第46話 二人でバフかけちゃえばよくない?
「はぁ~また買い出しに来ることになるとは」
放課後。
Eランクダンジョン最寄りの100均にて。
少し長めの紐を、幾つか見繕っていく。
西園寺の【チャレンジミッション】が発生した。
東條も今日が5回目だから、【チャレンジミッション】があるはず。
過去の経験から、おそらく東條の【チャレンジミッション】も“拘束”が関係していると思われた。
西園寺の方は学校で確認済みなので、やはり縛る何かが必須になるのだ。
「赤と白……青もいるよね」
いちごとミルク……。
ブルーベリーにヨーグルト……。
……いや、他意はないよ?
「アイマスクもないし、もう一回買っとかないとか」
こんなことなら以前使った紐も、アイマスクも。
まとめて【従者箱】に入れておけばよかった。
でもどんなに軽い物でも、確実にコストが1かかるんだよな……。
どうせなら飲食料にコストを割きたいと考えてしまうのは仕方ないことだろう。
今は容量の上限が100しかないのだ。
……あっ、でもそうか。
今回の東條の【チャレンジミッション】で【調教ツリー】の〈調教〉、ひいては【調教Lv.】をゲットできれば。
【従者箱】の容量上限が増えるかもしれない。
【従者箱】の容量は、従者の【調教Lv.】の総和のはずだからだ。
……よしっ!
今日はなんとしても、二人のミッションを達成させてあげよう!!
「――あっ。いちごミルク飴だ。ブルーベリーのど飴もある。ヨーグルトミックスか……買ってこ」
他意はないよ、他意は。
「こんにちは、雨咲君」
「うっす」
買い物を済ませ、集合場所へとやってきた。
東條がすでに待っていて、笑顔で品良く手を振ってくれる。
……相変わらず微笑が似合う美人だな。
「……で、どうかしら?」
東條は、すぐに主語なく何かを問うてくる。
だが質問の意図はすぐに察した。
東條の左上。
【調教ミッション】画面を確認する。
―[調教ミッション]―
●5回目チャレンジミッション!!
下記の2つから1つ選び、成功する
①手を拘束された状態で、モンスターを1体倒す
②目隠しされた状態で、モンスターを1体倒す
報酬:【調教ツリー】〈調教〉の枝を追加
― ― ― ― ―
「ああ、あるよ。それも、先週に西園寺がやった【チャレンジミッション】と完全に同内容だ」
「そう……」
東條は驚くことなく、ただ事実を受け入れるように淡々としていた。
事前にちゃんと話しておいたことで、やはり心の準備ができていたんだろう。
あるいは元々、東條があまり物事に動じないクールな性格というのもあるかもしれない。
どちらにせよ、頼もしい限りだ。
しばらく、昨日の話などをして時間を潰すことに。
義務的な会話だという風ではなくて心地よく、いくらでも話していられるように感じた。
東條も良く笑って、俺との話を楽しんでくれているのだと十分伝わってきた。
はっ?
東條可愛すぎんだろ。
……昨日の3Pの続き、やっぱりする?
「二人とも、お待たせ!」
しばらくして、西園寺がやってきたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
【ダンジョングローブ】を使って、拠点化している【隠し部屋】へとやってきた。
早速【チャレンジミッション】に関する作戦会議を始める。
「ミッションの難易度からして、まずは東條の【チャレンジミッション】を終わらせたいと思ってるんだが」
「西園寺さんがそれでよければ、私は問題ないわ」
東條に話を振られ、西園寺は殆ど迷わず頷き返す。
「東條さんのは、先週私がやったのと同じなんだよね? なら私もそれでいいと思う」
西園寺の賛同も得られ、順番が決定した。
「東條は……どうするか決めたか? えっと①と②、どっちを選ぶかっていうの」
「“①手の拘束”と“②目隠し”のどちらか、よね? 西園寺さんの時は①だったのよね?」
「うん。“②”の目隠しだと、【ホーリーショット】っていうか、魔法の狙いが定まらないから」
西園寺の経験を聞いて参考にしたいのだろう。
ただ西園寺の場合は、“遠距離魔法”というスキルがあったからこその選択だ。
東條はバリバリの近接アタッカーなので、本当に参考程度にしかならないかもしれない。
「私もどちらかと言えば“①”にしたいの。ただ、私の武器って両手剣でしょ? 手を縛られた状態だと、どうしても難しそうで……」
東條は自分の懸念を視覚的に伝えようとして、一度立ち上がる。
両手の手首をくっつけて、手を拘束された真似をした。
そうしてから両手剣を握ってみる。
「こう、いう感じ、になるの」
剣の柄をまず右手でつかみ、その上から何とか左手を重ねるようにした。
一応見た目的には両手で握っていることにはなる。
……だが試しに振ってみると、明らかに剣に振り回されている状態になっていた。
左手の力があまり乗っておらず、重たい剣の重心を上手く扱いきれていない。
「今の筋力値じゃ少し厳しいってことかしらね……やっぱり②にすべきかしら?」
不承不承という感じだった。
あまり乗り気じゃなく、本人の言う通りできれば①にしたそう。
「……一時的にせよ、今よりも筋力値を上げられればいいんだよな?」
その解決策を、すでに俺たちは持っている気がした。
西園寺、そして自分のスキルを今一度確かめる。
「……あっ!」
そしてハッとするように西園寺が声を上げる。
俺も1日1度しか使えないものの、それを可能にする術を持っていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「えっと。その、じゃあ、お願い」
東條が。
両手首をくっつけるようにして、前に差し出してきた。
自分から“拘束して欲しい”と申し出ている状況に、酷く羞恥心を覚えているらしい。
普段はクールな顔が赤くなっていて。
手を縛られる光景から意識を逸らしたいかのように、目はあらぬ方を向いている。
凛々しく、高嶺の花みたいに美人な東條が。
自ら、縛られることを求めている。
異性の前で無抵抗な姿にして欲しいと、お願いしている。
それはたとえミッションのためであったとしても。
とても背徳的な光景に映ったのだった。
「……おう」
だがそれは何とか脇に置いておき。
【従者箱】に収納していた紐を取り出して、東條へと巻き付けていく。
無心だ、無心……。
東條の黒いグローブに包まれた手首を。
青い紐で、グルグルと縛り上げていった。
最後にキュッと結ぶと、東條は感触を確かめるように手を動かす。
「んっ、んんっ、んっ――大丈夫。ちゃんと縛られているわね」
“縛られている”と口にした時。
東條の声が、若干だが上ずっていた。
実際に拘束されてしまっていることを意識して、羞恥を覚えてしまっている。
それが声へ、無意識に出てしまったというように。
……やはり実際に縛られている東條の姿は変わらず美しく、むしろとても官能的で。
異性の欲情を強くかきたてる光景のように映った。
―[調教ミッション]―
●5回目チャレンジミッション!!
