12.川での襲撃
成長しないけどうまい農作物作りは少し難航している。無意識的に高品質のものを作ってしまうのだ。意図的に性能を落とすというのが農家としての矜持に反しており、タケルの中でうまく折り合いがつけられないのだ。
今日は気分転換がてら周辺の探索に行くことにした。
「よし、ラグナ!今日は探検に行くぞ」
「分かりました!主」
どうせならジルも誘ってみるかと思い、ジルのところに向かった。
「ジル、一緒に森の探索に行くか?」
「うん!行く!」
ジルは元気に返事をした。謝罪をしてきたあとからジルは明るくなりわんぱく小僧になり果てていた。
「じゃあ、準備しておけ」
「分かった!」
タケルが探索に行く準備をしているとラグナ以外のホワイトウルフやディープスパイダーの子供たちがぞろぞろとやってきた。
「わんわん!」
「ん?どうしたんだ?」
「主、こいつらの言うことは無視していいです」
「わんわん! わんわん!」
ラグナが言ったことに抗議するかのように、ホワイトウルフたちが一斉に吠え始めた。
「せめて何を言ってるのかくらい教えてくれよ」
「……どうやらこいつらも一緒に行きたいようです」
「そんなことか。別にいいぞ」
「わんわん! わんわん!」
ホワイトウルフたちは嬉しそうに騒ぎ始める。
「しかし、主! こいつらがいなくなっては農場の守りが手薄になってしまいます」
「確かに。でも、全員行くわけじゃねーんだろ?」
「わん!」
その通りですと言わんばかりにホワイトウルフたちはうなずく。最近はホワイトウルフの数も増えており、過剰戦力気味になっていたので、半分以上抜けても全然余裕である。
「まあ、いいじゃねーか、たまには」
これ以上反論ができないラグナは苦虫をかんだような表情になる。
「……いいか、お前たち! 主を絶対に守り抜くのだぞ!」
「わん!」
こうしてタケルたちは森の探索に向かった。全部で十匹のホワイトウルフと二十匹のディープスパイダーの子供たちがついてくることになった。
周辺の森を歩き周ったあと再び川にたどり着いた。前回とは違う場所だが、方角的に同じ川なはずだ。
タケルは川を見ていると、前回魚捕りのコツを掴んだところで終わっていたので、再び魚を捕りたくなってきた。
「ジル、俺が魚の捕り方ってやつを教えてやるぜ」
タケルは川の中に入っていった。
「いいか、こうやって構えてだな」
タケルは突きを繰り出す姿勢のまま魚が来るのを待つ。一匹の魚がやってきたところに、突きを繰り出し水しぶきが飛ぶ。
「ふぅ~まあ、こうやって失敗することもあるが、めげずにチャレンジずることが大事だ」
カッコよく一発で捕まえたかったが、そんなにうまくいかなかった。
「ほら、ジルも一緒に捕まえようぜ」
タケルとジルは川に入り、一緒に魚取りを始めた。そして、しばらく経った後
「よっしゃあああああ! 捕まえたぜ! もはや魚捕りの名人になったと言っても過言じゃないな」
タケルが魚を捕まえて自慢げになっているところに、何かに気付いたラグナが話しかけた。
「主」
「ん? あー分かってる。相手の出方を見たいから、ひとまず様子見だ。こっちからは手出すなよ」
タケルは手を払うようなしぐさをした。
「……分かりました」
そう言ってラグナ達は森の中に向かっていった。それと入れ替わるようにジルがやってきた。
「ねえ、全然捕れない」
「魚を捕るときには、コツがあんだよ。こうシュッと構えて、シャッと突き出す。そしてふわっと掴むんだ。強く握ったらだめだぞ。適度―な力加減で魚を掴むんだ」
「意味わかんないよ」
「いいから、ほらやってみろ」
ジルはタケルに言われた通りに構えて、魚がやってくるのを待つ。そして、一匹の魚が近くにやってきたところに突きを切り出すが、見事に魚に逃げられる。
「無理だ―! ねぇ網使わせてよ」
「おいおいおい、自力で捕るから楽しんじゃねーか。分からんかなーこの楽しさが」
「随分と楽しそうにしてるなあ、ジルフォード!」
森の中から高圧的な態度で五人の獣人族の男たちが出てきた。ジルはその声に怯えタケルに隠れるように移動して、服を掴んだ。
それを見たタケルはジルをかばうような位置に立った。
「なんだ、お前たちは」
「お前の村は捨てられたガキに食わせてやるだけの余裕があんだろ。だからよ、俺たちにもその恩恵を授かろうと思ってな。俺たちにも食料よこせよ」
タケルはジルの頭をポンポンと撫で、
「大丈夫だ。ここで待ってろ」
そういってから川の中から出て獣人たちの方に近づいていった。
「断るって言ったらどうするんだ?」
その言葉を聞いた獣人たちは武器を抜いた。そのうちのリーダーがタケルに向かって剣を指し向けてきた。
「そんなの決まってる。おめーらを痛めつけてから、人質にして食料を奪ってやる」
「はぁ~」
その言葉を聞いたタケルは大きなため息をついた。タケルに動じる様子は一切なく、むしろ警戒を解きやるせない気持ちを滲ませていた。
「な、なんだ。食料を差し出す気になったのか」
あまりの変貌っぷりに動揺したのは、獣人たちの方であった。
「お前ら、殺さずに捕らえろ」
「?」
タケルは獣人たちの問いに答えることなく、森の中に潜んでいたラグナ達にやる気なさげに命令した。すると、ディープスパイダーの子供たちが、三人の獣人の足や腕に糸を巻き付けた。
「うお、なんだ」
さらに一人の男にはホワイトウルフが腕を噛み、無力化した。
「ぐあ、いてえ」
残ったリーダーの獣人の男は一瞬で仲間たちを制圧されたことに動揺しながらも、目の前にいたタケルに向かっていった。
「うおおおおおおお」
剣を振り下ろされたタケルは半身で躱し、合気の要領でくるりと投げ飛ばした。そして、地面に伏せている男に対して、後ろ手にして制圧した。
「武器を抜いて俺たちを攻撃したんだ。どうなるか分かってんだろうな」
あっという間に制圧された五人の獣人たちは、ようやく手を出してはいけない相手に手を出してしまったことに気付いて絶望の表情を浮かべた。
「こ、殺すのか」
「安心しろ。殺しはしない」
笑顔でそう言うタケルに獣人たちはほっと胸をなでおろす。
「お前たちがやろうとしたことを何倍にもしてやり返すだけだ」
獣人たちはその言葉を聞いて再び絶望するのであった。




