表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

大切なもの - 祖父がくれた最後のデート

作者:
掲載日:2025/12/31

この物語は、実際の出来事をもとに書いたフィクションです。

大切な人を想う気持ちが、誰かの心にそっと届きますように。

ムカつくくらいに天気が良くて

雲が気持ちよさそうに揺れていた日。

久しぶりに親戚みんなが集まった。


そんな今日は、大好きな祖父とのお別れの日。

私はこの現実についていけず

ただただ目の前で眠っている祖父を見つめ

立ちすくんでいるだけだった。


背後から聞こえる会話にイライラを覚えながら。


「認知症だったし、もう93歳だったから

覚悟はしてたんだけどね。頑張ったね。お父さん。」


「お父さん、よく頑張ったな。」


「葬式の手配をしないとな。これからのことはまた連絡するよ。」



そんな淡々としている会話。

あまりにも呆気なくて

あまりにも寂しくて

まだ感情表現が上手くできていない頃のように

自分の拳を握りしめてただただ立ちすくみ泣くしかできなかった。

無性に何かにムカつくことで、この気持ちを誤魔化そうとしていた。


ムカつくくらいにいい天気だった。



目の前には

笑ったように目を閉じている祖父がいる。

本当にただ眠っているだけのような祖父。


「おじいちゃん、遊びにきたよ。」と声をかけたら

あの頃のように笑いかけてくれる気がしていた。




 私の家庭は父がいなく、母、兄、私の三人家族だ。

それでも、祖父母の家の近くに住んでいたので寂しいなんて暮らしとは無縁だった。

小さい頃は、学校が終わったら祖父母の家に行って

夜、祖母のご飯を食べながらお母さんが仕事終わって帰ってくるのを待つ。

といった生活をしていた。



私にとってそんな祖父母の存在はとても大きく

いるのが当たり前の存在だった。


祖父母が授業参観に来てくれた時は

張り切って授業で手をあげて、自信満々の顔を披露したりしていた。

毎年来てくれた運動会は

絶対にかっこいい姿を見せたくて

リレーの選手に選ばれるようにかけっこを頑張り

大きな拍手に、照れ笑いを見せたりしていた。



祖父とイオンにお買い物によく行っていた。


大人になって知った事実だが

祖父は私とイオンに行くことを

近所の人に「孫とデートに行く」と自慢げに言っていたらしい。


毎回、祖父はイオンで本を買ってくれていた。

私の学校は毎朝読書の時間があったので

もうこの前買った本は読み終わってないかい?

本買いに行くか?

