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第35話 戦術の幅を広げて、偶然に出会っちゃえばよくない?


「行くぞ、東條――」


「ええ、お願い!」



 まず前衛の東條を対象に、スキル【愛撫あいぶ】を発動する。

 



 ――直後、東條の背中に近い腰辺りに、魔力の光が集まった。



 黄色い手形のような跡になり、薄っすらと淡く光る。

 まるで、そこを撫でろと指し示しているかのようだった。 

 


「えっと、雨咲君?」 


「どうかした?」



 一瞬固まった俺を、二人が心配してくれた。

 手を上げて大丈夫だと応じる。


 背後の腰という位置的に、東條本人が気づいてないのはともかくとして。

 西園寺の位置からは、確実に視認できるような手跡となっていた。


 にもかかわらず。

 西園寺はそれに気づいた様子はない。

 ……あれも、【調教ミッション】の画面みたく俺にしか見えてないようだ。



「……その、東條。腰にマークみたいな光ができてるんだが、触っても大丈夫か?」


「えっ、腰? マーク?」



 東條は素早く振り返って、自分の腰回りをキョロキョロと確認する。 

 右側から、あるいは左側からと見てみるが、黄色い手形を認識できた様子はない。

    

 西園寺も東條の腰に視線を向けたが、ピンと来ていないように首を捻っていた。



「……私は見えないけど、雨咲君には見えているのでしょう? ――構わないわ、やってちょうだい!」



 だが東條は、疑うような様子を一切見せなかった。

 嫌がったり、不快感を持った感じさえない。 

 むしろ俺がスキルを使いやすいようにと、若干腰を突き出したようにさえ見える。

  

 東條の表情にあるのは、俺への信頼。


 

 ――それを感じ取って、心がたかぶらずにいられようか、いやいられまい!



「行くぞっ――」


 

 背が高くスタイルの良い東條が、図らずも色気あるセクシーなポーズで待っててくれている。

 

    

 ――それを目にして、心がムラムらずにいられようか、いやいられまい!

   


 ……いや、流石に東條のその体勢はエロいって。 



 東條の腰付近。

 黄色く光った手形へと、自分の手を照合させるように重ね合わせる。




「んっ、あっ――」


 

 東條が、小さく声を上げる。

 腰も電流が走ったかのように、ビクッと動いていた。


 すると絵筆をはらったみたいに、手形の跡が右から左へとスライドする。

 東條の左脇腹辺りでかすれるようにして、魔力の光は途切れていた。


 そこまで手を動かして撫でろということか……。

 


 手本に従うように、東條の細い腰回りを優しく撫でていった。


 

「――ひゃんっ! あっ、あっ、んん~っ!」

     


 普段は凛々しくクールな東條が、異性を感じさせるような甘い声で鳴く。

 あまりの気持ち良さに思わず出てしまった、そんな風に聞こえた。


 東條が取り繕うとする余裕さえ失くすほど、タッチした箇所に生じる快感は凄いらしい。

 撫で終わった東條の腰は、なおもその余波を受けているかのようにビクッビクッと動いていた。


 ……その腰の動き、いやらし過ぎるからやめて。

 

  

「っ~……――あっ!」



 だが漏れる声を必死に抑えようとしていた東條に、変化が生じる。 


 全身に、オーラのような魔力がまとわれたのだった。

  

  

◆ ◆ ◆ ◆


[ステータス]

●基礎情報


 名前:東條とうじょう雪奈せつな

 ・ 

 ・ 

 ・  

●能力値


 Lv.3

 HP:14/14(基礎11+ス3) +3↑ 

 MP:4/4(基礎1+ス3) +1↑

 筋力:8(基礎5+ス3) +2↑

 耐久:6(基礎3+ス3) +1↑

 魔力:3(基礎0+ス3) +1↑

 魔耐:4(基礎1+ス3) +1↑

 敏捷:6(基礎3+ス3) +1↑

 器用:5(基礎2+ス3) +1↑


※(+3)=【全能力値+3】


【愛撫】全能力値20%↑ 残り00:01:39

 

 

   

「凄い! 力があふれ出てくるみたい!」    

 


 東條にも、全身を包む力強い魔力が見えているようだ。

 掌を握ったり開いたりして、自分に確かにバフがかかったことを実感している。



「制限時間はどうやら100秒のようだ! 今はもう90秒切ってる!!」


 

