第41話 収納できるようになっちゃえばよくない?
「おや?」
時間潰しに、【調教スキル】へ目を通していた。
昨日のレベルアップで、保有調教ポイントが580となっている。
流石に何かに使いたい。
そういう思いで見ていると、気になるスキルが目に留まった。
[調教スキル 能力UP画面]
“調教スキル:従者箱”
主人と従者の所有物のみ収納可能な、異空間の箱を使えるようになる。
全従者の【調教Lv.】の総和が増えるほど、箱の容量や大きさが増える。
保有調教ポイント:580
必要調教ポイント:500
解放条件:
①ヒロインテイマーLv.3以上 ○
②空間属性の能力を使用したことがある ○
……【従者箱】……
― ― ― ― ―
「入れられる物に限定はあるけど、これって要するに【マジックバッグ】的なやつだよな?」
重量や大きさなどを無視して物を出し入れ可能な、超レアマジックアイテムだ。
高ランクダンジョンで極々稀に、入手報告がなされることがある。
「“解放条件”①と②、どっちも“○”になってる。つまり条件は満たしてるってことだよな?」
確かに、【ヒロインテイマー】のジョブレベルは昨日上がっていた。
【隠し部屋】の投石コボルトたちを倒して。
レベルだけでなく【ヒロインテイマー】のジョブも、Lv.3に上がった。
だがLv.2になった時【従者果実】を得たのとは異なって、特に何の変化もなかったのである。
……なるほど。
【ヒロインテイマー】のLv.3はこういう形で生きてくるのか。
「“②空間属性の能力を使用したことがある”……――あっ!」
最初は心当たりが全くなかったが、それを言葉にすることでハッとした。
【ダンジョングローブ】を出現させ、右手に装着する。
「これか……」
右手には、灰色のグローブがピチっとはまっていた。
昨日入手したこれを、今度はただ念じるだけで虚空へと消し去る。
また元通り、手の肌が空気に露出していた。
【ダンジョングローブ】そのものの出し入れ。
あるいはその能力でダンジョン間を転移したことが、この“解放条件②”をクリアしてくれたんだろう。
「……そういうことなら、習得してみるか」
マジックバッグ・アイテムボックス系の能力に外れはないはず。
それに、そもそも調教ポイントが500も必要なところに、このスキルの利便性が保証されているようなものだ。
普通は凄い能力ほど、必要なポイントも増えるものである。
[ステータス]
●基礎情報
名前:雨咲颯翔
・
・
・
●スキル
【調教】
■調教スキル
【テイム】
【調教ツリー】
【従者果実】
【調教才能Lv.2】
【ヒロインヒールLv.1】
【愛撫Lv.1】
【従者箱Lv.1】 New!!
【マジックショットLv.1】
【セカンドジョブ】
【強撃Lv.1】
― ― ― ―
「よし」
ちゃんと【調教スキル】に追加されていた。
使い方もすぐ身体が直感的に理解してくれる。
「ちょっと西園寺におつかいでも頼もうか……」
【従者箱】は、主人と従者の物のみを収容できる。
なので買い物に出ている西園寺に、適当に何でもいいので買ってきてもらうことに。
これもダンジョン関連ということで、もちろん“パーティー資金”から出すと文面に添える。
すぐに返信が来た。
『了解ですご主人様! ちょうどまだ【シーカー】を出る前だから。ソックスとかインナーとかタオルとか、多めに買っていくことにするね!』
ビシッとした敬礼の絵文字付きである。
それももちろん西園寺らしくて可愛らしいのだが……。
「ご、“ご主人様”、だと!?」
――クッ、西園寺の肉声じゃないのが悔やまれる!
