第7話 俺も強くなって、従者の負担を減らせればよくない?
西園寺に休憩タイムとして、少しの間待っていてもらうことに。
【従者果実】のスキルに触れると、新たな画面が目の前に展開された。
[従者果実 収穫画面]
保有調教ポイント:200
●西園寺耀 果実一覧
〈基礎 果実1〉【HP 経験点小】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
〈基礎 果実2〉【MP 経験点小】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
〈基礎 果実3〉【筋力 経験点小】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
〈基礎 果実4〉【魔力 経験点小】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
〈ジョブ 果実1〉【マジックショット 経験点小】 必要調教ポイント:100 収穫日数:1日
「え~っと――」
西園寺の【調教ツリー】を思い出し、すぐさま意識を眼前の画面へと戻す。
〈基礎〉や〈ジョブ〉、そして【従者果実】という文字そのものから。
このスキルは、西園寺の【調教ツリー】と連動しているのだと推測できた。
つまり〈基礎 果実1〉~〈基礎 果実4〉は西園寺の【調教ツリー】〈基礎〉、その最初にとった【全能力値+3】と。
〈ジョブ 果実1〉は西園寺の【調教ツリー】〈ジョブ〉で習得した【マジックショット】と対応関係にあるのだろう。
「……これは、俺が成長できるスキルってことでいいんだよな?」
“従者の成長”を“木”になぞらえた【調教ツリー】。
そしてその“木”の成長によって“果実”がなることを意味するんだったら、【従者果実】は俺へ恩恵があるスキルということになる。
「どうしたの? 大丈夫、雨咲君?」
俺の様子が気になったのか、西園寺が心配そうに聞いてくれた。
西園寺にも関係あることなので、伝えておくことにする。
【従者果実】というスキルを取得し、それが【調教ツリー】の成長と連動していると教えた。
「おぉ~! なら私が強くなればなるほどいいんだね。じゃんじゃん果実取っちゃってください、もってけ泥棒!」
西園寺は俺の成長をも祝福するかのように、ノリよく楽し気に言ってくれた。
西園寺的にも、【従者果実】はある意味メリットがあるから歓迎なのだろう。
西園寺が育てば育つほど、【従者果実】で俺も成長できる。
それはつまり俺が西園寺――従者を真剣に育てる動機が働くということだ。
育成契約の報酬面でも。
西園寺が稼げば稼ぐだけ、俺に入る額が増えるような内容になっている。
要するに西園寺側からすれば。
ちゃんと自分が育ててもらえると思える、客観的な要素・安心材料が増えるのだ。
「ああ。ありがたくそうさせてもらうぜ、おやっさん!」
西園寺に背を押してもらえたこともあり。
難しく考えず、“果実”を全部取得することにした。
「えっ!? 八百屋さんのモノマネしたのは私だけど。私“おやっさん”なんて初めて呼ばれたな……シクシク」
さっきのノリは八百屋さんだったらしい。
おじさん扱いされて下手な泣き真似を始めた西園寺はスルーして、っと……。
〈基礎 果実1〉をタッチする。
『“〈基礎 果実1〉【HP 経験点小】”を、調教ポイント25消費して、収穫可能にします。よろしいですか? はい/いいえ』
と表示された。
“はい”を選択。
すると“保有調教ポイント:175”になる。
それと同時に、画面上へ“木の枝”が一本、現れた。
アニメーション映像のようになっていて、その枝へじょうろから水が注がれる。
キラリと光輝く演出が出た後、枝に美味しそうな果実がなり“収穫OK!”との文字が出た。
他の残り4つも、次々に収穫可能な状態にした。
『おめでとうございます! 現在ある、すべての果実を収穫可能な状態――“全穫”状態にしました。全穫状態の間、得られる経験点が2倍になります』
おっ。
何か知らないが、結果的にはやっぱり全部取ることにしてよかったらしい。
[従者果実 収穫画面]
保有調教ポイント:0
●西園寺耀 果実一覧
〈基礎 果実1〉【HP 経験点小(×2)】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
→収穫OK!
〈基礎 果実2〉【MP 経験点小(×2)】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
→収穫OK!
〈基礎 果実3〉【筋力 経験点小(×2)】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
→収穫OK!
〈基礎 果実4〉【魔力 経験点小(×2)】 必要調教ポイント:25 収穫日数:1日
→収穫OK!
〈ジョブ 果実1〉【マジックショット 経験点小(×2)】 必要調教ポイント:100 収穫日数:1日
→収穫OK!
そして“収穫OK!”を再度タッチする。
『現在、収穫可能な果実が5つあります。すべて収穫しますか? はい/いいえ』
1つずつ収穫したい場合はどうすればいいのだろう。
そう不思議に思って“いいえ”を押すと、ちゃんと収穫したい果実だけを選択することができた。
もう一度最初に戻って、すべて収穫する選択肢の“はい”を押す。
――すると、早速変化が起こった。
◆ ◆ ◆ ◆
「えっ――」
――西園寺の胸元、全体ではなく特定の点2つが、仄かに光り出す。
トップス、そして防具の上からでも見て取れる淡い光は赤色に変化した。
それらはまるで左右均等に、1個ずつ赤い押しボタンが存在するかのように光っている。
「あっ――」
西園寺自身は体に異変がなく気づけなかったかのように、その光を遅れて認識していた。
そして声を上げたとほぼ同時くらいに。
左右にある赤い光の小ボタン部分から、赤い球体が生まれ出てくる。
まるでそこから赤いシャボン玉を膨らませたみたいに。
計5つの小さな球体が、西園寺の胸元から飛んできたのだ。
――これらすべてが、果実の収穫過程を表しているのか!
