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19.エルフの里1

 

 翌日。

 使者の護衛の一人は今回の決まり事を村に伝え、タケルを歓迎する準備をするために夜明け前に先に出発をしていた。

 タケルは普段通りの農作業の恰好で行こうと思っていたのだが、フィリーに止められて用意された服を着た。


「いつの間にこんな服を作ってたんだ?」

「いつもの服装じゃあ格好付かないでしょ。一応この村の代表としていくのよ」


 いつもの野暮ったい農作業服と違って小綺麗な感じでまとまっている。かといって動きにくいというわけでもないので、タケルは意外と気に入った。


「これもカリュネラが作ったのか?」

「そうよ。私がデザインしてカリュネラに作ってもらったわ」


 いつの間にかカリュネラの服を作る能力が上がったような気がする。以前はシンプルな物しか作れなかったが、今では装飾や柄も付いている。


「カリュネラにお礼を言わないとな」

「私には?」

「ふふ、ありがとう。いつも助かってるよ」

「分かればよろしい」


 フィリーは満足そうにうなずく。


「ジル! 準備できたか?」

「うん!」


 今回エルフの里に行くメンバーはタケル、ラグナ、ジル、フォリン、シェイド、あとホワイトウルフとディープスパイダーが十匹ずつ参加する。多少人数は多いが、向こうから交換したものを持ってくる必要があるので、この人員で行くことにした。

 ジルを入れるか迷ったが、外の世界を見せてやるのもいいと思い、入れることにした。

 フォリンとシェイドは護衛役だ。タケルには不要なのだが、フィリー曰く形式上いた方がいいということで二人を連れて行くことにした。

 村の広場に移動すると、他のメンバーと使者たちが揃っていた。


「準備はいいか? 出発するぞ!」


 勢いよく出発しそうなタケルに使者が話しかけてくる。


「そちらの子供も一緒に?」

「ああ、外の世界を見せてやりたくてな」

「今からだと里には大人の足で歩いて夕方前に着けるかどうかだ。子供が一緒だと日が暮れてしまうかもしれない」


 使者は少々気まずそうに言った。遠回しにジルを連れて行くのは無理だと伝えたいようだ。


「それなら心配しないでくれ。お前たち大きくなれ」


 その言葉を聞いてホワイトウルフたちはサイズが大きくなり、大人が乗っても大丈夫そうなくらいまでで大きくなった。


「わん」

「なんと!」

「こいつらに乗っていけば大丈夫だろ」


 いつの間にかラグナたちホワイトウルフは身体のサイズをコントロールできるようになったらしい。あまり大きいと村で生活しにくいので普段はサイズを抑えている。


「ああ、それなら問題ない」

「さあ、乗ってくれ」

「?」


 エルフたちは何を言われているのか一瞬理解できなかった。


「もしかして我々もホワイトウルフに?」

「当たり前だろ。こっちの方が早いぞ」


 エルフたちは今までホワイトウルフに乗るなんて言う経験をしていないので、戸惑っていたが、ホワイトウルフに乗った方が早いのは間違いないので、恐る恐る乗ることにした。

 タケルはラグナに乗り、その後ろにはジルがいる。


「よし、エルフの里に向かって出発だ!」


 タケルが勢いよく号令をかけてタケルたちはエルフの里に向かっていった。

 道中。道案内をするために使者たちの方が前に出ている。特に魔獣に襲われることもなくスムーズに進んでいると、フォリンが情けない声で話しかけてきた。


「兄貴~」

「どうした?」

「このディープスパイダー先輩、どうにかならないっすか」


 ディープスパイダーもホワイトウルフたちに乗っているが、そのうちの数匹はフォリンの背中にくっつく形でいる。


「何が問題なんだ?」

「いや、襲わないってのは分かってるんすけど、こう背中に居られると怖いっていうかなんて言うか……」


 タケルにはなじみがないのだが、普通のディープスパイダーは人を襲う。その経験がフォリンの恐怖心に繋がっているようだ。


「ジルをよく見て見ろ。お前みたいに怖がってないぞ」

「かわいいよね」


 ジルは肩に乗っているディープスパイダーを見て言った。

 ジルはこのタケルの元に来てからホワイトウルフやディープスパイダーたちとも交流をしており、意外と仲がいい。なので、背中に張り付いていようが肩に張り付いていようが、何の問題もないらしい。


