! 俺に一撃を与えるとは」


「つっても、後ろに飛んでほとんどダメージねーだろ」


「まあな。それくらいのことはできるさ」


 ダークエルフは剣を収める。


「俺も少し力を見せてやるとしよう!」 


 その様子の変化にタケルの警戒度を一段上げる。


「風装」


 ダークエルフが風をまとい始めた。その状態でダークエルフは移動すると、先ほどまでと段違いに速いスピードで距離を詰め、拳でタケルの腹を殴ると、勢いよく後ろに吹っ飛び木に激突した。


 まともに食らってうつむいているように見えるタケルだが、次の瞬間


「くはっはっはっはっはっは!」


 と思いっきり笑い出した。


「あれを防御するとはな」


 タケルはギリギリのところで腕を間に潜りこませており、何とか防御することはできたが、その勢いまでは殺すことができなかった。


「反則並みにはえーな」


 タケルはギリギリ反応できたが、逆に言えばそれしかできなかったとも言える。しかし、あんなスピードが出ることが分かれば、対処しようもある。


 タケルはのっそりと立ち上がり、獰猛な笑みを浮かべる。


「さて、第二ラウンドと……」


 いくかとタケルが言おうとしたところで、森の方からダークエルフに向かって糸が飛んできた。


 それをダークエルフは避けるが、それに追撃をかけるようにラグナが飛び掛かる。しかし、それも躱される。


「主!」


「ご無事ですか?」


「なんだお前ら」


 カリュネラとラグナはタケルをかばうような形で臨戦態勢を取っている。


「落ち着け二人とも。じゃれ合っているだけだ」


 タケルとダークエルフの戦いは殺し合いではない。喧嘩に近いものだ。


 ダークエルフはカリュネラとラグナに対して警戒をしていたが、その様子は普通の魔物とは異なることを理解した。


「音で魔物を引き寄せた……というわけではなさそうだな」


「ああ、すまねえ。こいつらは俺の仲間だ。手出しはさせないから安心しろ」


「ディープスパイダーにホワイトウルフ……もしかして……お主に聞きたいことがある! うまい野菜が食える村というのはここか!」


「そうだ! 世界一うまい野菜が食える場所はここだ!」


 タケルはただのうまい野菜ではない世界一うまい野菜が食える場所だと訂正する。


「なんとおおおおおおお! いや、待て。ディープスパイダーにホワイトウルフを従えているということは、その村の長か?」


「そうだ!」


「それは何とも失礼な真似をした! 謝罪する。許してくれ」


 そういってダークエルフは頭を下げる。


「いや、気にしないでくれ。俺も楽しんだし、殺す気もなかっただろ?」


「当然だ」


 もし殺す気であれば、最初から風装を使って剣で攻撃していればタケルは死んでいた。そんなことはせずあえて力を試すように戦っていたことはタケルも理解していた。


「お主、俺に気付いただろ? それでどれくらいの力があるのか気になってな……少しちょっかいをかけたくなったのだ……」


 ダークエルフは少し気まずそうにする。人によってはやりすぎだと判断するような内容だからだろう。


「それでお前は俺の野菜を食いに来たのか?」


「ああ、そうだ! 食わせてもらえるだろうか?」


 ダークエルフは冷静になると、喧嘩を売っておいて食い物を寄こせと言うのは図々しい話だと思い、若干遠慮気味に言った。


「おう、いいぞ」


「それはよかった! 俺の名はリオンだ」


 そう言ってリオンはタケルに近づき握手をする。


「俺はタケルだ。で、こっちがラグナ、こっちがカリュネラだ」


 ラグナ達はどこか警戒をしているような目でリオンを見る。


「すまなかったな。勘違いをさせるような真似をして」


「「……」」


「はっはっは! 完全に警戒されてるな!」


 その警戒も当然だ。タケルでさえリオンの底が見えていない。ここにいる全員でかかったとしても勝てるかどうかという相手だ。タケルが決めたことなので町の方に入れるのは承諾しているが、決して気を抜いていい相手ではないと判断しているようだ。


「お前たち大丈夫だ。こいつの目的は俺の野菜だ。殺し合いにはならねーよ」


「そうだ! 殺し合いなどする気はないぞ!」


 若干警戒度を下げたが、それでもまだ警戒している様子だった。


「まあ、あんま気にしないでくれ。それより世界一うまい野菜を食わしてやるからついてこい!」


 そう言ってタケルたちは家の方に向かっていった。


 それからエルミィに頼んで料理を作ってもらった。相手はダークエルフなのできっとフィリーのお気に入りの天ぷらが気に入るはずだ。ご飯と天ぷらと味噌汁とサラダという天ぷら定食を作ってもらうことにした。

 そして出来立てほやほやの天ぷら定食が机に並ぶ。


「おお、これがタケルの言っていた天ぷらというやつか!」


 タケルの家に招いたので、この場にはフィリーやジル、エルミィ、ラグナ、カリュネラがいる。


「そうだ。めちゃくちゃうまいから期待しておけ。それじゃあ、いただきます!」


「「「いただきます」」」


「いただきます」


 タケルが両手を合わせると、フィリーたちも一緒にいただきますを言った。それに倣う形でリオンもいただきますを言った。


「さあ、熱いうちに食べてくれ」


「それでは」


 リオンはナスの天ぷらを箸でつまみ口に運ぶ。


「……うまい」


 少しの沈黙のあとリオンは目から涙を流し、感想を述べた。


「こんなにうまい野菜が食えるなんて! 俺は本当にここに来てよかった!」


「そうだろ、そうだろ」


 タケルは嬉しそうにうんうんと頷く。


「どんどん召し上がってくださいにゃ。おかわりはたくさんあるにゃ!」


「ああ、遠慮なく頂かせてもらおう。む! 米もうまい!」


 リオンはどの料理を食べても大げさに表現する。


「それであなた、どこから来たの?」


 フィリーがリオンに質問をする。


「ああ、西のネザリス王国という国からやってきた」


「ああ、やっぱり」


「やっぱり?」


「ええ、ネザリス王国にはダークエルフが多く住んでいるのよ。で、合ってるわよね」


「そうだな。他の種族もいるが、ダークエルフがほとんどだな」


「そんな場所があるんだな」


「ネザリス王国での食糧事情ってどうなの?」


「うーん。差し迫った状態ではないな。まあ、何とかなるだろう」


「そう」


 差し迫った状態ではないとはいえ、多少飢饉の影響が出ているようだ。その話を聞いてフィリーは少し何かを考えこむのであった。


 それから食事も終わり、皆でゆっくりとお茶を飲んでいる。


「で、いつまでここにいるんだ?」


「一週間くらいは居たいな。そうだ! 宿はあるか?」


「ない。俺ん家に泊ってけ」


「すまないな。やっかいになる」


 こうして一時的にダークエルフがタケルの家に居候することになったのであった。



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