「うわっ――」
しかも5つの赤い光は、そうだと認識した頃にはもうすでに消え去っていた。
「――あっ、口……」
そしてどこに行ったんだと、その行方を探そうと思った時。
西園寺のそうつぶやく声を耳にした。
さらにその視線や、人差し指の先が。
自分の口元を見ているとわかった次の瞬間――
――うわっ、甘酸っぱ!? そしてやっぱり甘いっ!?
口内一杯に広がる、いちごのフルーティーな甘味と酸味を知覚した。
そしてその後から来た、懐かしさすら感じるまろやかな舌触り……これは牛乳!!
――つまり“いちごオ・レ”味!!
そして目の前に、また新たな画面が出現する。
“HP”・“MP”・“筋力”・“魔力”、そして“マジックショット”と名がついた空のゲージが5本描かれている。
それが果実の取得によって、一気にゲージバーを右に増加させた。
そしてゲージが一度カンストして、また最初の空に戻り。
1/5ほど赤色でゲージバーを埋めたくらいで止まった。
同時に、ステータス画面が更新されたことを確認する。
[ステータス]
●基礎情報
名前:雨咲颯翔
年齢:17歳
性別:男性
ジョブ:ヒロインテイマーLv.2
・
・
・
●能力値
Lv.2
HP:10/10→11/11 New!
MP:10/10→11/11 New!
筋力:5→6 New!
耐久:5
魔力:5→6 New!
魔耐:5
敏捷:5
器用:5
●スキル
【調教】
■調教スキル
【テイム】
【調教ツリー】
【従者果実】
【マジックショット】 New!
◆ ◆ ◆ ◆
ゲージが貯まったことで能力値がアップし。
また、スキルを習得したのだと理解した。
全穫の経験点2倍状態のおかげで、必要な経験点を1回で満たせたのだろう。
そして【従者果実】ってくらいの名前だから、果実の味がしたのはわかる。
……だが“牛乳味”、テメェはダメだ。
ってか牛乳フレーバーどっから出てきたし。
――いや西園寺の胸からだよね、そんなことわかってらぁ!!
でも胸+牛乳はもう“母乳”なのよ。
それ以外の答え出てこないんすよ、ええ!
西園寺の反応からして、実際に母乳でないのは確実である。
……いや“母乳でない”ってのは“母乳が出ない”ってことじゃなく、“母乳とは違う”ってことね。
西園寺は頑張れば母乳を出せるのかもしれないけど、これは母乳じゃないってことで――って何を言ってんだ俺は。
とにかく。
連想ゲームで、もうそれしか想像できない体にされてしまった。
【従者果実】で得られる西園寺の果実は、いちご母乳味――じゃなくて!!
いちごオ・レ味!!
俺母乳じゃなくて俺オ・レ!
……ヤバい、もう自分で何言ってるかわかんなくなってきた。
「…………」
恐る恐る西園寺の反応を窺う。
先ほど、ノリノリで八百屋のおやっさんを演じていた姿はどこにもなく。
羞恥心で顔から火が出るのではないかと心配になるくらい、正に熟したいちごのように真っ赤な顔をしていた。
赤い光が消え去った後の胸元を。
覆い隠すように、交差した両手を被せながら。
「あの、雨咲君……。できれば、今後収穫するとき、あんまり胸元は意識しないでくれると、その、助かります」
恥ずかしさを何とか必死に我慢したというような、とてもか細い声と。
若干目じりに涙も滲むような上目遣いとともに。
西園寺は弱々しく言ったのだった。
「……はい」
そう答えるしかないでしょうに。
……だがたとえ努力しようと、恥じらいで真っ赤になった西園寺の可愛さ・破壊力は凄まじかった。
あまりにも強く脳裏に刻み込まれてしまって、逆に思い出すきっかけになってしまったかもしれない。
すまん、西園寺……。
その後、何となく生じた気まずさと罪悪感から。
西園寺のレベル上げについて、俺が主体となってモンスターを倒していった。
西園寺に盾の役割を交代してもらい、俺が覚えたての【マジックショット】でゴブリンやコボルトを蹴散らす。
そこに、戦闘魔法・スキルを使えるようになった喜びや高揚感は一切ない。
自分が戦闘への関与を多くすることで、より多くの経験値を得たいみたいな思いも全くなかった。
ただ剣を振り下ろし、【マジックショット】を放つ。
百八の煩悩を振り払うべく鐘を打ち鳴らすかのように。
その度、心で『ごめんなさい!』『なんかすみませんでした!』『いちごぼ――いちごオ・レ!』と念じたのである。
……言い間違えてなんかないよ、本当だよ?
俺の純真清らかな謝罪の意が通じたのか。
1時間ほどして計8体目のモンスターを倒し時には、西園寺も元通りになっていた。
ちょうどそろそろ引き上げる時間となった時、西園寺のレベルは上がったのである。
「――あっ、やった! 雨咲君、レベル3になったよ! 調教ポイント、これで200貯まったね!」
西園寺は【調教ツリー】にて。
とうとうジョブを手に入れるための条件を整えたのだった。