第34話 成長の方針について、しっかり意思疎通をすればよくない?
「――んっ。いいよ、雨咲君。来て……」
すべてを受け入れてくれるような、西園寺の慈愛に満ちた優しい声。
精一杯に開いた口の中では、唾液が透明な糸のように引いていた。
何かを待つように微動する舌も、まるで卑猥な生き物のようでとてもいやらしい。
清楚で穢れない西園寺が無意識に作り出す、そんな背徳的な光景に。
思わずゴクリと唾を飲み込む。
「よしっ、行くぞ――」
だが西園寺がこうして待ってくれているのに、俺が躊躇うわけにもいかない。
そう覚悟を決めて動き出す。
慎重に、ていねいに、かつゆっくりと。
西園寺の口へ――
「……どうだ、飲めるか?」
――ペットボトルに入った水を注いでいった。
「んっ、ごくっ、ごくっ……」
西園寺の口内へ、少しずつ水が入っていく。
入れたそばから喉が動き、その奥、食道の先へと消えていった。
[調教ミッション]
●デイリーミッション
容器に触れず、主人に水を合計500ml飲ませてもらう
報酬:MP+2
↓調教Lv.1により各+1、調教ポイント+20
報酬:MP+3 調教ポイント+20
↓調教布により各+1、調教ポイント+50
報酬:MP+4 調教ポイント+70
現在114/500ml
― ― ― ― ―
西園寺の【調教ミッション】。
その“現在114/500ml”を確認し、一度ペットボトルの傾きを戻す。
そうして水の注ぎを一旦止めた。
「んっ……」
西園寺もそれに気づいて、ゆっくりと口を閉じた。
また顎の下辺りで、受け皿のように構えていた両手も一度おろす。
「よし、ちゃんと飲んだ量、ミッション画面に反映されてるぞ」
「そっか……よかった!」
嬉しそうな西園寺。
唇の端には、少し飛び跳ねた水がついていた。
まるで口から垂れてしまった唾液のようで、とてもいやらしい光景に見えてしまう。
「……どうだ、何か注ぎ方を変えた方がよさそうか?」
自然な仕草を意識して、ミッション画面へと視線を外す。
西園寺は気づいた様子もなく、笑顔で首を横に振った。
「ううん、このままで大丈夫だよ。雨咲君の手の加減、バッチリだから! んっ――」
そうして西園寺は続きを促すように、再び口を開けて待機の姿勢を取った。
こぼれた時用のためにと、両の掌で受け皿も作る。
その手首には、真っ黒な【調教布】が装備されていた。
まるで西園寺が輪状の手枷をはめられ、自由を奪われているかのように錯覚する。
それは穢れ無き美しい聖女が虜囚となって、敵の施しを受けているような背徳的場面を連想させた。
西園寺さん、その無防備な表情もエッチすぎるって……。
「……わかった。じゃあ続けるぞ――」
何とか西園寺のエッチな聖女イメージを振り払い、【調教ミッション】を再開する。
そうして慎重に進め、トイレ休憩も挟んで時間をかけた結果。
無事、500mlの水を飲み切ってもらうことができたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
[ステータス]
●基礎情報
名前:西園寺耀
・
・
・
―保有調教ポイント:220→290
●能力値
Lv.5
HP:16/16(基礎10+ス6)
MP:14/14(基礎8+ス6)→18/18(基礎12+ス6) New!!