だがデータ上の言葉だけであっても、素晴らしい呼び方で呼んでもらえたことには違いない。
とりあえず。
けしからんメイド服や奴隷服を着た西園寺には、脳内でアップを始めてもらうとして……。
二人が来るまでに。
【従者箱】の簡単な仕様だけでも、確認を済ませておくことにしたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「雨咲君、お疲れ様」
それから1時間もせず、東條が到着した。
「お待たせ、雨咲君!」
と思ったら、西園寺もいる。
どうやら途中で一緒になったらしい。
「これ、買ってきたやつなんだけど……」
西園寺が早速、おつかいの成果物を見せてくれる。
大きなレジ袋に入ったインナーや靴下などを、次々と机上に出していった。
「レシートあるか? 今すぐ返すわ」
「あっ、うん。これ……」
西園寺が差しだしてきた【シーカー】での“領収書”を受け取る。
合計20点で約2万4000円となっていた。
特に何かを確認したりすることもなく、2万5000円を渡しておく。
こうしておけば東條も今後、俺に言いやすいだろう。
「…………」
――だがレシートに、ちゃんと“下着”があることは見逃さなかった。
西園寺は全く気にしてない風を装って、購入品をテーブルに並べている。
しかし上手いこと、白のロンググローブやニーソックスの下に隠されていた。
木を隠すなら森の中。
“白の下着”を隠すなら白の衣類の中、ということなんだろう。
「え、えっと……」
そして西園寺は、俺が何かに気づくのではないかとソワソワしていた。
視線も無意識にかチラチラと、その隠されている“下着”の方へと向いている。
……俺への隠し事が下手くそすぎる西園寺さんマジ可愛い。
まあここはその可愛さに免じて、触れないでおこうじゃないか。
ダンジョンで身に着けない物を買ったというわけでもないんだから、いいだろう。
……あ、そっか。
西園寺、やっぱり白をはくのか……。
とても助かります、解釈一致過ぎるぜ。
「ありがとう。で、西園寺に追加で多めに買ってきてもらったのは、二人に見て欲しいものがあるからなんだ」
そうして二人に、習得したての【従者箱】を実演してみせた。
◆ ◆ ◆ ◆
「ほっ――」
会議室内の何もないスペース。
そこへ向けて手をかざす。
すると、昨日【ダンジョングローブ】で見せたような、次元の裂け目が現れたのだ。
「えっ!?」
「ど、どういうこと!?」
驚愕する西園寺と東條を後目に。
裂け目は徐々に広がり、やがて正方形の穴となった。
「ふぅ。……大丈夫、俺の能力だから。中、覗いてみたらいい」
そう告げると、二人はおずおずと【従者箱】内を覗き込む。
「あっ、中に空間がある!」
「1m四方くらいの正方形ね……あら? 何か物があるわよ?」
東條の指摘した物を取るため、中に手を突っ込む。
事前に購入し、収納しておいた“ただの水”だ。
「会館の自販機で買った、飲料水だ。ほらっ――」
キャップを空けて、一口飲み、再び蓋を締める。
そしてもう一度、異空間の中へと落とした。
「一回閉じるぞ――」
声をかけると、念のためにと二人は【従者箱】から少しだけ距離を取った。
縦×横が1m×1mの穴は、次第にその口を閉じていく。
そこにはもう、ペットボトルの痕跡は何一つ残っていない。
やがて元の、空間に何の異常もない室内へと戻ったのだった。
「……うわ」
「……凄い」
二人は心から驚愕したように口を開けていた。
今はもう何もない、先ほどまで異空間とつながっていた点に、未だ視線を向けている。
「これが、二人に見せておきたかった能力だ」
もう一度【従者箱】を出現させる。
流石に今度は、さっきほど驚いている様子はない。
特に東條は、俺と異空間の穴を交互に見て、何かピンと来たような表情だった。
「雨咲君……。これ、【マジックバッグ】・【アイテムボックス】系の能力の一種、そうよね?」
その名称が出て初めて西園寺も気づいたというように、あっと声を漏らす。
「そっか! うわっ、えっ、凄いね雨咲君、本当!?」
「ああ。まあそういうことだな。――【従者箱】。【調教スキル】の一つだ」
