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22.弓対決2

 

 タケルは改めて状況を確認する。

 互いに立つ位置は離れており、近い投擲場所と遠い投擲場所に分かれる。木の円盤を投げる投擲場所は隠されており、投げる前の呼び動作は見れないようになっている。投擲場所はダイヤのそれぞれの頂点の位置に配置されている。セリオンが言ったように木の円盤を早く見つけて早く矢を射る必要があるだろう。いくつか気になったことがあったのでセリオンに質問をした。


「これ、円盤が投げられる順番って決まってるのか?」

「決まってるわけないだろ。そもそも投擲場所から他の投擲場所は見れない。だから、二か所からほぼ同時に投げられることもある」

「投げる数は決まってるのか?」

「決まってはいない。どんなペースで投げるのか、何枚投げるのかなどはその人次第だ」

「投げる人はそっちのお仲間なんすよね?じゃあ、事前に打ち合わせなんかしてたりしないんすか?」


 近くでルールを聞いていたフォリンがお前はいかさまするんじゃないのかという指摘をする。


「そんな真似するわけないだろ。だが、気になるんならお前もやっていいぞ」


 セリオンはそんな卑怯な手段を使うと侮辱されたと思い一瞬むかついたが、その指摘が気になるのも当然だと思いなおし、フォリンに提案をした。


「じゃあ、やるっす! あとシェイドもやるっす!」


 フォリンの機転によりで四つある投擲場所のうち半分がタケル側になり、より公平な形となった。


「ルールに問題がなければあの円の中に移動してくれ」


 タケルとしては特に問題がなかったので二つある円のうちの左の円の方に移動する。

 フォリンは投擲場所に移動する途中でセリオンから見られないようにタケルにウインクをして何か合図を送っているが、タケルには何のことだかさっぱり分からない。


「ん? まったくあいつは何がしたいんだか……」


 円の中に入ったタケルは弓と矢を両方持ちいつでも打てるように準備をする。

 それを見たセリオンはタケルの準備が整ったと判断し


「これより試合を開始する!」


 と試合開始の号令を出した。

 一番初めは右側の投擲場所から円盤が投げられた。

 互いに素早く反応したが、距離の関係上、円盤に当てたのはセリオンの矢だった。


「なっ」


 セリオンはポイントを先取したにもかかわらず、驚いた。なぜならごくわずかな差しかなく、明らかにセリオンよりもタケルの方が反応速度が速いことが分かったからだ。


(たまたまか?)


 あらかじめ狙う投擲場所を決めておけば、その分反応速度は速くなる。しかしちらりとタケルの方を見ると、ただ立っているだけのようにも見える。

 セリオンは相手のことを気にしている余裕もないので、せわしなく首を動かしどこから円盤が投げられるのか注意する。

 上側の投擲場所から円盤が投げられる。セリオンはできる限り最速で矢を射たが、明らかにタケルの矢の方が早く円盤に当たった。


「くっ」


 これで互いに一点ずつとなった。


(なんだこの反応速度の速さは? いかさまか?)


 セリオンはいかさまを一瞬考えたが、首を振って否定した。


(そんなわけがあるか! 両方ともエルフ側だぞ!)


 フォリンやシェイドから投げられたものであれば、いかさまの可能性は否定できない。しかし、これまで投げたのはエルフ側。エルフがタケルにわざわざ協力することはない。

 セリオンが余計なことを考えている隙に、今度は下側、右側の二か所から順に円盤が投げられる。


 反応が遅れたセリオンはタケルが習っていない右側の円盤を狙う。しかし、焦りからか外してしまう。

 タケルは当然当てており、そのまま第二の矢をつがえ、追加でセリオンが外した円盤にも当てた。これでタケルは三点、セリオンは一点という状況になった。


(このままでは負けるっ!)


 とセリオンの頭によぎり、さらに焦りは強くなる。


(こうなったらあの手を使うしかない)


 セリオンは次の円盤が投げられタケルがその円盤を狙い始めた瞬間に、タケルに向かって矢を構えた。


「バカめ! これは実践的と言っただろ! 相手を攻撃するのもありなんだよ!」


 ルール説明では話していなかったが、この試合では相手を妨害するのはありというルールがある。実践では敵に狙われ攻撃を受けることもあるからだ。獲物を狙うだけでなく、獲物から狙われることも想定しておかなければいけないという考え方からだ。


