第45話 特別なミッションに備えちゃえばよくない?
「いただきます」
「ええ。どうぞ召し上がれ」
大皿に乗った鶏肉へ箸を伸ばす。
湯気が漂っており、香ばしい匂いが食欲をそそった。
マヨネーズを使った照り焼き風で、甘辛く仕上げてある。
ふんわりとした噛み応えをしていて、胸肉特有のパサパサ感が一切なかった。
「……うん。美味しい」
それをおかずに、お茶碗の白飯を口に運ぶ。
冗談抜きで普通に3杯行けそうだ。
「そう。口に合ったようで良かったわ」
東條は余程気になっていたらしい。
感想を聞くと、ホッと胸を撫で下ろしてた。
「じゃ、私たちも食べよっか!」
「ええ」
二人も料理に手を付け始める。
俺に負けないくらいに箸が進んでいた。
「おっ、無限ピーマンか」
細切りにしたピーマンに、ツナや塩昆布を和えている。
彩りや歯応えも良く、モリモリと食べられた。
「ずずっ……ふあぁ。美味しい!」
「……うん。お味噌汁も凄く上手にできてるわ」
二人が同時にお椀を置く。
反応からすると、一番の自信作らしい。
西園寺と東條から、ソワソワとした期待の視線を感じる。
左手で器をつかみ、ゆっくりと汁を啜った。
「ずずっ……あぁぁ~」
沁みるぅ~。
出汁の味が効いていて、非常に美味しかった。
しめじもパクリと挟みつつ、温かい味噌汁を堪能する。
「あ~よかった。雨咲君、気に入ってくれたみたい」
「ええ。お味噌汁は、一番頑張ったものね」
二人は俺の反応が余程嬉しかったようだ。
味噌汁にそこまで気合いを入れてたのか……。
――はっ!
そこでふと、二人が込めた“味噌汁”へのメッセージに気づく。
これは高度な暗号、現代版の恋文である!!
①“味噌汁”、つまり“みそしる”。
この“み”は俺たち3人を表すから“3そしる”と変換するのが正しい。
②そして味噌汁はミソスープともいうから“3sosoup”になる。
③ここで“3”と“p”を除いた“sosou”に注目。
これは“ソスー”、すなわち“素数”なのだ!
1と自ら以外で割り切れない、悲しい数字。
つまり“sosou”を“sosou”自身で割って1にする。
そして1は掛けても変わらない係数なので省略。
……すると、隠されたメッセージが浮かび上がるのだ。
――つまり“3P”!!
「あはは」
「うふふ」
えっ、東條!? 西園寺!?
楽し気に笑い合っている二人。
だがその笑みが、別の意味に見えてしょうがない。
二人とも、そんなエッチなことを考えてたのか!?
3人で一体何をプレイしようというんだね!?
つまり俺は食後のデザートとして、二人に美味しくいただかれちゃうってことかい!?
『雨咲君、が~んばれ! が~んばれ!』
『雨咲君は、天井のシミを数えてるだけでいいのよ?』
うぅぅ~。
そんな、俺、頑張れるかな……?
「栄養価も考えられてるし、東條さんお料理上手だよ! ねっ、雨咲君?」
「えっ? あぁ、凄く美味しくいただかれてるよ」
「ふふっ。“美味しくいただかれてる”って何よ。それを言うなら“美味しくいただいてる”でしょう?」
東條と西園寺に、クスクスと笑われてしまう。
やっべぇ。
頭の中で絶賛開催中の3人パーティー、略して3Pがそのまま言葉に反映されちまってたぜ。
だが深く追及されることはなかった。
東條が曖昧な笑みを浮かべて話す。
「……料理というか、食事に関する知識の授業も結構やるのよ。“4組”ではね」
「へぇ~」
東條自身が“冒険者科高校”の“4組”ということについて、落ちこぼれだと表現していた。
他の優秀なクラスと違って、“冒険者”として期待されていないクラスだと。
そのため授業内容も変わってくるらしい。
“冒険者としてのスキル”を学ぶというよりも。
“冒険者をサポートする技術や知識”を学習する機会が相対的に多いらしい。
「……それが、今正に役立ってる。東條、助かってるよ」
「うん! 私も東條さんと一緒にお料理できて楽しかった! またすぐ一緒にしようね!」
「雨咲君、西園寺さん……。――ありがとう、二人とも。そう言ってもらえるだけで、何だか今までの頑張りが全部報われた気がしたわ」
東條は感極まったかのように、人差し指で目じりを拭う。
だが涙はすぐに引っ込み、笑顔でそっと立ち上がった。
「ふふっ。せっかくのお礼の席なんだから、湿っぽいのは無しよね。――デザートを食べましょう。いちごを用意してあるの」
えっ、デザートは西園寺の胸!?