筋力:9(基礎3+ス6)
耐久:11(基礎5+ス6)
魔力:10(基礎4+ス6)
魔耐:16(基礎10+ス6)
敏捷:13(基礎6+ス7)
器用:13(基礎6+ス7)
※ス:スキル補正
【全能力値+3】
HP・MP・筋力・耐久・魔力・魔耐+3
敏捷・器用+4
「一気にMPが+4だよ! 凄い凄い!!」
自分のステータスを見て、西園寺が飛び跳ねんばかりに喜んでいる。
一度の【調教ミッション】だけでそれだけ能力値が増えれば、そりゃ嬉しくもなるだろう。
「やっぱり【調教布】、解放して使えるようにしたの大正解だったね!」
今は手首から外れ、ただの黒い布となっている調教装備。
西園寺はそれを、まるで誇らしいものでも見せびらかすように手に持つ。
経験値アップも魅力的な恩恵だが、それはあくまで【調教才能】と重ね合わせた副次的なもの。
今回のように【調教ミッション】で、報酬を増加させるのが【調教布】の本来の仕様である。
「【調教Lv.1】っていうのと合わさって、単純に倍だものね」
「ああ。それに貰える調教ポイントも増えてる」
若干羨ましそうな東條へ同意するようにして、西園寺のステータスを確認する。
保有ポイントを見てから【調教ツリー】画面を開いた。
[調教ツリー 従者:西園寺耀]
保有調教ポイント:290
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・
・
●〈ジョブ〉
―マジックショット ○
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―ジョブ 神官 ○
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―ヒール ○
|
―ホーリーパワー
―ホーリーシールド
・
・
・
― ― ― ― ―
「【ホーリーパワー】も【ホーリーシールド】も、どっちも向上スキルだな」
【ホーリーパワー】は一定時間、対象の筋力・魔力値を上昇させる。
【ホーリーシールド】は耐久・魔耐を上げるスキルだ。
「本来300ポイント必要だけど、【調教才能】の効果で50ポイント少なくて済むから習得できるぞ。どうする?」
他にも、〈基礎〉の枝から伸びている能力値を解放する手もある。
だが西園寺は、今回については〈ジョブ〉の方を選んだ。
「……じゃあ【ホーリーシールド】をお願いしようかな。二人のケガを少しでも少なくしたいから」
西園寺の答えは簡潔でわかりやすく、俺と東條への優しさに満ちたものだった。
純粋に嬉しくなると同時に。
さっき、エッチな聖女服姿の西園寺をイメージしてしまったことを、心の中でこれでもかと懺悔する。
『くっ、私は、絶対に雨咲君の雨咲君には屈しないからね!』と脳内で捏造ボイスASMRしてすみませんでした……。
凄くエッチで可愛かったです……ごめんなさい。
[調教ツリー 従者:東條雪奈]
保有調教ポイント:100
・
・
・
●〈ジョブ〉
―強撃 〇
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―ジョブ 戦士
―ジョブ 弓使い
―ジョブ 盗賊
「……で、東條はどうする? 【強撃】のスキルからは、ジョブの【戦士】・【弓使い】・【盗賊】が伸びてるけど」
てっきり【強撃】からは近接戦闘のジョブだけが選べるようになると思っていた。
だが遠距離戦闘だろう【弓使い】も、選択肢の一つとして挙がっている。
西園寺の【神官】の場合と同様に、どれも調教ポイントが200必要だ。
まだそこには足りないが、今の内から何になりたいか考えておいてもいいだろう。
「大丈夫、もう決まったわ――【戦士】でお願いします」
ほとんど考える間などなく、東條は即答しきった。
その表情に、迷いや感情の揺れなどは一切感じない。
「【強撃】を選んだ時からこの手で、自分の力で。道を切り開きたいと思ってたの。私の思い・イメージに合うのは【戦士】しかないわ」
東條からはやはり。
“直接的・物理的にモンスターと戦って勝りたい、パワーで圧倒したい、渡り合いたい”という強い気持ちが感じられた。
遠距離で戦う【弓使い】。
スピード・テクニカルな【盗賊】。
それら2つは、東條の求める“自分の強さ・力”のイメージとは異なっているのだろう。
「OK、わかった。【調教ポイント】が200ポイント貯まったら、すぐに解放しような」
「ええ、よろしくお願いするわね」
こうして従者二人と、成長方針に関する意思疎通を欠かさない。
そうした細かな配慮が、本人の望む未来へと結びつき。
ひいては、俺の不労所得生活へとつながっていくのだ。
「――と、言うことで。では、西園寺さん、やりますか」
「……はい、お願いします、雨咲君」
“すべてを言わずともわかっている”。
そう言わんばかりに、西園寺はすでに顔を真っ赤にしていた。
何度やっても慣れることはなく、恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。
羞恥心で一杯になっている、とても魅力的な西園寺へ。
魔力の鎖で全身を拘束されることになる、【調教ツリー】の解放を始めたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「さて、っと……」
西園寺の【調教ツリー】解放を終え。
今日のダンジョン探索を開始した。
昨日と同じく、本日もEランクダンジョンにお世話になっております。
「次の戦闘で、スキルを試しておくか」
「そうだね。【ホーリーシールド】がどんな感じか、余裕があるうちに見ておきたいし」
西園寺の新スキルもそうだが。
自分が新たに習得したスキルの効果も、実際に目にしておきたかった。
[ステータス]
●基礎情報
名前:雨咲颯翔
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●スキル
【調教】
■調教スキル
【テイム】
【調教ツリー】
【従者果実】
【調教才能Lv.2】
【ヒロインヒールLv.1】
【愛撫Lv.1】 New!!
