28.エルフの里の救援3
エルフ避難所近くの防衛線。そこにいたエルフたちにはオークたちが引いていくのが見えた。
「……オークたちが引いていく」
そんな中、一匹の巨大なホワイトウルフがやってくる。
「ラグナ先輩じゃないっすか! 兄貴はどうしたんすか?」
「主が敵の大将を討ち取ったぞ!」
「おおお! さすが兄貴っすね!」
「「「おおおおおおおおおおおお」」」
周りにいた獣人たちもタケルが勝ったことに喜ぶ。
「俺たちは勝ったのか?」
しかしエルフたちにはまだピンと来ていないようだった。
「援軍としてきたタケル殿が敵に大将を討ち取ったぞ! 勝どきをあげよ!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
その場で指揮をしていたラエリスが、それをエルフたちに伝えることでようやく勝ったことがエルフたちにも伝わったようだ。
こうしてエルフたちにタケルが勝利したことが伝わると、フォリンたちやエルフたちが、タケルのところにやってきた。
戦後処理ということでエルフたちと話し合いをすることになった。
「オークたちの身柄をよこせ」
なぜだかセリオンがそう要求してきた。
「ダメだ。こいつらは俺がこき使うと決めたからな」
「ふざけるな! 里をこんな風にされて許せるわけ――」
「オークたちの処遇はそちらに任せましょう。幸いなことにけが人はいるが死者はいない」
エルドールはセリオンに被せる形でタケルに言ってきた。
どうやらエルドールはオークたちの狙いが食料にあるということが分かっていたので、最悪食料を差し出す算段を立てており、門が破られてからも引きながらの戦闘を徹底させたようだった。
「ちと、問題がありましてな。今回の件で食料がなくなったのです」
「なくなった? オークたちには返還させるぞ」
「いや、それが……」
エルドールがなんとも歯切れが悪そうにしている。
「俺が倉庫に火をつけた! 奴らに食料を奪われるくらいなら燃やしてしまった方がはるかにましだからな!」
自慢けに言うセリオンをエルドールは忌まわしそうに横目で見る。エルドールとしては、倉庫の食料を差し出すことで、そのまま引いてもらうという狙いもがあった。根こそぎ食料を奪えなくても、冬をある程度しのげるだけの食料が手に入れば、無理をする必要がないからだ。しかし、セリオンがそれを台無しにした。そのため里中で食料や金品を漁るために略奪のような行動をオークたちが取ることになった。ある意味セリオンは戦犯であった。しかし、エルドールにとって孫にあたるのでそれほど厳しい対処もしにくいという葛藤があった。
「は?」
そんなエルドールの葛藤など関係なく、それをタケルはセリオンに対してアイアンクローをする。
「お前、あそこには俺が作った農作物がいっぱいあったよな? それをお前が燃やしただとおおおおおお?」
「あああああああ! あた、頭がああああああ! やめろおおおおお!」
タケルは攻められて火がつけられたと思っていたが、こいつが火をつけたせいで倉庫周辺に火事が広がっている状態になったということなのだ。タケルが農作物を作るのは燃やすためではない。誰かの腹を満たすためのものである。あまりに粗末に扱われたので、タケルはイラっとしたのである。
「タケル様、そやつの扱いは好きにしても構いません。どうか我らにもタケル様のご慈悲をいただきとうございます」
そう言ってエルドールは深々と頭を下げた。エルドールが無理に食料を守ろうとしなかったのはタケルの存在があったからだ。
「それは、つまり?」
「我らもタケル様の配下に加わらせていただきとうございます」
「おじい様! それは! あああああ、痛たたたたたた」
セリオンがうるさかったので、タケルは指の圧力を強めた。
タケルとしては想定以上に村が大きくなるため、それによって生まれるしがらみや面倒ごとなどを色々なことを考えようとした。しかし、なんか面倒くさくなったのでその思考を放棄した。
「あーもういい! 好きにしろ! オークだろうとエルフだろうとまとめて面倒見てやらあー」
「ありがとうございます!」
「こんなことがあったんだ。仲良くしろとは言わん。だが、喧嘩はするなよ」
「承知しております」
「じゃあ、とりあえず食料出すか。こっちがエルフの分。こっちがオークの分っと」
タケルは保存ボックスの中から大量の食料を取り出す。
「まあ、どれくらい必要か分からねーから、必要ならあとで連絡してくれ」
大量に積まれた食料を見てオークたちは唖然とする。
「すげー……」
「これほどの食料が……」
「ほら、ぼーっとしてねーでさっさと持ってけ」
オークたちは慌てて作業に移るが中には、あまりの嬉しさに目に涙を浮かべているものもいる。
「これで家族が飢えなくて済む」
「もう空腹に苦しまなくていいんだな」
バルガスはそんな様子の同胞たちを見て、ほっとしている。
「助かった」
「面倒見るって約束だからな。だが覚悟しておけよ。こき使ってやるからな」
「一生かけてこの恩を返すことを約束する!」
「さてと、それじゃあ帰るか」
こうしてやることをやったタケルたちは自分たちの村に帰っていくのであった。
◆
「タケル様たちが返ってきたぞ!」