「いや、でも!」

「耐えろ」

「そんな~」


 フォリンの訴えは却下された。エルフの使者にくっついて移動はさすがにまずいというのはタケルにもわかる。だから、フォリンにくっついてもらうしかないのだ。

 ちなみにシェイドは何も言わないが、若干顔色を悪くして耐えているようだ。




 そうしてエルフの里に着いた。ホワイトウルフに乗っていったが使者のエルフがいたので、特にトラブルが起こることもなかった。

 タケルたちがホワイトウルフから降り、使者と門番が何かやり取りをした後門を開いた。ゆっくりとエルフの里に入ると、そこにはそれなりに発展した町が形成されていた。かつて訪れた獣人の村とは大違いだ。


「これがエルフの里か」


 ジルも興味深そうにきょろきょろとしており、なんだか楽しそうだ。

 そして里の中の方から四名の供を連れて一人のエルフがやってきた。


「こちらはこの里の長であるエルドール様だ。こちらが今回の食料交換を受けてくれた村の長のタケル殿です」


 使者だったリオスがタケルとエルドールを相互に紹介する。


「タケルだ。よろしくな」

「エルドールじゃ。こちらこそよろしく頼む」


 そう言って互いに握手をする。


「これほど早くに里に着くとは思っていなかったのでな、ちと準備が遅れておる。その間里の中でもゆっくり見て回ってくれ」

「エルフの里ってのがどんなところか興味があったから助かる。ああ、そうだ」


 そう言ってタケルは保存ボックスから、野菜や果物を取り出す。


「歓迎会の飯にはこれを使ってくれ」

「良いのか?」


 エルフ側としては色々な思惑があってタケルを招いたが、食料不足の状態で大判振る舞いをするのはきついのが本音だ。かといって、ケチるというのもメンツに関わることなので、タケルの提案はありがたかった。


「これからこういった野菜も取引してくれよな。そのためのお試しみたいなやつだ。遠慮せずに使ってくれ」

「そういうことなら遠慮なく頂こう」

「あとこっちが渡すもんはもう渡しちまうから、倉庫にでも案内してくれ」

「こっちじゃ」


 エルフの里の倉庫が立ち並んでいるところに案内され、そこにタケルは交渉で決まった作物をどんどん出していく。それを他のエルフが倉庫の中に運んでいく。


「あっ袋はフィリーが返してもらえって言ってたから、中身は他の袋にでも入れ替えてくれ」


 ジャガイモなどは木箱に履いているものもあるが、細かいものはカリュネラが作った袋に入れている。それ込みで渡すとなると、交換レートがおかしくなるため回収する必要がある。


「フィリー……」

「ん? どうした?」

「いや、知り合いの名前に似ていたのでな。しかし人違いであろう」


 今回の取引で渡す分の食材を出したところで、数を数えていたリオスにタケルが話しかける。


「多分全部渡したと思うが、大丈夫か?」

「ああ、全部揃っている。こちらが渡すものも今渡してしまうか?」

「いや、それは明日で頼む」

「……その保存ボックスとかいうのには入らないのか?」

「ああ、これは俺が作った野菜しか入らない仕組みでな。そう便利な物じゃねーんだよ」

「そうか、それなら明日、出発の時に渡そう」

「そうしてくれ」


 いっぱいになった倉庫を見てエルドールが感慨深く言う。


「いやー冬を前にこれだけの食料を蓄えられたのであれば一安心じゃ。一時期はどうなることかと心配しておったが、タケル殿この度は誠に感謝する」


 そう言って長であるエルドールはタケルに頭を下げる。


「よせよ、対価はきちんともらってるだろ」

「それでもじゃ。どんなに価値がある物があっても食料そのものがなければ交換することはできぬからな」

 仮に大金があったとしてもそれ自体が食料を生み出すわけではないからだ。

「……そういうことなら女神様に感謝してくれ」

「どういうことじゃ」

「俺にスキルを与えて、ここに送ったのは女神様だからだ」

「……なるほど。その女神様の名前は?」


 エルドールはタケルが謙遜していると判断したが、その信仰心を否定することもないので、そのまま受け入れた。


「あー」


 タケルは女神様の名前を思い出そうと必死にあの時のことを思い出そうとする。


(あれ? あれ? あれ?)


 そして、気付いた。女神様、女神様と言っているが、名前を知らないことを。あの空間で名前を名乗られた気がしなくもないが、ぼんやりとしていてその名前を憶えていない。


「名前はなんだ? 名乗られた気がしなくもないが、よく覚えていねーな」

「女神様で有名なのは、アメリア様じゃな」

「あー! それだ! それ!」


 タケルはもやもやしていたのがスッキリした。


「そうか、それでは女神アメリア様に感謝を」


 そう言ってその場にいるエルフが皆手を合わせて感謝の祈りを捧げた。それに合わせてタケルたちも女神様に祈りを捧げたのであった。



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