第25話 2人目をテイムしちゃえばよくない?
翌日の午後。
愛する布団との別れを惜しみながらも、早めに集合場所へと到着した。
ここのギルド会館が、東條の住む場所から比較的近いらしい。
「……ん?」
予約しておいた貸会議室の前にやってくる。
そこにはすでに、ドアの前で待つ東條の姿があった。
「っす。……まだ時間まで30分はあるぞ」
「あっ――こんにちは、雨咲君。ふふっ。あなたこそ、早いのね」
東條は目を細めて、クスリと笑う。
クールな印象が強いだけに、その笑顔はギャップがあってとても魅力的だった。
「そりゃ俺の名前で予約してるからな」
後で来て、待っている二人から“早く開けて欲しいんだけどなあ~”の無言の圧力を受けたくなかったともいう。
「真面目なのね」
「なら東條はもっと真面目だな。……どうやら皆、真面目らしい」
東條の後ろへ視線をやる。
気づいた東條も振り返った。
「わっ、東條さんも雨咲君も早いね! 私が一番最後か。くぅ~!」
合流した西園寺は悔しそうに可愛く唸っていた。
その手にはペットボトル飲料が3本持ってある。
どうやら面談中の飲み物にと、気を利かせてくれたらしい。
「雨咲君はコーヒーだよね、はい。――東條さん、どっちがいい? ジュースと紅茶」
「ありがとう。私はどちらでも飲めるから、西園寺さんが好きな方を選んで」
と言いつつも一瞬だけ。
東條の目が反射的にオレンジジュースへ向いていた。
おそろしく速い視線移動。
オレでなきゃ見逃しちゃうね。
「最悪、俺が追加で買ってくるから。東條に甘えて、好きな方を選んだらいい」
“東條に甘えて”という言葉を入れることで、暗に“東條は甘い方を欲している”というシグナルも送っておく。
……まあそこに気づかなくても、普通に選べば西園寺が紅茶だ。
「――じゃあ、そうするね」
一瞬だけ迷っていたが、西園寺はいつも飲んでいる紅茶を選んだ。
残ったオレンジジュースを、東條が手に取る。
飲み物が行き渡ったところで、それぞれ席に着く。
西園寺と東條が隣り合い、俺と対面する形だ。
西園寺には従者としての観点から、東條に寄り添ってもらうことを期待している。
「――元々伝えてた時間よりは早くなるけど。3人揃ってるし、じゃあ始めるか」
ペットボトルの蓋を開け、コーヒーをちょっと含んで口を湿らせる。
二人もそれぞれ同じ様に飲み物を一口飲んで、喉を潤していた。
「うん、私は大丈夫だよ」
「ええ。でもその前に――」
東條がすっと立ち上がって、俺と西園寺の中間くらいを向く。
そして流れるような動作で、綺麗に頭を下げた。
「――改めて雨咲君、西園寺さん。昨日は本当にありがとう。おかげで今日、こうしてこの場に来ることができたわ」
「あ、わわっ! い、いいよ東條さん! 昨日に十分、お礼は言ってもらったし!」
そうだそうだ!
恩を忘れず義理堅いのは美徳だ。
でもそんな近くで、いきなり頭を下げられた西園寺の身にもなりなさい。
俺だったら“いきなりおっぱいが降ってきた!?”っておっぱい恐怖症になるわ。
そして“まんじゅうこわい”ならぬ、“おっぱいこわい”で、おっぱいがいっぱい来ないかな……。
……うん、ちょっと自分でも何言ってるかわかんないですね。
布団との離れ離れがショックで、少々頭がおかしくなってる模様。
いや少々じゃなくてかなり、かな?
