18.エルフの使者2
夕食の時間になった。使者との宴のメンバーはタケルとフィリー、獣人族のバラルやダルムをはじめとする上役の獣人たちが参加することになった。
タケルはテーブルに並んでいる料理を見て、思わずつぶやいた。
「やけに力入ってるな」
テーブルに並んでいる料理は最近手に入った醤油や味噌などの調味料が使われていて、この村の中ではごちそうになる。
またいくつかのレシピや調理方法はタケルの前世の記憶から教えたもの含まれている。その一つが揚げ物で、今回は天ぷらがある。天ぷらに関してはフィリーも絶賛していたので、エルフの使者たちもきっと喜ぶはずだ。
「当然でしょ。相手は仮にもエルフの里の使者よ。この村の力を見せつけないと」
村という小さなレベルでの交渉であれば、歓待は必要ないかもしれないが、力は見せつけておいて損はないというのがフィリーの主張だ。
「必要か?」
「必要よ」
タケルとしてはごちそうにありつけるのであれば否ではないので受け入れる。
「うわー、今日はごちそうっすね」
「あなたはここじゃないわ。普段のところで食べていなさい」
「そんなー」
フォリンもちゃっかり参加しようとしたが、フィリーにあしらわれた。
そうして準備が完全に整ったところで、使者たちが集会所にやってきた。
「このような場を開いていただき感謝する」
様々な村で食料が不足しているという現状を考えると、腹いっぱい食べられる量があるというだけでも贅沢な部類に入る。そんな中エルフたちが見たこともないような料理が出てきており、それだけでエルフたちは恐縮する思いをしていた。
「堅苦しい挨拶は抜きにして飯を楽しもうぜ」
そんな気持ちを知ってか知らずかタケルはいつもの調子で使者に返答をする。
「これはてんぷらっつってな、うまいから食ってみてくれよ。醤油や塩かはお好みで」
使者でやってきたエルフたちはこの見たことがない料理に多少困惑をしていたが、歓迎の席で出されているもので変なものは出さないだろうし、タケルたちも普通に食べているので、護衛の男一人がまず一口食べることにした。
「ん!」
その男はあまりのおいしさに目を見開き感動した。そして、一口食べたあとすぐに二口、三口と一気に食べてしまった。口でもぐもぐしながら、他のエルフたちに向かってうまいぞとうなずく。
あまりにおいしそうに食べる姿を見て他のエルフたちも食べてみたくなったのか、皆一斉に食べ始める。
「おいしい」
その言葉はエルフの使者が思わず本音が漏れてしまったというような自然な感じだった。
それに続くかのように
「うわ! めっちゃうまい!」
「こんなうまいもの初めて食べた……」
と護衛達も口々に天ぷらを褒めた。
「おお、気に入ってくれたか。天ぷらはフィリーも好きだからな」
「サクサクとした食感と野菜のうまみが口の中で広がるのがたまらないのよね。タケルが作った野菜がおいしいっていうのもあるんだけど」
「そうだろ、そうだろ!」
フィリーに野菜を褒められてタケルはにっこにこで笑う。
「おかわりもあるから、欲しい奴は遠慮なくいってくれよな」
その言葉を聞いた護衛のエルフたちは食事のスピードを上げてかきこむように食べていった。
皆の食事が終わり一息お茶を飲んでいるところでエルフの使者が切り出してきた。
「これだけ素晴らしい歓迎を受けたのだ。我々もタケル殿に何かお返しをせねば気が済まない。そうだ!タケル殿にはぜひエルフの里に来てもらいたい」
「なんか面白そうだし、いいぞ」
成長しないけどうまい農作物を作れるようになってからは、特に目標もなく日々をたんたんと農業をして過ごしていた。タケルの保存ボックス以外にも食料は保管されているので、多少遊んでいても大きな問題にはならない。そのため深く考えることなく、即答で返事をした。
「それはよかった! 我らの里のもの皆で歓迎させてもらう」
こうしてエルフたちとの夕食会は終わった。
自宅でタケルと二人っきりになったところでフィリーが先ほどの夕食会に対して思っていることを言ってきた。
「体のいい運び屋ね」
「運び屋?」
「あなたの保存ボックスがあるでしょ。それで今回取引したものを運ばせようって魂胆なのよ」
使者の狙いに気付いていたフィリーだが、あの場で止めるのも変だったため止めることはできなかった。
森の中には当然魔獣がいる。道が整っていない中、森の中を荷物を背負って運ぶのはとても大変なことだしリスクもある。護衛をつけるとしても人手も取られるため、できることならタケルに運んでもらうのが一番なのである。
「なるほどな~」
「そんな能力を持ってる人なんていないから。油断しているといいように使われるわよ」
「俺が元いた世界じゃあ、こんな能力を持ってる話があふれてたけどな」
タケルがいた世界ではアイテムボックスで無限にものが入るなんて言う便利機能があるという創作にあふれていた。こちらの世界ではそんな特殊な機能があるのが珍しくないと思っていたのだ。
「あのね、この世界のことをよく知らないようだから教えておくけど、そんな能力を持ってる人は人っ子一人いませんから!」
「まじか……」
「まじよ」
フィリーはあまりに常識のないタケルをジト目で見る。
「あなたに釘を刺さなかった私の責任ね」
「まあ、大丈夫だろ。そもそも俺が作った野菜しか入らねーし」
なんでも無限に入るアイテムボックスだったら、物流の革命が起こってしまうかもしれないが、所詮はタケルが作ったものしか入らない仕様になっているので、そこまで世界に影響は与えないはずだ。
「今回はいいように使われるけどね」
「それぐらいいいじゃねーか。それにエルフの里でもなんか歓迎してくれるんだろ。それならチャラだチャラ」
「あんたね~」
フィリーはいろいろと諦めた。自称異世界人でこの世界のことをよく分かっていない人相手には危機感を煽ってもあまり効果がないようだ。それにフィリーはあくまで一時的にこの村にいるだけ。どんなことになってもタケルの自己責任なのだ。
「そうだ。フィリーも一緒に行くか?」
「いや、私はちょっと……。今更行くのはあれだし……」
歯切れの悪い返答で、行きたくないことがよく伝わってくる。
「まあ、行きたくないって言うんなら無理に行く必要はねーよ」
「あなた一人に行かせるのは心配だけど……」
フィリーは頭の中で色々とぐるぐると考え事をしている。
「変な約束事をしないこと! 特別なスキルを見せないこと! いい?」
「いやいや、ガキじゃねーんだから」
「なーんか起こりそうな気がするのよね」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。完璧に歓迎されてやるぜ!」
「一応歓迎っていう体だし大丈夫よね?」
一抹の不安を抱えながらもフィリーはタケルについていくのを止めるのであった。




