第37話 特殊な戦闘でも、相性で切り抜けちゃえばよくない?
「……ここだな」
改めて2階層に降りて来た。
小森さんたちに教えてもらった道順を進むと、行き止まりにたどり着く。
「えっと……――あっ、あった!」
壁伝いに手を当てていた西園寺が、すぐに目印を発見する。
岩壁の色や質感とほぼ変わらず同化している、とても小さなくぼみがあった。
「……これは、事前に言われてないと気づけないわね」
東條も、西園寺に倣うように壁へ顔を寄せる。
こんなわかり辛い目印、良く見つけたなと感心するばかりだ。
「……だなぁ」
盗賊の柚木さんが、これを発見したらしい。
罠の発見や斥候を得意とするだけあって、流石である。
Eランクダンジョンくらいなら、まだ命に直結するようなダンジョン罠は少ない。
それでも、こういう【隠し部屋】の発見などもある。
やはりパーティーに一人、盗賊が欲しいなと実感したのだった。
「じゃあ、行くぞ――」
「うんっ!」
「ええ」
西園寺と位置を入れ替わり、先頭になる。
目印に手をかざし、ボタンを押すようにしてくぼみ周辺に力を入れた。
「おっ――」
すると、くぼみの周りに、光る魔法陣が出現する。
綺麗な魔力が壁をアーチ状にくりぬき、やがてそこに通路ができたのだった。
意を決して進むと、中は直通の一本道。
左右の足元と天井が、薄っすらと光っている。
光が等間隔に配置されているみたいだった。
「凄いね……私【隠し部屋】、初めて入るよ」
西園寺は、興奮と不安が入り混じったような声だった。
それでも、興味深そうにあちこちを観察している。
「俺だって初めてだ」
ダンジョン内のどこかにある通称【隠し部屋】。
容易には見つけられず、その場所に出会えないまま冒険者人生を終える人もいるという。
多くの場合は宝箱や高価な魔石、あるいはいわゆるマジックアイテムなどが置いてある。
そのため【隠し部屋】だけを狙って、ダンジョンに潜る冒険者も存在するようだ。
……だが侵入者を阻むギミックが、必ず存在している。
柚木さんたちの情報だと、今回は最も典型的な防衛システム“モンスター”ということらしい。
「……私だってそう。“冒険者科高校”の生徒でも、卒業までに【隠し部屋】を見つけられる人の方が圧倒的に少ないのよ?」
「へ~やっぱりそうなんだ」
会話をしながら、二人の緊張をほぐしていく。
そうして3分も歩かない内に、開けた空間に出た。
「ほう……こんな感じなのか」
肌感覚で、体育館を二つ並べたくらいの広さである。
ここから10歩ほど歩いた先から、明確に足場が切り替わっていた。
整備されていない土の道から、綺麗に整えられた石畳の舞台みたいになっている。
あそこに一歩でも踏み入れた瞬間、モンスターが出現するのだろう。
「――二人とも、準備はいいか?」
振り返り、意思を確認する。
東條はすぐに頷き返してくれた。
一方の西園寺は、どこか恥ずかしそうな表情で口をモゴモゴさせている。
迷っている思考につられるように、視線も宙を彷徨っていた。
……何か言いたいことでもあるのだろうか?
「どうした?」
だが尋ねると、意を決したというように真っすぐ目を見つめてくる。
「――雨咲君。【愛撫】、初っ端からお願いできる、かな?」
未だ恥じらいを感じているように顔の赤さは残っている。
声にも若干、羞恥心が混じっているのが感じられた。
だがもう、迷い自体はないらしい。
「小森さんたちが撤退するような戦闘になるんだし。“温存して負けちゃいました”はダメだと思う、から」
要は西園寺なりに全力で挑みたいという、意思の表れだろう。
恥ずかしさは依然あるものの、そこは目をつむって頑張るってことか。
「……わかった」
西園寺の決意を受け入れ、俺もしっかりと頷いて返す。
制限時間は100秒。
だが戦闘が始まってから使うよりも、先に発動してから挑む方がいいだろうと判断した。
西園寺へと、【愛撫】の調教スキルを使用する。
◆ ◆ ◆ ◆
「っ~!」
恥ずかしそうに構える西園寺。
その右脇から横腹にかけて、魔力でできた黄色い手形が見えた。
東條の時は腰だったけど……。
人によって違うのか、それとも完全に場所はランダムなのかは分からない。
だが今、そこに見えているのは確かである。
「――西園寺。上着のローブの前を開けて、右腕上げてくれるか?」
「えっ? ……う、うん」