村に残って周囲を警戒していた獣人がタケルが戻ってきたことを村の人たちに知らせに走る。
ずっと深刻そうな表情を浮かべていたフィリーであったが、それを聞いた瞬間に出迎えに向かう。
タケルを先頭にホワイトウルフたちの隊列を組んで村に戻ってきた。
そしてタケルは拳を上げて第一声を放つ。
「勝ってきたぞー!」
「「「おおおおおおおおおお!」」」
集まってきた村の人たちの歓声が巻き起こる。その歓声の中、戦場に向かった獣人たちの中には気まずそうな人もいる。
「俺っちたちは特に何もやってないんすけどね」
「それを言うな! 俺たちがいたから、タケル様が自由に動けたんだ」
「それもそうなんすけどね」
フォリンとシェイドがそんな話をしている。実際、多くの獣人は五千のオークと戦うということでそれなりの激戦を予想していたが、実際にはまともに戦うこともなく、タケルが敵将を撃って終わりという何ともあっけない結末だったのだ。
フィリーはタケルのところに向かう。
「怪我はない?」
「ああ、かすり傷一つねーよ。それとエルフたちも怪我した奴はいたみたいだけど、死んだ奴はいないってさ」
「それはよかった」
フィリーはほっとしたような表情を浮かべる。そんな表情のフィリーを見てタケルも思わず頬が緩む。ただタケルはフィリーに伝えなければいけない事がある。
「ただ……」
「ただ?」
「どういうわけか、オークとエルフの面倒を見ることになった」
「どうしたらそうなるわけ」
「半分は勢い、残り半分はバカのせいだな」
「まあ、でもいいんじゃない? オークは力仕事に向いてるし、エルフはポーションや調味料を作れる。配下にして損はないわよ」
「確かに! めちゃくちゃいいな!ってことで、話ができるオークとエルフを連れてきたから、細かいやり取りは任せた!」
今後の話し合いのためにエルドールをはじめとするエルフ数人と、バルガスの部下もザルクを筆頭に数人やってきた。
「はいはい。このフィリー様に任せておきなさい」
この短期間でホワイトウルフ、ディープスパイダー、獣人、オーク、エルフをまとめ上げるなんて言うのはあり得ないことだ。でも、すでにタケルの非常識さに慣れたフィリーなので、なるようになれという感じで受け入れる。
「そうだ、お前たち! 戦勝祝いの宴をやるぞ! 準備しろ!」
こうして村の広場で戦勝祝いとして宴を開催した。
その中でタケルも大はしゃぎで楽しんでいる。そして戦いに参加した獣人やホワイトウルフたちも周りの人から話を聞かせてくれと頼まれ、自慢げに語っている。
フォリンが調子乗ってやらかしているがそれも宴の中ではご愛敬。
皆楽しそうに飲み食いしている。
だが、宴の中にエルドールとフィリーがいない。そのことは誰も気づいていない。二人は誰もいない部屋で二人きりで会っていた。
エルドールはフィリーの前に膝をつき挨拶をする。
「お久しぶりでございます。フィリアナ様」
「やめて、さっさと立ちなさい。それに私はここではただのフィリーよ」
エルドールはそう言われ立ち上がる。
「そうですが。ところで、私のところにフィリアナ様が来るという連絡はなかったのですが……まさか、無断で抜け出してきたのですか?」
エルドールは確信していることをあえて質問する。フィリーはその答えにちょっと詰まるが、正直に話すことにした。
「そうよ! でもね、お母様には絶対に知らせないでよ! この場所を知られたら絶対に面倒なことになるわ!」
「……」
「タケルに迷惑がかかるって言ってるの! あなた里の人たちを救われた恩があるでしょ!」
「それでしたら、せめて許可はもらってるということにさせてください」
「……そうね。ちゃんとお母様の許可はもらってるから安心なさい」
「それはようございます。そういえば、フィリアナ様が援軍を送っていただいたのですか?」
「だから、フィリーよ! 私は何も言ってないわ。タケルの判断で行くことになったわ」
「……そのような御仁には見えなかったのですが」
フィリーとしてもタケルが援軍に行くとは思っていなかった。タケルは農業ができればそれでよく、必要なものがあれば取りに行くが積極的ではない。わざわざ他のもめごとに首を突っ込むような人間だとは思えなかった。だから、あの目が合った瞬間、本当ならタケルにお願いをするつもりだった。でも、タケルがすべてを察して行動に移した。フィリーにはそのようにしか思えなかった。
「……たぶん私のためよ」
「それはずいぶん愛されているのですね」
「愛っ! って、私とタケルはそんな関係じゃないわ! ただ一緒に働いているだけの仲間よ!」
「そうでございますか」
「そうよ!」
「しかし今後もこの場所にいるのでしたら、いつか別れが来ることを覚悟なされた方がよろしいかと」
「うるさいわね」
そうフィリーはいつまでもこの場所に居られるわけではない。タケルと一緒に居られるのは刺激的で楽しい。でも、お母様に知られたら面倒なことになるし、それとは関係なくいつかは戻らなければいけないということも分かっている。
「じゃあ、もう行くわ。ここでは私のことは秘密よ。分かった?」
「承知しております」
フィリーは部屋から出ると辺りは真っ暗だ。そんな場所から楽しそうに飲み食いしているタケルを見つめるのであった。




