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1.発酵職人

 

「はっ! はっ! はっ!」


 タケルは森の中斧を振り周囲の木を切って回る。すべて一撃で気を切り倒しており、リズミカルに木が倒れる音がしていく。


「はっ!」


 十本以上切ったところでタケルは地面に手をつき、土魔法を使って切り株の周辺の土を盛り上げる。これで切り株を取り除く作業は不要になる。


「ふー、今日はこんなもんかな。おい、この木をどかしといてくれ」


「はい!」


 近くでタケルが木を切るのを見ていた獣人とオークたちに命令するとスムーズに作業を開始した。


 タケルは獣人とエルフとオークが村にやってくるために、どんどん森を切り開いて開拓をしている。他の人たちも気を切っているが、タケルのスピードは異常なので、農作業の合間にガンガン木を切っている。今日だけで気を切ったのは百本以上となる。


 タケルの家で休憩をしているとエルミィがお茶を持ってくる。


「どうぞ、お茶を持ってきましたにゃ」


 エルミィはタケルの村にやってきたあと、タケルの身の回りの世話がしたいとお願いしてきたので、それを承認した。今ではメイド服を着て、炊事、掃除など家事全般を行っている。


「おっ、ありがとう」


 ゆっくりと茶を飲んでいると、そこにフィリーがやってきた。


「で、どんな感じでまとまったんだ?」


「エルフは約半分、オークたちはほぼ全員がこの村に来ることになるわね」


 フィリーから詳しい状況を聞いた。


 エルフの里はオークとの争いで、里の三分の一が全焼、四分の一が半焼、さらに里を囲んでいた壁の一部も燃えてしまったため火事に被害に遭ったエルフたちから優先的に移住が進めるそうだ。


 人数が減ることにより元の里に戻すのは難しいため、規模を縮小して再建するとのこと。


 長のエルドールがタケルの村に来て、息子のラエリスに元の里の方の運営を任せるらしい。火事の原因となったセリオンは半ば追放という形でこちらの村に来るそうだ。警備隊としてみっちりしごくように頼まれたらしい。


 結果として、半分近いエルフが、タケルの村に移住してくるようだ。



 フィリーはしっかりと交渉をしたようで、ポーションが作れる人や調味料を作れる人材もこちらの村に移住することも決定している。そのため今後、タケルの村でもポーションや調味料が作られることだろう。


 またオークたちはほとんどがタケルの村に移住する予定だ。住む場所はまだ全然作られていないので、準備出来次第移住という形になっている。ただオークたちは力があるため、村の開発のスピードはアップしている。食料が十分にあることもあって、タケルの村で働いているオークたちの顔は明るく、元気に作業している。



「もうこれ、完全に村の規模じゃなくなるわよ。もう町と言っても差し支えないレベルね」


「まあ、しょうがねーな。放っておくわけにもいかねーし」


 タケルは増やしたくて増やしたのではない。いつの間にか勝手に増えたのである。一度受け入れてから、それを止められないのである。


「まあ、あなたがいいならいいんだけど……。大きくなるんだし、あなたもっとこの町のこと色々考えたら? 一応あなたがトップでしょ?」


「例えは?」


「うーん、町の名前とか?」


「名前か……」


「このままじゃ、タケルって名前の町ってなるわよ」


「そうなのか?」


「町の名前って、その土地の領主の家名や名前が付けられることが多いのよ」


「なるほどね。でも、それはなんか嫌だな」


「じゃあ、名前を考えることね」


「うーん、よし決めた! 俺の苗字の大和田から二文字取ってヤマトにしよう」


「あなた、苗字があったのね……もしかして貴族?」


「いや、俺がいた世界じゃ、貴族とか平民とか関係なくみんな苗字があったんだよ」


「ふーん」


 フィリーはいまだにタケルが異世界人であるということに関しては半信半疑だが、あまり余計なことには突っ込まないようにしたようだ。


「で、どうだ? ヤマトは?」


「まあ、いいんじゃない。私は好きよ」


「じゃあ、決定ということで。あ、そういえば発酵に詳しいエルフってもういるのか?」


「いるわよ。呼ぶ?」


「ああ、そうしてくれ頼みたいことがある」


「じゃあ、エルミィ呼んできてくれる?」


「はいにゃ!」





 エルミィは外に出て発酵職人を呼んできた。


「どうも、お初にお目にかかります。私はサイラスと申します。以後お見知りおきを」


「ああ、よろしくな」


 優雅な振る舞いで挨拶をするサイラス。サイラスは男性だ。フィリーによるとサイラスはエルフの里では一番発酵に詳しく技術があるようだ。


「私、タケル様が来たとき出された野菜や果物の味が忘れられなくて。あれで発酵食品を作ったらどうなることでしょう。ああ、もう夢でも見てたんですよ。エルドール様に直談判しても、全然用意してくれないし、ぶっちゃけ火事で里が燃えて良かったです!」


