表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/18

第2話 ミッションをこなして、強くなってもらえばよくない?


「おっ、西園寺! 早速ミッションが見えたぞ」


 

 西園寺の顔の横を指差してそう教える。

 

【ヒロインテイマー】の【調教スキル】の一つ。

【調教ミッション】だ。



「はぁ、はぁ……えぇっ、ミッション?」



 未だ拘束の余韻から抜けきってないようで、西園寺は色っぽく息を整えながら聞き返してきた。

 鎖で縛られてた姿もけしからんかったが、これはこれでなまめかしい。 


  

「西園寺、メニューと報酬が書かれた画面があるんだ、すぐ左に。……見えないか?」


「……えっと、ごめんなさい。えっ、どこかな?」



 言われたように、西園寺はすぐ顔を左に向けた。

 だがその眼前にあるはずの半透明な画面に、目の焦点は合わず。

  

 教えられた方向を間違ったと解釈したのか、焦ったように右へ視線を向ける。

 だが、そちらにはそもそも画面はない。


           

「……見えてないのか?」



 どうやらミッション画面は俺にしか見えないらしい。

 


「ごめんなさい。えっと、何か画面? があるの?」

  


 探すのを諦めた西園寺は、見えないことを申し訳なさそうに尋ねてくる。

 ……まあ俺が見たことを伝えればいい話だ。


 西園寺の横に、ミッション画面があることを教えた。

 そしてそれを消化すればステータス値が上昇すると知り、西園寺の表情は興奮したものへと一変する。



「ほ、本当!? 雨咲君の挙げたのって全部ここでもできる筋トレメニューだよね? ――や、やります! やらせてください雨咲コーチ!」


 

 若干芝居がかった西園寺のセリフ。 

 ここら辺はクラスでもよく見かける、ノリの良い西園寺だった。



「誰がコーチだ、誰が」



 ツッコミを入れると嬉しそうに笑ってくれる。 

 純粋に見た目が可愛いだけじゃなく、こういう親しみやすい部分も西園寺が人気の理由なんだろう。 


 

「ふふっ、ごめんなさい。でも、実際にやってみるね! まずはスクワットから――1! 2! 3!……」   

 


 西園寺は本当に目の前で、俺が言ったメニューをこなし始めた。





[調教ミッション]


●デイリーミッション


 腕立て伏せ20回 腹筋20回 背筋20回 スクワット20回   

 報酬:HP+1 筋力+1


 

 腕立て伏せ 0/20

 腹筋 0/20

 背筋 0/20

 スクワット 5/20    

    


 西園寺の左隣、ミッション画面の中身も動きがあった。

 西園寺がスクワットをこなすたび、ミッションの達成回数も実際に増えているのだ。  



「いいぞ、西園寺! ちゃんとミッションの進捗状況も連動してる」


「本当!? よしっ――」


 

 気を良くした西園寺はより運動速度を上げる。

 それに伴い、防具におさまっているはずの果実二つも跳ねるように上下していた。

 

 おおぅ……凄い。



「――17,18,19,20!!」



 数分と経たず、西園寺はスクワット20回をやり切った。

 既に呼吸は乱れ始めていたが、規定の回数をやり遂げた達成感で清々しそうだ。



[調教ミッション]


●デイリーミッション


 腕立て伏せ20回 腹筋20回 背筋20回 スクワット20回   

 報酬:HP+1 筋力+1


 

 腕立て伏せ 11/20

 腹筋 0/20

 背筋 0/20

 スクワット 20/20 完   

    

 

「はぁ、はぁ……うぅぅ」


 

 西園寺は休憩する間もなく次の腕立て伏せに移る。

 だがスクワットと違い、12回目で限界を迎えた。

  

 肘上まであるグローブをつけた腕が、プルプルと震える。

 伏せた上体を持ちあげられず、そのままペタンと床に崩れた。



「うぅ~20回、いかなかった……」


「あぁ、ドンマイ」 



 慰めの言葉をかけながらも、注意深くミッション画面を見守る。

 一つ気になっていたのは、回数がリセットされないかだ。  

 今のところは途中までこなした“11/20”のままである。

 


「よ、よし! もう一回――」



 休憩を挟んで、西園寺が腕立て伏せを再開した。

 ここでも回数がリセットされることはなく、ちゃんと“12/20”とカウントされている。


 つまりこのミッションは一気にやりきる必要はなく、休み休みでも問題ないということだ。


 それを伝えると、焦る必要がなくなったためか。

 西園寺は無理なく自分のペースで、根気強く筋トレをこなしていった。



「――18,19,20!!」



 そして最後の腹筋をやり遂げる。

  



[調教ミッション]


●デイリーミッション


 腕立て伏せ20回 腹筋20回 背筋20回 スクワット20回   

 報酬:HP+1 筋力+1


 

 腕立て伏せ 20/20 完

 腹筋 20/20 完

 背筋 20/20 完

 スクワット 20/20 完    

     

 


◆ ◆ ◆ ◆



「あっ――」



 膝を三角に曲げた腹筋の姿勢で、西園寺の体が突如として光りだす。

 薄い服越しにもわかるくらいお腹辺りが淡く輝き、全身を駆け巡るようにそこから散っていった。


  

「す、凄い! 雨咲君、私にもわかったよ! 今、ミッションをクリアしたんだね――わわっ!?」



 興奮のあまり反射的にか、西園寺は勢いよく立ち上がろうとした。

 だが20回ずつとはいえ、彼女にとってはハードな筋トレをこなした後。

 疲労した体がそれに追いつかず、後ろ向きに転んでしまう。



「あいたた……」



 そしてそれは。

 筋トレ中、一応気を配ってはいた短いスカートの中が、盛大に顔を覗かせてしまうことを意味していて……。



「…………」



 もちろん、ええ、俺は紳士ですから?   

