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9/18

第9話 念願のジョブをゲットしてもらえばよくない?




 放課後。 

 昨日とはまた違う、別のFランクダンジョンを訪れた。


 一度帰宅してから来る西園寺に合わせ、のんびりと待つことにする。



「ふんふふ~ん」



 イヤホンをつけ、スマホをダラダラと操作。

 好きなアニソンやらアーティストの曲を聴きつつ、ネット記事を流し読む。



―― ―― ――   


『Aランククラン【不止ふしの掟】ヒーラーを公開募集』


 

 主に首都圏で活動するAランク冒険者クラン【不止の掟】は9月21日、冒険者サポートアプリ【ダンサポ】にてヒーラーを募集することを公表した。


 定員は3名。

 ジョブは問わず。

 冒険者ランクはD以上で、回復系のスキル・魔法を使える者が条件とされる(=ダンサポ掲載文を引用)。


 ・

 ・

 ・ 


―― ―― ――



 

「あ~。あの有名なクランね」



 実力ある冒険者を多数抱え、数々の高難易度ダンジョンに挑戦している。

 メディアにも多く取り上げられるような、知名度の高いクランだ。



 ……確かここのクランマスターと副マスターだったっけ、冒険者(ウェア)チェーン店のCM出てたのって?

 

 西園寺が着ているのも、あそこのチェーン店の季節品って言ってた。




「……ふむふむ」

 

 

 再び、宙からスマホへ視線を落とす。

 関連記事ではこの件と結び付け、独自の考察を書いていた。

   



―― ―― ――   


『高ランククランでもヒーラー需要。冒険者業界の慢性的なヒーラー不足が顕著か』      


 ・

 ・ 

 ・

 

 ヒーラーの総募集数は、いわゆるアタッカーの総募集数の実に5倍を超えていた(※9月21日現在、冒険者支援アプリ【ダンサポ】にての筆者調べ)。


 また冒険者ギルド発表の統計資料によると、ギルドが把握しているヒーラー数はここ数年ほぼ伸びていないといえる。


 つまりアタッカーに比べて、ヒーラー需要に供給が全く間に合ってないのだ。 

 回復スキルはレアで、ヒーラーの発掘・育成が困難な事情もある。

 

 ダンジョン攻略最前線の冒険者たちを支えるためにも、ヒーラーの国家的な育成が急務といえよう。


 ・

 ・

 ・ 


―― ―― ――



「あ~こういうの、小テストに出そうだなぁ~」


 

“ダンジョン総合”の加藤先生は、時事的な問題を出す傾向にある。

 


『ダンジョン史は今なお発展を続ける、現在進行形の学問です。皆さん、最新情報はチェックし続けて下さいね』とは先生の口癖だ。


 だから、こういう隙間時間で最新の情報に触れることは案外大事になる。

 

 穴埋めだと……多分このワードが出るな。

“慢性的なヒーラー不足”っと。

 

   

「――おっ、“つばポーション事件”の続報か。……うわ。製造ラインの全商品を自主回収か」 



 ネットニュースで、他に気になる記事を見つける。


 SNSのアプリで投稿された一枚の画像。

 それが大炎上した事件だ。  


 内容は……もう事件名の通り。

 

 蓋の開いたポーションビンの飲み口部分に、作業着姿の男が舌を接近させた写真を投稿。

 そこに『出来立てほやほやのポーションでぇ~す。今頃、冒険者の誰かが俺の唾入りを飲んでくれてんのかな?』とつぶやいたのだ。

  

 

―― ―― ――


 写っていた作業着のえり、ポーション瓶の特徴などから、ポーション製造大手【ドラゴン製薬】の商品であるとすぐさま特定された。

 【ドラゴン製薬】は独自調査を行い、投稿した男がアルバイト従業員の男性(23歳)であると発表。

 投稿時間や、ポーション製造の工場稼働時間などから特定にいたったと思われる。

 

 本人は事実を認め

『冒険者として挫折して、工場働きしている自分を受け入れられなかった。むしゃくしゃしてやってしまい、今は酷く後悔している』

 と謝罪したという。

   

 本件について【ドラゴン製薬】は

『命を懸けてダンジョン攻略に挑まれる冒険者の皆さまの、ポーションに対する信頼を著しく損なう行為。ヒーラー不足が叫ばれる昨今、特に回復アイテムによる自己治癒セルフメディケーション推奨すいしょうされる中、許されざる行為だと認識しております。会社として断固・毅然とした対応をしていきたい』

と声明を出している。



―― ―― ――  


「リアル“むしゃくしゃしてやった”なのか……」



 でも後悔はしているらしい。

 やっぱりその時の激情に任せて行動したらダメなんだな、うん。

 颯翔はやと、また一つ賢くなった!



