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第6話 俺もレベル上がっちゃえばよくない?


 探索を再開して、またしばらく歩く。

 


「KOGYAAA!!」


 

 犬の頭をしたモンスター。

 コボルトが、接敵と同時に勢いよく駆けてきた。



「っと!!」 



 木盾を構え、迎撃の準備を整える。

 コボルトが持つなたが迫り、背筋がゾクリとした。  


 だがそこで怖気づいて、焦って、慌ててしまう。

 それが一番やったらダメなこと。

 冒険者資格を取得した際、講習でも教えてた。

 

 だから目を背けず。

 盾を握る手に、グッと力をこめる。

  


「うらっ――」



 ガツッ、と鈍い音。

 同時に強い衝撃が盾を襲い、手にまで伝わってきた。

  

 

「KUSYIA!? KOGI,GI――」

 


 鉈がちょうど盾に突き刺さり、抜けなくなったらしい。

 コボルトの焦り、そして鉈を抜こうとしてグイグイっと動かす振動を感じた。


 ほら~。

 だから、焦ったらダメなんだって。

 

 君も、初心者講習を受けた方がいいよ~コボルト君。

  


「西園寺っ!」


「――はいっ、雨咲君!!」


 

 名前を呼ぶだけで、意思が通じたような反応が即座に返ってくる。

 西園寺は横を素早く駆け抜け、気づいた時には片手剣を振り上げていた。



「やあぁっ!!」


 

 初めて聞くような、西園寺の力強い声。 

 その思いがこもったように、剣はブレることなくコボルトを切り裂いた。

 

    

「KOBO――」



 断末魔を上げる暇さえなく。

 コボルトは粒子となって消滅していった。  

 

 


「お疲れ様、雨咲君。……ふぅ~。よいしょっと――」



 西園寺は大きく息を吐き、慣れない手つきで剣を鞘に仕舞っていた。


 あ~。

 まあそうだよねぇ~。


 モンスターを倒せるようにはなっても、武器の扱いに熟達したってわけじゃない。

 そういう部分はこれから経験を積んで、体で覚えていくんだろう。

 

“グヘヘ、俺がこれからそのいやらしい体に仕込んでやるぜ~!”みたいにはいかない。  



「――あっ、やった! ねぇねぇ、雨咲君! 私、レベル上がってたよ!」



 そうやって一人アホな考え事をしていると、西園寺が嬉しそうに体を寄せてきた。

 まるで飼い主に褒めて欲しくて、尻尾をブンブン振っている子犬のように映る。


 何だこの可愛い生き物は。 

 クソッ、このままでは西園寺の可愛い沼に引きずり込まれそうだ!


 ――対陽キャ用ボッチスキル“見辛いフリして薄目になり、相手と視線を合わせないようにする”を発動!


 そのまま西園寺のステータスへと、上手いこと目線を移動させた。



[ステータス]

●基礎情報


 名前:西園寺さいおんじ耀ひかり

 年齢:17歳 

 性別:女性

 ジョブ:なし

 支配関係:主人 雨咲あめざき颯翔はやと

  ―保有調教ポイント:100 New! 


●能力値


 Lv.1→Lv.2 New!

 HP:9/6(+3)→10/7(+3) New!

 MP:5/3(+3)→6/4(+3) New!

 筋力:1(+3)→2(+3) New!

 耐久:1(+3)→2(+3) New!

 魔力:0(+3)→1(+3) New!

 魔耐:2(+3)→3(+3) New!

 敏捷:2(+3)→3(+3) New!

 器用:4(+3)→5(+3) New!


