第33話 勉強も頑張ってから、補助してあげればよくない?
気分良く迎えた翌日の火曜日。
ホームルームで、授業の時間割変更が伝えられた。
いつも眠い時間帯にある“ダンジョン総合”。
それが1時間目にあるのは、とても不思議な感覚である。
「……時間割が変わったというイレギュラーはありましたが。先週にお伝えしていた通り、小テストをしようと思います」
加藤先生は全く動じることなく、ニコニコしながら淡々と告げる。
クラスメイトたちから、ブーイングのようなものが起こることはなかった。
不満はあるだろうが、時と相手を選ぶように聞き入れている。
加藤先生は今年で50歳を迎えたそうだが、その身体に老いの痕跡を見つけることは難しい。
シミやシワもほとんどなく、腹回りもかなりスッキリしている。
とても穏やかな先生だが、どこか隠しきれない歴戦の戦士感がある。
流石は元冒険者だ。
「はい、ではテスト用紙を配りますので。自分の分を取ったら後ろに回してくださいね。……あっ、そこ、開始までは裏向けたままでお願いします」
急いで教科書類をカバンに仕舞い、準備を整える。
「10分間測りますが、まあすぐに終わると思います。――では始めてください」
一斉に用紙を表返す音がした。
出席番号、名前を記入して問題を解いていく。
[ダンジョン総合 小テスト 10点満点]
大問1 以下の“冒険者科高校”に関する(1)~(4)の文章について、正しければ○を、間違っていれば×を、それぞれ( )内に書きなさい。
また×の場合は間違っている個所に下線を引いて、正しい語句や数字に直しなさい。(配点:2点×4)
・
・
・
― ― ― ―
「…………」
なるほど。
単純な○×問題ではないのか。
蚊も殺したことが無い仏みたいな顔してるくせに、ちょっとだけいじわるな加藤先生らしい。
“冒険者科高校”について……か。
確かに授業でやったから、出題されてもしょうがない範囲である。
[ダンジョン総合 小テスト 10点満点]
・
・
・
(1)冒険者科高校は日本の各都道府県に1校、合計で47校ある。
( )
― ― ― ― ―
あ~これは簡単ですわ。
( )に×と記入する。
えーっと……でもどこから下線を引くか、ちょっと迷うな。
『各都道府県に1校、合計で47校』の下にシャーペンを走らせる。
『東京都・大阪府・北海道に各2校ずつ、他府県に1校ずつ、合計で50校』っと。
[ダンジョン総合 小テスト 10点満点]
・
・
・
(2)冒険者科高校の生徒は独自に、冒険者のランク昇格試験を受験できる。
( )
― ― ― ― ―
これは○っすね。
加えて、俺や西園寺が受けたような正規の昇格試験を受けてもいい。
機会が単純に倍あるということだ。
良いよねぇ~羨ましいわ。
[ダンジョン総合 小テスト 10点満点]
・
・
・
(3)冒険者科高校の定員は各学年25名×4クラスで、合計100名である。
( )
― ― ― ― ―
はいはい、×ねぇ~。
“冒険者科高校”と“25名”という選ばれた少数精鋭っぽい感じが、物凄く正解っぽい文章さを醸し出している。
だが完全にひっかけだ。
2点、ゴチになります。
『各学年40名×4クラスで、合計160名』ですね~。
[ダンジョン総合 小テスト 10点満点]
・
・
・
(4)冒険者科高校の生徒は“他校の生徒とパーティーを組んでダンジョン探索することはできない”という校則が定められている。
( )
― ― ― ― ―
これは完全に知識問題だ。
そんな校則はない。
あったら東條とパーティー組めてないし。
でも覚えてない人にとっては、非常にいやらしいところをついてくる文章だろう。
そんな校則、ありそうだもんね。
『……という校則はない』っと。
[ダンジョン総合 小テスト 10点満点]
・
・
・
大問2 あなたが授業中、“冒険者科高校”に関して一番印象に残った話を書きなさい。ただし、大問1から読み取れること以外とする。(配点:2点)
― ― ― ―
あっ、優しい。
救済問題だ。
何を書いても多分2点貰えるが、できれば加藤先生好みの話を出したい。
こういう時に喜ばれるのは、授業中の小話や脱線話を書くことである。
そうして“僕・私は先生の話を隅から隅までちゃんと聴いてますよ~”アピールをするのだ。
うーん……。
『専用の食堂が複数あって、常に食事面でのサポートが受けられる』はありきたりか。
『学校が所有するダンジョンを使って、常に実践的な授業を受けられる』は純粋に羨ましかった記憶がある。
……他に思い浮かばなかったらこれを書こう。
――あっ、そうだ。
『卒業生の高ランク冒険者が特別講師として授業を行ってくれたり、卒業後の進路相談にも乗ってくれる』で行こう。
暴露系配信者みたいな躊躇の無さで、加藤先生が言っていたのを思い出した。
“要はクランや企業側も有力な人材が欲しいんですよ。欲しい人材の見極めのために、せっせとあちら側も足を運んで来てるんでしょうねぇ~”と、楽しそうに語っていたな……。
「ふぅ~……」
加藤先生、満点はいただいたぜ。
◆ ◆ ◆ ◆
「へぇ~。そんな小テストがあったの」
