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14.獣人村の支配


獣人たちは長を中心に話し合いを始めた。


「さて、儂らはどうするべきか皆の意見を聞きたい」


勇猛果敢な獣人が我先にと答える。


「あんな要求飲む必要はない。俺たち全員で襲い掛かれば、フォリンたちを救えるはずだ」

「そうだ。第一、あいつが言っていることは本当なのか?」

「……それは分からん。しかし、襲うと言ってもそれは成功するのか?」


その意見を聞いて、村長が村で一番強い獣人に話を向ける。腕を組みしばしの沈黙の後答える。


「……失敗する可能性の方が高い」

「ダルム!」


村長は勇猛果敢な獣人がダルムに食い掛ろうとするのを手で制止する。


「もう少し詳しく話を聞かせてくれ」

「まずあの男は俺よりも強い。少なくとも勝てるイメージが全くつかない」

「それほどなのか」

「ああ、それにあの男の周辺にいるホワイトウルフはよく統制されている。そこらにいる奴らと一緒にすると痛い目に遭うはずだ」


村で一番強い獣人の言葉に、皆が否定的な考えに飲まれてしまう。


「そもそも、あのフォリンたちを傷一つ負うことなく生け捕りにして連れてくるほどの強さがあるという時点でそう簡単に行くとは到底思えない」

「……なら、襲うというのはなしだ。皆もそれでいいな」


長は最初に食って掛かってきた獣人を見ながら念を押す。


「ああ、分かったよ。勝手な行動はしないから安心してくれ」

「他に意見はあるか?」

「……俺はあの人の下につくのに賛成だ」

「何を言ってる! 何をやらされるか分からないぞ」

「でも、食料は分けてもらえるって言ってたじゃないか。それならそんなに悪い話でもないだろ。働く代わりに食料を分けてもらうって考えれば」

「俺はそんなの絶対に嫌だね。食料なんて俺が狩りに行って取ってくれば」

「それができてれば、こんな苦労はしてねーよ」

「静まれ」


意見がヒートアップしそうなところで、長が止めに入る。


「他に意見があるものは……」

「何か差し出すとか、食料を分けてもらえるように交渉するのは無理かな」

「差し出すって何を?」

「それは……」

「あいつの要求は都合のいい労働力か、戦士が欲しいってことじゃないのか?」

「なら勝手にやったバカをあいつにくれてやればいいだろ」

「仲間を見捨てる気か!」

「こんな面倒ごとを持ってくるなら、その場で死んでくれた方がありがたかったね」


皆が口々に自分の考えを言いまくる。そして長が再び収集をつけようとしたとのとき


「そろそろいいだろ! 答えを聞かせてくれ!」


というタケルの声が届き、獣人たちは静かになる。


「最終的な判断は長にお任せします。我らはそれに従います」


村で一番強いダルムが長に向かっていったことで、皆もそれに従うという形になった。


「……分かった」


長は神妙な面持ちで再び前に出る。


「我らがあなた様の支配下に入ることを受け入れてもらいたい」

「えっ」


タケルは俺の下に付くってマジ!?と内心混乱する。


「長!」


最初から反対していた勇猛果敢な獣人は長の決定に反意を示すように声を上げる。


「シェイドよ、ジルフォードを見よ。我らが一度捨てた子を拾い面倒を見ている。そして、あんなに懐いている。そう悪いことにはならないと儂は思う」

「それは……」

「もう決定事項だ。これより我らはあのお方の支配下に入ることにする」


不承不承という感じがする者も多いが、一応全体としては長の決定に従うという形になったようだ。


「これから我らはどうすればいいのでしょうか?」

「すー、あー、どうすっかなー」


タケルの当初の予定では調味料や調理器具をもらって帰るということだけだったので、獣人たちの扱いに困った。


「ん?」


タケルたちの後ろの方から、何かが近づいてい来る気配があるので、そちらの方に体を向ける。すると、大きな蜘蛛が飛び出てきた。


「主~、村を潰すって聞いたから来たよ! あれ? もしかしてこれから? よーし、皆殺しにするぞ~」


やってきたカリュネラは意気揚々と獣人たちと戦おうとする。


「いや、待て。村を潰すなんてことはしないぞ」


ジルが生まれ育った村なのだ。ジルの目の前でそんな残虐な行為をできるわけがない。


「あれ~? でも、襲われたから村に報復するって聞いたよ」

「俺は穏便な話し合いをしに来ただけだ。それにこの村はもう俺の物になったから手出しするなよ」

「え~、せっかく久しぶりに暴れられると思ったのに」


カリュネラは残念そうにしながらも、タケルの言うことを聞くようだ。


「人の言葉を操るディープスパイダー……」

「森の主……」


獣人たちはその存在に思わず息を飲む。

というのも、森の中には手出し無用の存在がいる。手を出せば敗北は必然。場合によっては、村ごと潰されるという可能性があるほどの強力な存在だ。その一角としてカリュネラは君臨しているのであった。