※(+3)=【全能力値+3】

       

   

「あ~本当だな。おめでとさん」


 

 確かに西園寺はレベルアップしていた。

 それに伴い、すべての能力値が1ずつ上昇している。


“1”と聞くと小さな変化に思えるかもしれない。

 だがそれも塵積ちりつもだ。


 最初の面談時に見た、ステータス紙の値とはもう大違いである。

 西園寺はちゃんと強くなっていた。


 

「あっ。ふふっ、酷~い雨咲君。今の凄く適当で、全然おめでとうって感じじゃなかった」 

 


 西園寺の、全然気にしてなさそうな言い方。

 むしろ、こうした気軽なやり取りを楽しんでいるかのような感じだった。


 あ~超可愛い。

  


「それはもう生きてるだけで超偉い、生きてておめでとうだから、おめでとうの供給過多によって需給のバランスが崩れて政府介入がおめでとうスパイラルに陥る――おっ! 西園寺、レベルアップで調教ポイントも100入ってるじゃん」



 陽キャで意識高い系の男子が言ってそうなことを、適当に口から並べた。

 西園寺の可愛さにあてられた奴って多分大体こんな感じ。



「ふふっ、ふふふっ。雨咲君、最後以外、何言ってるか、全然わからなかったよ」   

 


 何か知らんが西園寺がツボってた。

 息が苦しそうになるまで笑ってる西園寺も可愛すぎかよ。          

  


「ふぅ~。――私が人型のモンスターを切って倒したから。気に病んでないかって、笑わせようとしてくれたんだよね? 私は大丈夫だよ。ありがとう雨咲君」


 

 笑いの波が引いた後、西園寺は笑顔のまま改まったようにそう礼を言ってきた。


 ……あっれ~? 

 何か勝手に西園寺の好感度が上がってる。

 ぶっちゃけそこまで深く意図してなかったんですが。

  

 

「うぃ~」


 

 肯定も否定も難しかったので、また適当に返事しておく。

 


「ふふっ」



 西園寺はそれでも、嬉しそうにクスクス笑ってくれたのだった。



◆ ◆ ◆ ◆      



[調教ツリー 従者:西園寺耀] 

  

 保有調教ポイント:100



 ●〈基礎〉―全能力値+3 〇

      |

       ―HP・筋力・耐久+3

      

       ―MP・魔力・魔法耐久+3

       

       ―敏捷・器用+4



 ●〈ジョブ〉―強撃

     

       ―マジックショット 〇

       |

        ―ジョブ 魔法使い

     

        ―ジョブ 神官




「順調に【調教ツリー】伸びてるわ」



【調教ツリー】の図を、持参してある紙に書き写して西園寺に見せる。



「〈基礎〉から伸びた枝は、どれも1個100ポイント。つまり300ポイントあれば全部取ることもできるぞ」 

 


〈基礎〉は能力値関連だからか、調教ポイントさえ積めばどんどん強くなれることを意味していた。

 そこが、〈ジョブ〉の【強撃】と【マジックショット】が二者択一だったことと異なっている。



「あ、雨咲君! こ、これは、ということは、私は、ジョブを持つことができるということなんでしょうか!?」



 紙に書いた〈ジョブ〉、その中でも【魔法使い】と【神官】の項目を見て。

 西園寺は目をキラキラと輝かせ、グッと体を近づけてきた。

 

 ちょっ、近い近い良い匂い可愛い良い匂いぃぃ!?  

 至近距離で可愛いと良い匂いのドキドキ波状攻撃とは、西園寺め卑怯なり!!

    



「……調教ポイントが200必要だけどな」

   

 


 それでも、西園寺があと1レベル上げれば届く数字だ。



「1レベル上げれば調教ポイント100貰えたもんね。2体倒して1レベル上がったし……レベルアップに必要な経験値が増えるにしても、今日・明日くらいには何とかなりそう、かな?」



 ステータスのレベルアップは、ジョブの有無によって大きく恩恵が異なる。

  

【戦士】のジョブ持ちならレベルアップ時、HPや筋力の上昇に補正が入り。

【魔法使い】のジョブを持っていれば、MP・魔力が伸びやすくなる。

 

 なのでジョブ無しの西園寺は、ジョブ持ちの冒険者に比べてあまりレベルアップの旨味はないはずだった。


 だが【ヒロインテイマー】の【従者】という立場が影響し、レベルアップ時に調教ポイントが100入っている。

 おかげでジョブを持っていない現状であっても、西園寺はさらにレベルアップする動機がちゃんと働いてくれるのだ。


  

「どうする? 〈基礎〉の枝なら、今ある100ポイントでどれか解放できるけど。〈ジョブ〉のために貯めるか?」



 西園寺と意思疎通をしっかり取り、本人の意向をちゃんと確認する。

 


