第40話 ちょっとだけでも、羽を伸ばせればよくない?
平日の中間に位置する水曜日になった。
この曜日になると、ようやく折り返しかといつも疲労感や絶望感が強くなる。
……水曜日は俺に免じて許してやるからさ。
やっぱりこの際、月曜日を何とかしない?
水曜日の“水”って“水”だよね?
つまりファンタジーの属性相性でもおなじみだが、火曜日の“火”に、水曜日は強いわけだ。
そして月曜日の“月”はつまり“月”でしょ?
地球惑星の一衛星に過ぎない“月”が、地球と同格である惑星様の火星に勝てるわけがないのだ。
そうすると、水曜日は俺の許しを得て存在しているので、俺は水曜日に強く。
その水曜日は火曜日に強い。
そして火曜日は月曜日に勝てる相性関係となっているのだ。
“俺(最強)→水曜日(俺の子分)→火曜日→月曜日(大罪人)”である。
……月曜日君さぁ、あんまり調子に乗ってると、俺の一存で水曜日君が動くからね?
曜日総出でやらせてもらうから、うん。
そうして小物感丸出しの思考遊びで、一人の休み時間をボーっと潰していた。
「――へぇ~! 耀、放課後ちょっと時間あるんだ!」
すると、一軍女子たちが嬉しそうに話す声が聞こえてくる。
「うん! 昨日頑張ったから、今日は遅め集合の早め解散になる予定なんだ~」
「…………」
西園寺の言葉に、女子たちの聞き役に回っている大野君が反応していた。
だが自分が切り出すタイミングを見計らっているらしく、まだアクションはない。
西園寺をデートか何かにでも誘いたいのかな?
頑張れ、大野君!
Fランク試験で落ちていた、坂なんとか君よりは応援しているぞ!!
「お~! あたしたちも今日はオフなんだ! 耀も一緒に【シーカー】どう? 新しい冒険者着とか見に行こうよ!」
あっ、女子に先を越されてる!!
このままじゃ、“美少女たちだけの冒険者着チェーン店デート”になってしまうぞ!?
……いや、そっちの方が普通に需要ありそうだな。
「えっ? うん、いいよ! ちょうどお金もちょっとだけあるし」
西園寺も特に迷う様子なく快諾していたのだった。
仲いい女子友との久々なショッピングにテンション上がってる西園寺さん、マジ可愛い。
そして大野君は……ドンマイ。
「あっ……えっと、ははっ、楽しんできなよ?」
「うわ~大野っち、なんか知らないけど落ち込んでんじゃん! どしたん、話聞いたげようか?」
あのギャル女子さんのノリは、確実にわかってて言ってるだろ。
「……?」
そして何もわかってない、首をかしげてる西園寺さんマジ天使。
その後。
西園寺からメッセージで、さっきも耳にしていた予定の報告が届いた。
『雨咲君。放課後、クラスの仲良い子たちと【シーカー】へショッピングに行ってから向かいます!』
別にわざわざ言わなくてもいいのに、マメだなと感心する。
『うぃ~行ってら~。【シーカー】でショッピングってことならパーティー資金から出せるので、何でも遠慮なく買ってどうぞ』
返信で、昨日できた共用資金のことにもちゃんと触れておく。
【シーカー】とはつまり、冒険者の衣類を専門に扱うチェーン店だ。
冒険者用のトップスやボトムスのみならず。
肌着・アンダーウェアから靴下などまで取り揃えている。
……つまり。
西園寺が羞恥心に悶えながらも、購入した品を自己申告してくれる“恥ずかしチャンス”が早速やってきたのだ。
『うん、ありがとう! 雨咲君の言葉に甘えさせてもらうね。ちゃんとダンジョン探索で身に着けるものにするから』
西園寺の返信してくれた文面から“パーティー用の資金という名目から外れないよう気を付けます”との配慮が感じられた。
やっぱり西園寺は律儀だな、と思う。
だがその反面、その真面目さが。
あだとなっていると気づかずにいることに、悪い笑いが止まらない。
グヘヘ……。
西園寺、俺は本当に気にしないよ?
だからセクシーな下着とか、インナーとか、ソックスとか。
じゃんじゃん買ってきてくれていいんだからね?