「……俺も西園寺も、礼はちゃんと受け取った。――今日は別の話がしたくてこの席を設けたんだから。東條も、それくらいでいいだろう?」
頭の中で増殖するおっぱいまんじゅうと戦いながらも。
表面上は何でもないように取り繕い、真面目な顔してこの場を取り仕切る。
「……ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ」
ホッとしたように東條は座り直す。
それを見て西園寺も安心したように息を吐いていた。
「――それじゃあ本題に入るぞ」
◆ ◆ ◆ ◆
「ええ。……その、雨咲君が“育成系能力”を持ってて。それを、私も契約できる、と聞いたのだけれど」
東條は探り探りな感じで尋ねて来た。
そんなうまい話があるのだろうかと疑っている風である。
どちらかというと、俺の能力それ自体に疑問を持っているのではなく。
『自分がその恩恵に与れるなんて幸運、本当だろうか?』と信じられずにいる感じだった。
「うん、それで合ってるよ! “育成系の能力”を持ってる人ってあんまりいないから、そんな話が来るなんてビックリするよね~」
西園寺の言葉に、東條が強く相槌を打っている。
やはり西園寺の時と状況は変わらず同じで。
育成能力は貴重・希少で、需要が高いらしい。
「ええ――あっ! ごめんなさい、忘れてた……はい、これ。私のステータス紙よ」
東條は綺麗な目を大きく開け、ハッとした仕草を見せる。
そして一枚の紙を取り出し、その両端を丁寧に両手で持って渡してきた。
「うぃ、ども……」
テーブル越しに受け取り、早速見させてもらう。
[ステータス]
●基礎情報
名前:東條雪奈
年齢:17歳
性別:女性
ジョブ:なし
●能力値
Lv.2
HP:9/9
MP:1/1
筋力:3
耐久:3
魔力:0
魔耐:1
敏捷:3
器用:2
●スキル
なし
「ふむ」
また反応に困るものを。
なんだろう、西園寺といい東條といい、見た目極振り過ぎない?
天に二物目を与えるのを拒否された立派なステータスですわ、うん。
「……その、笑ってくれてもいいのよ? 冒険者科の生徒が持っていいステータスじゃないって」
東條は自虐的に言い、羞恥で頬をほんのり赤くしていた。
美人が恥ずかしがっている様子は、これまたギャップがあって魅力的である。
「いやいや、大丈夫、伸びしろだ伸びしろ」
「そうだよ! 私だって凄く低い状態だったんだから!」
そう言って、西園寺は荷物から自分のステータス紙を取り出す。
しかも2枚だ。
隣の東條へ見えるよう、テーブルに並べて置いた。
「こっちが先週――雨咲君と契約する前に見せた奴。それでこっちが昨日にギルドで作ってもらった奴だよ」
「……えっ!? 嘘っ、本当に!? 西園寺さん、1週間でこんなにも成長したっていうの!?」
西園寺のステータスを比較して、驚愕を隠せないご様子だ。
……ふっふっふ。
奥さん、どうです、凄いでしょう?
雨咲塾に入れば、あなたも難関ダンジョンの攻略間違いなし。
“あっ、これ雨咲塾でやったやつだ!”を直に体験できますよ!
「【ヒール】を覚えたのだってつい最近だし。……だから、東條さんの傷を治せるくらいに成長できたのも。私は雨咲君に育成してもらったおかげだって思ってる」
「…………」
実際に恩恵を受けている西園寺の言葉は、かなり東條に響いているようだった。
西園寺と契約した時とは、明確にこの点が違う。
やはり西園寺という具体例で説明できると、とてもわかりやすく説得力があった。
「――俺の能力は、まあ要するに“テイム系統”だ。テイムした相手を育成できるジョブになる」
「テイム……なるほど」
俺の能力を明かしても、そこに嫌悪感や忌避感を持った様子はなかった。
やはり昨日の救助+治療で、最初の印象が良かったためか。
あるいは、西園寺という厚遇されている実例がちゃんといるためかもしれない。
◆ ◆ ◆ ◆
「……一つ質問いいかしら?」
東條は遠慮がちに手を上げた。
「もちろん。一つでも、二つでも」
「ありがとう。……雨咲君にテイムされたら、つまりは雨咲君と西園寺さんと一緒に、ダンジョン探索できるってことよね?」
そりゃぁ……。
むしろそうして欲しいから、この話が持ち上がったんだけど。
……えっ、俺と一緒は嫌?
西園寺とだけならOK的な、そういうこと?