「うん、貯める!! 【魔法使い】にするか【神官】にするかはまだ決まってないけど……。やっぱりジョブが欲しいから」

 

「OK。ならそうしよう」 



◆ ◆ ◆ ◆ 

  


 方針も定まり、改めてレベル上げへと出発。

 その後、30分ほどで2体のゴブリンと会敵した。


 内1体は、コボルトの時みたく連携で西園寺が切り倒し。

 もう1体は、最初のように【マジックショット】で消し飛ばした。



[ステータス]

●基礎情報


 名前:西園寺さいおんじ耀ひかり

●能力値


 Lv.2

 HP:10/7(+3) 

 MP:5/4(+3)

  


 

 数字的に言えば【マジックショット】をあと5発は撃てることになる。

 だがMP切れは体調不良を起こしうるし、残り1でも辛いらしい。


 ダンジョンに入る前にも相談したのだが、やはり【マジックショット】の乱発は避けた方がいいだろう。



「よいしょっ――」

 

「あっ、レベル上がった」



 西園寺がゴブリンの魔石を拾い上げている最中。

 体の内側から、自分の確かな成長を実感する。


 西園寺に遅れて2匹目ながら、俺もレベルアップしたのだ。



「わぁっ! やったね、雨咲君!」



 自分のことのように喜んでくれる西園寺。

 ……しかし、ニコニコしながら右手を上げて振っているのはなぜ?        


「……新手あらてあおり?」



“雨咲君レベルアップおっそ~い。ざ~こざ~こ。私は先に行ってるから、バイバ~イ”……みたいな?



「煽り? ――ハイタッチだよハイタッチ。ほらっ」



 だが西園寺は気にすることなく。

 顔の横で、催促するように可愛く右手を揺らし続けた。

   

 

「何のハイタッチだよ。……ほれっ」



 誰かとハイタッチとか、やったことない。

 しかも女子、さらにあの西園寺となんて、かなり気恥ずかしい。

 叩くというよりもペタンと手を重ねるような、弱々しいものになってしまう。

 


「いえ~い。雨咲君と初ハイタッチしちゃった~」



 それでも西園寺は喜んでくれた。

 のんびり、ほのぼのとしたハイタッチが西園寺には合っているらしい。



 それはそれとして、こらこらと言いたくなる。


 美少女が異性と“初〇〇した”とか言わないの。

 それだけで思春期男子は妄想がはかどっちゃう生き物なんだから。 

 


「……うっわ。能力値全く上がってない」

  


 自分のステータスを見て絶望する。


 ジョブのない西園寺が、それでも1ずつ全能力値が上昇していたのに対し。

【ヒロインテイマー】のジョブ持ちである俺は、逆に全能力値+0の快挙達成である。

 


 ……あっ、でも調教ポイントが200入ってた。


 

 ジョブによって、レベルアップ時の恩恵に入る補正には様々なものがある。

【ヒロインテイマー】の場合は全能力値の上昇を生贄に捧げて、調教ポイントを召喚しているらしい。


   

【ヒロインテイマー】は“テイマー”という名の通り。

 他者を使役して戦うのが本筋だ。

 つまり従者を強くするために必要な【調教ポイント】が貯まってくれる方が、正しい成長の仕方ではあると言える。


 そう考えて、何とか納得することができた。

 

   

「じゃあ俺も何か調教スキルを取るか……――あっ」



 ――【ヒロインテイマー】のジョブレベルも上がってた。


 

[ステータス]

●基礎情報


 名前:雨咲あめざき颯翔はやと

 年齢:17歳 

 性別:男性

 ジョブ:ヒロインテイマーLv.1→Lv.2 New!

●支配関係

 従者:西園寺さいおんじ耀ひかり 


●スキル

【調教】

  ■調教スキル     

  【テイム】

  【調教ツリー】

  【従者果実】 New! 




 ステータスレベルと同時だったらしい。

 すぐには気づけなかったが、ステータスを見ると確かに【ヒロインテイマー】がLv.2になっていた。



「……何だこれ?」



 そして【従者果実】という謎の調教スキルが、新たに習得されていたのだった。



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