第29話 小さな一勝で、大きな一歩を踏み出せばよくない?
[ステータス]
●基礎情報
名前:東條雪奈
年齢:17歳
性別:女性
ジョブ:なし
支配関係:主人 雨咲颯翔
―保有調教ポイント:0
●能力値
Lv.2
HP:9/9→12/12(9+3) New!!
MP:1/1→4/4(1+3) New!!
筋力:5→8(5+3) New!!
耐久:3→6(3+3) New!!
魔力:0→3(0+3) New!!
魔耐:1→4(1+3) New!!
敏捷:3→6(3+3) New!!
器用:2→5(2+3) New!!
※(+3)=【全能力値+3】
●スキル
【強撃】 New!!
「……す、凄い。能力値も上がってるし、スキルもちゃんとある。本当に、ステータスが見違えるようだわ」
西園寺よりも早く回復した東條は、自分のステータスを見て驚愕していた。
あまりに衝撃だったのか、声も震えているようにさえ聞こえる。
「――雨咲君、ありがとう。あなたにテイムをお願いして、もうすでに良かったと思えてる。本当に嬉しいわ」
正面からまっすぐ目を見つめて、心からの感謝を伝えてくる。
キリッとした固い表情の印象があったが、東條は柔らかな笑顔をしていた。
クールな美人というイメージが強いだけに、微笑む姿は強いギャップを感じる。
だがそれはそれで、とても魅力的に映ったのだった。
「……うぃ。まあそう思ってもらえたならよかった。これからもどんどん【調教ツリー】を解放して、強くなって、俺に還元できるくらい稼げるようになってくれ」
「うぅっ――」
ずっと見ていたくなるような魅力ある笑顔が、一瞬にして引っ込む。
カァッと赤くなった東條は、感情のやり場に困るように視線を彷徨わせた。
「……わかってるわ。その、【調教ツリー】の解放も、強くなるためだって、今正に実感した所だもの。雨咲君も、遠慮しないでね」
とは言ってくれるものの、無自覚なのか。
その涼し気なはずの目をジトっとさせて、唸りながら可愛く睨んでくるんですけど。
……要は、やはり“【調教ツリー】の解放”に、まだ心の整理がついてないんだろう。
特に拘束されて、あられもない姿になることについて。
内心はかなり気になっているご様子だ。
だが俺にその不満をぶつけるのも筋違いだと思ってくれているらしい。
一人でムラムラ――間違えた。
一人で悶々《もんもん》としているようだ。
……真面目だねえ。
◆ ◆ ◆ ◆
「雨咲君、東條さん! 【調教帯】出してみるね!」
西園寺も、遅れて呼吸が整ったようだ。
若干まだ火照りはあるものの、顔に笑顔が戻っている。
【調教ツリー】を解放して得た成果を、早速見せてくれるらしい。
「んっ――」
全く気負うことなく、右の掌を上に向ける。
まるで突如降ってきた雨を確かめるみたいな仕草だ。
そしてその手の上に、魔法陣が出現する。
そこからすぐに、2枚の黒い布が落ちてきたのだった。
【調教帯】だろう。
「お~」
「凄いわね。簡単に出て来たわ」
見学する東條とともに、パチパチと手を叩いて素直に称賛する。
西園寺の手に収まった2つの布は、どちらも真っ黒なリストバンドみたいに見えた。
だが大きさは結構ブカブカで、足に巻くこともできそう。
西園寺が意識すると【調教帯】は虚空に消え。
またさっきのように取り出そうとすると、小さな魔法陣からちゃんと出てきた。
説明通り、自由に呼び出しが可能なようだ。
「へぇ~……おっ!」
西園寺から1つ受け取り、手に持って見る。
俺の魔力に反応したように、黒い布に変化があった。
魔力が走り、桃紫色の怪しい光が模様のように引かれる。
今のが主人による“使用許可”にあたるようだ。
もう片方も同じように受け取り、魔力を走らせる。
怪しいピンクパープルの光を帯びた黒バンドを、2つとも西園寺へと返却した。
「えっと、じゃあ腕に付けてみるね? よいしょ――」
西園寺は白いグローブに覆われた手首を、【調教帯】へと通す。
反対の手首にも同じように【調教帯】を装着した。
西園寺の細い手首に、元々ブカブカだった【調教帯】は丈がかなり余ってしまう。
このままでは西園寺が“気を付け”の姿勢を取っただけで、スルリと手首から落ちていきそうだ。
だが――
「あっ!?」
――【調教帯】が、突然の変化を見せた。
俺の魔力でできた桃紫色のラインが、怪しく光る。
すると【調教帯】が自動で、その長さを縮めたのだ。
勝手に長さが調節された【調教帯】。
それはまるで最初から西園寺の大きさに合わせて作られたかのように、その手首にピタリとフィットしていたのだった。
「うわっ、凄い! ……あれ? んっ、んんっ――」
西園寺は最初、純粋な感動から手首の【調教帯】をペタペタ触る。
だが次第にその感触に違和感を持ったかのように、引っ張ったり取り外そうと試みていた。
「うぅ~。雨咲君が言ってくれた通りだね。自力じゃ、やっぱり外せないみたい」
「……本当ね。うんともすんとも言わないわ」
東條が試しに触れてみるが、【調教帯】が西園寺の手首から外れる気配はまるでない。
純白のグローブに覆われた腕。
その上から、手首にはまっている黒い【調教帯】。
それはまるで西園寺の動きを制限する、片方ずつの手枷のように映った。
「それに、何だか力が出ない感じがするよ」
西園寺は若干重たそうに手を膝につく。
それを聞いて、すぐに西園寺のステータスを確認した。
[ステータス]
●基礎情報
名前:西園寺耀
・
・
・
●能力値
Lv.3
HP:16/16(10+3+3)
MP:10/10(4+3+3)
筋力:6/9(3+3+3-3)
耐久:6/9(3+3+3-3)
魔力:5/8(2+3+3-3)
魔耐:7/10(4+3+3-3)
敏捷:10/13(6+3+4-4)
器用:10/13(6+3+4-4)
※(+3)=【全能力値+3】
HP・MP・筋力・耐久・魔力・魔耐+3
敏捷・器用+4
(-3)(-4)=【調教帯】
「あ~実際に能力値が下がってるな」
HPとMPを除いた、すべての能力値に制限をかけるらしい。
そりゃ身体が重く感じるわけだ。
「そっかぁ~まあトレーニング・育成のための装備みたいなものだもんね」
西園寺は不便さを感じながらも、その効果自体には納得しているようだった。
「――ここで一つ、嬉しいお知らせがあるぞ」
【調教帯】に、さらに利点を与えるべく。
今度は俺だけが見える、自分自身のステータスを確認する。
[ステータス]
●基礎情報
名前:雨咲颯翔
・
・
・
●スキル
【調教】
■調教スキル
【テイム】
【調教ツリー】
【従者果実】
【調教才能Lv.1】→ 【調教才能Lv.2】 New!!
