第4話 潜在能力を解放しちゃえばよくない?
「あっ――」
先日の筋トレ達成時と同様に、西園寺の体に淡い光が生じた。
制服越しにも見てわかるそれは、しかし、今度は分裂する。
一方は、そのまま西園寺の体を駆け巡って消滅。
もう片方は、なんと西園寺の体外へと飛び出し、俺にぶつかってこれまた消えたのだった。
そして同時に、ステータスとは別の画面が眼前に出現する。
[調教スキル 能力UP画面]
“調教スキル:指導”
調教ミッション時、従者に課されるミッションの回数・時間が1割少なくなる。
保有調教ポイント:100
必要調教ポイント:200
【指導】 負荷 …… 調教ツリー
“保有調教ポイント:100”は今正に達成したミッションの報酬だろう。
それで新たな調教スキルを取得していく感じか。
今カーソルが合っている【指導】の調教スキルは、つまり調教ポイントが後100必要になる。
「調教ミッションの報酬、どうやら俺にも入ってるみたいだ。西園寺の方はどうだった?」
「えっと。ステータスを見たら、ちゃんと私にもポイントは入ってたよ。でも、どうやって使ったらいいかは、わからないかな……」
[ステータス]
●基礎情報
名前:西園寺耀
年齢:17歳
性別:女性
ジョブ:なし
支配関係:主人 雨咲颯翔
―保有調教ポイント:100 New!
西園寺のステータスにも確かに、調教ポイントが入っていた。
さきほど光が分裂し、それぞれの体で消滅したことを考えると、別々に100ポイント保有しているんだと思う。
だがすぐにそれを確かめる術がない。
どうしたものかと考えるため、出現したばかりの“調教スキル 能力UP画面”を適当にいじっていた。
そこで、正にうってつけのようなスキルが目に留まる。
「――おっ?」
[調教スキル 能力UP画面]
“調教スキル:調教ツリー”
従者の潜在能力が宿ったツリー。従者が所有する調教ポイントを消費することでツリーを育て、従者の潜在能力を解放することができる。
保有調教ポイント:100
必要調教ポイント:100
指導 負荷 ……【調教ツリー】
この説明文を読んでハッキリした。
やはり主人と従者、つまり俺と西園寺が保有する調教ポイントは共有されてるものじゃなく、別々の物だろう。
「西園寺。今ゲットしたポイントを使って、また成長できるようになるスキルがあるんだが。試したいか?」
先ほどのこともあり、西園寺の意思をちゃんと確認してみる。
「えっ、本当に!? もちろんです。どこまでもついて行きます、コーチ!!」
西園寺はイタズラを共有する時のような、茶目っ気ある笑顔で頷いた。
「誰がコーチだ、誰が」
……前も言ってたけど、西園寺ってそのノリ好きだね。
コーチと教え子的な関係性がツボなのかな?
ツッコミは忘れずに、調教スキルの取得画面へと移る。
“調教ツリー”にカーソルを合わせたまま、画面右下にある“決定”を押す。
すると調教ポイントが100消費され、俺の保有調教ポイントは0に。
そして感覚として、調教スキル【調教ツリー】を使用できるようになったと把握する。
「よし――」
使い方もいたって簡単だ。
ステータス欄にある従者の名前――つまり“西園寺耀”を選択。
そこに【調教ツリー】を使用すると、スキルが発動された。
するとまた別の画面が、眼前に展開される。
[調教ツリー 従者:西園寺耀]
保有調教ポイント:100
●〈基礎〉―全能力値+3
●〈ジョブ〉―強撃
―マジックショット
◆ ◆ ◆ ◆
「なるほど。こういう感じなのか」
【調教ミッション】と同じく、【調教ツリー】も俺にしか見えてないようだった。
なので【調教ツリー】の図を、ノートからちぎった紙へ簡易的に書き写す。
それを西園寺にも見せて、情報を共有した。
「あ~ゲームとかでもあるよね。スキルツリーみたいな感じかな?」
……あの、紙は渡すんで、肩が触れるくらい近づいてくる必要はないんですよ?
西園寺耀に俺のボッチが通じない。
何なの君。
可愛いわ、距離感近いわ。
ゲーム知識もあって、男子好みな会話デッキちゃんと装備してるわで。
思春期男子を勘違いさせて絶対殺す女子的な何かなの?
