表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/18

第3話 学校帰りにダンジョン寄っちゃえばよくない?



 癒しの日曜日が終わり、絶望の月曜日が始まる。


 なぜ人は“曜日”などという制度を考え出してしまったのか。

 また仮に思いついてしまったとして、なぜ週休7日制は考え付けなかったのか。

 これだけ月曜日に憂鬱になる人が多いのだから、月曜日は他の曜日負担を肩代わりしていると言っていい。


 こんなの欠陥制度だ。

 よって“月曜日”は、今後“日曜日”に改めよう。 

 つまり日日火水木金土となる。


 これは見方を変えると日火水木金土日ともいえるだろう。

 そうするとオセロ理論(最強)により、日曜日に挟まれた“火水木金土”もひっくり返ってオール日曜日になるのだ。


 ……凄い、天才的な発見をしてしまった。

 自分の才能が恐ろしい。


【ヒロインテイマー】による不労所得計画もありだが。

 ノーベル休日賞並みの発見で、働かずにお金を貰い続ける未来もありかもしれない。



「おはよ~」


「うぃ~っす」


「昨日さ、××ダンジョンに行って6階層まで……」     

 

 

 そんなどうでもいい思考で現実逃避を続けていると、とうとう学校についてしまった。


 周りの学生たちは、月曜日特有の雰囲気など全く感じさないハツラツさ。

 友人を見つけては、休日のダンジョンでの成果などを語り合っている。

 

 ……なるほど。

 楽しい話題を共有しあえる仲間がいる場合、月曜日はむしろそんな相手に会うための素敵な曜日になるらしい。 


 

「…………」  



 我関せずに周囲を観察しながら。

 いつも通り誰とも言葉を交わさず、静かに自分の席に座る。

 そしてこう自分に問いかけるのだ。

 


 ――話す相手がいないボッチはどうすればいいですか?

 


 どうすることもできません。

 おとなしく死んだように生きて、灰色の学生生活を送りましょう。


 あ~つらい。



 そうして“そろそろ俺も異世界転移しないかな~”とかバカなことを考えて時間を潰していた。       

 すると俄かに、廊下がよりにぎやかになってくる。


 これは――



「――おはよう~」


「あっ、耀ひかりぃ~! おはよう!」



 のんびりした調子の声に、多くのクラスメイトが反応する。

 西園寺が登校してきたのだ。



「おはよう西園寺」


「あっ、大野君。おはよう。聞いたよ? ダンジョン攻略、大活躍だったんだって?」


 

 大野君は学生冒険者の中では有望株らしい。

 顔も悔しいが爽やかイケメンで、クラスのトップカーストの一員だ。

 


「そんなことないさ。パーティーのみんなが支えてくれたからだよ。それで、西園寺は――」  

 


 クラスの中心人物が集まり、自然と人の輪のようなものが出来上がっていく。

 いつもの光景だ。

 

  

 クラス内力学では、冒険者として活躍しているかどうかが重要なファクターとなる。


 ダンジョンで華々しい成果を上げた者。

 学生にもかかわらず大金を稼ぐ者。

 高ランクな者。


 そうした分かりやすい要素を持つ者が、人気者となりやすいのだ。

 

         

 ……そんな中。

 冒険者として一切の実績がないのに、トップカースト内にいる西園寺さんマジパネェ。


 本人の圧倒的な見た目の可愛さ、誰にでも好かれる性格や人となり。

 冒険者としての活躍なんてなくても、それらが西園寺を人気者たらしめるのだろう。


 ――えっ、つまり俺が西園寺を育てると、そこにさらに冒険者実績まで加わるかもしれないってこと!?


 

 ……なるほど。

 俺は要するに化け物をつくりあげようとしていたのか。


 西園寺、すまない。

 俺はそれでも、君を陽キャたちの化け物にしなければならないんだ。

 なんたって夢の不労所得生活がかかっているから――



「――おはよう、雨咲君」


「ひゃいっ!?」   


 

 び、ビビったぁぁ。

 いつの間にか輪から離れた西園寺が、俺の席の横に立っていた。


 驚きすぎて変な声出ちゃったよ。

 

 

「お、おはようございます西園寺さん。今日も良い天気ですね」



 頭の中での仕打ちがバレたのではとビビり、ついよく分からないことを口走っていた。



「ふふっ。雨咲君、何で敬語なの? 天気は良いけど」


 

『天気は良いけど』の“けど”って何!?