東條と西園寺から、感嘆のような声が漏れる。
やはり異空間に物資を収納する系の能力は凄いらしい。
「今見せた通りだ。あの異次元にある箱に主人と従者――つまり俺と西園寺、東條の所持品だけを収納できる」
念のためにと、今座っていた貸会議室の椅子を持ちあげる。
そして実演のためにと、異次元の口へとあてがってみた。
……しかし、椅子はそこに何もないかのように素通りしてしまう。
やはり俺の所有物ではないため、この中には入らないのだ。
「あっ、だから……」
今度は西園寺が、何かに気づいたというようにハッとしていた。
そして自分が買ってきた衣類を、無作為に選んでいくつか持つ。
「えっと?」
入れても大丈夫か、という視線だ。
「ああ」
頷いて、西園寺に促す。
西園寺は手にしたニーソックスやショーツを。
パカッと開いている異次元の口へ、躊躇いがちにそっと落とした。
1mの高さしかない底へと、落下物はすぐに着地する。
確認のため一度、異次元の口を閉じた。
やはりそこには、西園寺が入れたはずの衣類はどこにもない。
だがちゃんと、【従者箱】の中には存在しているはずで……。
[従者箱 収納物一覧]
●基礎スペック
縦×横×高さ:1m×1m×1m
現在キャパシティ:5/100
●主人――雨咲颯翔
1:飲料水ペットボトル511/550ml 1本
コスト2
●従者――西園寺耀
1:ニーソックス 白 2足
コスト2
2:ショーツ 白 1枚
コスト1
●従者――東條雪奈
なし
「えーっと。……ああ、ちゃんとリストには載ってるぞ」
“下着”もファンタジーな能力によってバッチリ、その存在を記録されておりますね、はい。
全くそんなこと気づいてない、あるいは気にしてない風を装い。
もう一回【従者箱】を出現させる。
「あっ、入れるのは二人でもできるけど。箱の中に干渉できるのは能力者――俺だけらしい。だから取り出したい場合は、遠慮なく言ってくれ」
そうして中に腕を突っ込む。
取り出したい物をリストの中から選択するか、あるいはその物をイメージする。
すると手の中に、その物が握られているという仕組みだ。
今回はニーソックス2足、そしてショーツが1枚。
バッチリと右手でつかんでおります。
「ほいっ」
その際、ちゃんと手の中の物は見ずに、気づいてないフリをすることを忘れない。
自分の水をついでに取り出すように、ずっと箱の中へと視線を固定した。
「あっ、えっと、あっ、ありがとう!」
手から、布生地の感触が消える。
声からも、西園寺が慌てたように取ったのが窺えた。
……今頃になって、自分でショーツを被検体に使っていたと気づいたらしい。
ラッキースケベなイベントを自ら提供してくれる西園寺さん、マジ可愛すぎんだろ……!
「まっ、こういう感じだ。これでもっとダンジョン探索が楽になるだろう」
話を締めるように、異次元の穴も一旦お休みしておいてもらうことに。
「だから各々、食料でも今みたいな着替えの衣類でも、何でも。持って行っておきたい物はあらかじめ【従者箱】に入れておけばいいから」
「それは本当に助かるわ。水とか、かさばる物を入れておいて、必要な時に取り出せるだけでもありがたいもの」
東條は心底から感謝するように言う。
こちらもそう言ってもらえるだけで、500ポイント消費して【従者箱】を取得した甲斐があったというものだ。
「しかも“パーティー資金”からちゃんと出す。だから何度も言うように遠慮することないからな? 備えあれば患いなしだ」
「もしかして……雨咲君、まさかここまで考えて“共用資金”のことも提案して?」
下着を再びどこかに隠し終えた西園寺さん。
また勝手になんか俺の評価が高まってるし……。
「いや、昨日の段階でそこまで計算できるわけないって。偶然偶然」
「……まあ、雨咲君はそう言うよね」
「雨咲君……」
だが西園寺は、俺の返事を完全に誤魔化しと受け取っている様子。
東條の見る目も、どこか普段よりも俺への尊敬と親愛を感じる。
……えぇ~。
ダンジョン探索に向けて、さらなる楽々能力を習得できた半面。
そのせいで生じた従者との認識の食い違いに、若干悩まされることになったのだった。