全裸になった西園寺が、突如としてイメージ内に出現する。
仰向けに寝転がった西園寺は羞恥心で真っ赤になりながらも。
胸や股間の大事な部分だけは、生クリームで何とか隠していた。
『……雨咲君。デザートは、わ・た・し。私を、美味しく食べて?』
――デザートは俺じゃなく、西園寺の方だったのか!!
「 ? 」
「さっ、どうぞ」
だが東條が、器に盛られたいちごを持ってきたことで正気に戻る。
……そりゃそうだよね。
普通にフルーツのいちごだよね、うん。
わかってたわかってた。
そうして甘酸っぱい果実を味わいながら。
楽しい時間が終わりへ向かう余韻も味わったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
翌日。
あまり盛り上がりはない木曜日になった。
昨日の夜がどれだけ楽しかろうと、次の朝はお構いなしにやってきてしまう。
辛い……。
学校へと到着すると、いつものごとく同じ様な光景が繰り返されている。
昨夜の出来事は夢か幻だったんじゃないか。
俺は、自分に都合のいい妄想をしていただけなんじゃないか。
席について、そう思い始めた時である。
スマホに、メッセージが来ていた。
『雨咲君、昨日は本当にありがとう。3人で過ごせて、とても楽しい夜だったわ。また3人で、あんな素敵な夜を一緒にしたいわね。今日もよろしく』
東條からである。
……とりあえず保存した。
やはり、俺の記憶間違いではなかったらしい。
昨日、実際に俺は女子の部屋へと足を踏み入れたのだ。
そしてその美人の手料理を、俺は食したのである。
間違いじゃ……なかったんだ!
「なるほど……」
――今度も3人でパーティー、略して3Pをしたいと。了解!!
心の中で東條にビシッと敬礼したのだった。
今日は一日、頑張れそうである。
「おはよう~」
西園寺が登校してきた。
すぐさまクラスメイト達に囲まれていく。
……流石は人気者だな~。
「昨日はありがとね、耀! 買い物に付き合ってくれて」
「ううん、私も楽しかったから。また誘ってね!」
仲の良い女子たちと交流し、一度断りを入れて席を離れた。
西園寺が近くを通っていく。
「……ふふっ」
その無言ながらも、“分かる人にだけは分かる”みたいな意味深な笑みは何?
『昨日の夜、凄く楽しかったね!』が、言わなくてもあの笑顔だけで伝わってくる。
可愛すぎるからやめなさい!
「…………」
それはそうと。
―[調教ミッション]―
●7回目チャレンジミッション!!
下記の3つから2つ選び、同時に成功する
①自身が手を拘束された状態で、他の従者がモンスターを倒す
②自身が目隠しされた状態で、他の従者がモンスターを倒す
③自身が足を拘束された状態で、他の従者がモンスターを倒す
報酬:【調教ツリー】〈絆〉の枝を追加
― ― ― ― ―
また【チャレンジミッション】が見えたぞ……。
東條の“5回目チャレンジミッション”を今日することは覚悟していたが。
まさか西園寺も今日【チャレンジミッション】が来るとは……。
前回の【チャレンジミッション】は正に先週の木曜日だった。
つまりその次の日、金曜日の【調教ミッション】を合わせて7回目ということになる。
……【チャレンジミッション】に成功すると、成功回数がリセット+天井が上昇していくのかな?
『以前話してた【チャレンジミッション】。おそらく東條の奴は今日あるだろうけど、西園寺の【チャレンジミッション】がまた見えた。ひとまず、それだけ伝えとく』
急ぎで二人に同内容のメッセージを送信しておく。
心の準備だけでもしておいてもらえたらという趣旨だ。
今日に備えて、昨日に休息時間を設けたり。
俺が意図したわけではないものの、晩御飯会で英気を養ったりもした。
西園寺の【チャレンジミッション】は想定外だったが、問題ない。
二人の【チャレンジミッション】達成に向け、気持ちを切り替えていくのだった。