「――雨咲君、お待たせ!」


 

 ちょうど切りの良いところで、西園寺がやってきたのだった。



◆ ◆ ◆ ◆ 

 


―[調教ミッション]―


●デイリーミッション


 ダンジョン内で主人に10回、褒めてもらう   

 報酬:調教ポイント+100


   

 現在:0/10回

    


― ― ― ― ―


 

「――ところで。西園寺は今日も可愛いな! その冒険者着もオシャレで凄く似合ってる」  



 ダンジョンへの入場を済ませた直後。

 早速、ミッション達成へと動いた。



「は、はひっ!? あ、な、雨咲君!? い、いきなり何言ってるの!?」  



 西園寺は声を裏返し、大袈裟なくらいに驚く。

 顔を赤くしてあたふたする様子は非常に可愛らしく、学校では決して見られないレアな光景だった。  


   

“現在:1/10回”



 今ので1回計算なのか。

 俺的には2回褒めたつもりだったんだけど。



「いや、西園寺の可愛さは、いきなりやってきてない。普遍で不変の事実だな、うん」 


「本当に何言ってるのかわからないよ雨咲君!? ……そ、その可愛いとか、恥ずかしいから」



“現在:2/10回”


 回数はちゃんと増えていた。

 照れて耳まで真っ赤になる西園寺を見ていると、何度でも褒めてあげたくなる。

 

 だが“可愛い”の一点突破は流石に不自然だろうからと、話題を変えて攻めてみることに。  



「でも西園寺は本当凄いよ。今日のお弁当もマジで美味かった。改めてありがとう」



 西園寺が可愛いのも、弁当が美味しかったのも事実。

 嘘をつかなくていい分、とても気が楽だ。



「私、別に凄くないよ。こっちこそ、お礼のつもりだったから。お弁当、雨咲君の口に合ったならよかったけど……あはは」



 モジモジしてはにかむ西園寺、可愛すぎかよ。


  

「……えっと。もしかして今日は“雨咲君に褒めてもらう”、みたいなミッションなのかな?」 



 恥じらいが残った笑顔のまま、西園寺はズバリ内容を的中させてしまった。 

 


「あ~……バレた?」


 

 残念。

 出来れば、西園寺には気づかれずに完遂したかった。

 

 ちょっとあからさま過ぎたかね? 



「ふふっ。……うん。雨咲君がその、私に“美少女”とか“可愛い”って言う時、何か話を逸らしたそうな雰囲気あるから」



 俺への理解度高すぎない?

 何なら俺の両親より、俺のことわかってるまである。 

   

 

「そっか。西園寺は洞察力も鋭いな~。……でもこれは信じて欲しいんだが、嘘を言ったつもりはないぞ?」


「あぁ~うぅ~」

 

  

 何だ、この可愛い鳴き声は。

 


「……その、雨咲君が嘘をつく人だとは思ってないよ? でも、えっと、褒められると恥ずかしいから。何だか全身くすぐったく感じちゃう」



“全身くすぐった”い!?

“感じちゃう”!?



 ……西園寺さん、ちょっとセクハラはやめてもらえませんかね?

 後々何かあった時の証拠として、脳内ボイスレコーダーにきっちり録音させてもらいましたから!    


    

 むしろよほど恥ずかしいワードを口にしていたのだが、西園寺にその自覚はないらしい。

 本当に純真無垢というか、けがれを知らないというか……。  

   

  

「――でもミッションだもんね。雨咲君にばっかり負担かけてるというか、私だけ得するみたいなことになっちゃって申し訳ないな……」


 

 いえいえ。

 そんなことはないですよ。

 

 こちらも貴重な音声ボイスデータをいただいてますからねぇ~。

 お互いwin-winというか、むしろ俺が得してるまである。 

 だから気にしないで大丈夫っすよ~。

 


 その後。 

 西園寺は恥ずかしがりながらも、ミッション達成に協力してくれた。


 10回目を“西園寺は可愛い”で締めた時。

 真っ赤な頬に両手を当て、照れを隠そうとする西園寺はやはり可愛かった。


  

◆ ◆ ◆ ◆



[調教ツリー 従者:西園寺耀] 

  

 保有調教ポイント:300


 ・

 ・

 ・


 ●〈ジョブ〉―強撃

     

