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第21話 お尻を見てもらえばよくない?


【ダンジョン&バーガー】での簡単な作戦会議を終え。

 今日集まった目的であるEランクダンジョンへとやってきた。



「お~流石はEランクダンジョン。人の多さがFランクとは違うね」


 

 ダンジョン出入口の前にあるゲート。

 そこでは入場待ちをする冒険者たちが列になっていた。



「だな~」



 西園寺と一緒に並びながら、自分たちの番が来るのを待つ。

 


“ダンジョン総合”で習ったことを思い出す。

 E・Dランクのダンジョンは、最も冒険者の利用数が多い。


 要するに、ダンジョンの難易度が適度だからだ。

 難しすぎず、優しすぎない。 

      

 

 逆にハードなS・Aランクだったり、あるいは簡単すぎるGランクになると、極端に利用者数は減る。


 

 S■

 A■

 B■■

 C■■■

 D■■■■

 E■■■■

 F■■

 G■  




 何かにつけてよく見るグラフである。

 もう何度も目にし過ぎて覚えてしまった。

 

 試験では“E・Dランクに向けて山なりになっている”というワードを覚えておくのが大事である。

 


「……おっと」



 考え事をしていると、すぐに列が進む。

 自分の番に備えて、昨日取得したばかりのFランク資格証を出しておいた。



「あっ、私たちの番だね!」



 前の人が入場したため、俺もそれにならって進んでいく。

 Eランクダンジョンは初めてなので、内心ドキドキしながら資格証をかざした。


 軽快な音と共に、赤い色で“○”の表示が出る。

 ホッとしてゲートをくぐり、ダンジョンの穴へと入っていった。



「……わ~! 洞窟の中、GとかFよりもかなり広いんだね!」    



 すぐに西園寺も後ろからやって来た。


 西園寺の言うように。

 Eランクダンジョンの洞窟は、空間的な余裕や広さが感じられる。

 

 

 付近で大勢の冒険者がたむろしているが、全く行き来の邪魔にならない。

 天井も随分と高かった。

     

 

「ああ。……そしていきなり分かれ道が3つもある」 



 Fランクまでは、あっても右・左の二択だったのが。

 このEランクダンジョンでは入口に即あって、しかもそれが三択だった。


 Eランクダンジョン。

 ダンジョン自体の複雑性、そしてモンスターの数が、Fランクの時よりも一段階アップする。

  

 なので迷子になる冒険者も普通に出てくるし、数的不利で戦うことだって当たり前のようにありうるのだ。


 

「さて――」



 分かれ道からは離れた、岩壁の端へと移動する。

 一番近にいる冒険者とでさえ距離があるので、聞かれる心配なく普通に会話できた。

 それでも念を入れて、若干小声を意識する。



「……じゃあ、まずは“ミッション”の方、だね?」 



 西園寺も抑えた声だった。

 周りの冒険者からチラチラと視線が飛んでくるが、それは純粋に西園寺の可愛さゆえだろう。

 

 

「……ああ」



【ダンジョン&バーガー】で、事前に話し合っていた。


 Eランクダンジョンは難易度が上がるので、できるだけ安全に進もう、と。

 その一環として最初に【調教ミッション】をクリアし、【調教ツリー】で戦力アップを図るのだ。     

 

 

「今日は、ダンジョン内でのミッションなんだよね? 雨咲君、どうすればいい?」


「えーっと……」



 西園寺に純粋な瞳で問われ、即座の返答に困る。

 その原因は、ミッション内容そのものにあった。



◆ ◆ ◆ ◆



[調教ミッション]


●デイリーミッション


 ダンジョン内で、主人の尻を合計3分間見る   

 報酬:調教ポイント+100

 

 ↓調教Lv.1により調教ポイント+50


 報酬:調教ポイント+150

 

  

 現在00:01.25 

 

― ― ― ― ―




 ――俺の“尻”を見るって、どんなミッションだよ。



【調教Lv.1】のおかげで、得られる“調教ポイント”も150と、かなりデカい。


 それだけに。

 本格的にEランクダンジョンを進む前に、できれば達成しておきたいのだ。


 にもかかわらず、そのミッション内容が意味不明。

 今日、ハンバーガー店の前で【調教ミッション】を目にして以来、ずっと悩んでたわ。

 どう西園寺に伝えろと。

 


「……えっと。もしかして、私がちょっと恥ずかしいミッション、なのかな?」

      


 俺が言い淀む姿から何か察したのか、西園寺が頬を赤らめて尋ねてくる。

 気にするように、周囲にいる冒険者たちの姿をチラッと確認していた。

“ダンジョン内でのミッション”ということ自体は、既に教えているからだろう。



「う~ん……どちらかというと、俺の方が恥ずかしいかな?」



 あまりに口を閉ざし続けるのも、かえって西園寺の不安感をあおるかな?


