第39話 パーティーとして、ちょっぴり資金的な余裕ができちゃえばよくない?
ダンジョンから出て、ギルド会館へとやってくる。
魔石の換金査定が、いつもより長引くようだった。
そこで貸会議室で、反省会も含めてしばらく待機することに。
「えっ? 【戦士】のジョブ、もう解放できるの!?」
東條が、驚いたように聞き返してきた。
レベルアップの話になって、その流れで東條の【調教ツリー】が解放可能だと伝えたのである。
「ああ。“調教ポイント”が200ポイント、貯まったからな。……どうする? 別に今日中にしないといけないって話じゃないぞ」
むしろ大きな戦闘を終えて疲労もあるだろうと、無理強いするつもりはない。
しかし東條は、一切迷う様子もなく告げる。
「雨咲君に問題がなければもう今日、お願いしてもいいかしら? 何なら今時間があるようだし、今からでも私はもちろん構わないわ」
「俺はいつでも大丈夫だ。……東條がいいなら、じゃあもう解放しちゃうか」
椅子から立ち上がって、空いているスペースへ。
東條も、俺の正面になるよう移動してきた。
「じゃあ、西園寺は、ちょっとだけ待っててくれな」
「あ、うん、えっと、お構いなく……」
西園寺は消え入るような、とても小さな声だった。
自分が【調教ツリー】を解放するわけでもないのに、恥ずかしそうにかぁっと赤くなっている。
東條が全身拘束される姿を想像して、こうなってしまっているようだ。
……ふ~ん、エッチじゃん。
「――雨咲君、お願いします」
覚悟を決めたような、東條の凛とした声。
しかしどこか恥じらいを誤魔化しきれていないような、若干上ずった感じが混じっていた。
また何か、羞恥心でも覆い隠そうとしているように。
ツンとした表情に、より力みが入っているみたいに見える。
普段はあまりない、睨みつけるまで行く力強い目元も、本人は無自覚のようだった。
……まあ、そりゃ意識するなって言っても、意識しちゃうよね。
魔力の鎖によって、これから自分の体を縛られてしまう。
それを、あの美人で穢れない東條が。
自分でその姿を無意識に想像してしまっているのである。
……ありがとう東條、これで救われる命があります。
「じゃあ行くぞ――」
「ええ」
準備が整っていることを確認し。
東條の【調教ツリー】を解放した。
「あっ――」
――魔力の鎖が、あちこちから出現する。
そして瞬く間に、東條の全身を拘束していった。
「んっ、あっ……」
後ろ手に縛られた東條は反射的に声を出す。
だが冷静を装い、何でもないかのように気丈に振る舞おうとしていた。
……しかし、すでに頬はほんのりと熱を帯びて赤らんでいる。
まるで以前の鎖の感触を覚えいていて、身体がそれに反応してしまっているかのように。
「うわっ、あっ、凄い……」
また、その光景に。
西園寺が見惚れるように、釘付けになっていた。
顔を真っ赤にして照れながらも。
視線は、東條の色気溢れる姿から決して外れない。
同性である西園寺の目をも魅了するような、とても刺激的な格好だったようだ。
またそれは、束縛された東條を通して。
自分が、【調教ツリー】を解放する場面を想像してしまっているようにも見えた。
自分も拘束されるとあれほど刺激的で、艶やかな感じになっているのだろうか……と。
――そうして室内全体に桃色な雰囲気が漂い始めた中、終わりは唐突に訪れる。
魔力の錠前と、それに対応する鍵が出現した。
鍵が、穴に差し込まれる。
カチャッと音を鳴らして、四分の一だけ回転した。
「あんっ――」
東條の全身を縛り付けていた鎖が、瞬く間に消滅していく。
[ステータス]
●基礎情報
名前:東條雪奈
年齢:17歳
性別:女性
ジョブ:なし→戦士Lv.1 New!!
支配関係:主人 雨咲颯翔
―保有調教ポイント:0
・
・
・
●スキル
【強撃Lv.1】→【強撃Lv.2】 New!!
