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2.暗黒龍襲来

 タケルは今日もいつものように農作業している。


「かわいいかわいいトマトちゃん。今日も元気に成長してるね」


 ここは農地の一角。小規模だがスキルで成長スピードを上げないで、作っている野菜たちである。時間をかけた方がおいしく作ることができることは分かっていた。じゃあ、本来の野菜の成長スピードで育てたらどうなるのか?きっとそれは最高においしい農作物になるだろう。


 そしてサイラスを見て、自分もちゃんと農作物達に愛情を込めた方がいいと思い、こうして声掛けをしている。


 冬に近づいてきているが、タケルが手を加えることで、季節に関係なく作物を育てることができる。その手入れを終えて、気分よくの他の農地でも耕そうかとしていたところ


「ん?」


 なんか嫌な予感がした。


 タケルが嫌な予感がする北の方を凝視していると、ラグナがやってきた。


「主!」


「ああ、なんか来るな」


 ラグナも異変を感じたタケルの下にやってきた。それだけではない。


「わんわん!」


「わんわん!」


「わんわん!」


 周辺で警戒をしているホワイトウルフたちも一斉に鳴き始めて、辺りが騒然とし始めた。


「戦えない奴は、家の中に避難するように指示しろ」


「はっ」


 そう言ってラグナは町の方に走っていった。それとすれ違うようにしてフィリーがやってきた。


「いったい、どうしたっていうの?」


「なんか来る」


「なんかって……」


「ここは危ねーぞ。いや、もう遅いか」


 タケルの視線の先には、黒い点のようなものがどんどん近づいてきていることが分かる。


 ある程度、近づいたことでフィリーにもようやくその姿が確認できた。


「あれはドラゴン?」


 近づいてくれば近づいてくるほど存在の格がヤバイことを嫌でも分からされる。正直、抵抗は無意味。相対せば勝てないと思わされるような感覚だ。避難しても無意味。本当にこいつが殺す気なら、多少逃げたところでどうしようもない。


「いや、あれはもしかして暗黒龍?」


 そう言ったフィリーの体が震え、顔が青ざめ始める。それは暗黒龍の出す生物としての格の違いからくる恐怖だ。


 増えたのはフィリーだけではない。町で避難をしていた住民たちもその威圧に当てられて震え動けなくなっている。本来警備隊として避難を率先して行わなければならないものも含めてだ。


 ただ、そんな中でもカリュネラ、ラグナ、バルガスはタケルの下に集まってきた。


「おいおい、逃げても文句は言わねーぞ」


「何言ってるの? 主が死んだら僕が困るんだけど」


「もし逃げるとしても主を放っておくわけにはいきません」


「いざというときは俺が盾になりましょう」


 全員覚悟を決めてタケルの下に来たようだ。


「ったく、万が一の時はフィリーを連れて逃げろよ」


 タケルたちの前に一匹のドラゴンがやってきて、空中で羽ばたいてとどまっている。


「我は世界の守護者の暗黒龍ヴァルザナードである」


(殺気がねーのは不幸中の幸いか)


 そう語るヴァルザナードからは殺気が感じられなかった。もしここを攻撃する気でいたら、どうしようもなかっただろう。しかし、彼には今のところそのつもりがないようだ。


「俺の名はタケルだ。その世界の守護者さんがここに何の用だ」


「グリムヴェイル大森林にへんてこな場所ができていると小耳にはさんでな。ちょっと様子見に来ただけだ」


 ヴァルザナードは首を回して辺りを見る。


「この場所でここまで大規模な農業をやっているとはな」


「何か問題があるのか?」


 もし問題だと言われれば、業腹だが、業腹だが、業腹だがここでの農業を止めることを決めなければいけない。さすがにこんな存在に喧嘩を売る気はさすがのタケルでもなかった。


「いや、この程度のことでは問題だとは判断せぬ」


 その言葉に内心ほっとする。


「だが、そうだな、ここで採れる農作物はうまいという話も聞いた。我に振舞ってもらおうか」


「なんだ、そんなことか。いいぞ」


「ほう、ずいぶんと自信があるようだな」


「当たり前だ。俺は世界一の農家だからな」


 タケルは自信満々にヴァルザナードに宣言する。


「面白い! 我を満足させてみよ!」


「用意してやるが、その姿じゃあ、邪魔だ。さっさと人化しろ」


「何? 貴様、我が人化できると知っているのか?」


「何言ってんだ? 俺がいた世界じゃ、ドラゴンが人化するなんて常識だぜ?」


「ほう、貴様、ちと変わった存在だな」


 ヴァルザナードの目がタケルを凝視する。そして何かを理解したようであった。


「まあいい。隠しているわけでもないからな」


 そう言ってヴァルザナードはドラゴンから人の姿に変身をした。


「あと、その威圧も何とかしてくれ。他の奴らがビビって困る」


 タケルがそういうとヴァルザナードは大人しく威圧を抑えた。すると、住民たちはようやくまともに息ができるようになった。


 その様子からおそらくわざと威圧を出して近づいてきたとタケルは思った。何が狙いかは分からないが、格上だと判断させた方が交渉事というのはスムーズに進むものだ。


「これでよいか?」


「ああ、大丈夫だ。じゃあ、フィリー。先に行ってエルミィに頼んでなんか作らせてくれ」


「わ、分かったわ」


「カリュネラはフィリーについて行ってやってくれ」


「はーい」


「じゃあ、ついてきてくれ」


 タケルは最初自分の家に招こうとしたが、ヴァルザナードが近くにいる状態で料理がするのはもしかしたら怖いかもしれないので、集会所に行くことにした。エルミィはたまにやらかすのでちょっと心配した。