 天気は良くても私の心中は穏やかではないと、そういう意味が笑顔の裏に込められてるんでしょうか西園寺さん!?     

    


「それで、その、えっと……」



 だがその先の追及はなく。

 代わりに、西園寺は何かを言いたそうにしていた。

 まるでお互いだけが知っている秘密の合言葉を待っている、みたいな。


 一瞬何のことかわからなかったが、自分の左上辺りへチラチラ視線を送っていたことでハッとする。

  


 ――あ~【調教ミッション】の確認ね。




 理解したと、小さく頷くだけで返した。

 西園寺もそれを察してくれた様子。



「ありがとう! じゃ、また」



 輪に戻っていく西園寺。

 グループの女子や大野君たちに何か聞かれているが、西園寺なら上手くやるだろう。



 さて――




[調教ミッション]


●デイリーミッション


 主人とともに30分間、ダンジョン内にい続ける   

 報酬:調教ポイント+100

 



【調教ミッション】、更新されてたなぁ。



◆ ◆ ◆ ◆



「……すでに攻略済みの場所とはいえ、まさか俺もダンジョンに来ることになるとは」

 

 

 放課後。


 学校の最寄り駅から電車で一駅。

 集合場所に指定したダンジョン前へとやってきた。

 


 ダンジョンは、その危険度に応じてランク分けがされている。

 最難関のSランクから、初心者でも安心・安全とされるGランクまで。

 

 冒険者にもランク付けがあり、自分のランク±1のダンジョンが適正とされる。

 

 そしてここは攻略済みのGランクダンジョン。

 それゆえ今のところ、他に冒険者の姿は見当たらない。   

 

 時間潰しにスマホを見ると、メールが届いていたことに気づく。



『ごめんね、今駅に着いたから。すぐに向かいます』



 先日、親以外で初めて連絡先に登録された相手からだった。

 可愛らしく両手を合わせて謝る絵文字つきである。 


 ……女子っぽいなぁ。   

  


「――あっ、雨咲君。お待たせ」



 異性からのメールに軽く感動を覚えていると、その本人の声がした。

 画面から顔を上げると、西園寺の姿がもうすぐそこにあったのである。

 


「いや、大して待ってないから大丈夫だ」    

   

「そっか。……でも目的地が同じ場所なんだから、一緒に行けばよかったのに」



 いや、それは、あれじゃん。

 ただでさえ人気者の西園寺と学校一緒に出るとか、トラブルの元にしかならないでしょう。 

 それに大野君がなんか誘ってたし、邪魔しちゃ悪いじゃん。

  


「まあ、雨咲君には雨咲君の考えがあるんだよね、うん――じゃあ行こっか」


 

 何か知らんが、勝手に納得してくれた。 

 よかった、ふぃ~……。

 

 歩き出した西園寺に合わせ、Gランクダンジョンの入口へと向かう。

 



「――それで、その、今回の【調教ミッション】ってダンジョンに入ることなんだよね?」  



 西園寺はさりげなく、何でもないように装いながらそう尋ねてくる。

 だが“調教”という言葉を口にすることへ明らかに照れというか、羞恥心が混じってるように聞こえた。

 

 ……清楚で無垢な女の子が、それを頑張って隠そうとしているのである。

 ここは気づいてないフリをしてあげようじゃないか。


  

「“入る”だけじゃ足りない。正確には“ダンジョンに30分い続ける”ことが必要みたいだ」


  

 駅にある改札機のような機械に、冒険者証をかざす。


 ペーパー冒険者なので、久しぶりに冒険者証を使った。

 ちゃんと内蔵チップが反応してくれるかどうか、ドキドキである。

 

 だが軽快な音とともにゲートが開いてくれて、ホッと一安心。

 


「ふ~ん、そっか。でも30分だったらすぐだよね」


 

 西園寺も続いてゲートの入場を果たす。


 縦3m以上はあろうかという大きな大きな穴。 

 その入口を進んだ先は異空間――ダンジョンの中に繋がっていた。

 


◆ ◆ ◆ ◆


[調教ミッション]


