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15.行商人

 

 先遣隊の獣人たちは問題なくタケルの指示に従って指示に従って農場近くに住むところを作り始めた。

 その間にタケルは人数が増えた分だけ食料が必要になるので、畑の拡張に力を入れた。どうせ食わすならいいものを食わせてやりたいという想いから、即席栽培じゃなく高い品質のものを作りたくなったからだ。


「よっこらせっと」


 タケルは今日も一人で畑を耕し続ける。ここ数日で分かったこともある。それは他人に耕させたり種を蒔いてもらったりすると、スキルが発動しないということだ。そのためタケルは畑を耕すところから一人でやっている。


「あの人どんなスピードでやってんだ」


 ただその耕すスピードは獣人であるシェイドから見ても異常なようで、猛スピードで進められた。


「さすが、兄貴っすね」


 とタケルのことを褒めるフォリン。フォリンはいつの間にかタケルのことを兄貴呼びしていたが、タケルとしては別に呼び名にこだわりがないので好きにさせていた。

 タケルはここ数日で拡張させた農場を見ながら


「これくらいの広さがあれば、とりあえず大丈夫だろ」


 と満足そうに行った。


「えーっと、腹に溜まるものが中心で、あっ米も育てるか」


 今までは炊くことができなかったので米を作っていなかったが、鍋があればギリギリご飯を炊くことはできる。水田を作るのは大変なので、畑で作る予定だ。


「あとは適当にいろんな種類の野菜を育てるか」


 女神様に薬味や香辛料をくれるようにお祈りをしたが、いまだに増えていない。これは何か条件が必要なのか、そもそも無理なのかよく分からない。とは言え、タケルにできることと言ったら毎日お供え物をして祈ることだけだ。辛抱強く祈ることにする。


 こうして獣人たちの移住の準備が進んでいった。ある程度住む家ができたところで、少しずつタケルの農場に来てもらうようにした。移り住んできた人たちも作業をやらせ、作業スピードがどんどん上がっていっている。

 そして、三分の一くらいの住人が移り住みはじめたところで、とある来訪者がやってきた。


「兄貴~!」


 フォリンが森の中からタケルの名を呼びながら、やってきた。


「どうした」

「それが……村によく来ていた商人がやってきたんっすけど」

「おお! それでどこにいる?」


 村をきょろきょろ見回すタケル。


「それが荷物を運んでいるガルホーンを警戒してなのか、ホワイトウルフ先輩たちが通してくれないっす」

「ああ、そういうことか」


 ラグナ達ホワイトウルフとしては、タケルの下についているという自覚はあるが、獣人たちの下についているわけではない。なので、タケルの命令は聞けるが、獣人たちの命令なんか聞けないということらしい。


「じゃあ、行くか」


 タケルたちが森の中に入っていくと、そこには荷物を載せたガルホーンという牛の魔獣が三匹と商人、あとは獣人の村から道案内をしてくれた奴がいた。


「お前たち警戒を解け。この人たちは大丈夫だ」


 ホワイトウルフたちが警戒を解くと、囲まれていた商人と獣人はほっとした。


「すまなかったな。うちの奴らが警戒して」

「いえ、いきなりこちらが押し掛けた形になりますから、その警戒も当然かと」

「それにしても小さな子供が森の中で行商人しているとは、大変だな」

「あ、兄貴。その商人は成人しているっすよ。小人族っす」


 フォリンが少し慌てたようにタケルに事情を説明する。


「そうだったのか。すまん」

「いえ、よく間違われますので気にしていませんよ」


 商人は気にしていないかのように笑顔で答える。


「俺の名前はタケルだ。よろしく」

「私はエルニックと申します」


 そう言って互いに握手をした。


「さあ、村に案内するから付いてきてくれ」


 こうして商人たちを村に案内する。

 村の様子をみた商人は驚いた。ホワイトウルフとディープスパイダーを従え、それらに守られた土地には豊富な野菜や果物、穀物が実っていたからだ。


「こんな場所ができたんですね」


 商人は長年この森の村を相手に行商を続けていた。しかし、去年までこんな場所はなかった。そして、これまでに巡ってきた村々では食料難なところばかりで暗い雰囲気が漂っていただ、ここはまるで違い明るい表情の人の方が多いということに心底驚いていた。