「お疲れさん。終わったぞ」
「はぁ、はぁ……え、ええ。ありがとう」
顔の火照りは未だ残り、呼吸は少し荒いまま。
東條は異性を刺激するような、艶のある色っぽい表情をしている。
だが何はともあれ、無事、【戦士】のジョブを解放できたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
その後、恥ずかしついでに。
西園寺と東條の胸元から、いちご・オレと飲むブルーベリーヨーグルトも美味しくいただいた。
……一応嘘は言ってないよ?
外部にそのまま話したら、確実に誤解を生むような言い方ではあるけどね。
そしてギルド会館のエントランスに戻ってくる。
魔石の換金が済んだようなので、カウンターへと向かった。
「え~まずは“モンスターの魔石換金”として申請いただいた方ですね。合計額が4万と1046円になります。西園寺様と東條様で半分半分ということですので、2万523円ずつですね。お受け取り下さい」
それぞれが受け取る額が、1万円超えの大台に乗っていた。
「お~!!」
「にっ、2万円も!?」
西園寺も東條もその換金額にとても興奮し、喜んでいた。
「す、凄いよ雨咲君っ! 1万円超えたどころか、2万円まで行っちゃったよ!?」
「明細書を見ると……やっぱり“投石コボルト”1体1体が、かなりの査定額になってるわね」
相性的にそこまで強敵とは感じなかった。
しかし魔石の金額的には通常コボルトやゴブリンよりも、明らかに高額で買い取ってもらえていた。
【ダンジョングローブ】っていう一番のお宝に隠れがちだが。
投石コボルトたちの魔石も、十分に美味しかったようである。
【隠し部屋】、最高だな。
最後。
【ダンジョングローブ】と一緒に宝箱へ入っていた、濁る魔石の換金が残っていた。
「――そして次、“ドロップ品の魔石換金”で申請なされた方ですね。こちらは1点3万円が4つ、計12万円で換金させていただきます」
「じゅっ、じゅうに!?――」
その額の大きさに驚いて、流石に口が上手く回らなかった。
Eランクダンジョンで手に入れた魔石としては、もちろん破格の値段である。
手数料諸々を引いても、確実に10万はあった。
「あ、ありがとうございます」
震える声、震える手で何とか受け取った。
3人で歩き、空きベンチに並んで座る。
「と、とりあえず、まずは2割の4000円を……」
「そ、そうね! 4000円、4000円……」
二人があわあわした様子で、自販機に駆けて行った。
それぞれ飲み物を買って紙幣を崩し、1000円札を4枚ずつ渡してくれる。
「あ、ありがとう、しかと受け取った。……それで、西園寺殿、東條殿」
「は、はい、雨咲殿」
「え、ええ。……えっ? と、“東條殿”?」
内密の話をする昔の偉人っぽい感じで、神妙に切り出した。
だが俺と西園寺のロールプレイなノリが、東條には今一つピンと来てなかったらしい。
自分で自分の呼ばれた名前を、ポカンとしながら復唱していた。
……不思議そうな顔して首をかしげる東條殿、超可愛い。
「……この約10万円の処遇でござるが、いかがいたす? 妙案のあるお方はいらっしゃるか? なければ、いつものように各々方で折半なさるがよいかと」
つまり『西園寺と東條で5万円ずつ、俺がそこから報酬の2割として1万円もらう』という案である。
「拙者、すでに2万円で十分お腹いっぱいでござる、雨咲殿。10万円の半分なんてもらった日には、お腹が破裂してしまうでござるよ」
ござる言葉で演じようと頑張る西園寺殿、超可愛い。
……要するに額が額だけに、ちょっと遠慮してるって感じか。
「……東條殿は?」
「えっ、私!? えっと、その……わ、わっちも西園寺殿に、賛成でやんす」
ブフッ。
東條の慣れてないような、何とか頑張ってひねり出した感。
それが普段の東條とあまりにギャップがあって、とても可愛らしかった。
「ふふっ、ふふふっ……東條さんが、“わっち”と“○○でやんす”の組み合わせは、卑怯だよ」