◆ ◆ ◆ ◆
「ふぁ~っ……」
放課後。
一人、先についたギルド会館で暇を持て余す。
午後の、ちょうど眠気を誘う時間帯だった。
『雨咲君。私は小森さんたちと出かけることになりました。彼女たち、今日はオフらしいから。後輩たちと軽食やデザートを食べてから向かいます』
随分前に、東條から来ていたメッセージ。
それを暇つぶしにと、もう一度目を通す。
『彼女たち、凄く雨咲君と西園寺さんに感謝しているわ。特に柚木さんは雨咲君にどうも懐いてるみたいね。直接会って、もう一度お礼を言いたいって』
3人の中でも、特に小柄だった柚木さんのことを思い出す。
人見知りっぽくて、あまり他人に心を開かないような感じ。
どこか子猫っぽさがある子だとイメージしていた。
それだけに。
彼女がそんな好意的な反応を示してくれていると分かって、頬が緩むくらい嬉しくなる。
『うぃ~。ゆっくりと、くつろいできたらいい。柚木さんたちにも、気にするなって言っといて』
『ええ。ありがたくそうさせてもらうわ。彼女たちにもそう伝えておくわね。でも、終わったらすぐに向かうから』
俺に言われるまでもなく、東條は後輩たちと羽を伸ばしてくるだろう。
「はぁ~」
椅子の背もたれに深く腰掛け、大きく溜息を一つ吐く。
【ダンジョングローブ】を得たことで、今までよりも時間的に余裕ができるようになった。
そこで今日は。
各々が休めるよう、短いながらも自由時間を作ったのである。
西園寺も東條も。
その束の間の一時を、ちゃんと共有できる相手がいるということだ。
……そして残念ながら、俺にはいませんでした、と。
◆ ◆ ◆ ◆
「平和だなぁ~」
そもそもがボッチだったので、寂しいとかは特にない。
だが暇は暇である。
二人も俺が一人なのはわかっていて、それを気遣ってなのか。
ちょくちょく“楽しんでますよメール”がくる。
……彼女らにその気は全くないのだろうが、自慢されてる気分になるのでやめて欲しい。
仕返しに、脳内で西園寺と東條のあられもない姿をイメージしてやった。
ふんっ、これに懲りたら――
……あっ、噂をすれば西園寺からメール来ちゃった。
テヘっ。
エッチな想像なんてウソウソ。
どうして人から争いが無くならないのだろうかと、真剣に考えてましたよ。
ええ、はい。
『休憩で、喫茶店に寄りました。ブルーベリーパフェ食べてます、美味しい!』
写真がついていた。
バニラアイス、ブルーベリージャム、ヨーグルト、コーンフレークが層をなしている。
そして頂点にはブルーベリーアイスと、フレッシュなブルーベリー果実が贅沢に盛られていた。
「くっ、美味そう……」
ぐぬぬと唸っていると。
今度はほぼ同じタイミングで、東條からもメールがやってくる。
『コンビニに連れて行ってもらって、美味しそうだったからいちごパフェを買ってみました。コンビニってパフェまで売ってて、凄いのね!』
これまた写真付きだ。
いちごのプリン、ゼリー層、ミルクのムース生地が重なっている。
そしてその上に。
うずまき状のホイップクリームと、大きないちごの果実が2つも乗っていた。
「飯テロリストどもめが……!」
怒りに震える。
これはもう情状酌量の余地なしだ。
俺の脳内で二人まとめて終身刑である。
そして既に、刑は執行され始めていた。
『ご、ごめんね東條さん。――あむっ、あむ……』
イメージ上の西園寺はとても恥ずかしそうにしながらも、東條の胸に乗ったブルーベリー果実を食べている。
時折その舌が東條の肌に触れてしまい、東條はくすぐったそうにビクッと反応していた。
『ひゃんっ……い、いえ。気にせず、食べてちょうだい。私も、西園寺さんのいちご、食べるから――』
そしてその東條も。
一杯の羞恥心に耐えつつ、西園寺の胸の谷間にあるいちごを、頑張って口にしている。
交代で上げられる顔は上気していて、どちらも色気に満ちていた。
「……うん」
苦しゅうない、余は満足じゃ。
何年間も誰かを恨み、憎しみ続けるというのはとても大変なことだ。
二人も反省して、お互いの胸果実食べ合いっこを今も頑張ってくれている。
ここらへんで俺も大人になって、西園寺と東條を許そうじゃないか。
……ああいや、今のは“雨咲君の雨咲君が雨咲さんになる”的な意味じゃないよ?
普通に、精神的な譲歩っぽい意味合いね。
仏の心で許した二人に“いいね、美味しそう!”的な相槌メールを返した。
「おっ、ちょうど時間か……」
スマホに、貸会議室の予約時間を告げるメッセージが届く。
「……二人が来るまで、スキルの確認でもしておくか」
そうして一人、部屋に入って【調教スキル】に目を通し始めたのだった。