 村の中央付近にやってきたところで、我慢できなかったタケルから要求をした。


「さっそく何があるか見てもいいか?」

「ええ、どうぞ。荷下ろしして広げておきますね」


 商人はガルホーンから荷物を降ろし始めた。その様子をまじまじと見ていると、徐々に他の村人たちもやってきた。


「うおー、調味料がある!」


 塩はもちろん、醤油と味噌などの調味料や酒もあった。他にはナイフや調理器具、服、手袋、針、糸、紙など、日用品が総合的に用意されていた。

 それをまじまじと物色しているとあることに気が付いた。


「いや、待てよ。金が必要か?」


 タケルはこちらの世界に来て一円たりとも稼いでいない。なので、金は一銭も持っていないのだ。


「そうですね。ただ何か売っていただけるのであれば、そこの代金から支払うという形もできますよ」

「そいつはよかった」


 にっこりとタケルは笑った。そして、売り物になりそうなものを持ってきて商人に見せた。


「俺が売れるのはうちの畑で採れた農作物とこの布と糸だ」


 タケルがどーんと出す。すると商人は丁重に布を持ち上げまじまじと見る。


「これはディープスパイダーの糸と布でしょうか?」

「そうだ」

「僕が作ったんだよ!」


 いつの間にか近づいていたカリュネラが声を出したことによって、商人は一瞬驚く。


(こ、言葉を話すディープスパイダー!?)


 ただ過度に慌てることなく。商品を落とすこともなく、落ち着いて脳内で価値の計算をする。


「こちらの布でしたら、そうですね……銀貨二十枚ほどになります」


 タケルにはそれが高いのか安いのかよく分からないが、それよりも気になることがあった。


「それじゃあ、こっちの野菜や果物はいくらの値段が付くんだ?」


 タケルはドキドキしながら、その答えが聞けるのを待つ。自分で作ったものを売る。それは農家としての価値が決まると言っても過言ではない。


「申し訳ございませんが、こちらの農作物ですが、私の方では買い取ることができません」

「なん、だと!?」


 商人からの答えを聞いたタケルは膝から崩れ落ちる。まるでお前には価値がないと言われているような錯覚を受けた。


「ふふーん、僕の方が価値があるみたいだね」


 カリュネラが得意げな顔をしていると、商人が慌てて付け足した。


「決して価値がないということではありません。ただ私は森の中で行商をしているので、量を運ぶことができませんし、あまり日持ちのしないものは買い取ることが難しいのです。例えば、フルーツの砂糖漬けですとか、価値の高く保存が効くものであれば、買い取りやすくはなるのですが……」


 この農場にはそんな加工技術などない。たいていその日に食って終わりだからだ。色々な道具がないというのも大きいが、そんな発想が全くなかったというのが最大の原因だろう。無限に農作物を作れるタケルにとっては保存食を作るみたいな考えはほぼなかった。


「じゃあ、それで……」


 売りますと言いかけたところで、乱入者がやってきた。


「ちょっと待った! ディープスパイダーの布や糸はそれなりに大きな街に持っていけばもっと高く売れるでしょ」


 交渉が終わりかというところで、フィリーが突っ込んできた。


「勘弁してください。私は庶民を相手にしている行商人ですよ。ろくに伝手もないので街に持っていっても買い叩かれますよ。これでも結構高い値段をつけていますよ」

「そうかもしれないわね……」


 ディープスパイダーの糸や布は高級品だ。しかし、きちんとした販路を持っていなければ、有効活用できない。普通の行商人だとなじみのない服飾関係のお店に買い取ってもらうことになる。出所も不明で一見さんだと、買い叩かれてしまうことはよくある話らしい。


「もし高く売れる伝手を紹介していただけるのであれば、もっと高く買い取ることもできるのですが」

「……そんな伝手はないわ」

「でしたら、この金額が限界でして……」

「その金額でいいわ」

「ありがとうございます」


 こうしてタケルたちはディープスパイダーの布や糸を売ることで、調味料や調理器具などの日用品を揃えていった。

 村人達の買い物も終わり、日が沈みかけてきたところで夕飯の時間になった。獣人たちがタケルの村に移行してきた今ではタケルは料理担当から外れており、獣人の女性たちに任せている。今日は色々な調味料が手に入った最初の夕食で楽しみにしている。

