第44話 お邪魔しちゃえばよくない?
二人が【調教ツリー】を解放したついでに。
本日の【従者果実】収穫もお願いした。
西園寺も東條も、未だ先ほどの恥ずかしさから復帰できていない。
だがそれがむしろ、いくらか羞恥心のハードルを下げてくれていたようだ。
「……うん。雨咲君のタイミングで、やっていいよ」
「……ええ、私のも好きにしてちょうだい。さっきの、あんな破廉恥な姿に比べたら、いくらかマシだもの」
“恥ずかしい”という感覚が、ちょっとだけ麻痺しているような感じなのかもしれない。
だがどうであれ。
二人のそれぞれ魅力的なお胸から、果実を収穫するお許しが出た!
ありがたく“いちごオ・レ”と、“飲むブルーベリーヨーグルト”をいただくことに。
[ステータス]
●基礎情報
名前:雨咲颯翔
・
・
・
●能力値
Lv.5
HP:24/24(基礎19+ス5)→25/25(基礎20+ス5)
MP:15/15→16/16
筋力:15(基礎10+ス5)→16(基礎11+ス5)
耐久:7
魔力:9→10
魔耐:5
敏捷:8→9
器用:5
※+5:【戦士】補正
●スキル
【調教】
■調教スキル:7
【マジックショットLv.1】→【マジックショットLv.2】
【セカンドジョブ】
【強撃Lv.1】
― ― ― ―
HP・MP・筋力・魔力・敏捷の値が、またそれぞれ上昇した。
西園寺と東條それぞれに、HP・MP・筋力・魔力の果実がある。
そのため、収穫する度にどんどん成長してくれるのだ。
だが逆に“耐久”や“魔耐”、“器用”の能力値が伸びない。
果実もなく【戦士】のジョブによるレベルアップの恩恵もないため、中々成長し辛いのだ。
今後二人の新しい果実に出てきたら、優先的にその経験点を収穫可能にしよう。
「【マジックショット】もレベル2になったな……」
ようやく【マジックショット 経験点小】でスキルレベルが上昇した。
1上げるだけでかなり日数を要している。
次は【マジックショットLv.3】だろうが、さらにもっと経験点と時間が必要になるんだろう。
「あ、私も【神官Lv.2】になって、【ホーリーショット】と【ヒール】のスキルレベルが2になってたよ!」
西園寺が、若干胸を気にしながらも教えてくれた。
ようやく羞恥心ダメージが、少しずつだが引いてきたらしい。
俺の【マジックショット】も、西園寺の【ホーリーショット】も。
パーティーの大事な遠距離火力だ。
強くなってくれる分には大歓迎である。
「――よし。一応ダンジョン内でやることは終わったけど。どうする? もう出るか?」
二人に尋ねると、すぐには返事が無かった。
視線すら合わせてくれない。
「えっと……」
「その、ねぇ……」
だが西園寺も東條も。
何かを期待するように、チラチラとこちらを見ていた。
歯切れ悪い言葉だったため、彼女たちからは言い出し辛い内容だと察する。
……あっ。
「……集中して探索しただけじゃなくて、【調教ツリー】の解放も大変そうだったしな。――今日も【ヒロインヒール】で、疲労回復しようか」
そう切り出すと、二人はパッと花が咲いたような笑顔になる。
当たりだったようだ。
「うん! あれ、本当に気持ち良くて、疲れも凄くとれるから!」
「ええ。私も雨咲君にしてもらってから明らかに次の日、気持ち良く目覚められるの」
そんなに好評なのか。
やってる方としても嬉しい限りだ。
今日を完全な休養日にあてていたらしい小森さんたちや、クラスの一軍女子たち。
そうした例からもわかるように、俺たちは結構なハイペースでダンジョン探索をしているらしい。
にもかかわらず。
西園寺や東條は翌日も、疲労の色を一切残さず頑張れている。
それにはやはり【ヒロインヒール】の疲労を回復する効果が、一役も二役も買ってくれているのだろう。
「そっか、じゃあやるか!」
西園寺と東條は、無料で極上マッサージみたいな癒しを受けられる。
俺も俺で二人の、施術中のエッチな反応を間近で観賞させてもらえる。
お互いがwin-winになれて、素晴らしいことこの上なし。
再び石畳へ横になった西園寺と東條を相手に。