放課後、ギルド会館の貸会議室にて。
先に来ていた東條へ、雑談的に話して聞かせる。
「ああ。まあ、授業をちゃんと聴いてれば対応できるレベルだったけどな」
東條は興味深そうに、相槌を打ちながら聞いてくれていた。
外から見ると自分たちの学校がどういう風に映っているか、客観的に知りたかったのだろう。
「私たちの育成も一生懸命にしてくれるし。勉学も疎かにしない。……雨咲君って、やっぱり真面目なのね」
美人の東條から、そう評価されることに悪い気はしない。
だがむしろ東條の方が、嬉しそうな顔をして褒めてくれる。
まるで自分の信じた相手が誠実だと改めてわかり、それを嬉しがるような笑顔だった。
……東條さん、そんな魅力的な表情を異性に見せちゃダメっスよ。
俺じゃなきゃ、一目でコロッと落ちちゃうところだぜ。
「……あ~そうそう。俺は真面目なんだよ、うん」
この話題を引きずっても、得るものはないと即座に判断する。
「だから、西園寺が来る前に。東條の【調教ミッション】を終わらせてしまおう。今日はトレーニング系だ、今から始めればすぐに片付く」
「ふふっ。ええ、そうね」
東條は楽しそうに品良く笑って、提案を素直に受け入れてくれた。
全く嫌味を感じないどころか、信頼しているからこその気楽なやり取りのように伝わってくる。
くっ、可愛いなチクショウ。
[調教ミッション]
●デイリーミッション
腹筋50回 背筋50回
報酬:HP+2
腹筋 0/50
背筋 0/50
― ― ― ― ―
「今日は腹筋と背筋、それぞれ50回ずつだ」
東條の左上、ミッション画面を見てそのまま伝える。
「わかったわ……んしょっ」
東條もすぐさま切り替え、腹筋を開始しようとその場に寝転がった。
「足の補助、お願いできるかしら?」
「ああ」
あまりに自然に言われたため、ほぼほぼ反射的に答えていた。
そしてイエスと言った限りは、手伝わないととしゃがみ込む。
青いブーツに覆われている、細く綺麗な足首を。
両手で押さえつけるようにしてギュッとつかんだ。
「じゃ、始めるわね。――1,2,3……」
――なっ、巨大な山が、連なって迫ってきたぞ!?
……と思ったら、東條の胸だった。
東條の綺麗な顔と一緒に、何事もなかったかのように遠ざかっていく。
だがまた目の前まで急接近したかと思うと、ゆっくりと離れていった。
それの繰り返しである。
……上体を起こす腹筋の動作なんだから、それが当たり前なんだけどね。
「22,23,24……」
しかし眼前まで迫ってくる東條の胸のインパクトたるや。
雷が落ちて来たくらいの衝撃に匹敵するだろう。
なるほど、これが臨場感や迫力を生む3Dメガネの起源に違いない。
東條の胸に感謝の念が湧き、思わず頭を下げたくなる。
……えっ?
いっ、いや、顔を胸に埋めたいとか、そんなやらしい気持ち、一切ないって!
深呼吸して、あわよくば拝もうとした手で横から揉みしだきたいとか、全く、これっぽっちも思ってないし。
マジで、本当マジで、信じて!
お願イだから!!
一生のおねパイ!!
あ~あ、伝家の宝刀、一生のおねパイ使っちゃったわ~。
……何言ってんだろうね、俺は?
「OK、50回行ったぞ」
「ふぅ……次は背筋ね。今度も足首、お願いするわ」
ほとんど息を乱さずやり切り、東條はすぐ体勢をうつ伏せに変える。
またまた頼まれてしまったので、渋々ながらも補助を続けた。
「1,2,3……」
今度は背筋なので、流石におっぱいが迫ってくる事態にはならない。
だが背後を無防備にさらしている状態なので、東條の脚やお尻がとてもよく見えた。
東條はピタリと貼り付くような、ショートパンツ型のボトムスをはいている。
そのためお尻のラインが綺麗に出ていて、その形の良さが嫌でもはっきりとわかってしまう。
またお尻の内側に食い込むようなシワが生まれる様子も、非常に魅惑的な光景のように映った。
「33,34,35……」
そのパンツから伸びた長く綺麗な脚も、極めて強く目を惹いた。
背筋の度に、ふくらはぎや太もも裏へわずかに力が入る。
その微細な、注意しないと気づけないような動きが丸見えになっていて。
まるで東條の隠された、センシティブな秘密を覗いてしまっているような気分になる。
西園寺もだけど……東條って、本当に全身がエロいんだな。
隅々《すみずみ》まで触って確かめたくなるけしからんボディである。
変な気分を振り払うべく、視線を何とか【調教ミッション】画面の回数へと固定する。
そうして頑張る東條を鼓舞するように、残りの回数をカウントしていった。
「――48,49、50!!」
終わりを告げる声と同時に。
東條の全身へ、報酬の黄色い光が走った。
[ステータス]
●基礎情報
名前:東條雪奈
・
・
・
支配関係:主人 雨咲颯翔
―保有調教ポイント:100
●能力値
Lv.3
HP:12/12→14/14(11+3) New!!
・
・
・
※(+3)=【全能力値+3】
無事に【調教ミッション】の報酬を受け取れたようだ。
「――雨咲君、東條さん、お待たせ~!」
そして程なく、西園寺も合流したのだった。




