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11.しゃべったああああ!

 

 ジルを農場に連れてきてから数日経った。

 初めジルは警戒心が強く何かと不安がっており、ほとんどしゃべることはなかった。しかし、農作業の手伝いをしたり、一緒に食事をしたりすることで徐々に警戒心が弱まり話すようになってきた。


「収穫してきた」


 ジルはいっぱいジャガイモを詰め込んだ袋をタケルのところに持ってきた。


「おー、よくやったな。じゃあ、それは選別するから、あっちの作業台の方に持っていってくれ」

「分かった」


 タケルは作業台の方に移動して、選別を始めた。ジャガイモを作業台の上に出し、高品質のものを保存ボックスに入れて、それ以外は元の袋に戻していった。

 そんな作業をしていると、フィリーがリンゴを収穫して持ってきた。


「はい、任せたわよ」

「はいよー」


 ジャガイモの選別を済ませたタケルは次にリンゴの選別を行っていく。タケルはそばにいたラグナがなんだか物欲しそうな顔をしているのに気が付いた。


「ほれ、ラグナ」


 そういってラグナに向かって高品質のリンゴを投げた。すると、ラグナはパクッと食べてシャクシャクと租借して、飲み込んだ。


「うっ」

「どうした! ラグナ!」


 慌てて駆け寄ろうとすると、ラグナが薄く光りだした。その発光が収まったがラグナに特に変化はない。


「大丈夫か?」


 心配になって声をかけると


「我は大丈夫です」

「そうか、大丈夫ならよかった」


 タケルは安心してラグナの頭をなでる。


「って、ええええええええ」


 急にフィリーが大きな声を出して驚いた。


「どうした!フィリー、大丈夫か?」

「いやいや、私じゃないでしょ。だって、ラグナがしゃべったのよ」

「なんだ、そのことか。ラグナがしゃべれると意思疎通が図りやすくて助かるよな」

「いやいや、そういうことじゃないでしょ! 急に魔獣がしゃべれるようになったのよ!」

「そう言われても……カリュネラもしゃべるし、今更だろ」

「はぁ~、あなたこのすごさが全く分かってないわ。魔獣が進化したのよ!」

「ん?」

「……もしかしてあなた何もわかってないわね」

「そりゃあ俺は異世界人だからな」


「……そういう設定だったわね。いいわ、じゃああなたにこのすごさが分かるように説明してあげる。まず魔獣、魔物、魔人っていう順で進化していくわ。ちなみに魔人に近づけば近づくほど、人のような賢さや姿を身に着けているわ」

「強さが基準じゃないのか」

「ええ、そうよ。だから強さだけでは魔物や魔人よりも強い魔獣っていう存在もなくはないわね。それは置いておいて魔獣から魔物、魔人に進化する過程は少しの進化で数十年っていう時間がかかるのよ。元々ラグナは賢かったけど、それでもそう簡単に進化するわけじゃないわ。でも今、魔獣から魔物に進化したってこと、これがどれだけすごいことか分かる!?」


「ラグナ、しゃべられるようになって良かったな!」

「はい、主」

「だああああああああ! 全然伝わってない!」

「いや、なんとなく分かったって。めったにない進化の瞬間を目にできたことが貴重だって話だろ」

「いや、そうだけど……そうじゃないっていうか……そもそもしゃべれるようになる魔物自体が貴重というか……」


 フィリーがぶつぶつと何かを言っている。


「でも、どうして進化したんだろうな」

「それは主の作物のおかげです」

「そうかそうか! かわいいやつめ」


 タケルはうれしさのあまりラグナを撫でまわす。

 フィリーはそんなラグナの発言に何かが引っ掛かり考え込む。


「タケルの作った作物のおかげ……それってまさかこの高品質の?」

「そうです」

「カリュネラー!ちょっとこっち来てー!」


 フィリーは遠くにいるカリュネラを呼んだ。


「なにー」

「あなたこの高品質の野菜とか果物とか食べると成長したりする?」

「うん! 主の作ったもの食べるとほんの少しだけど力が底上げされるような感じがするかな。だからここに来たんだし」


 フィリーはその情報を聞いて愕然とした。


「これってとんでもないことじゃ……」


 フィリーは魔獣の進化を促進させることができる食べ物を作れるなんて話は聞いたことがない。食べるだけで成長するという力は破格だ。もし仮に人為的に言うことを聞く魔物や魔人の集団を作れるということになる。もしこの能力が広まったら、権力者が強引な手を使ってでも手に入れてくる可能性が高いということだけは分かる。


