17.エルフの使者1
村の周りの警戒担当をしていたフォリンが大きな声を出しながら、農作業をしていたタケルに近寄ってきた。
「兄貴~! 他の村からの使者がやってきたっす!」
「おお、そうか!……もしかしてまたホワイトウルフたちか?」
「そうっす」
ホワイトウルフたちは外からやってくる見知らぬ人に警戒心が強いようで、そう簡単に人を通さないようだ。判断は間違っていないと言えば間違っていないが、使者が来るたびに指示を出しに行くのは少し面倒だ。
ちょうど近くによってきたラグナに話しかける。
「ラグナ、もう少しこう何とかならないか」
「……主くらい強ければ問題ありませんが、この村には弱い奴らが多すぎます。万が一のことを考えると……」
タケルはうれしくなったので、ラグナの頭をよしよしとなでてあげる。ラグナなりにこの村のことを考えての行動だったようだ。
「今回もそれなりに戦えるものがいるので止めました」
人の社会ではそう簡単に人は暴れないのだが、獣の世界にいたラグナがそれに慣れるのにはもう少し時間がかかるだろう。
使者のところに向かうとそこには、フィリーと同じエルフ族の男が四人いた。その四人を見たタケルはラグナが止めたのも納得した。そのうちの三人はこの村で例えるとシェイドと近い強さを持っていると感じた。おそらく彼らは使者の護衛なのだろう。
残りの一人が代表として話しかけてきた。
「貴殿がこの村の長か」
「そうだ」
「商人からこの村のことを聞いてやってきた」
「そうか、歓迎する。お前たち警戒を解いていいぞ」
その言葉を聞いたホワイトウルフたちはいつも通りの村の周辺の警戒に戻っていった。そして、エルフたちは完璧にホワイトウルフを手なずけている様子を見て少し驚いていた。
「さあ、こっちだ。付いてきてくれ」
移動している途中に物陰からこっそりこちらを見ているフィリーに気が付いた。何をやっているのか知らないが、もしかしたら会いたくない人がいるのかもしれないので、そっとしておくことにした。
タケルが案内したのはこの村の集会所だ。フィリーが使者との交渉や歓待ができるような広めの建物を先に作らせていた。
「じゃあ、ここで少し待っててくれ。関係者を連れてくるから」
獣人の女性がテーブルに着いたエルフたちに飲み物を出した。エルフたちは飲み物を飲み、一息ついたところで、タケルたちがやってきた。
「この村の村長のタケルだ」
「今回エルフの里から交渉を任されたリオスだ」
互いに握手を交わす。
「で、食料が欲しいってことだよな? 金で払うか?」
「いや、できれば金と物々交換の両方で頼みたい」
「分かった。じゃあ、そっちはどんなものを出せるんだ?」
「我らが出せるのは、醤油や味噌などの調味料が少々と酒。あとはポーションの類だ」
他にも動物の皮が候補としてあったが、この村の状況を見てそれは不要だと判断して使者は省いた。
「出せる調味料を全部言ってくれ」
「醤油、味噌、みりん、酢、あとは……はちみつも少しなら出せる」
和食に必要な調味料のオンパレードにタケルは驚いた。
「エルフたちはこういったものを作るのを生業としている人が多いのよ」
フィリーが補足を咥える。
「……調味料はできれば全種類欲しいな。じゃあ、そっちが望んでいるのはなんだ?」
「米や小麦、芋、大豆など腹に溜まりやすいものを中心に欲しい」
「なるほど、了解。細かい数の交渉は交渉担当のフィリーとバラルに任せる」
タケルはこの世界の相場など一切知らない。そんな状態で交渉をすると買い叩かれる可能性が大きくなる。ということで、あらかじめ細かい交渉はフィリーやバラルに任せることにしていた。
「交渉担当のフィリーよ」
「バラルです」
二人とも使者に対して名乗る。二人とも農作業をしていたタケルと違って、小綺麗な服装をしている。それはまるでこの村の力を示すように。
「それじゃあ、あれ持ってきて」
フィリーはそばに控えていた獣人の女性に頼みごとをする。すると、お皿に乗ったトマトやキュウリなどの生野菜がカットされて出てきた。
「まずはこれを食べてみて」
使者はカットされたトマトを箸を使って食べる。
「ん!」
使者はそのあまりのおいしさに思わずうなる。護衛の人たちにも食べることを勧める。
「これは!」
「こんなにおいしいトマトを食べたのは初めてだ」
と口々に賞賛する声を上げる。それを聞いてタケルはにんまりと笑う。
「分かってもらえたと思うけど、それだけおいしいってなると高いわよ。大きな町でもこれほどの食材にはなかなかありつけないわ」
「……仕方あるまい」
使者の望みはできるだけ安く多くの食料を確保することだ。品質は食えればいい程度のものでいいと思っていても、実際の物の品質によって値段は左右するのは当然だ。フィリーはそれを示し、使者は納得したという形になる。
それからフィリーと使者の交渉が始まった。
交渉はスムーズに進んだ。先ほど農作物の品質が高いことを示したため、基本的にはフィリーが有利に話を進めることができたようだ。
フィリーは最後に提示された内容を聞いたあと、バラルを見るとうなずく。バラルとしては物々交換になるので厳密な料金調整はできないが、品質がいい分、タケルたちに有利な条件だということは分かった。
「それじゃあ、交渉成立ね」
「その前に、他の農作物に対しても実際の物を見てみたい」
「ああ、それなら」
そう言ってタケルは保存ボックスから、小麦粉や芋類、その他野菜などを取り出す。
「えっ、今、どこから?」
使者がタケルがどこからともなく農作物を出したことに驚く。
「ああ、これか。保存ボックスっていって俺が作った野菜を保存できるものだな」
使者はタケルの話を聞いてもぽかーんとしている。
フィリーは思わず顔をしかめる。この能力も外に知られない方がいい能力だ。それをタケルは野菜がおいしいと褒められて浮かれていたので、調子に乗って見せてしまった形になる。
「そのような力が……」
「ああ、これはな女神様からもらった力で、他にも」
「タケル」
これ以上タケルの能力が他の人に知られるのはよくないと思い、フィリーは話を止める。
「どうした?」
「話が進めたいんだけど」
「ああ、わりい、わりい」
使者としては話が気になったが、それ以上突っ込んで聞くわけにもいかなかった。
「それじゃあ、品質を確認して。これと同じようなものを渡すわ」
使者は出された農作物の目利きをする。
「味に関しては、この後の夕食で出すからそこで確認してちょうだい。問題はないと思うけど」
「……分かった。交渉成立だ」
使者は握手するために手を差し出す。タケルがぼーっとそれを見ているとフィリーがジーっと見てきた。
「俺か!」
「当たり前でしょ」
フィリーが若干呆れたように言う。
交渉の中心はフィリーであったためタケルは自分が交渉の決定権を持っていることを忘れていた。
タケルと使者は握手を交わし契約成立となった。