【ヒロインヒール】で、今日一日頑張った疲れを取り除いていったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
【ヒロインヒール】による疲労回復で、俺もある意味元気にさせてもらった後。
今度こそダンジョンを出て、ギルド会館へ行く。
換金を済ませて、後はもう各自が家に帰るだけとなった。
早めに戻ってきたため、未だ日も落ち切っていない。
たまにはこういう早上がりの日があってもいいな~。
「今日もまた、ダンジョンでの頑張りがお金になってくれて嬉しいね!」
帰り道。
先頭を歩く西園寺は足取りも軽やかで、本日の成果にご満悦の様子だ。
ダンジョンプラントの魔石が1個3000円を超えていたので、換金総額としては1万円の大台を突破していた。
俺への2割を除いてそれぞれ約4000円なのだが、それでもやはり嬉しいものは嬉しいらしい。
この先もっと成長して強くなり、これ以上の額を稼げるようになる時が来ても。
西園寺は変わらず喜ぶ、純真な心をした女の子のままだろうと断言できた。
飛び切り可愛いのは言うまでもないが。
そういう清楚で穢れない部分が、西園寺の好かれる理由なんだろう。
「…………」
【従者箱】にある新品も。
【調教ツリー】でM字に開脚拘束されて見えちゃった装備品も。
どっちも西園寺らしさを表すように、ちゃんと純白だったしね。
……そっか、あれ今もはいてるんだよな。
ゴクリ。
「――その、雨咲君。ちょっといいかしら?」
うわっ、ビックリした。
……だが東條、ナイスである。
呼びかけられてなかったら、多分今頃は西園寺のミニスカートをガン見してたわ。
“俺、実は透視能力あるんだ。むむっ、白が見える!!”とか脳内で一人言ってたはず。
「……おう、どしたし?」
もちろん動揺は顔に出さず、平静を装って聞き返す。
「えっと、あの、そのね?」
東條は、どう話すか迷うように言い淀んでいた。
【ヒロインヒール】の時とはまた違った、言い出し辛さがある内容らしい。
だが流石に今回は何もピンとこなかった。
「東條さん、頑張れ! ファイト!」
そこで西園寺が、助け船を出すように東條を応援する。
西園寺は、東條が何を話したいか分かっているらしい。
「……ええ。――雨咲君、あの、ね?」
それに背を押されたように。
東條は緊張したような表情でこちらを見てくる。
美人な東條に真っすぐ見つめられ、こちらまで変な気分になってしまう。
生唾を飲み込むと、それがまるで合図になったかのように、東條が口を開いた。
「――これから西園寺さんと一緒に、家へ晩御飯を食べに来ない?」
◆ ◆ ◆ ◆
20分ほど歩いて、閑静な住宅街へとやってきた。
大通りから入った細道を進み、十字路を抜けてさらに5分ほど進む。
「ここよ」
3階建てのマンションを指さし、東條が先導する。
オートロックを解錠し、そのまま通路を進んだ。
一番奥の角部屋前で、東條が立ち止まる。
鍵穴に鍵を差し込むと、カチャッと開いた音がした。
「さっ、二人とも。遠慮せずに入って」
扉を開けた東條はブーツを脱いで、先に部屋の明かりをつけに行った。
「それじゃ、お邪魔しま~す」
西園寺も手慣れたようにブーツを脱ぐ。
東條の物の横にそれを綺麗に並べ置き、中へと進んでいく。
「……お邪魔します」
最後になってしまった。
賃貸とはいえ、女子の家に来るのなんてもちろん初めてである。
作法というか、所作的なことがわからずオロオロしてしまう。
……ヤバい。
陰キャ・ボッチ・童貞感丸出しである。
とにかくここにずっといるわけにもいかない。
そうしてモタモタしながらも、やっとのことで玄関に上がる。
「鍵はどうする? 閉めるか?」
「お願い!」
やや大きめな東條の声が返ってきた。
言われた通り、鍵をかけて中へと進む。
リビングダイニングに入ると、東條はエプロン姿になっていた。
「――いらっしゃい、雨咲君。大きい部屋ではないけど、その、ゆっくりしていって」
「……おう」
長く綺麗な黒髪をゴムで一つに束ね、ポニーテールにしている。
冒険者の時には見たことが無い髪型。
家庭的で、とても綺麗な若妻っぽい印象を受けた。