●デイリーミッション


 主人とともに30分間、ダンジョン内にい続ける   

 報酬:調教ポイント+100

 

  

 現在00:06.38 

 

 


 西園寺が付いてきているか確認するために振り返ると、その西園寺とともに【調教ミッション】画面が視界に入った。

 

 画面内ではタイマーが追加されており、今なお数字が増加し続けている。



“現在00:11.71”――あっ、10秒超えた。



「ちゃんとスタートしたみたいだ。これで後は30分待つって感じかな」 

 

 

 そう告げると、西園寺もホッと息をつく。


 周囲は開けた洞窟となっており、光源がないにも関わらず明るさと視界が保たれている。

 とても不思議な空間だった。

 

  

「で、どうしよっか? 奥に行くの?」


「いや? 行く必要ないだろう」


 

 他の条件がついているならともかく。

 今回は“30分い続ければいい”だけなんだから。


 入口がすぐそこという場所で立ち止まる。

 そして何もしなくてもいいと見せつけるように、地面に腰を下ろした。


 ……あっ、お尻痛い。

 でも立ち直すのは何か格好悪いので、切れ痔のリスク覚悟でそのままに。

 

 将来の俺、スマン!

 不労所得で食っちゃ寝できるようになったら、肛門科か何かにでも通って治療してくれ。


 

「じゃないと、こんなモンスターが日に1回湧くかどうかのGランクダンジョンに来ないって。昨日は筋トレ頑張ったんだ。楽できる時は楽しようぜ」


 

 強くなるのに、劇的なことなんていらない。

 ああいうのは物語の主人公とかに任せておけばいいのだ。

 


「そっか、そうだよね……うん」

  

   

 西園寺も納得したというように、右隣にペタリと座る。

 ……いや、あの、そんなに近くなくても。

 座る場所は他にもいっぱいあるんですけど?

  


 だが指摘するのもなんだし、良い匂いもするので、黙って時間だけを計測することにした。

 

 その後はしばらく、お互い沈黙が続く。

 だが嫌に感じない、心地よい穏やかな無言だった。

  


“現在18:43.11”



 ……もうちょいで2/3か。   



「雨咲君……ありがとう。一緒に来てくれて」


  

 ふと、西園寺が呟くように言う。


 

「ん? ……ああ。まあGランクとはいえ、人は多い方が安心だろう」



 ボーっとしていたのもあって、無難な答え方をしておいた。



「あ、いや、そうじゃなくて――」



 強くはない、やんわりとした否定が返ってくる。

 


「――このミッション。私だけじゃ、ダメなんだよね?」



 おっと~。



「……あれ、俺、そんなこと言ったっけ?」

  


 言葉には結構気を使っていたはずである。

 なので注意深く思い返してみても、“主人とともに”という部分を西園寺に言った覚えはやはりなかった。

    

 そこで、西園寺からクスクスと楽しそうな声が漏れてくる。 



「ううん、言ってないよ。……でも雨咲君の行動見てたら、何とな~くそう思いました。だって私だけでいいなら、雨咲君がここで待つ必要ないもん」  



 鋭い。

 可愛いだけじゃない西園寺さんだな、これは。



「それは、ほら、あれ。美少女とお近づきになりたいという下心だ、うん」 


「び、ビショ、ビショ!? ――そ、そういうお世辞で話を逸らそうとしてもそうはいきません!!」

   


 今、なんか変な鳴き声の生き物いた?

 一応お世辞じゃないんだけどなぁ……。 


 それはそうと、美少女が顔を真っ赤にしながらビショビショなんて言って……。

 エッチなだけじゃない西園寺さんだな、これは。



「……私に気を遣わせないように、ってことだよね。今みたいに。――うん。私がそう勝手に思っておくから。ありがとう、雨咲君」 


 

 何この子。

 メッチャ見抜いてくるじゃん。

 俺検定1級持ちなの?

  

 手強いぜ……。

 



[調教ミッション]


●デイリーミッション


 主人とともに30分間、ダンジョン内にい続ける   

 報酬:調教ポイント+100

 


 現在30:00.00 完



 

 そうして、モンスターが出てくるような劇的展開などもなく。

 まったりとした30分を過ごしただけで、ミッションを達成したのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