 そう考え。

 思い切って、頭に浮かんだ言葉を適当に並べていった。



「なんか“俺の後ろ姿”を、合計で3分見ないといけないらしい」    



 言いながら、西園寺へ背中を向ける。



「へ? ……雨咲君の、“後ろ姿”?」



 ピンと来ていないらしいが、その視線は既に俺の背中へ向けられていた。



「ああ。……なんだろう、ダンジョン探索中も俺が前を歩いてたら普通に見られるものなんだけど。“ミッション”として意識的に見られるのは、なんか恥ずいわ」  



 おお~。

 我ながらそれっぽい言い訳をできた気がする。



「まあ、いつも西園寺には恥ずかしい思いさせちゃってるしな。――よしっ、どこでもじっくり見ちゃっていいぞ!」

 

 

 腰に手を当て、どっしりと構える。 

 西園寺もクスクスと笑ってくれた。

 どうやら納得してくれたっぽい。

 


「ふふっ、わかった。……えっと、じゃあ、その、見るね?」 

   


 西園寺が見やすいよう、顔も前に向けておく。

 時間を潰すため、しばらく周囲をぼんやりと眺めた。


 体内時計で1分くらいカウントしただろうか。

 時間を確認するため、チラッと振り返る。

 

 西園寺の左上、ミッション画面を見た。

 


“現在00:30.22”


 

 まだ約半分しか経ってなかった。

 思った以上に伸びてない。

 

 流石に30秒以上もカウント間違えや、誤差が生じるということは考えづらい。

 

 やはり『俺の後ろ姿をただ漠然と眺め、その視界に“お尻”が入る』ではダメらしい。    

 意識的にお尻を見た場合のみ、カウントが進むのだろう。



「……えっと。ちゃんと見てるよ? 雨咲君の“後ろ姿”」


 

 西園寺は、どこかソワソワした風に言ってくる。

 


「ああ、うん。大丈夫、わかってる」



 曖昧に返事して、また西園寺が見やすいよう前を向いた。

 心の中で60秒を数え、振り返って確認。

 


“現在01:12.78” 



 40秒くらい進んでた。

 さっきよりも長めに、西園寺はお尻を見てくれたらしい。

 もしかしたら西園寺の中でも葛藤みたいなものがあって、天使と悪魔が戦ってるのかも。


 後ろは振り返らず、自分の格好だけを見下ろしてみる。

 ボトムスは、ストレッチ素材の動きやすい黒ズボンだ。 

 確かに、お尻の形はわかりやすいかもしれない。


 だが男の俺が、西園寺のお尻を舐めまわすように見るならまだしも。   

 西園寺が俺の尻を見て、何の意味があるのかはよくわからん。

【セカンドジョブ】で【戦士ゴリラ】を得て、確かにケツの筋肉的な硬さや張りは感じなくもないが……。  


 女子も、男の尻とか見て興奮したりするのだろうか? 

 


「ど、どうかな? 時間、進んでる、よね?」


「ああ。まあ、順調だな」


 

 西園寺はアリバイ作り的に時間の話を振ってきた。

 振り向いた時に見せる西園寺の態度は、若干よそよそしさすら感じる。

 目もどこかキョロキョロと落ち着きなく、慌てている風にも見えた。

 

 ん~?

 ……まあいいや。


 また1分間のカウントを経て、ミッション画面を見る。



“現在02:03.55” 


 

 今度は50秒経過か。

 徐々に俺が数える秒数と、西園寺が観察してくれている時間との時差が無くなっていた。  

 

 それは要するに、俺が前を向いている間。

 西園寺はほぼ、俺の尻を見てくれているということになる。

 

 見続けることで、抵抗感みたいなものが次第に無くなっているのかもしれない。

 


“現在03:00.00” 



「終わったか」



 今度はほぼ誤差なく、1分を数えることができたらしい。


 西園寺の全身に黄色い光が走る。

 光は分裂し、片方は飛び出して俺に衝突。

 もう一方は、そのまま西園寺の体内で消滅した。



「……どうやら【ミッション】達成の光は、俺と西園寺にしか見えてないみたいだな」


 