 サッと視線をそらしましたよ、はい。

  

 穢れなき純白の布?

 ……知らない概念ですね。

 


「あ、あはは。転んじゃった。えっと――」



 立ち上がって恥ずかしそうに顔を赤らめた後、西園寺はそそくさと視線を宙へ固定する。

 照れを誤魔化す意味もあるんだろうが、あれは……自分のステータスを見るときの仕草だ。


 そして俺も。

 西園寺のステータス画面を、ステータス紙を介さず閲覧することができた。

 どうやらテイムしたことによって、従者のステータス閲覧権を得たらしい。

 


[ステータス]

●基礎情報


 名前:西園寺さいおんじ耀ひかり

 年齢:17歳 

 性別:女性

 ジョブ:なし

 支配関係:主人 雨咲あめざき颯翔はやと New!


●能力値


 Lv.1

 HP:5/5→6/6 New! 

 MP:1/1

 筋力:0→1 New!

 耐久:1

 魔力:0

 魔耐:2

 敏捷:2

 器用:4



◆ ◆ ◆ ◆



 そのステータスは、先ほど西園寺に見せてもらったステータス紙からちゃんと更新されていた。

 俺とのテイム関係もあったし、【調教ミッション】の報酬で“HP”と“筋力”が1ずつ上がっている。

 

 ダンジョンにも潜らず、そして1時間も経たずに。

 ステータス値を合計2も上げたとなれば、十分な成果だろう。 

 

 

「あっ……ちゃんと、ステータス、上がってる。うぅっ――」



 事の重大さを示すように。

 西園寺の目から涙がジワリと溢れ、零れ落ちた。


 

 えっ――



「だ、大丈夫か!?」


 

 泣く異性をなだめる経験などボッチにはなく、その場でただオロオロしてしまう。

 

 特に西園寺はどこか抜けていながらも、芯の強い女の子だという印象が強かった。

 もちろん、涙を流す姿など学校で一度も見たことがなかったため、強い衝撃で体が硬直してしまう。   



「うん、うん……ありがとう、雨咲君、ありがとう。今まで、ステータス、全然、何しても、上がらなかったから――」


 

 しゃくりあげ切れ切れになりながらも、西園寺は何とか伝えようと言葉を紡いでくれた。

 それを、自分なりに頭の中でつなぎ合わせる。

 

 ……要するに。

 冒険者として自分の才能の無さに、西園寺は今まで相当苦しんでいたようだ。

 努力も色々したようだが、結果は出ず。

 諦めに近い気持ちでいたところ、偶然俺の募集を見つけたらしい。



 ダンジョンとは。

 誰もが自らの手で、その人生を切り開く可能性を秘めた場である。


 一攫千金。

 一発逆転。


 冒険者になって億万長者になった者がいるという話は、誰しもが耳にしたことがあるだろう。



 だがその光が強ければ強いほど、それによってできる影も濃くなる。

 一握りの成功者の裏には、無数のありふれた冒険者が存在するのだ。  

      

 

「諦めなくて、雨咲君にテイムお願いして、よかった――」


 

 今までの苦労が報われたというような、感謝の籠った表情でいる西園寺。



 ――しかし。



 俺はあえて、首を横に振って答えることにした。



「――いや、西園寺。まだ、全然終わりじゃないぞ?」 


「え? あっ、きゃっ――」


 

 キョトンとする西園寺。

 その肩をつかみ、俺は真面目に力説する。



「こんなもん序の口。むしろ始まりだ。これから西園寺にはどんどん強くなって、モンスターだって倒してもらう。それで、うんと稼いで貰わないと。西園寺が俺を必要としてくれるように、俺にも西園寺が必要なんだ」


 

 じゃないと俺の収入に関わりますからね。

 

“西園寺がダンジョンで得た報酬の2割を貰える”ということは、西園寺が稼げば稼ぐだけ俺の利益も増える。


 だがこれは逆にいうと。

 西園寺がダンジョンで一銭も儲けを得られなければ、俺に入るお金も0。

  

 つまり。

 俺の将来の不労所得生活に西園寺、そしてその成長は必要不可欠なのである。



「…………」      

  


 だが俺の熱弁にもかかわらず、西園寺から反応は帰ってこず。


 目の前の俺を見ているようで、どこか焦点が合っていない。 

 泣いてアドレナリン的なものでも出た影響か、何となく顔も赤いような気がする。



「あっ――」



 そして急に我に返ったというようにハッとすると、プイと俺から顔を背けてしまった。

 えっ、酷い!?


 

「……あの、雨咲君。その、顔、近い、です」



 殆ど消え入るような、ボソボソっとした声。

 俺の耳が、何とかそれを拾うことに成功する。 

  

  

「ああ、いや、悪い……」



 慌てて肩から手をどけ、後ろに下がって西園寺から距離をとる。

 今のでダメなら、俺にはもうどうする術もないんですが……。


 そうしてボッチらしく、その場でオドオドし続けていた。

 

 

「……ふふっ」 



 だがそんな俺を見て何を思ったか。

 西園寺はクスクスと笑ってくれたのだった。


 ……俺の動きが道化にでも見えたかな?



「ううん、何でもない――テイムしてくれたのが雨咲君で本当に良かった。これからもよろしくね、雨咲君」



 そういってほほ笑んだ西園寺は。

 今まで見た中で、何故か一番魅力的に映ったのだった。


  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