西園寺もやはり腰付近に意識を向けていたらしい。
“右腕”と言われて、少しだけ意外そうな表情をする。
だがすぐに、自分が撫でられる箇所は違うのだと察してくれたようだった。
右手でローブ風の服を持ちあげるように開け、そのままの姿勢で待機してくれる。
黒いインナー姿が覗いてドキッとした。
黄色い手跡はよりハッキリと見えるようになる。
脇から縦に沿って、下へ行くように撫でろというスキルの指示だ。
「行くぞ」
「……うん」
極限まで達したような恥ずかしさ、そして生じるだろう快感への意識からか。
声は消え入るように小さかった。
だがちゃんと、返事はしてくれたのである。
「…………」
……その決意を無下にしないよう、そっと左手をローブの中に滑り込ませた。
黄色い手形へ重ね合わせるように、右の脇下へと手を触れる。
女性の体特有の柔らかい感触が、すぐに指先へと伝わってきた。
また緊張や純粋にここまでの運動のためか、じんわりとした汗の湿っぽさをわずかに感じる。
「っ~~~!」
西園寺に、電流が走ったような反応が見られた。
右肩がビクッと上がって顔に近づく。
また右腕から脇にかけて、反射的にブルっと震えたような振動があった。
「頑張れ、こっからだ」
必死に我慢する西園寺を励ましながらも。
手を体のラインに沿って、優しく下ろしていく。
途中。
撫でている親指の付け根辺りが、柔らかな膨らみの側面に触れた気がした。
「あっ、あっ、んぁっ、ん」
西園寺が一番強く反応する。
だが感覚が鋭い指先でもないため、殆ど“触れた”以外に感じられたものはない。
西園寺にとって最も敏感な部分を通過したためか、それ以降はかなり声も抑えられていた。
「――よし、お疲れさん」
そして右の腰辺りで、黄色い手形は終点となる。
俺の手がそこまで行きつくと、西園寺の全身にあふれるような魔力が宿ったのだった。
「あっ……うん!」
顔の火照りは残ったまま。
だがしかし、自身へのバフを実感して、西園寺は笑顔に戻ったのだった。
「じゃあ行くぞ!」
「ええ!」
「うん!」
改めて二人から、力強い返事がある。
三人で境界線をまたぐように、石畳へと踏み出した。
◆ ◆ ◆ ◆
フィールドに、すぐさま変化が生じる。
20m以上先。
人ほどの高さをした、横長の土台がいきなり出てきた。
その上に横一列で立ち並ぶようにして、次々と光が生じる。
また土台の前、俺たちと同じ石畳上にもいくつか光が出現した。
ただの丸だった光は、次第にモンスターの姿を形成していく。
「西園寺っ!!」
「うん!! ――【ホーリーシールド】!!」
すぐに西園寺から、耐久・魔耐値へのバフが届いた。
半透明な魔力に包まれ、自身の性能が一時的に強化されたことを実感する。
[ステータス]
●基礎情報
名前:西園寺耀
・
・
・
●能力値
Lv.5
HP:16/16(基礎10+ス6) +5↑
MP:15/18(基礎12+ス6) +5↑
筋力:9(基礎3+ス6) +3↑
耐久:11(基礎5+ス6) +3↑
魔力:10(基礎4+ス6) +3↑
魔耐:16(基礎10+ス6) +5↑
敏捷:13(基礎6+ス7) +4↑
器用:13(基礎6+ス7) +4↑
※ス:スキル補正
【全能力値+3】
HP・MP・筋力・耐久・魔力・魔耐+3
敏捷・器用+4
【愛撫】全能力値20%+(調教Lv.1×10%) 残り00:01:27
西園寺のステータスを見て、【愛撫】のバフ効果を確認した。
ちゃんと【調教布】のデバフも解除されている。
制限時間を見て、情報共有すべく声に出した。
「90秒切ってる! 時間管理、大事に!」
「うん、わかった!」
すぐに返事が来る。
それを認識し、敵へと視線を戻した。
「KOBORAAAA!!」
――そこには、10を超えるコボルトが生成されていた。
俺たちと視線が真っすぐ合う、石畳上のコボルト。
アイツらは、このEランクダンジョンでも見たことがある通常個体だ。
「KOBBO,KOBBO!!」
だが土台の上で横一直線に並ぶコボルトたちは違う。
右腕が異様に発達していて、その手には“拳大の石”が握られていた。
「――“投石コボルト”、12体よ!!」
東條の声が短く飛んでくる。
教えてもらった数と、視界に映る白兵コボルトの数。
それらを反射的に足し合わせた。
――16体か……!