 東條のステータスに表示された残り秒数。

 素早くそれを叫んで、二人と情報を共有した。



「わかった! 行くわ――」



 東條は瞬時に、このまま戦闘を開始することを判断した。

 西園寺の分まで【愛撫】を待つよりも、秒数的にそうした方がいいと考えたのだろう。


 それが殆ど言葉を交わさずとも、俺と西園寺にも伝わった。

 西園寺への【愛撫バフ】は一旦保留にし、東條の強化だけでミニゴーレムへ挑むことに。


 

「っ!!」



 駆ける東條は、不思議な力に後押しされているかのように速かった。

 能力値の数値的には1しか上がっていない。

 だが瞬く間に、ミニゴーレムとの距離を縮めてしまう。


 

「東條をサポートする!」 


「うん、わかった!」


 

 これまた短いやり取りだけで、西園寺と意思を通じ合う。


 西園寺はすぐさま魔法の発動に取り掛かった。

 それを視界の端で認識した後は振り返らず、東條を追うように駆け出す。



「はあっ、せあっ!!」



 気迫のこもった東條の声。

 さっきあれほどつやのある甘い声を出していた人と、同一人物とは思えないほど力強い。


 大きな両手剣で、ミニゴーレムを次々と切りつけていた。

 その重さを物ともしないように、魔力にまとわれた腕は軽々と両手剣を振っている。


 攻撃することで削れる岩石の量も、明らかに昨日より多い気がした。

 

   

「ん;hふぁsれ*うr」



 だが。 

 ミニゴーレムは、岩石でできた魔法生物である。

 無機質で、体の損害のことなど全く意に介さない。

 

 岩の拳で、襲撃者である東條へ殴りかかろうとした。

 


「――東條!」


「ええっ!」


 

 東條が後ろにステップしたのと入れ替わるように、体を前に滑り込ませる。

 そうして盾を構えて待ち受けた。

 


「――【ホーリーシールド】!!」



 ほぼ同時に。

 後衛の西園寺から、援軍の魔法バフが届けられる。

 タイミングが完璧だった。


 温かい光が降り注いだかと思うと、全身が半透明な魔力の壁に覆われる。


 自分の動きが阻害されることもなく、それでいて何者かに守られているような心強さがあった。


 ミニゴーレムの岩の拳を、盾で受け止める。


                

「っし!!」



 岩石が盾に触れる瞬間。 

 盾より先に、見えない緩衝材にでもぶつかったかのように。

 攻撃の威力がグッと和らいだ。

 

 手に伝わる衝撃もほとんどなく、痺れや痛みに関しては全く感じない。



「ん%ぁお#ぇふ)ぁ@」   


 

 逆の拳で、ミニゴーレムがさらに殴打を続けてくる。

 今度もどっしりと踏ん張って、盾で受け止めた。



「ふんっ!」 


 

 やはり、拳が見えない障壁にでも阻まれたように。

 ミニゴーレムの拳は、殆ど威力を殺されていた。


 流石に生身だと痛そうだが、盾越しだと全く脅威に感じない。

 いくらでも受け続けられる自信がある。


 それほどまでに、西園寺がくれた【ホーリーシールド】の強化はありがたかった。 


    

「せいっ、やぁっ、たぁっ!!」



 俺がミニゴーレムのヘイトを買っている間に。

 東條が次々と斬撃を繰り出していく。


 純粋に硬く、攻撃が通り辛いはずの岩石ボディー。

 それをいとも簡単そうに、東條は破壊していった。



 そして赤く光る小さな核が、岩の体から顔を出す。


 

「せあぁっ!!」



 最後。

 東條の渾身こんしんの一撃により核が破棄され。

 ミニゴーレムは完全に瓦解したのだった。



◆ ◆ ◆ ◆



「ふぅ……」

    


 戦闘の終了を感じて、ホッと息をつく。

 東條も両手剣を下げ、リラックスした体勢を取っていた。



「お疲れさま、二人とも!」



 西園寺が傍まで駆けてきて、その頑張りをねぎらってくれる。

 


「お疲れさん。【ホーリーシールド】、よかったぞ」



 こちらもお返しにと、西園寺の功績を手放しに褒める。

 お世辞でなく、あれでかなり戦闘が楽になった。 



「そう? ならよかった。えへへ」  

 

    

 西園寺は褒められて、照れ臭そうにはにかむ。

 ……笑顔の西園寺は、やっぱり抜群に可愛かった。

  


「――あら。どうやら時間が来たようね」



 東條の声で振り返り、その全身を改めて観察する。

 東條を覆っていたオーラの様な魔力が、次第に弱まっていく。

 

 そして“残り00:00:00”となると同時に、魔力は完全に消えてしまった。



「東條さん、凄く強くてカッコよかったよ!」

 

「そう、かしら? ありがとう西園寺さん」



 西園寺の真っすぐな褒め言葉に、今度は東條が照れていた。

 ほんのり赤くなってモジモジする東條さん、ギャップで超可愛い。


 

「――それにしても。東條さんの攻撃だけでミニゴーレムを倒せたのはデカいね」   


 

 西園寺が切り替えるように、今の戦闘の振り返りを始めてしまう。


 えっ。

 俺は気にしないから、もっと美少女二人でイチャイチャしてもいいんですよ?