「まあ嫌でなければそうしたいと思ってるが」
「嫌なんて、そんなことはないわ! ……ただ、えっと、その場合、私にも二人から【ヒール】を貰うことって、できるのかしら?」
言い辛そうにしながらも、東條は何とか言葉にした。
それで、東條の意図をようやく察する。
つまり東條的には、俺にテイムされることはそこまで問題視していないらしい。
むしろ昨日、現実に貞操・命の危機に面したことから。
【ヒール】を受けることができるかどうかが、東條にとっての最重要事項となっているようだ。
「パーティー内に二人も【ヒール】を使える人がいるなんて、私のいる“冒険者科高校”でも数えるくらいよ?」
東條は、俺と西園寺が持つ優位性を強調してくれる。
昨日もそのありがたみを実感した身としては、やはり本音はそこなんだろう。
「もちろん。回復するたびに金を要求するなんてことは絶対にない。何回でも無料だ」
「私ももちろんだよ! 必要なら何度でも【ヒール】するからね?」
「……ありがとう」
東條から、懸念点が解消されたことでホッとしたという安堵が伝わってきた。
やはり人それぞれ、気になる点は違うんだなと学びを得る。
「……後は報酬の話くらいか?」
「ええ――『ダンジョン探索で得た金額の2割を雨咲君に払う』ってことだけど。……本当にいいのかしら? 私が8割も貰えることになって」
東條が再び、信じられないという驚きを込めた声で尋ねてくる。
すると西園寺も賛同するように、大きく頷いていた。
「そうだよ~! お金がない学生冒険者にとっては初期費用がいらないだけでも十分ありがたいのに。8割も貰えるって、ねぇ~?」
やはり2:8だとかなりの破格さ・割安感を感じてもらえるらしい。
一人一人の額は、確かに大きくないかもしれない。
だが人数、そして一人一人の稼ぐ額が増えれば、塵積式で大金にできる。
それが夢の不労所得生活へとつながるのだ!
「ああ、問題ない。――じゃあ、ちょうど切りがいいから。俺はちょっと外の空気吸ってくるわ」
そうして立ち上がり、二人を残して部屋を出る。
西園寺の時に、一人での熟考時間を設けたのと同じ趣旨だ。
今回は加えて、俺がいない方が東條も話を聞きやすいだろうという配慮である。
「ふぃ~」
残ったペットボトルコーヒーを飲み干す。
口の中に残った苦味を中和するため、自販機で新しくお汁粉を購入。
甘さの暴力が、コーヒー味を無理やり口内から消し去ってしまう。
……全然中和じゃなかった。
口ん中、甘い甘い。
まあそれが良いんだけどね。
◆ ◆ ◆ ◆
「――雨咲君。テイム、お願いしてもいいかしら?」
お汁粉の侵略から帰還すると、東條が改まった様子で言ってきた。
西園寺ともいくつかやり取りできたらしく、その表情に迷いは感じない。
……ただ、若干照れというか、恥ずかしさがあるのは読み取れた。
“テイム”がどんな感じか、西園寺から話があったんだろう。
「……ん。わかった」
話すべきことを話したうえで決まったのなら、それ以上は言うまい。
「早速“テイム”するが、いいか?」
「……ええ」
立ち上がり、二人で空いたスペースに移動した。
東條は赤らんだ顔を斜めに向ける。
まるでこれから起こることに羞恥心を抱いている自分を、直視されたくないがための本能的な仕草のように映った。
……だがその行動自体が、異性の本能をこれでもかと刺激する。
東條の姿は、異性を誘惑する魅力に満ちていた。
「ゴクッ――」
少し離れ、事態を見守る西園寺。
同性の彼女から見ても。
テイムを待つ東條は、喉が鳴ってしまうほど色気を感じるようだ。
「じゃあ行くぞ――【テイム】」
早いこと終わらせてしまおうとスキルを発動する。
ジョブ【ヒロインテイマー】の根幹ともいえる、最も基本的なスキルだ。
室内空間、そのあちこちに小さな魔法陣が出現する。
そして魔法陣から、魔力でできた鎖がいくつも飛び出していった。
「っ!!――」
鎖は狙い違わず、東條の身体へ一斉に絡みつく。
覚悟を決めていただろう東條の四肢、胴体を瞬く間に拘束してしまった。
高潔な美しさが鎖によって縛りあげられ、無力にされてしまう。
そんな背徳的な光景が、目の前にはあった。
「んっ、あっ――」
魔力鎖はそれだけにとどまらず。
最も馴染む場所を見つけたというように、東條の胸元へと巻き付いていく。
鎖がむさぼるように胸へと食い込むと、それに応じて胸もグニュッと沈むように形を変えた。
東條は不意打ちを食らったように、喉の奥から甘い声を漏らす。
「あんっ、あっ、あっ、んっ~!」
東條の身体に馴染み、一体化しようとするように。
全身の鎖が脈動を繰り返した。
そして間もなく。
鎖は東條の体内へと沈み込むようにして消えていったのだった。
「東條、終わったぞ」
「はぁ、はぁ……ええ。あり、がとう」
少し呼吸が荒い東條へ、テイムの終了を告げる。
焦点が若干定まっていなかったが、ちゃんと声には反応してくれた。
[調教ミッション]
●デイリーミッション
腕立て伏せ40回 スクワット40回
報酬:筋力+2
― ― ― ― ―
これで、2人目の従者ができたことになる。
そして東條の【調教ミッション】も、ちゃんと見えるようになっていたのだった。