と誘ってくれていた。

私は本の虫で本を読むのが好きだから

誘われるのが嬉しく、祖父とのデート時間も大好きだったため

一石二鳥だった。


ラーメン屋さんに行った日も、よく覚えている

いつもお子様ラーメンを頼むけど

祖父が大人のラーメンも美味しいよ。と

小学生の頃初めて大人サイズのラーメンを食べた。

それが周りの子よりも少し大人になった気がして自分が誇らしかったことを今でも覚えている。

ラーメンを食べると祖父は絶対鼻水を垂らす。

私はいつも母が作ってくれていたポシェットにティッシュを入れていたので

「おじいちゃん、これ。」

私は祖父にキャラクターの柄がついている流行りのティッシュを渡した。


その行動を店主のおばさんが見ていたようで


「うふふ、仲がいいですね。今日はおじいちゃんとデートかな?」

と声をかけてくれた。


祖父はアハハと照れ笑いして私を見つめてくれた。


私が寂しくないように祖父はたくさんのところに連れて行ってくれた。

たくさん一緒に過ごした。

小さい頃から私を一人ぼっちにしないようにしてくれていた。


大好きだった祖父の様子がおかしいと気付いたのは

私が高校3年生の時だった。


高校生になっていた私は

バイトを始めたり、勉強が忙しかったりと

なかなか祖父母の家に行けなくなっていた。


高校3年生の冬休み

祖父母の家に行くと

テレビを見ながらぼーっとしている祖父がいた。

何気ないあの頃と変わらない祖父の背中だったが

顔を見た時に違和感を感じた。


テレビを見つめているはずの目は

どこか上の空で


「おじいちゃん、遊びにきたよ。」


私の言葉に反応は無かった。


祖父は難聴があり

耳の聞こえが悪かったが

少しの反応もない祖父が怖く、

私は急いで、キッチンにいる祖母に顔を見せに行った。


「あら、いらっしゃい」

あの頃と変わらない祖母の優しい笑顔に安心した。


「おばあちゃん、おじいちゃんがなんか変だよ。

声かけても上の空みたいだった。」


私は慌てて伝えた。

あまり行けてなかった期間に何があったのか

心がざわついていた。


祖母は少し困った顔をして

リビングに向かった。


その日私は、母にあった出来事を伝えて

絶対に病院に連れて行こうね。

そう話していた。


あの時病院にすぐ連れて行けてたら

小学生の頃のように毎日でも顔を見に行っていたら

変化にすぐ気づけていたのかもと

これは今でも私を苦しめる後悔だ。


「パーキンソン病だって。」


あの日からしばらくして、親戚から祖父のことを聞いた。


祖父に会いに行くのが少し怖かったが

バイトが休みの日は必ず顔を見に祖父母の家に行った。


祖父の症状は

体が強張り、手足の震えがひどかった。


ずっと揺れている祖父の手を握るしかできなかった。


何もできない無力さに心がズタボロになった。



学校で友達と喧嘩した日、その日も祖父母の家に行った。

キッチンに立ってる祖母に今日学校で友達と喧嘩したことを

相談していた。


祖母は話を聞きながら

味噌汁の味見をしていた。


「心がモヤモヤするなら、謝って話をすることも大切だと

おばあちゃんは思うよ。

もう大人になるんだから、いちいちメソメソするんじゃないよ。」


祖母は貶して言ったのではなく、背中を押してくれていたのに

学生の私はその言葉にイラッとして


「もういい。帰る。」


と冷たく突き放し

テレビを眺めている祖父に

バイバイと手を振り家を出た。


最低だと思っていた。

話を聞いてくれていたじゃないか。

背中を押してくれていたじゃないか。


そんな気持ちは、頭の片隅に現れてはすぐに消え、

誰が見てもきっと怒っているのが伝わる歩き方で

家路を急いだ。


自宅付近で少し足を止め

ふぅ。とため息をついた。

祖母に謝りに行くべきか

祖父に話しかければよかったかな

そんなモヤモヤが頭に浮かんだ。


その時

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

まさかと思い振り返ると


その正体は、

病気のせいで手足が震えていて、歩き方まで病気のせいで変わってしまっていて、

足を引きずったような歩き方で、一歩一歩急いで私に手を振りながら

あの頃とは違う笑顔を見せながら

私に近づいてきてくれていた、祖父がいた。


笑顔を見せる度に

冬の寒さを知らせる白い息が見えた。



胸が苦しくなった。

自分を許せなかった。


「お、、おじいちゃん…。」


いっぱい頑張って向かってきてくれたのだろう。

上手く履けてない靴、前が閉まっていないジャンパー、

少し垂れている鼻水。

寒さで赤くなった鼻


はぁはぁと祖父は息を切らしていた。


私は祖父の手を握り

祖父に抱きついた。


「ありがとう。」

その言葉の後に

祖父は私の頭を優しく撫でてくれた。


ごめんなさいの言葉が言えず

ただただ涙を流していた。


いつも歩いている道で

子供みたいに大泣きしていた。


祖父はずっと、いつまでも

私を守ろうとしてくれていた。


それをどうして忘れていた?


祖父母に対して自己中な行動をしてしまった日。

今でも後悔している日。



その後、しばらく経って

祖父が認知症と知らされた。

施設に入ることも知らされた。


今まで以上に会うことが難しくなるみたいだよ。

と、母から聞いた。


最後にあった祖父はもう

私のことを認識していなかった。


「こんにちは。」

祖父母の家に行ったら

祖父から声をかけてきた。


いつもは

「お!きたか!お菓子あるからね。」


このセリフが

お決まりだったのに


ああ。もう私はいないんだ。


理解してしまったことが辛かった。

最後の会話はいつだっただろうか

最後に一緒にご飯食べたのはいつだっただろうか

最後に写真撮ったのはいつだっただろうか

最後にした約束は果たせていただろうか


パッと直ぐに出てこない記憶力にもムカついていた。


………記憶力にムカついたと言うより

認知症で施設に入ってしまった祖父に

仕事が忙しいからと理由をつけてあまり会いに行かなくなった

自分が許せなかったんだろう。

現実から逃げていただけだ。



どんどん私を忘れていく祖父が怖かった。

どんどん小さくなっていく祖父を見られなかった。

小さい頃のたくましい祖父が、優しくてずっと近くにいてくれた祖父が

居なくなるのが悲しかった。

辛かった。

虚しかったんだ。


そうやって現実から逃げてた自分にすごく、ものすごく許せなかったんだ。


自分が大切にしているものは

ふと、簡単に、自分の中から消えていってしまう。


大切なものは

失わないように、消えちゃわないように。と大事にしておきたいのに


自分の気持ちとは裏腹に

現実はどんどん私を苦しめている。


ピーーーーーと

病院内に機械音が響く中

まだ暖かくて柔らかい祖父の手を握った


声を出したら涙が止まらなくなりそうで

(一番だいすきだよ。)


心の中で呟いた言葉は、物足りない言葉だったかな。


涙を拭いて祖父の顔をちゃんとみたら

やはり祖父はまだ笑った顔をして寝てるかのような顔をしている。


大好きな気持ちを込めた思いが手から通じてくれたのかな

なんて思ったりもした。


「そういえば

おじいちゃんが

孫は素直でまっすぐ人とちゃんと向き合う子だと、

優しくていい子で

何事にも前向きで、笑顔が似合う孫だって

出会っていく人や、周りの友達を大切にすることができる自慢の孫だって生前言ってましたよ。」

と、祖父と昔通ってたラーメン屋の店主の奥さんが

お葬式の日に話しかけてくれた。


私は涙が止まらなかった。

ずっと辛かった

ずっと後悔していた。


奥さんは私の手を握り

ただただ背中をさすってくれた。


後悔しないように

喪失感に押し潰されないように

周りの大切な人をもっと大事にしようと思った瞬間だった。


天気のいいムカつく日

外は、心地いい風が吹いていた。

それはまるで、祖父がいつもみたいに優しく背中を押してくれてるかのようだった。

風が心地よくて

イライラしていた感情はいつの間にか消えていた。


そんな日に私は前を向いて歩く準備をした。

いつまでも祖父の自慢の孫だから。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この物語は、私にとってとても大切な思い出から生まれました。

少しでも何かを感じていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