東條の部屋でないと決して見られない、超レアな東條感がある。
そして東條は『男の人を部屋に呼ぶなんて、もちろん初めてよ……』と、照れながらも教えてくれた。
……つまり、この東條を見たことがある男は、おそらく俺だけということになる。
ふむ……悪くない。
「ささっ、雨咲君は座って座って! 今日は雨咲君へのお礼の晩御飯なんだから! ――あっ、荷物はこっちね!」
西園寺も、ピンクの可愛らしいエプロンを身に着けていた。
俺が荷物を置いたのを見届けると、すぐに東條の元へとヘルプに向かう。
単身者用にしては余裕のあるキッチンスペースに、二人並んで料理している。
「えっと。東條さんは、時間のかかる方を先に焼いちゃおっか。私は味噌汁を温めるね」
「わかったわ。――あっ、西園寺さん。予備のIHはそっちに出しておいたから」
まるで仲の良い親友が遊びに来て、不自由さを楽しみながらもご飯の準備をしているみたいだった。
……そしてそんな光景をぼんやりと。
離れた場所から座って眺めております。
二人のお尻がフリフリと揺れているのが、嫌でもここから見えてしまう。
まあそういう意味では特等席ですけどもね。
「…………」
要は、先週に西園寺がお弁当を作ってくれたように。
この席は、東條なりに感謝を伝えるお礼の場らしい。
そして西園寺は、既にそのことを聞かされていたようだ。
昨日と今日の放課後、実はちょっとだけ準備を手伝っていたと白状している。
……別にそこまで気を回さなくてもいいんだけどね。
「雨咲君、もう少しでできるから」
「うぃ~」
東條に気安く返し、お言葉に甘えてボーっとする。
あ~。
エプロン姿可愛いぃ~。
二人が後ろを向いた時、エプロンで隠されていた太ももがチラッと見える。
これもまた趣深い。
これだけで白飯3杯は余裕で行けるわ。
……ってかもうこれ、実質3人で同棲ってことでいいよね?
いや、流石にそれは早まりすぎか。
だがそうでもなくても。
東條が毎日寝起きしている部屋だと考えると、嫌でも意識してしまう。
掃除が行き届いた室内は綺麗で、日々の生活をきちんと送っていることが窺えた。
室内のコーディネートは実用性重視らしい。
だが流行りの可愛いキャラクターぬいぐるみがあったりと、女の子らしさもちゃんと感じられる。
「あ~良い匂いするな」
「え? フフッ、そうかしら」
「雨咲君、もうご飯できるからね~」
……そして漂ってくる料理の香りに混じって。
ずっと部屋中に、東條の良い匂いがするのだ。
飽和セツナイオンである。
化学に出てきそう。
また東條の優雅な良い香りに混じって、西園寺の甘く優しい匂いも微かだが感じる。
こんなの嗅がされ続けたら、頭おかしくなりゅぅぅ~!!
……とりあえず俺はまだ正気だ。
【従者箱】から空のペットボトルを出すのもちゃんと思いとどまってる。
この部屋の空気を一杯に詰め込んで持って帰る、なんて。
そんなこと全く、これっぽっちも思いついてないし、念頭にすらなかったくらいだ。
……ほ、本当だよ?
震え声じゃないよ?
「――さっ、できたわ」
そうやって一人、煩悩と死闘を繰り広げていると。
東條と西園寺が、次々と器を運んできた。
テーブルに、美味しそうな出来立ての料理が並んでいく。
「――雨咲君。それに、西園寺さんも」
すべてが運び終え、二人もテーブルにつく。
東條が改まった様子で。
しかし、笑顔を浮かべながら口にした。
「私を育成してくれて。一緒にダンジョン探索してくれて。本当にありがとう。……二人には沢山迷惑をかけると思うけど。これからも、よろしくお願いします」
言い終わり。
どこか気恥ずかしそうな、はにかむような表情。
だがそれでも。
東條が。
精一杯に、感謝の気持ちを言葉にしようとしてくれたのは、ちゃんと伝わった。
西園寺と目が合って、力強く頷き合う。
「うん!」
「ああ」
返事を貰い、東條もホッとしたように胸を撫で下ろす。
大きな胸が、とてもわかりやすく動いていた。
……お~ナイスですねぇ~。
「――じゃあ食べましょうか、冷めないうちに。……雨咲君、沢山食べてちょうだいね」
そうして東條主催の晩御飯会が始まったのだった。