 そうしてセリオンからタケルに向かって矢が放たれる。

 タケルはセリオンの方を一切見ておらず、円盤の方しか見ていない。そして、円盤に向かって矢を射る。

 迫りくるセリオンの矢。あと少しで当たるというところで


「ありがとな!」


 そう言ってタケルはセリオンから放たれた矢を叩くようにして掴み取り、そのままの流れで再び矢を構え、狙いを澄ましもう一つの木の円盤に矢を放った。


 セリオンは一切気付いていなかったが、円盤は左側と上側の二か所から投げられていた。そしてタケルはセリオンが狙ってきていることを承知の上で円盤を狙い、その矢を利用することまで想定内だったのだ。

 こうしてタケルは五点先取したので、タケルの勝利となった。

 タケルは膝をついて呆然としているセリオンに向かっていった。


「さすがにもう終わりでいいだろ」


 セリオンは卑怯な手を使っても圧倒的な差で負けた事実を受け入れがたかったが、どうしても聞かなければいけない事があった。


「なぜ円盤が投げられる場所が分かったのだ」

「分かったも何も感覚を研ぎ澄ませば、出てくる位置なんて普通にわかるだろ」


 さもそれが当然であるかのような口調で、セリオンははっきりとタケルとの差を実感した。


(この男にとってはなんてことない技術なのか)

「じゃあ、俺たちは帰らせてもらうぞ」


 そう言ってタケルはその場から立ち去ろうとすると、ジルたちが寄ってきた。


「タケル兄ちゃん、すごかった!」


 興奮したように言うジル。


「兄貴、三回目で投げるって分かったっすか?」

「いや、分かんねーから」

「三回、ウインクしたじゃないっすか!?」

「それで分かれって無理があるだろ」

「俺っちと兄貴の仲じゃないっすか!」

「フォリン、うるさい」


 騒がしいフォリンにジルがツッコミを入れる。

 タケルたちが勝負をしている間に、ホワイトウルフやディープスパイダーたちがタケルの村に持っていく荷物の準備をしてくれていたので、スムーズに出発の流れになった。

 そしてエルドールはわざわざタケルを見送りにやってきた。


「何やら愚孫と何かあったようだが……」


 エルドールは何か失礼なことがあったのではないかと気になり、タケルに質問をしてみた。


「ああ、気にするな。ちょっと弓で遊んだだけだよ」


 別にタケルとしては相手にするのがちょっと面倒くさかっただけで何の確執もない。そもそもタケルとして勝とうが負けようがどっちでもよかった。遊びとはいえ手を抜くのは嫌だったから真面目にやっただけだ。

 タケルが問題にしないというでエルドールは少しほっとした。


「そうか。あれが少しはまともになってくれればいいが」


 エルドールは何があったかを知っていた。もちろん勝負が終わった後に事の顛末を聞いたのだが、これがセリオンにとって良薬となることを祈った。


「そんじゃ、また! 次は野菜の方も買ってくれよな」

「ああ、その時はぜひ取引をしてもらいたい!」


 こうしてタケルたちはホワイトウルフに乗って村へと帰っていった。

 村に到着すると、そこでフィリーが出迎えてくれた。。


「おかえりなさい」

「ただいま」

「で、何も起こらなかった?」


 挨拶もつかの間、フィリーは心配だったことを質問した。


「ああ、なんの問題も起きなかったぜ!」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ! スゲートラブル起きたじゃないっすか」


 平然とやり過ごそうとするタケルにフォリンがツッコミを入れる。


「タケル兄ちゃんが、夕食の時相手に無理やり野菜を食べさせてた」


 ジルが冷静な口調で言う。


「あんたね~」


 フィリーはタケルをジト目で見る。


「何を言ってる? 俺は当たり前のことをしたまでだ。はっきり言って、俺は俺が作った農作物を粗末に扱うやつは許さねーぞ」


 タケルはさも当然なことをしましたよ的な雰囲気を漂わせる。


「それで問題にならなかったの?」


 フィリーの感覚では宴のときにそんな無礼な行動をすれば問題になるため、タケルに問いただした。


「何とか俺の常識を押し付けて、なかったことにしたぜ」


 タケルは自慢げに言う。


「いやー、マジでひやひやしたっすよ。相手ちょっと殺気立ってたっすからね」

「あんたね~。せめて時と場所くらいわきまえなさいよね」


 フィリーは相変わらずの傍若無人っぷりに呆れていたが、問題にはなっていないようなので一安心した。


「まあ、いいじゃねーか。向こうの長のエルドールさんとはそれなりに仲良くなったし、これからもよろしくってことになったしな。調味料で困ることはもうねーだろ」


 タケルはもうこれで話を終わりだと、何の問題もなかったと押し切ろうとしたら


「あと無理やり食べさせたエルフの人と弓の勝負をした」


 と余計なことをジルがぼそりと言った。


「なによそれ」

「ああ、それはだな……」


 こうしてフィリーはタケルに若干呆れながらも、エルフの里での出来事を聞くのであった。



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