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第5章

 その日の夕方。

 夕日が世界を茜色に染める頃、俺は湾岸エリアに停められた、変哲もない白いハイエースの中にいた。


 外見はただのバンだが、その内装は俺の夢と欲望を詰め込んだハイテク秘密基地だ。

 壁一面に埋め込まれた無数のモニターには、公園内のあらゆる角度からの映像、ターゲットのバイタルデータ、そして俺の最高傑作『ぬめり侯爵』のステータスがリアルタイムで表示されている。


「はぁ……はぁ……来る……! いよいよ、俺の夢が現実になる……!」


 俺はゲーミングチェアに深く身を沈め、ヘッドセットを装着する。

 指先が興奮で微かに震えている。

 モニターの向こう、夕焼けに照らされた公園に、時空の歪みから一体の怪人がぬるりと現れた。


 半透明の薔薇色の粘液で構成された、長身痩躯の身体。

 シルクハットと片眼鏡を模した、硬質化された粘液の装飾。


 その立ち姿は、怪人というより、どこかの国の貴族のようだ。

 俺の妄想の傑作、『ぬめり侯爵』である。


 その瞬間、空から一条の光が降り注いだ。


 光の中から、純白の翼を広げた天使が舞い降りる。

 魔法少女マジカル・リリィちゃん、降臨だ。


「悪の組織ジェネシス! あなたの好きにはさせません!」


 ああ、なんと凛々しく、なんと美しい声だろうか。

 彼女の登場に、俺のボルテージは一気に最高潮へと達した。


「侯爵、プランAを開始。まずは紳士的にご挨拶だ」


 俺がコンソールを操作すると、侯爵はリリィちゃんの前に進み出て、深々と、そして優雅にお辞儀をした。

 

「……え?」


 予想外の行動に、リリィちゃんの美しい顔が困惑に歪む。


「キタキタキターーーッ! その顔! その困惑した表情が、俺の第一のご馳走だ!」

「な、何なのあなた……!」

 

 リリィちゃんは警戒しながらも、魔法のステッキを構えて光弾を放つ。

 しかし、侯爵はその攻撃を避けない。

 ただ、その粘液質の身体で『ぷにん』と優しく受け止めるだけだ。


「無駄だリリィちゃん! 侯爵のボディは、あらゆる物理攻撃を衝撃吸収する特殊な粘弾性素材でできている! さあ、ダンスの時間だ!」


 侯爵の身体から、無数の触手が伸びる。

 だがそれは、凶暴なムチのようにではなく、舞踏会で女性をエスコートする紳士の腕のように、優雅な曲線を描いてリリィちゃんに迫った。


「きゃっ!? いやっ、離して!」


 触手はリリィちゃんの華奢な手足、そしてきゅっと引き締まったくびれに、まるで吸い付くように絡みつく。

 彼女は必死に抵抗するが、その表情は恐怖よりも驚きと戸惑いに満ちていた。


「そうだろう! その滑らかさ! 侯爵の粘液はただの粘液じゃない! 世界最高級のダマスクローズオイルを配合した、究極の美容液なんだ! さあ侯爵、もっとだ!『ニーディング・ワルツ』を開始! 彼女の全身の筋肉を、優しく揉みほぐしてやれ!」


 俺は興奮のあまり、椅子からずり落ち、床に転がりながら指示を叫ぶ。

 

「ああ、見てみろ! モニターのバイタルデータ! リリィちゃんの心拍数が上がってる! でもそれは恐怖じゃない! 未知の快感に対する戸惑いのサインだ! 抵抗してるけど、身体は正直なんだ! もっと! もっとだ! 彼女の知らない『気持ちいい』を、その純白の身体の隅々まで教えてやれ!」


「んんっ……ぁ……や、やめて……そんなところ……だめぇ……」


 リリィちゃんの口から、悲鳴ではない、甘く、切ない声が漏れ始める。

 触手は、服の上からでも正確に彼女のツボと性感帯を刺激し、じっくりと、ねぶるように快感を与え続ける。


「ああ、ああああんっ! だめ、だめもう、変になっちゃう……! 魔法の力が、身体から、抜けちゃうぅぅぅ……!」


 彼女の瞳から理性の光が急速に失われていく。

 頬はピンク色に上気し、額には玉の汗が浮かぶ。

 

 そしてついに、俺が夢にまで見た瞬間が訪れた。


「い、いやぁ……でも……もっと……もっとぉ……!」


 抵抗と懇願が入り混じった、究極の喘ぎ声。

 その瞬間、俺は指令車のコンソールに渾身のエンターキーを叩きつけた。


「フィニッシュだあああああっ!」


 侯爵の全ての触手が、一斉に振動を始める。

 それは、リリィちゃんの脳が処理できる情報量を遥かに超えた、快感の津波。


「あ、あああああああああんっ! むりぃぃぃ、もう、イっちゃううううううううう!」


 白目を剥き、大きくのけぞった彼女の身体が、ビクンッ、ビクンッ!と大きく痙攣する。

 魔法のステッキが、カラン、と乾いた音を立てて地面に落ちた。


 完全に戦闘意欲を喪失した彼女の身体を、侯爵は優しく抱きとめ、公園のベンチにそっと横たえる。


「ハァ……ハァ……ハァ……。…………完璧だ……」


 俺は指令車の床に大の字に寝転がり、荒い息をついていた。

 全身汗だくで、まるでフルマラソンを走りきったかのような疲労感と、それ以上の達成感に満たされている。


 モニターには、ぐったりとしながらも、どこか満足げな表情で眠るリリィちゃんの姿が映し出されていた。

 俺はその美しい映像を、PCの特設フォルダに保存しながら、静かに、そして熱い涙を流した。


「俺の妄想が……現実になった……。ありがとう……ありがとう、世界……」


 この勝利の味を、俺は一生忘れないだろう。

 

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