  


「……ああ、確かにデカい。【ホーリーショット】――つまり魔法の火力を必須としなくてもよくなるからな」


 

 Eランクダンジョン、特に今いるダンジョンで一番“硬い”のが、あのミニゴーレムだ。

 それを突破するために、昨日までは魔法による攻撃を必要としていた。


 しかし【愛撫バフ】ありとはいえ、だ。

 東條の近接攻撃でも倒せるとなれば、戦闘の幅が大きく広がる。


 一番耐久の高いミニゴーレムに通じるなら。

 Eランクダンジョン内の全モンスターに通じるという理屈だ。


 ……やはり、近接戦闘の火力アタッカーがいてくれると全然違うな。


 

「……まあ、その【愛撫】は、もう今日は使えないけれど。前進には違いないわね」 



 東條がどこか名残惜しそうに言う。


 本人は無自覚なのか。

 撫でられた感触を思い出すようにほんのり頬を赤く染め、自分で自分の腰へと触れている。


 物欲しそうというか。

 もう一度【愛撫あいぶ】を受けてみたいかのような態度にも見えてしまう。


 ……たった1回で、癖になっちゃうほど気持ち良かったですかい?

 

 

「……そういえば西園寺の分も残ってるけど。どうする、次の戦闘で使ってみるか?」


「あっ、えっと! わ、私はまだ良いかな、うん! 切り札っていうか、秘密兵器っていうか、大事な場面に取っておきたい的な!?」



 話を振ると、西園寺は慌てたように顔を赤くする。

 そうしてまくし立てるように遠慮した。

 

 だがその目は無意識に、先ほど撫でられていた東條の腰へと向いている。



「……ゴクッ」



 何かを想像したかのように、西園寺の喉が鳴った。


 まるで“自分も同じようになってしまうのではないか”。

“撫でられて思わず声が出てしまうほど、凄い快感が待っているのではないか”。


 そうしたことをイメージして、体が無意識に反応してしまったかのようである。

 

 ……まあ実際がどうかはわからないから、見て見ぬフリしておくけどね。


  

◆ ◆ ◆ ◆  


 

 その後。

 ダンジョン探索はスムーズに進行した。

     


 ゴブリン3体との戦闘が1回。

 コボルト2体との戦闘が2回。


 

 どれも西園寺への【愛撫バフ】を挟むことなく、無傷で勝利することができた。

 

 今のところ同数、あるいは数的有利ならほぼ完勝である。


 西園寺が【調教(バンド)】という、自主的なハンデを持っていることをもあわせ考えると。

 自分たちの実力が間違いなくついている実感が持てたのだった。



「おっ、階段じゃん」



 そしてEランクダンジョンでは初めて、下層へと降りる階段へ到達した。


 3人が横に並んでも余るほど幅は広い。

 途中で滑らかにカーブしており、らせん状になっていることが予想できた。


 ダンジョンはその難易度に応じて、階層がドンドン増えていく。

 通常は下に行けば行くほどダンジョンは複雑で、かつモンスターも強い。

 そして最下層には、ダンジョンを守る“守護者”・“ボス”が待ち構えているのだ。



「どうしよっか? 今日はサクサク来れたから、下に降りてみる?」    

  

「ええ。私はそれで問題ないわ」   

  


 二人から視線を向けられ、一瞬考える。

 特に降りたくない理由は見当たらない。

 

 西園寺も東條も下層挑戦に前向きなようなので、行ってみてもいいか。



 そう判断し、言葉にしようと思ったところだった。



『……そう?』


『……かもしれない』


『え~……だよ~!』

   


 階段から、声が聞こえてきた。

 複数の、女の子の話し声のようである。 

 

 誰かが、階段を上がってきているのだ。



「――うぅぅ~まさか撤退することになるなんて」



 互いに顔が見える位置まで、相手がやって来る。

 やはり声の通り、3人組の可愛らしい少女たちだった。 


 どこかで見たことあるような、似た制服デザインの冒険者(ウェア)を身に着けている。



「――って、あれ? 雪奈せつな先輩!?」



 そして先頭の女の子が。

 東條を見て、驚いたように声を上げたのだった。


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