 バラル、フォリン、エルドールなども様子見としてこの場にやってきた。


 ヴァルザナードが席に着くとその前に皿を置き、タケルの保存ボックスからトマトを取り出し、皿に乗せる。


「まずはこれだ。食ってみな」


「おいおい、ふざけているのか? 野菜そのままなんぞ我をバカにしているのか? 不味ければこの地は焼け野原にしてやってもいいんだが?」


 ヴァルザナードは若干殺気を滲ませてタケルをにらみつける。


 しかし、タケルは一切動揺しなかった。


「いいから黙って食え」


「ふむ、ふざけているわけではなさそうだな。まあ、いい。こんなもので我が満足するとは思えんがな」


 品定めするかのようにトマトを見たあと、そのままがぶりといった。


「うっ」


 その様子を見ていた周囲に緊張が走る。


「うまいぞおおおおおおおおおおおおおおおお! なんだこのトマトは!? これほどまでに濃厚でうまみがあるトマトは初めて食ったぞ!」


「当然だ。世界一の農家である俺が作ったんだからな」


 ヴァルザナードは残りもそのままかぶりつきすべて食べきってしまう。


「おかわり」


「おいおい、まだ次もあるんだ。そう慌てるなよ」


「む。我としたことが少し取り乱してしまったようだな。では、次の料理に期待しよう」


 そうこうしているうちにフィリーがサラダとドレッシングを持ってきた。


「大根サラダになります。ドレッシングはお好みでお使いください」


「おいおい、ただのサラダで我を満足させられると思っているのか?」


 フィリーは怒気が含まれている声にビクッと反応してしまう。


「いや、その……」


 とっさの出来事でうまく対応できないフィリーをかばう形でタケルが前に出る。


「いいから黙って食え」


 ヴァルザナードに強気に出ているタケルを見て、フィリーはぎょっとする。


「ただ野菜を並べただけの料理で我が満足するなどありえんがな。まあいいだろう」


 大根サラダにドレッシングをかけ、箸でサラダを口に運ぶ。


「うっ」


 再び周囲に緊張が走る。


「うまいぞおおおおおおおおおおおおおおおお! 大根のシャキシャキ具合が何とも言えない。それに野菜の瑞々しさにドレッシングの酸味がうまく絡み合い一つの調和がとれた一品になっておる!」


 残りの大根サラダもすごい勢いで食べていく。


「おかわり」


「待て、次がある。大根サラダで腹いっぱいにするのはもったいないぞ」


「さすがに大根サラダ以上のものはあるまい。だが、そういうのであれば期待して待とう」


 エルミィは天ぷらの盛り合わせを持ってきた。


「天ぷらの盛り合わせでございます」


「ふん、変わった料理を持ってくれば我が満足するとでも思っているのか?」


「いいから、黙って食え」


 タケルはエルミィが何かを反応する前に食い気味に言った。


「まあ、いいだろう。ちょっと変わった料理程度で我が満足するとは思えんがな」


 レンコンの天ぷらを取り品定めするかのように見る。そしてそのまま口に運んだ。


「……」


 ヴァルザナードはシャクといういい音を鳴らしながら一口食べたあと何もしゃべらなかった。


 その様子を周りが不安そうに見ると、ヴァルザナードは笑顔を浮かべていた。完全にトリップ状態だ。人はおいしいものを食べたとき感想を言えなくなる。感想を言うなどという余計な思考をせずに純粋に味を味わいたいからだ。


「はっ! これほどうまいものがあるとは……」


 トリップした後のヴァルザナードは手に持っているレンコンを凝視しようやく感想を言う。


「このうまさ、ただの野菜では生み出せんな。これはタケルの野菜だからこその味と言えるだろう」


「分かってるじゃねーか!」


 なんとも嬉しそうに答えるタケル。


「うむ、気に入った! 我はこれからもちょこちょこやっかいになることにしよう」


 その場にいる人たち全員が心の中で来てほしくないと願った。しかし、それを表立って言う勇気はない。だから、タケルの反応に期待するような目で見る。


「それはいいが、毎回あんな感じで来るんじゃねーぞ」


「分かっておる。ここにどんな奴がいるか分からなかったからな、脅しも込めてやったまでのことよ」


「それではここを滅ぼしたりは……」


 バラルが恐る恐るヴァルザナードに問いかける。


「するわけがなかろう。それをやるのは世界の理に反するのでな」


 それを聞いて一同ほっとする。


 タケルはヴァルザナードの隣に座り、天ぷらをひょいっとつまんでぱくりと食べる。


「我の天ぷら!」


「何言ってんだよ。飯はみんなで食う方がうまいんだよ」


「だからと言って人の物を取っていい理由にはならんだろ」


「随分とせこいな。世界の守護者さんとやらは」


「我の名はヴァルザナードだ。まあいい……おかわりはあるんだろうな」


 食べ物の恨みはすごいぞとばかりにタケルをにらみつける。


「当然だろ。エルミィどんどん料理を持ってきてくれ」


「分かりましたにゃ! タケル様!」


「まあ、おわりがあるなら許してやろう」


 それからはその場にいる面々で食事となった。タケル以外のメンバーは終始どこか緊張しておりぎこちない部分もあったが、タケルはそんなの関係なしとばかりにヴァルザナードと二人で盛り上がった。


 こうして世界の守護者である暗黒龍がタケルの町にちょこちょこやってくるようになったのであった。



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