当たり前だが、こんな数相手したことが無い。
今まで同時に戦った中で、一番の数であった。
◆ ◆ ◆ ◆
「KOBO――」
その投石コボルトたちが、一斉に石を投げて来た。
しかも全員が意思を共有しているように、同じ標的へ向かって投じている。
一体一体がバラバラに攻撃するのであれば、タイミングを見て避けることもできるだろう。
だが一つの意思に統一された投石は、回避が難しい広範囲攻撃となる。
「――まっ、俺は避けなくても問題ないけどな」
相棒の盾を構え、石の着弾に備える。
東條と西園寺が一列になって、俺の背に隠れるようにしゃがんだ。
「っし!」
石の雨が、次々と降り注いでくる。
しかし盾に直撃する前に。
クッションか何かにでも触れたように、その威力がグッと殺された。
西園寺がくれた【ホーリーシールド】が功を奏したのである。
俺の盾へと着く頃には。
幼児の使うカラーボールでも触れたのかと思う程度しか、衝撃を感じなかった。
「よしっ、第一弾、防いだぞ!」
士気を上げるように、後ろの二人に事実を伝えた。
――そりゃ、小森さんたちには相性的に厳しい敵だ。
剣士、魔法使い、そして盗賊というパーティー構成。
タンクというタンクが存在せず、遠距離からの連続攻撃に滅法弱い。
だが俺たちは逆に。
“西園寺の【ホーリーシールド】+俺の盾タンク”が、この遠距離攻撃の構成にカチッとはまっていた。
つまりじゃんけんのように。
俺たちは相性で最初から、この戦いに圧倒的有利な立場をとっているのである。
……あれ?
そうすると、小森さんたちは俺たちに強いことになっちゃう?
Fランクの俺より上位の、Eランク冒険者という社会的立場。
止めてくれ柚木さん、その属性はオレに効く。
柚木さんに社会的立場の優位さで脅されて『雨咲先輩。私とエッチなこと、して、ください。じゃないと……』みたいに言われたら、従わざるを得ないじゃないか……。
ん?
どこかおかしいような……ああそっか、俺の頭だね!
「KOBOBO!!」
「白兵が来たわ!!」
東條が、声と同時に盾の守りから抜け出る。
次弾が手に装填されるまでに、少しの猶予があった。
その隙を防ぐべく、襲ってきた通常個体たち。
それを、東條が一人で迎え撃ってくれた。
「【強撃】!!」
惜しまずスキルを発動し、鉈ごとコボルトを叩き切る。
返す刀で、別個体も見事に切り裂いた。
「【ホーリーショット】!!」
西園寺も半身だけ出して、魔法を放った。
【愛撫】のバフのおかげか、光の球が明らかにいつもよりデカい。
東條に意識が向いていた残りの2体を、まとめて一発で撃ち抜いた。
「次っ、来るぞっ!!」
土台上を注意深く見ていたため、その前兆をすぐに察する。
二人に戻るよう伝えると、すぐに俺の後ろへと隠れた。
「ありがとう、西園寺さん!」
「ううん、大丈夫だよ!」
西園寺は、東條の空白の隙を埋めるように立ち回っていた。
本当に、まるで親友同士のような連携力だと感心させられる。
いいぞもっとイチャコラしろ、と思うと同時に。
……俺とももっと濃密な仲になってくれてもいいんですよ?
「っ!!」
石がヒュンヒュンと飛んできた。
かなりの速度があって、直撃したらかなり痛いだろうなと推測できる。
……でも、直撃することはないだよなぁ。
今度もまた、石はすべて【ホーリーシールド】の網に絡めとられる。
激減した威力で盾に触れるも、コツコツと気の抜けたような音を鳴らすだけに終わっていた。
これまた【愛撫】が影響しているためか、防御アップの効果自体も上乗せされているように感じる。
やはり使って正解だったらしい。
「っ、今よっ!!」
石の雨が止んだ。
東條がすかさず駆け出す。
「うんっ、東條さん、援護するね!」
西園寺も顔を出して、土台の上へとドンドン【ホーリーショット】を放っていった。
東條を追いこすようにして1体、2体と投石コボルトを仕留めていく。
【愛撫】でMPの底上げもあったため、後のことを考えることなくスキルを使っていた。
「――【マジックショット】!!」
俺も、微力ながら加勢することに。
ふっふっふ。
いつから盾を構えるしか能がないタンクだと錯覚していた?
――残念でしたぁ~! 遠距離魔法も使えますぅ~!!
イェ~イ、ねぇねぇ、今どんな気持ち?
圧倒的多数で、圧倒的優位なステージ作ってもらって開始した戦いなのに。
手も足も出ず、次々と倒されていく気分は?
詰んでるのに、効果無いのに。
それでも石を準備することしかできないって、どんな気持ちなの君たち?
俺わかんないからさ、教えてよコボルト君!!
「KOBO――」
とうとう残った投石コボルトたちの間で、石の標的がバラけてしまう。
多くは未だ俺へと向いているが、少数は迫る東條に投げていた。
こっちは再び西園寺を背に庇い、盾の絶対防御でダメージ0である。
「っ――はぁっ!!」
東條の方も、石の数が少なければ幾らでも避け様があった。
一つを普通に回避したかと思うと、残るは両手剣を構えて弾いている。
そして次弾が来る前に、いよいよ土台上へと昇り切った。
「せぁっ、やぁっ!!」
あとはもう、東條に任せるだけで終わりである。
投石コボルトを一体一体、大きな剣で真っ二つにしていった。
「――これでっ、最後よっ!!」
残り1匹を。
自らの身を守ろうとして掲げられた、巨大な右腕もろとも。
その両手剣で、一刀両断にしたのだった。