[調教ツリー 従者:西園寺耀]
“〈基礎〉:全能力値+3 ”
全能力値が3ずつ上昇する。
保有調教ポイント:100
必要調教ポイント:50
●〈基礎〉―【全能力値+3】
「おっ! 【全能力値+3】は調教ポイント50で行けるぞ!」
そして【全能力値+3】は読んだまま、全能力値が3上がるものだと伝える。
「えっ。ってことは、私、また強くなっちゃってもいいんですかコーチ!?」
今回は特に興奮を隠せない様子で、西園寺はとても嬉しそうだ。
ノリも良いし、可愛いし、何なの君。
……あっ“可愛い”は二回目だったか。
「いいぞ~。どんどん強くなって、どんどん稼げるようになってくれ~」
そして俺を金メダリスト――ではなく。
Sランク冒険者のコーチにでもしてくれ。
「〈ジョブ〉から枝分かれした二つ――【強撃】と【マジックショット】はどっちか選択だな。戦闘・前衛系がいいなら【強撃】。後衛・魔法系がいいなら【マジックショット】って感じか」
そしてどちらも必要な調教ポイントは50ポイント。
つまり【全能力値+3】と、【強撃】・【マジックショット】のどちらかをとれるわけだ。
「――雨咲君、私ね。小さな頃から魔法を使ってみたいって願望があったんだ。だから【マジックショット】を選んでもいいかな?」
「いいんじゃないか? 西園寺の潜在能力を解放するツリーなんだから。それはむしろ西園寺が決めるべきことだろう」
青春スポーツもののヒロイン西園寺耀ちゃんもありだが。
朝8枠、魔法少女ヒカリちゃんも人気が出るに違いない。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
西園寺は改まって礼儀正しく、綺麗な姿勢でペコリと頭を下げる。
こういう細かいところで育ちの良さも窺えた。
「わかった――」
相談して決めた通り、【全能力値+3】と【マジックショット】を選択。
100ポイントを消費して【調教ツリー】の解放を“決定”した。
◆ ◆ ◆ ◆
「あっ――」
瞬間。
西園寺の体の内側から、魔力の鎖が飛び出す。
本当に、まるで突如体から生えたかのように見えた。
魔力鎖は勢いよくその全身へと絡みつく。
「っ! ん、っ~――」
テイムの際に縛られることを経験済みだからか。
西園寺は、そこまで困惑しているようには見えなかった。
……だが逆に、経験していることがわずかでも余裕を生んだためか。
自分が全身拘束されていることを認識・客観視して、強い羞恥心が生じてしまっているように映った。
「あのっ、その、雨咲君っ、あんまり、見ないでくれると、その、嬉しいです――」
恥ずかし気に顔を背け、ボソボソとか弱くお願いしてきた。
いけないものを見ている気になって、懇願とほぼ同時に視線を下へ逸らす。
……が、そこにも強い誘惑が待ち受けていた。
太もも辺りから生じたようにしか見えない鎖。
それが制服のスカートをめくりあげたようにしたまま、体に絡みついてしまっているのだ。
つまり西園寺の白く艶めかしい太ももだけでなく、純白の布までもがチラリチラリと――
「あっ――」
それが完全に見えてしまう前に、事態は収束へと向かった。
制服の上からでも分かる、形のいい二つの膨らみ。
その真ん前に、南京錠のようなものが出現した。
その二つの穴へ、魔力でできた鍵が二つ差し込まれ、それぞれガチャリと回る。
「っ~~!!」
西園寺の、声にならない声。
抑え、我慢しながらも。
異性の本能を刺激するような甘い声、吐息が漏れ出ている。
その後。
逆U字型の片方の先端が持ちあがるカチャッ、という音が確かに聞こえた。
同時に。
西園寺の全身を縛っていた魔力の鎖は、ガラスが砕け散るように一瞬で粉々になる。
[ステータス]
●基礎情報
名前:西園寺耀
年齢:17歳
性別:女性
ジョブ:なし
支配関係:主人 雨咲颯翔
―保有調教ポイント:0
●能力値
Lv.1
HP:6/6(+3)
MP:1/1(+3)
筋力:1(+3)
耐久:1(+3)
魔力:0(+3)
魔耐:2(+3)
敏捷:2(+3)
器用:4(+3)
※(+3)=【全能力値+3】New!
●スキル
【マジックショット】New!
「はぁ、はぁ、終わった、のかな?」
まだ顔が赤く、呼吸の整わない西園寺に代わり、彼女のステータスを確認。
ステータスは、ちゃんと【調教ツリー】が解放された後のものへと更新されている。
西園寺はこれでまた一つ、大きな成長を遂げたのだった。