【ヒロインヒールLv.1】
【マジックショットLv.1】
【セカンドジョブ】
【強撃Lv.1】
二人の【調教ツリー】を解放したことで、【調教才能Lv.1】のスキルが成長していた。
そしてその新たな効果が、【調教帯】と関連するのである。
[調教スキル 能力UP画面]
“調教スキル:調教才能Lv.2 ※取得済み”
①調教Lv.を持つ従者に対してのみ発動する。
調教ツリーを解放する際、必要な調教ポイントが50ポイント減る。
②従者が【調教】と名がつく装備をしている場合、モンスターから得られる経験値が1.5倍になる。
保有調教ポイント:440
必要調教ポイント:――
……【調教才能Lv.2】○
― ― ― ― ―
【調教才能Lv.2】で新たに増えた“②”の効果のおかげで。
ただ【調教ツリー】を解放する際に、必要調教ポイントの割引きを受けられるだけではなくなった。
【調教帯】はもちろん“【調教】”と名前につく装備のため、【調教才能Lv.2】の恩恵が受けられる。
「――つまり西園寺は。それをつけていれば、通常よりもさらに早いペースでレベルアップできるってわけだ」
「お~! 雨咲君――いえ、師匠! 流石です、一生ついていきます!!」
弟子となった西園寺が一生ついてきてくれるらしい。
やったね。
修行と称してエッチな指示をいっぱい出す害悪師匠になってみせるぜ!!
「――なら一度、このままで戦闘に向かいましょうか」
東條の提案に頷き、三人で改めてダンジョンへと出発した。
◆ ◆ ◆ ◆
戻ってきたEランクダンジョンを、本格的に進み始める。
隊列は俺が先頭。
そこに東條、西園寺と続いた。
「西園寺は無理しなくていいからな。【ホーリーショット】で援護することだけを、まずは考えてくれれば」
「うん、わかったよ!」
西園寺は後衛職なので、最後尾に配置。
【調教帯】の影響もあるだろうから、魔法に専念してもらおうということだ。
「――いたぞ!」
都合よく、早速モンスターと遭遇した。
岩の塊が生命を宿した魔法生物、ミニゴーレムである。
「ガjふぁよjはfd――」
名前の通り、通常のゴーレムよりも一回り小さい。
人間ほどのサイズだが、その硬さと攻撃力は侮れないモンスターだ。
「ぐっ――」
岩の球体でできた拳が襲い掛かってくる。
盾を構え、防御の姿勢を取った。
――直後、巨大動物に体当たりされたかのような衝撃が伝わってくる。
全身で対応したが、その威力に手がジーンとしびれた。
ミニサイズの身体だからこそなせる速さで、盾を何度も殴りつけてくる。
その度にガツンガツンと大きな衝撃を受けた。
……だが、耐えられない威力じゃない!
「――はぁぁっ!!」
俺が耐えて稼いだ隙を。
遊撃の東條が見逃さない。
両手剣を抱えてるとは思えない速さで、勢いよく俺の横を駆け抜けた。
そしてすぐにミニゴーレムの背後に回る。
「せぁっ!!」
東條が力を乗せるように、凛々しい声を上げる。
大きな刀身を振り上げ、ミニゴーレムへと力強く切りつけた。
「jふぁbがう@お」
背後からの綺麗な一撃が決まる。
確実に良いダメージは入っていた。
だがそれでも、ミニゴーレムは倒れない。
基本的に1体でしか出現しないこのモンスターは、しかし。
その物理的な硬さ・耐久も厄介だった。
「――【ホーリーショット】!!」
背後から、西園寺の声が聞こえた。
咄嗟に盾で、ミニゴーレムの身体を押し返す。
そしてすぐに横へとズレた。
――直後、光球が真横を通過する。
西園寺が放った【ホーリーショット】は見事、ミニゴーレムへと命中した。
胴体部分の岩石を消し飛ばし、内部から覗いた小さな赤い核までをも消滅させる。
すると途端に形を保っていられなくなったかのように、ミニゴーレムはボロボロと崩れ去ったのだった。