【マジックショットLv.1】
【セカンドジョブ】
【強撃Lv.1】
昨日、西園寺の【従者果実】を収穫した際、習得したものだ。
[従者果実 収穫画面]
保有調教ポイント:360
●西園寺耀 果実一覧
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〈調教 果実1〉【調教ポイント 経験点20】
必要調教ポイント:50 収穫日数:1日
→収穫まで残り01:22:31
〈調教 果実2〉【愛撫 経験点小】
必要調教ポイント:0 収穫日数:1日
→収穫まで残り01:22:31
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【調教布】を解放したことに対応する〈調教〉の果実である。
収穫可能にするための必要調教ポイントが0で、最初から収穫できる状態だった。
[調教スキル 能力UP画面]
“調教スキル:愛撫Lv.1 ※取得済み”
それぞれの従者に対し、1日1回のみ使用可能。
従者を優しく撫でてあげることで一定時間、能力値を20%上昇させる。
また、調教Lv.1×10%、追加で能力値を上昇させる。
さらに、効果時間中、調教装備のデバフ効果を無効化する。
保有調教ポイント:360
必要調教ポイント:――
……【愛撫Lv.1】○
― ― ― ― ―
「……えっと。要は“対従者専用”のバフスキルだな」
ちゃんと二人にも効果を説明をしておく。
【愛撫】というスキル名を口にしたときこそ、二人とも微妙な反応だった。
しかし話していくと。
デメリットらしいデメリットもない、有用なバフスキルだと判断したらしい。
「おぉ~! 雨咲君、それ凄いよ!」
「ええ。【調教Lv.】のない私でも能力値が20%アップするってことでしょ? とても良いじゃない」
西園寺も東條も、かなり好意的な反応だった。
やはり恥ずかしがったり隠すことなく、ちゃんと説明したことが良かったらしい。
“従者一人につき、1日1回まで”という制限も“切り札的な凄いスキル”というイメージを補強したようだ。
「それに【調教布】の能力マイナス効果も、そのスキル使用中は無しになるってことだよね?」
西園寺は、その手首に再び装着した【調教布】をポンポンと叩いて見せる。
今は正にその能力制限中らしいが【愛撫】を使えば、その間だけは【調教布】のデバフを免れるらしい。
「……ちょうどいい、モンスターだ」
効果の内容を共有したところで、ちょうどモンスターに出くわす。
1体で、動きも鈍いミニゴーレムだ。
未だこちらに気づいておらず、俺たちだけが相手を認識できている状態である。
好都合だと、早速スキルを試すことにしたのだった。
ステータスの能力値について、少し表記をいじりました。
例)
HP10/10(4+3+3) 旧
↓
HP10/10(基礎4+ス6) 新
みたいな感じにしています。
元々の値を“基礎”とし、スキルで追加される補正数値をまとめて“+ス○”としました。
内訳は本文中の
※ス:スキル補正
【全能力値+3】
HP・MP・筋力・耐久・魔力・魔耐+3
敏捷・器用+4
ですね。
もちろんこれが完成形ではなく、まだまだ変えることもあるかと思います。
能力値や【調教ツリー】の表記については分かりやすいと思えるものを、今後も採用していく予定です。