「……長の判断は正しかった」


獣人の一人がぼそりと言う。

万が一にでも、長が力づくでタケルたちをどうにかしようとしていたら、間違いなく手痛いしっぺ返しが来たであろうことは、その場にいるすべての獣人たちが理解した。


「こちらのディープスパイダーはあなた様の支配下にあるので?」

「支配下つーか、うちで働いている仲間だな。まあ、勝手に襲うことはないから安心してくれ」


そう言われても長をはじめとする獣人たちはカリュネラにビビっている。


「あと俺のことはタケルって呼んでくれ。それで、まず食料がないんだよな? 適当に出すから持って行ってくれ」


そう言ってタケルは保存ボックスの中から農作物を取り出した。芋類や小麦粉を中心に、そのほかの野菜や果物はおまけ程度に出した。


「こんなにいただいてもよろしいのですか?」

「ああ、うちではいくらでも採れるからな」


タケルは受け取り作業をしている獣人たちの様子を見ながら、ひとり今後について考える。


「よし、決めた。お前ら全員をうちの農場に連れて行く。つっても、住むと来ないから徐々に移り住んでもらうぞ。まずは先遣隊として、大工仕事とか力仕事ができる奴らが付いてこい」

「村の移動ですか?」

「ああ、近くにいないと仕事を頼みづらいし、守れないからな」

「……分かりました」


長は昔から住んでいた場所を変えるというのは抵抗があるようで、渋々ながらという感じを飲み込むように返事をした。


「あっ調味料と調理器具を必ず持ってこい。必ずだぞ!」


タケルや本命の要求をさらっと自然な形で入れていく。


「調味料は塩ぐらいしかないのですが……」

「塩だけ!?」

「はい」


他の村なら塩以外にも何らかの調味料があると思っていたのだが、そう簡単には手に入らないものだったようだ。


「まあ、仕方ないな……。調理器具はあるよな?」

「鍋になりますが……」

「それで十分だ」


鍋があれば焼く、炒める、煮る、揚げる何でもできるからな。今の生活よりも一歩前に進むというのが大事なのだ。


「お前たちが先遣隊か?」

「はい」


荷物を背負った獣人の男たちが揃った。そこにはタケルたちを襲ってきたバカどもも含まれていた。タケルはそのメンツを一通り見回した後、村で一番体が大きく強そうな男を指さした。


「お前はここに残れ」

「よろしいのですか?」

「ああ、お前がこの村で一番強いだろ。何かあった時のためにお前は残れ」

「分かりました」


その獣人はどこかほっとしているように了解を示した。


「よし、お前たちはこき使うから覚悟しとけ。それじゃあ、俺たちの農場に帰るぞ」

「はい、主」

「はーい」


ラグナとカリュネラが返事をして、タケルたちは農場へと向かっていった。



   ◆



その道中にタケルを襲った獣人のリーダー格であったフォリンが他の獣人たちに話しかける。


「いやーでもよかったっすね。食料ももらえたし、結果オーライっすね」

「お前な……」


獣人族の中でも強固に反対していたシェイドが反応する。今でも内心では今回のことに納得していないが、タケルのことを見極めるために先遣隊に志願した。彼はもしタケルがあまりにひどい仕打ちを獣人たちに向かってやるようであれば、一人で刺し違えても殺すという覚悟を持って参加している。