 恍惚とした表情で平気で里が燃えて良かったと語るサイラスにちょっと引いたタケルであった。まあでも、タケルの作った野菜や果物を評価してくれているのはうれしい。


「そんなお前に頼みごとがある。」


「なんでしょうか?」


「パンに使える天然酵母持ってないか?」


 天然酵母があれば、パンのクオリティを上げることができる。発酵というのは醤油や味噌だけではないのだ。そして、せっかく食べるならおいしいものがいい。


「ああ、あれですか。申し訳ないのですが、前の天然酵母は燃えちゃったんですよね……でも、果物をいただければすぐに用意します!」


 サイラスがあまりに近づいて要求してくるので、タケルは思わずのけ反ってしまう。


「まあ、落ち着け。りんごでいいか?」


「はい。リンゴなら比較的簡単に作れますね」


 タケルは保存ボックスから、リンゴを五個ほど取り出して、サイラスに渡す。


「あ~よしよし、可愛い可愛いリンゴちゃん。今日もあなたのこと愛してますよ。いいですねー。気分乗ってますか? うんうんそう。ご機嫌なの? それはよかったね―」


 サイラスはりんごを頬ずりする。


 そしてまるで変人を見るかのようにタケルとフィリーはサイラスを見つめる。


「なんですか? こうやって愛情を込めることが発酵で大事なんですよ。冷たくしたり悪口言ったりするとするに腐っちゃうんですよね」


 職人のやることにあまり口出しをしない方がいいというのは世界共通だ。タケルとしてはおいしいパンが食べられればいいので、やり方に注文を付けることはしない。


「うん、まあ、やり方は任せる。どれくらいかかるんだ?」


「そうですね。発酵の進みにもよりますが、一週間あればできますね」


「じゃあ、頼んだ!」


「お任せください! このサイラス! 最高の天然酵母を用意すると約束しましょう」


 サイラスは席を立ち作業に向かおうと出口に向かいかけたところで立ち止まった。


「醤油や味噌など他の発酵食品も私に任せてくれますよね?」


 サイラスからちょっと怖い圧を感じる。ここで断ったら面倒なことになりそうな雰囲気がある。


「ああ、任せるつもりだ」


「それはよかったです」


 ニッコリ笑顔のサイラス。そしてルンルン気分で部屋から出ていく。


「うん、なんかちょっと疲れたな」


「そうね。腕はいいらしいんだけど……」


 サイラスの職人としての圧にたじたじになってしまったタケルとフィリーであった。







 それから一週間後。サイラスは完成した天然酵母を持ってきた。


「こちらが、私が作った天然酵母となります」


 タケルの前に天然酵母が入った陶器を置いた。


「へぇ、これがそうなのか」


「ええ、とってもかわいいでしょ?」


 タケルには何が可愛いのか一切わからないが肯定も否定もしなかった。


「じゃあ、エルミィ。これを使ってパンを焼いてくれ」


「分かりましたにゃ!」


 エルミィがパンを作り始める。発酵が必要なので、時間がかかったが、ようやく焼くタイミングになった。

 おいしいパンの試食会ということで、タケルの他にフィリーやジル、ラグナ、カリュネラ、サイラスを呼んだ。そして誘っていないが、天然酵母を使ったパンを焼くという話をしたのでフォリンも勝手に参加している。


「あ~いいにおい」


 部屋の中に香ばしい匂いが広がり、思わずジルの口から言葉が出た。


「そうっすね。これはいつものパンと何が違うんすか?」


「うまくいけば、いつもよりふわふわもちもちしているはずだ」


「それは楽しみっすね!」


「はい、焼きあがりましたにゃー」


 エルミィは食パンを切って持ってきた。そしてタケルが初めに食パンを手に取り一口食べる。


「うまい! これは成功だな!」


 タケルのその一言からその場にいる皆が同時に食パンを食べ始める。


「おいしい! いつものパンと全然違う!」


「ほんとっすね。いつものパンよりもふわふわしてるっす! こんなパン初めて食べるっすよ!」


「よく噛んでるといつもより甘みがあるわね」


「主、おいしいです!」


「まあ、いつものパンよりおいしいね!」


「にゃ! にゃ! こんなパンがあるなんて信じられないにゃ!」


「私の天然酵母ちゃんがちゃんと働いてくれたようでよかったです」


 ジル、フォリン、フィリー、ラグナ、カリュネラ、エルミィ、サイラスが各々感想を口にする。


「これは他のみんなにも食べられるようにしてやりて―な」


「お任せください! 原料さえ用意していただけるのであれば、このサイラスがいくらでも作って見せましょう!」


「そうか、じゃあ頼んだぞ!」


「はい!」


 こうしてタケルの町の食文化はどんどん発展していくのであった。


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