下記の2つから1つ選び、成功する
①手を拘束された状態で、モンスターを1体倒す→挑戦中!
②目隠しされた状態で、モンスターを1体倒す
報酬:【調教ツリー】〈調教〉の枝を追加
― ― ― ― ―
「――さっ、行くか」
ミッションにも、東條の拘束状態がきちんと反映されている。
それを確認し、移動を始めた。
昨日と同じ2階層を進む。
未だ探索が済んでいない3階層は避けた。
「ごめんなさいね、雨咲君。武器を持ってもらって」
「いいさ。東條はこの後のことだけに集中してくれ」
東條の両手剣は俺が運び、今は歩くだけでいい状態になっていてもらう。
少しでも負担を減らせればという配慮だ。
「――いたぞっ!」
ミニゴーレムの姿を認識する。
未だ相手はこちらに気づいてない。
すぐに、両手剣を東條の前に突き刺した。
「よしっ……西園寺」
「うん! ――【ホーリーパワー】!!」
そして西園寺が。
【調教ツリー】で解放したてのスキルを発動した。
東條の身体を、温かな光が覆っていく。
光はやがてオーラみたいに。
東條の全身に纏われるようにして、ユラユラと漂っていた。
「……うん、ちゃんと強化されたみたい」
両手を拘束された状態で、グーパーを繰り返した。
そして目の前の両手剣を引き抜く。
左手はグーのまま、右手だけで握って振ってみた。
「大丈夫そうね」
身体を覆う光の活力が後押しする様に。
東條は利き手だけでも、何とか両手剣を扱えていた。
これだけでも、戦闘はできそうである。
しかし――
「……雨咲君。その、【愛撫】も、お願い」
東條はさらなるスキルの重ね掛けを求めてきた。
しかもはぐらかさず、ちゃんと“【愛撫】”と言葉にして、である。
まるで今、手を拘束され、異性に弱い姿をさらけ出している状態が。
無意識に言葉の表現へと影響したかのようであった。
あの東條が、異性へいやらしいおねだりをしているかのようで。
とても強く異性の本能を刺激してきた。
「ああ――」
だがそれをグッと抑え込み【愛撫】のスキルを発動した。
東條の腰にできた、黄色いマークへと触れる。
「んぁっ――」
東條から思わずと言った風に、気持ち良さそうな悦びの声が漏れる。
黄色い手跡のマークがスライドした。
それを追いかけるように、東條の腰を優しくさわさわと撫でた。
「んんっ、あんっ、あっ、あぁんっ!」
触れる度に、東條が反応するように甘い声で鳴く。
東條もそれを自覚して、顔を真っ赤にしながらも何とか声を押し殺そうとする。
だが手が拘束されているために、口を塞ぐことが封じられていた。
「…………」
その光景から、西園寺も目を離せずにいた。
若干気まずそうにしながらも。
東條の気持ち良さそうな声に引き寄せられるように、視線が釘付けになっている。
美人な東條の乱れる姿はやはりとても魅力的で。
同性の西園寺をも魅了する光景となっていたようだ。
「――よし、100秒スタートしたぞ!」
【愛撫】によるバフがかかったことを伝える。
東條の全身には【ホーリーパワー】による光のオーラだけでなく。
その上からさらに重ねるようにして、別のエネルギー体がまとわれていた。
「ええっ!!――」
先ほど甘く切ない声を上げていたとは思えないほど。
東條は凛々しい声で応じた。
すぐに駆け出し、一気にミニゴーレムとの距離を詰める。
「せぁっ!!」
間合いに入った東條は、片手で軽々と両手剣を振るって見せる。
縛られている左手も釣られて動いているが、やはり柄を握っているのは右手だけだ。
【ホーリーパワー】の光が、剣にも乗り移ったかのように見える。
光のエネルギーをまとった刀身は、易々とミニゴーレムの硬い身体を破壊してしまった。
「やっ、せぃっ、やぁっ!!」
「H)P"H'#E(D――」
連撃するのも、全く支障がないようだった。
【愛撫】のバフ効果も相まって、動きも普段より滑らかになっている。
東條の両手剣が、岩石の身体に触れる度。
柔らかなスポンジケーキでも切り分けているみたいに、ミニゴーレムはその体積を減らしていく。
そして1分とせず、赤い核が露出した。
「せやぁぁぁ!!」
今までと変わりない、破壊力ある一撃で。
東條は、ミニゴーレムの核を叩き切った。
二重の能力強化を得ていたとはいえ。
東條は一人で、Eランクダンジョンのモンスターを倒したのだった。