「俺っちがタケル様を連れてきたから、村の食料難を解決できた。もはや英雄と言ってもいいんじゃないっすかね?」


それを聞いてイラっとしたシェイドはフォリンの頭を平手で思いっきり叩く。


「いてえ! ひどいっすよ! 英雄に向かって」

「お前は英雄じゃない。疫病神だ。余計な問題を持ってきやがって」


調子づくフォリンにくぎを刺すように嫌味を言う。フォリンはそれを一切気にすることなく、話を続ける。


「あっそうだ。絶対に敵対しちゃダメだって目で視線送ってたの分かったっすか? それのおかげで交渉がスムーズにいったと思うんすよね」

「お前、そんな意味だったのか……」


シェイドにはフォリンが助けを求めて懇願しているようにしか見えなかったのだ。心配して損したという気分になった。


「お前はもう大人しくしておけ。もうやらかすなよ」

「また新たな伝説作ってやりますよ」


再びシェイドがフォリンの頭を叩く音が森の中に広がった。



   ◆



「おかえりなさい」

「ただいま」


フィリーはタケルの後ろに獣人たちがいるのを見て何かやったことを察したが、長くなりそうだったのでその場での追及はやめた。


「じゃあ、まずは俺たちの家を作ってもらう……いや、その前にあそこに、神棚が置いてあるだろ? それを囲うように祠を作ってくれ」


何よりも最初に環境を整えなくてはならないのは、女神様の神棚が置いてある場所だ。今までは技術力がなく木の陰に野ざらしにしていたが、大工がいるのであれば話は別だ。


「じゃあ、頼んだぞ」


そう言ってタケルはにやにやしながら、ようやく手に入れた調理器具の鍋を使って料理を始めることにする。

すると、そこにフィリーがやってきた。


「で、何があったのか説明してもらえるのよね」


タケルはここまでのいきさつをフィリーに話した。


「調理器具手に入れるために、村ごと手に入れるって……」


フィリーは若干呆れ混じりで言った。


「まあ、でもよかったじゃない。人手が増えて」


タケルの指示に従って祠を作り始めている獣人たちを見ながら言う。


「それはそうだな」

「それに村を移すっていうなら、ジルにとっても良かったんじゃない?」

「だと、いいけどな」


ジルは一度捨てられたからなのか、元からなのか分からないが、村の獣人たちとは距離を取っている。そう簡単に消化できる問題でもないかもしれない。時間が解決することをタケルは祈った。


「そんなことより、ようやく手に入った鍋を使って料理するぞ!」

「何を作るの?」

「それは……野菜や肉をぶち込んだ汁物だな。今ある食材的にうまいのが作れるのか知らん。が、精神的にうまいことを期待する」

「何よそれ」


フィリーがジト目でタケルを見る。

今までは生のまま食うか、焼くか、石で温めるしか調理法がなかったので、それほど野菜のレパートリーを増やしていなかった。まともな調理器具もないので、細かく切って温めるという作業が面倒くさかったのだ。丸ごと調理できるかが選定基準になっていた。そのせいで汁物としてうまいものができるかどうかが不明だ。調味料が塩しかないのも原因の一つだ。


「明日から農作物のレパートリーを増やすから、うまい飯は明日以降に期待してくれ。てか、獣人たちの村に調味料なかったぞ」

「えっ、そうなの?」

「ああ、そこらへんの村で手に入るものなのか?」

「そこまではちょっと分からないけど……」

「ちなみに、どんな調味料があるんだ」

「うーん、確か……醤油」

「醤油!?」

「味噌」

「味噌!?」

「あとは胡椒とか、砂糖とか?」

「胡椒と砂糖か」


フィリーは指を折りながら、一つひとつ名前を挙げていった。

タケルはこの世界に醤油や味噌といった調味料があるとは思っていなかったので、とても驚いた。


「いつか手に入るといいなー」

「女神様から種もらえないの?」

「うーん、薬味や香辛料の類はないんだよな」


今ギフトボックスに入っているのは、普通のスーパーで年中売られているような野菜ばかりだ。他には、主食となりそうなものしか入っていない。薬味や香辛料、サトウキビなどは今後手に入るかどうか不明だ。


「お願いしてみたら?」

「それもそうだな。後でお祈りしておくか」


フィリーと会話をしているうちに、料理が完成した。汁物と小麦粉焼き、焼いた肉、最後にデザートのリンゴだ。以前と比べると汁物が増えたのでバージョンアップだ。食器の類も獣人たちの村からもらってきたので、それに盛り付け、テーブルの上に並べる。


「よーし、完成だ。お前ら飯にするぞー」


タケルは先遣隊に来た獣人たちを呼び一緒に食事をした。



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