西園寺も耐えられないというように、お腹を抱えてクスクスと笑っていた。
「え、こういうことじゃないのかしら!? ち、違うの!? うぅ~」
東條は真っ赤になって、恥ずかしそうにうつむく。
その姿すらも魅力的で、西園寺とともにありがたく観賞させてもらったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「――じゃあ、まあ“パーティーの共用資金”ってことにするか」
東條に一しきり笑わせてもらった後。
二人が納得できそうな案を出す。
「西園寺でも、東條でも。ダンジョン探索に必要な物なら何でもいい。物資、アイテム、装備……その他何でも、だ。それらの購入資金に使うって感じで、どうだ?」
冒険者の中にはクランとなって専用の口座を持つところも当然ある。
むしろそのメリット目当てにクランを結成する人たちだっているくらいだ。
未だ吹けば飛ぶような零細パーティーに過ぎないが、それでも共用資金という形はあってもいいだろう。
便利だしね。
そうした意図を具体的に説明すると、二人から好意的な反応が返ってくる。
「あ~それいいね!」
「ええ。そうしてもらえるとありがたいわ」
特に異論はないらしい。
だが揉め事の種を作らないためにも、簡単な決め事だけは作っておく。
「一応の管理者はどうする? 俺がやろうか?」
別に、ここから横領したりちょろまかしてやろうとか、そういう意図は一切ない。
むしろ俺はこの共用資金から一銭も使う気はなかった。
そもそも二人に全額使ってもらってもいいとさえ思っているのである。
「うん。雨咲君が持ってくれたら安心する!」
「そうね。で、必要な物ができたら雨咲君に言うって形でいいのよね?」
「ああ。ちゃんと言ってくれるだろうから、何なら事後申請の形でもいいぞ~」
最初からこのことで、西園寺と東條が悪だくみするなんて思ってないのだから。
緩くてもいい、ひとまずの形あるルールだけできればいいのだ。
そうして二人が遠慮しなくてもいい空気を、こちらが用意してあげるのが大事なのである。
「……せっかく共用資金ってことにしたんだから。二人とも、遠慮はいらないからな。安かろうが何だろうが、ダンジョン探索に必要ならどんどん俺に言ってくれ」
「うん、わかった」
「ええ。ありがたくそうさせてもらうわね」
俺の意図がちゃんと通じたかのように。
西園寺も東條も、他意のない純粋な笑顔で頷いてくれたのだった。
「よし……」
わかってくれて嬉しいよ。
換金したお金を“報酬”という形にしてしまうと、どうしても俺への契約金2割が発生してしまう。
もちろん俺はそれでもいいんだけども。
“【隠し部屋】の宝箱から得た魔石”という偶発的・想定外のお金に関しては、こういう形で従者に還元しても悪くないかなと思うのだ。
10万円の2割だから……2万円か。
2万円あれば、ちょっとした服や靴なら買えるだろう。
それで気分良くなって、ダンジョン探索も頑張ってくれて、成長の効率だって上がって。
そうして結局はこっちの方がむしろ強くなってくれた……みたいなことになってくれれば万々歳である。
従者の福利厚生、大事!
……だから服だけじゃなくてアンダーウェア・肌着、靴下とかも、全く遠慮しなくていいからね?
俺も全然気にしてないから、うん。
『あっ、えっと……雨咲君。私、その、あの、冒険者着を買いたくて。……あっ、ごめん、その、はい。下着を、買いたいんです』
と誤魔化しが効かず、恥じらいMAXな表情で西園寺さんが白状してくれるのを。
全雨咲一同、心待ちにしております。
……下着とか靴下とかの申し出は、隠したって絶対見抜いてやるぜ!
『……あの、ごめんなさい。その、私、胸がキツくて。だから、ちょっと、サイズの大きいやつを、買いたいの』
東條さん、お顔真っ赤にしながら何回でもサイズアップ申告してくれていいんだからね?
その際、ちょっと涙混じりに上目遣いで睨んでもらえると、なお助かります。
そうしてパーティー的に、少しだけ資金的な余裕もできたのだった。