 そこでタケルは商人も食事に誘うことにした。


「エルニックさん、一緒に夕飯食わないか?」

「いえ、貴重な食料を分けていただくわけには」

「おいおい、ケチ臭いこと言うな。一緒に飯を食った方がうまいだろ」


 商人であるエルニックは若干強引な勧誘に苦笑いをしながらも、ありがたくいただくことにした。


「それではご相伴にあずからせていただきます」


 タケルたちは商人を含めて、皆で夕食をとることになった。村を建設途中の現状では一か所でまとめて料理を作って皆で食べるという形になっている。皆の準備が整ったところでタケルが


「いただきます」


 と両手を合わせて言ったところで、皆もそれに習って


「「「いただきます」」」


 と言って食事が開始となった。もともと獣人たちにはいただきますを言う風習はなかったがタケルがゴリ押しをして、毎回言わせるようにした。感謝の気持ちは大切だ。

 商人はそれに習っていただきますをした後に、料理を口に運ぶ。


「おいしい」

「そうだろ、そうだろ」


 タケルは上機嫌になる。


「これは買い取れないのはおしいですね」

「そうだろ! そうだろ!」


 農作物を買い取れなかったことを残念そうに言う商人にタケルはさらに上機嫌になる。

 タケルはこの世界についてほとんど知らない。そのため行商人の話を聞くことで、この周辺がどうなっているのか情報収集することにした。


「今、この周辺でどんな状況なんだ?」


 行商人をしているとこの手の話は必ず聞かれることなので、商人も普通に答える


「そうですね。まず食料に困っている村が多いですね。最初に求められるのはたいてい食料がないかということで、取り扱っていないというのが心苦しいですね」


 商人はお金儲けのためにやっているとはいえ、困っている人の求めに応えることができないというのは心に来るものがあるようだ。


「あと他にも魔獣の数が少ない、強くなっているという話も聞きます」

「やっぱりそうなんすか!?」


 フォルトが話に食いついてきた。


「どおりで、なんか前みたいに魔獣を狩ることができなくなったんすよね」


 タケルとしては実感のしようがない。最近この森に転生してきたばかりなので、以前の状態など知らないからだ。


「そうなのか」

「食糧が必要だからと村の外に出たはいいものの、魔獣と戦って怪我をする人が増えたんすよね。無茶もさせられないから狩りに出る人も少なくなって困ってたっす。いや、ほんと兄貴に出会えてよかったっす」

「お前は俺を襲おうとしたけどな」

「兄貴~」


 出会った当初のことでフォリンを弄ってやると勘弁してくださいと言うような感じで言ってきた。全く脅威じゃなかったから全然問題だとはタケルは思っていないのだが。


「エルニックさん、もっと町の話とか教えてくれ」

「いいですよ」


 こうして商人を交えた夕食の時間は過ぎ去っていった。

 翌朝。商人は何日もここに居座る必要はないので、次の村へと向かっていく。その見送りをタケルたちはすることにした。別れの間際に商人からのお願いがあった。


「この村のことを他の村に教えてもよろしいですか?」

「ああ、別にいいぞ」

「それはよかったです。私は運搬の関係上それほど食料は買い取れませんでしたが、村同士で取引をするのであれば、欲しがっている村も多いでしょうから」


 ここにどれだけ食料があっても存在が知られていなければ、人が来ることはない。ただでさえホワイトウルフとディープスパイダーに守られている鉄壁の村なのだから、近寄ることさえ難しいだろう。


「うちの奴らにはこちらから手を出すことはないように伝えておく」

「それは助かります。ここは普通の人では近寄るのも難しいでしょうから」


 若干苦笑いが含まれながらも商人は答える。


「じゃあ、また来てくれよな」

「はい、その時はどうぞよろしくお願いします」


 そう言って深々とお辞儀を下げたあと商人は次の村へと向かっていった。



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