       ―マジックショット 〇

       |

        ―ジョブ 魔法使い

     

        ―ジョブ 神官

 

 


「ちゃんと調教ポイントも100入ってるな」



 ミッション達成後、西園寺の【調教ツリー】を確認。

 この100ポイントはジョブ以外の何かに使えばいいだろう。



「……それで。ジョブをどうするか、決まったのか?」



【調教ツリー】を解放する前の、最終確認だ。


 西園寺はそこで、迷うような仕草は見せず。

 しっかりと目を合わせ、頷いて返してきた。



「うん。――【神官】のジョブをお願いしても、いいかな?」         



 ほう。



「【魔法使い】も凄く魅力的だったけどね。小さい頃は、変身して戦うアニメの魔法少女? みたいな存在にも憧れあったし。あはは」


 

 西園寺は恥ずかし気に打ち明けているが、そこに未練のような気持ちは全く感じなかった。       



「……でも実際に自分が冒険者として生きていくのなら。誰かを回復して、助けてあげられる人になりたかったから」 



 そう口にする西園寺の表情はとても凛々《りり》しかった。


 ……あれほど可愛いと褒めてきた西園寺を、その直後にカッコいいと思うことになるとは。


 悔しいけど、感じちゃう!!      


  

「そっか、わかった。……じゃあ【神官】だな――」 

 


 西園寺の覚悟は伝わった。 

 そこへ“本当に良いんだな?”と重ねて聞くのは野暮やぼだろう。


 

【調教ツリー】のスキル画面で、【神官】を選択する。 

 そして調教ポイント200を消費し、〈ジョブ〉にある【神官】の取得を確定させた。



 ――そして能力の解放が始まる。



「あっ――」 

  

  

 西園寺の周囲に、魔力の鎖が次々と出現する。 

 鎖は瞬く間に西園寺の全身へ絡みついていった。


 まず両腕が、頭上で拘束される。 

 西園寺の左脚も、地面に縫い付けるように縛られた。


 最後の鎖は、右脚の膝にグルグルと巻き付く。

         

 

「ダメっ――」



 ――そしてピンと伸びた鎖に引っ張られるように、西園寺の右膝が宙にり上げられた。


“へ”の文字みたく持ち上げられてしまった右脚。

 その魅力的な太ももに引っかかるようにして、丈の短いスカートもめくれあがってしまう。


 

「んっ、やっ、雨咲君、あんまり、見ないで……」 


 

 西園寺の声からは余裕が無くなっていて。

 代わりに羞恥心を必死に押し隠そうとするような、とても強い色っぽさがあった。

 

  

 スカートも一緒に持ち上げられてしまったために。

 西園寺のけがれなさを表すような、純白の布が露わになってしまっているのだ。


              

「拘束、凄くて、んんっ、全然、動かせないよぉ……」 

 


 少しでも下着を隠そうとしてか。

 西園寺が弱々しい声とともに、右膝を内側へ動かそうと試みる。

 

 だが脚はビクともせず。 

 声にならないような、甘い息を吐き出すだけに終わってしまった。

  


 つい先ほど、強く印象に残るようなカッコいい西園寺を見たばかりなのに。

 こんなに異性を感じさせる西園寺を、直後に見ることになるとは……。

  

 

「あっ――」



 そんな桃色の雰囲気に、ようやく終止符が打たれる。


 白い南京錠が、西園寺の前に現れたのだ。


 そして魔法の白杖を模したような白い鍵が、穴へ差し込まれる。

 鍵が90度回ると、ガチャリという解錠音がした。


 

 その音と同時に。

 西園寺を束縛していた魔力鎖のすべてが、一瞬にしてバラバラに砕け散っていった。



[ステータス]

●基礎情報


 名前:西園寺さいおんじ耀ひかり

 年齢:17歳 

 性別:女性

 ジョブ:なし→神官Lv.1 New!

 支配関係:主人 雨咲あめざき颯翔はやと

  ―保有調教ポイント:100  


●能力値


 Lv.3 

 HP:11/11(8+3) 

 MP:7/7(4+3) 

 筋力:6(3+3)

 耐久:6(3+3) 

 魔力:5(2+3) 

 魔耐:7(4+3) 

 敏捷:7(4+3) 

 器用:9(6+3) 


※(+3)=【全能力値+3】

 


●スキル


【マジックショットLv.1】→【ホーリーショットLv.1】 New!



  

 そして。

 西園寺は念願のジョブを手に入れたのだった。

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