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16.農家としてのプライド

 

 商人が村にやってきてから日は経ち、獣人たちが全員タケルの村にやってきた。まだ、全員の家がある状態ではないが、少数だけを残しておくというのも危険と判断して、皆を連れてきたようだ。

 獣人たちの中にはホワイトウルフやディープスパイダーに怯えているものもいたが、日が経ってくると強い存在に守られているということに対しての安心感が出てきたようだ。

 獣人たちの細かい面倒は、以前の長であるバラルに任せている。

 そしてなぜか獣人の女性たちはフィリーがまとめ役として面倒を見ている。意外と指示をするのがうまいようだ。


 元々狩りをしていた連中はラグナ達にしたがって、この村の警戒や肉を確保するために狩りに出かけている。

 タケルとしては農業に専念したいので、面倒くさいことは丸投げだ。

 そしてジルは相変わらずタケルの手伝いをしている。他の獣人にも手伝ってもらっているため徐々にではあるが、交流が生まれ関係を築いているようだ。タケルの農場に来た時に比べれば明るくなったので、そのうちもっと仲良くなるだろう。

 タケルが農作業の休憩中にフィリーがやってきた。


「ちょっと話があるんだけど」

「どうした?」

「最近魔法使ってて分かったんだけど、なんか魔力量が増えた感じがするのよね」


 この村では魔法を使えるものが、タケルとフィリーなので、何かと頼りにされているようだ。


「おお、それはよかったな!」


 純粋に喜ぶタケルをフィリーはジト目で見る。


「たぶん高品質のやつを食べてるせいよ……」

「それはよかったな!」


 さらにジト目が鋭くなる。


「そうじゃないでしょ! ますますヤバイってことが分かったんだから、扱い方気を付けてよ。これからどんどん外から人が来るかもしれないんだから」


 どうやら高品質の農作物は魔獣だけでなく人に対しても良い影響を与えるようだ。食べるだけで強くなれるとなったら、誰だって放っておかないだろう。そして、商人がこの村の存在を他の村に教えるとなると、食糧難で困っている村は間違いなく来ると言ってもいいだろう。


「フィリーは心配性だな。いいか、よく聞け。確かに外に漏れたらやっかいなことになるかもしれない。でも、それまでに俺たちがたくさん食って強くなってれば、強引な手を使ってきても返り討ちにできる!」


 フィリーは若干ため息をつき能天気なタケルを諭すように言う。


「そう簡単にいけばいいわね。でも、これだけは覚えておきなさい。あなたはこの世界のことを甘く見ているみたいだけど、超越者って言ってめちゃくちゃ強い人たちもいるのよ」

「へぇ~どれくらい強いんだ?」

「あなたを含めてここにいる人たちまとめて一撃でドーンよ」

「まじか」


 フィリーは神妙にうなずく。タケルもそれは嘘ではないということが分かった。そして、続けていった。


「いい? トラブルっていうのは起こして解決するよりも、起こさないようにした方が楽なんだから」

「やっぱり成長しないけどうまい農作物を作れる必要があるな」


 タケルは腕を組み、色々と考える。さすがに能天気なタケルもそれだけ強い奴がいるとなると警戒せざるを得ない。

 高品質の農作物を一回食べたところでたいした成長はしないだろう。しかし、継続的に食べ続けたら気付かれる可能性がある。だからこそ、村の外にいる人たちとの取引には気を遣わなければいけないということだ。


「ちょっと本気出すかな」


 なし崩しでジルのいる村と交流することになって以降、成長しないけどうまい農作物を作るモチベーションが下がっていたが、やはり外と取引するとなると必要なようなので、しりに火が付いたような感じだ。


「助言ありがとうな。いつも助かってるよ」

「どういたしまして」


 フィリーとしてもここで世話になっている以上、何かの役に立とうと色々と動いているようだ。


「農家としてのプライドをかけて、うまいものを作ってやるぞ!」


 村の外の連中がタケルの農作物を食べたとき「あれ、そんなにおいしくないよね」と思われてしまったら、タケルの心はズタボロになる。本当はもっとうまいやつ作れるんだよと言っても負け惜しみにしか聞こえないだろう。そんなのは絶対に許されない。

 こうしてタケルの農家としてのプライドをかけた戦いが始まるのであった。




 数日後。


「ふふふ、ついに完成したぞー!」


 タケルとしては納得できるものが作ることに成功した。大丈夫だとは思うが、他の皆にも味などをチェックしてもらうことにした。元の農場のメンバーであるフィリーやラグナ、カリュネラ、ジル、それに加えなぜかフォリンがいた。フォリンは呼んでいないのだが、腰ぎんちゃくのようにタケルが何かをしているとよく突っ込んでくるので慣れてしまった。


 今回は生も食べられるトマトやキュウリなどを用意した。用意したのは高品質、成長しないけどおいしいもの、即席成長させたものの三種類だ。

 まずはどれがどれか言わずに皆に食べてもらう。


「兄貴の作る野菜は全部うまいっすね。俺っちにはよく分かんないっす」


 フォリンが食べているが、こいつの下はバカ舌なので、全く当てにならなかった。そしてジルも首をかしげており、味の違いがよく分かっていないようだ。


「味の観点から見たら、この二つがおいしいわね」


 フィリーが二つのグループを指す。


「これが高品質だね」


 カリュネラがそのうちの一つを指す。


「同じく!」


 ラグナも答える。


「このトマト、高品質と同じくらいおいしいんじゃないかしら」


 それを聞いたタケルはにやりと笑う。


「よし、これで村の外の奴らにも俺の野菜のうまさを分からせてやれるな!」


 こうして外の村と取引する準備が整った。

 その数日後、ついに外の村からの使者がやってきた。



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