 確かに光ったはずだ。

 だが周囲に残る冒険者たちが、それに気づいたりした様子は全くない。


 

「えっ!? あっ、えっと、うん、そ、そうだね!」


 

 西園寺はしかし、どこか上の空だったらしい。

 ボーっとしていて急に話しかけられたみたいな、慌てたような反応が返ってきた。


 ……まあ【調教ミッション】自体は達成したからいいんだけどね。



◆ ◆ ◆ ◆



 一度ダンジョンを出て、その周囲に立つ簡易建物へと移動。

 その一室にて、西園寺の【調教ツリー】を解放した。



[調教ツリー 従者:西園寺耀] 


 保有調教ポイント:20



 ●〈基礎〉

    ―全能力値+3 ○

    |

     ―HP・筋力・耐久+3 ○

     |

      ―HP+5

      ―筋力+5

      ―耐久+5

      

     ―MP・魔力・魔法耐久+3 ○

     |      

      ―MP+5

      ―魔力+5

      ―魔法耐久+5


     ―敏捷・器用+4 ○

     | 

      ―敏捷+8

      ―器用+8



 ●〈ジョブ〉

    ―マジックショット ○

    | 

     ―ジョブ 神官 ○

     |

      ―ヒール ○ 

      |  

       ―ホーリーパワー      

       

       ―ホーリーシールド

・ 

 ― ― ― ― ―



[ステータス]

●基礎情報


 名前:西園寺さいおんじ耀ひかり

 年齢:17歳 

 性別:女性

 ジョブ:神官Lv.1

 支配関係:主人 雨咲あめざき颯翔はやと

  ―保有調教ポイント:20  


●能力値


 Lv.3 

 HP:13/13(10+3)→16/16(10+3+3) New!!  

 MP:7/7(4+3)→10/10(4+3+3) New!! 

 筋力:6(3+3)→9(3+3+3) New!!

 耐久:6(3+3)→9(3+3+3) New!! 

 魔力:5(2+3)→8(2+3+3) New!! 

 魔耐:7(4+3)→10(4+3+3) New!! 

 敏捷:9(6+3)→13(6+3+4) New!!  

 器用:9(6+3)→13(6+3+4) New!! 


※(+3)=【全能力値+3】

 HP・MP・筋力・耐久・魔力・魔耐+3    

 敏捷・器用+4 




 俺の持つ【調教才能Lv.1】のおかげで。

【調教ツリー】を解放する際に必要なポイントが、1つにつき50少なくて済んだ。 


〈基礎〉の枝はどれも元々が1個100ポイントだったので、割引後は合計150。

 今回の【調教ミッション】の調教ポイントちょうどで、3つ解放することができたのだ。


 

 ……もちろんその際、西園寺はいつものごとく。

 魔力の鎖によって、エッチな感じの拘束を受けていた。

 

 だが羞恥心に耐えながらも、今までほど抵抗はしていなかったように思う。

 何となくだが、罪悪感へのつぐないみたいな雰囲気を感じた。


 ……俺は別に、何も悪いことされた記憶ないんだけどなぁ。  



「――改めて。Eランクダンジョン、出発だな」 



 そうして当初の予定通り。

【調教ミッション】、【調教ツリー】にて、西園寺の能力値を充実させた後。

  

 再びEランクダンジョンに戻ってきた。

  


「えっと。うん、そうだね。頑張ろう!」



 流石に西園寺も切り替えが済んでいた。

 そしてちょうど他の冒険者もおらず、さっきの入口付近は俺たちだけに。


 話し合って真ん中の道を選び、ゆっくりと進み始める。

 10分、15分と歩いたが、何にも遭遇しない時間が続いた。

 


「……全然モンスターと出くわさないね」


「だな~。先に来た冒険者が倒してるんだろう」 

  


 今日は休日だし、Eランクダンジョンは手頃な難易度で人気だ。

 さっき来た時だって、結構な数の冒険者がいたし。


 そうして若干の肩透かしを食らいながらも、洞窟の中を歩き続ける。


  

 ……だがそこから5分とせず、異変は起こった。

 



「――誰かっ、誰かぁっ! 助けてぇっ!!」



   

 女性の切迫せっぱくしたような声が響いてきたのだった。    

ローファンタジー日間ランキングの68位にランクインしていました。

ありがとうございます!

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