「おいおい、大丈夫か?」


 タケルが心配そうにフィリーをのぞき込む。


「ふぅー」


 フィリーはそんなタケルの顔を見て、今更だと思った。すでにあり得ない力があるところに、さらにあり得ない能力が追加されただけの話である。


「大丈夫よ。でも、これはあまり知られない方がいいから、今後安易に外の人に食べさせない方がいいわね」

「なんでだ? 俺はうまいものを食わせてやりてーぞ!」

「下手に情報が広まれば権力者が力にものを言わせてあなたをこき使おうとするわよ」

「それは嫌だな。俺は自由に農業するために、わざわざ女神様にこの場所に送ってもらったんだからな」


 タケルは外にあまり出たがらないのは、不自由なのを嫌うからだ。権力者にあれ作れ、これ作れと言われてやりたくない。だからわざわざ人があまりいないところに送ってもらったのだ。


「つまり俺に求められているのは、成長しないけどうまいものを作るってことか」

「まあ、そうね」


 タケルはにニヤリと笑う。


「新しい挑戦ってのはワクワクするな」

「あなたが楽しそうで何よりよ」


 フィリーはそんなタケルをみて呆れている。

 タケルはジルに視線を移して、何かを考え始める。


「よし、決めた。成長しないけどうまい農作物を作れるようになったら外と交流することにする」

「おお、やっと調味料とか調理器具とか手に入るのね」

「やっととか言うな」

「あとから居ついた身だから言わなかったけど、さすがに調理器具もない塩しかない料理は飽きるわよ。ねえ、ジル」

「うん」

「ぐぬぬ」

「我はこのままでもおいしいです」

「僕もこのままでもいいかな」

「お前たち―」


 そういってタケルはラグナとカリュネラを抱きしめる。


「二人とも調味料を使ったおいしい料理を食べたことがないからそう言えるのよ」

「えーそんなに違うの」

「全然違う。全く別物みたいにおいしい料理だってあるんだから」

「主、僕早くおいしい料理を食べてみたい!」

「……分かった。すぐに作れるようになってやるからちょっと待ってろ」




 夕食後の夜。辺り一帯が暗くなっているところでタケルは一人畑の前に突っ立って、成長しないけどうまい作物を作る方法を考えていた。


「うーん、土かスキルか」


 そう呟きながらしゃがみ込み畑の土を触ってみるが、なんだか違うがする。女神様からもらった農業スキルは驚くほどに高性能だ。こちらの世界に来た当初、いつの間にか育成スピードを上げる能力を使っていたように、無意識で能力を使っている可能性がある。だから、能力の成長しないような作物を意識的に作ることがおそらくできるはずだ。


「やっぱりスキルだな」


 そんなタケルのところに何か言いづらそうなジルがやってきた。ちょっと前からいたのには気付いていたが、話しかけてこないのでこちらから話かけることにした。


「どうしたんだ、ジル」

「えっと、その……ごめんなさい」

「ん? 何がだ?」

「最初であったとき食べ物を盗んだの、まだ謝ってなかったから……」

「あー」


 タケルはそういえばそうだったなという感じで思い出した。


「謝罪は受け取った。もう気にするな」


 そういってジルの頭をグリグリ撫でまわる。


「それとありがとう。ここに置いてくれて」

「いいってことよ。それにジルは立派に働いているしな。もう欠かせない戦力だ」

「へへっ」

「さあ、子供なんだからは早く寝ろよ」

「うん、分かった。おやすみ」


 そうしてジルは寝床に戻っていく。タケルは成長しないけどおいしい野菜を作る方法の目途が立ったので、フィリーがいる焚火をしている場所に戻ってきた。

 タケルとフィリーは焚火を見つめゆったりとした時間が流れている。フィリーがおもむろにタケルに話しかけた。


「外に出るのってジルのためでしょ」

「……まあ、そうだな。ジルの村に食料があれば戻れるだろ」


 タケルはフィリーから周辺の村で食料が少ないという話を聞いていながらも、どこか他人事のような感じで聞いており、それほど深刻には考えていなかった。しかし、ジルという口減らしの被害者を見てしまったからには、ずっと放置していい問題でもないような気がしていた。


「それならもっと早く食料を売ればいいのに」

「いや、そこは農家としての矜持がある」

「ふふ、あなたらしいわね」


 こうして静かな夜が過ぎていった。



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