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第1話 女の子テイムして、稼いで貰えばよくない?

 “ダンジョン”や“モンスター”というワードが流行語大賞にノミネートされたのは、もう20年以上も前の話だそうだ。


 今ではもう市民権を得たと言ってもいいだろう。

 学校の授業でも習うし、主要な辞書には絶対に載っている。

 何なら日常会話でも使うし。

  

“冒険者”だって、子供たちが将来なりたい職業ランキングのトップ争い常連だ。  

 ドラマでも“弁護士もの”・“医療もの”・“刑事もの”と並び立つ人気ジャンル。

 “冒険者もの”をやっておけば、とりあえず視聴率が取れるとよく聞く。

 ……主役に現役冒険者を起用するのは、演技力の観点からやめて欲しいと個人的には思うが。

   

 

 俺も15歳になってすぐ冒険者資格を取得したが、ダンジョンには一度しか潜ったことはない。

 それも、ステータス取得のための、即撤退が前提の一回である。


 だがペーパー冒険者を続けていると、流石にこのままでいいのだろうかと自問することはよくある。

 そして自分に問いかければ問いかけるほど、ある一つの真理にしか辿りつけないのだ。



 ――俺は、冒険者として働きたくない!



 えっ、何で命懸けで夢や希望を追わないといけないの?

 ロマン?

 虚構でごはんが食べられるんですか!? 


 

 ボッチで社交性がないことも自認している。

 なので、バイトとか人間関係が面倒臭そうな仕事も絶対にやりたくない。 


 ……ならもうしょうがないよね。

 働かなくても稼げる仕組みを考えなければならない。   



『――誰もがダンジョンに潜る機会を求めています。しかし能力の低さゆえ、諦めてしまっている潜在冒険者も数多いんですね。ですから、誰かを育成することができる力、いわゆる育成系能力をお持ちの方は、凄く需要があるんですよ!』 

 


 休日の暇つぶしにつけていたテレビの情報番組。

 ボーっと流し見ていたら、気になることを言っていた。 



「そういえば……俺、ジョブをゲットしてたんだっけ」


 

 自分でダンジョンに潜るつもりがなく。

 また身分証明書としての意味だけで資格を取得したため、今まで殆ど気にしなかった。 

 しかも学生冒険者の誰もが求める物語の主人公っ気など、全くないジョブだし。 


 だが今頭の中で急速に、自身のジョブを利用したお金稼ぎの方法が組みあがっていく。 

 


 ――そうだ、他の人に働いてもらおう。



 俺がステータス獲得と同時に得たのは【ヒロインテイマー】というジョブだった。

 高度な情報化社会にあって一度も耳にしたことがなかったため、おそらくレアジョブというか、固有ジョブ的な部類になるんだと思う。


 それも先日テレビで言っていたように、引く手数多の育成系に分類されるもの。



 冒険者とは、早い話が実力主義の世界。

 自分を強くしてくれる育成系能力は、常に高い需要が存在する。


 だから専用アプリを通じた掲示板にて、育成希望者の募集を張り出しておいた。

 殆どは記載例に従って書いたが、ジョブがジョブなので詳細はアバウトにしてある。



「――っと。早速来たわ」



 スマホに、久しくなかったメールの着信が入った。

 幸先のいい結果に思わず笑みがこぼれそうになる。 

 


『[冒険者支援アプリ ダンサポ]メッセージ1件:冒険者 西園寺さいおんじ耀ひかり様より、育成契約のご応募がございました』



 だがその名前を目にした途端、浮ついた気持ちはすぐに引っ込んで行った。

 


「西園寺? まさか、ね……」



 同姓同名の線を考え、念のためメールに付随する応募者プロフィールを開く。

 年齢、性別、居住・活動区域、冒険者実績……。



「あ~これは――」



 ――うん、クラスメイトですね。



◆ ◆ ◆ ◆



 最寄りのギルド支部。

 冒険者であれば無料で予約・使用できる、その貸会議室にて。


 控えめなノックの音が響いた。

 入室を促すと、遠慮がちに開けられた扉から見たことある顔が覗く。 

       


「あっ、雨咲あめざき君……」



 俺を見て驚いたような、それでいてどこかホッとしたような表情。

 腰まで届く柔らかな髪を揺らして入ってきた少女は、見慣れた制服姿ではなかった。

 

 動きやすそうな肩出しシャツに短いスカート。

 関節より上まであるグローブに膝丈のブーツ。


 防具は急所部分の最小限に抑えられており、見るからに軽装だ。

 そして“学校での彼女”とは明らかに一線を画す、一本の片手剣。

  

 正に“冒険者”という格好である。

 


「うっす」

 

 

 相手が対面にちょこんと座るのを見届け、軽く挨拶。

 西園寺も可愛らしくコクリと頷いて返してくれた。



「……それで。今日は面談ってことでいいんだよな?」


 

 親しい仲、というわけではないが。

 お互いに見知った相手ということで、変な探りは入れず単刀直入に本題へ。


         

「う、うん。――あっ、これステータス紙です」



 珍しく緊張した様子を見せつつ、西園寺は思い出したというように一枚の紙を提出してくれた。

 


[ステータス]

●基礎情報


名前:西園寺さいおんじ耀ひかり

年齢:17歳 

性別:女性

ジョブ:なし


●能力値


Lv.1

HP:5/5

MP:1/1

筋力:0

耐久:1

魔力:0

魔耐:2

敏捷:2

器用:4


●スキル    

なし



 ステータス紙。

 自らのステータスを特殊な紙に転写し、可読化したものだ。

 手数料420円を払えば冒険者ギルドで作ってもらえる。


 クランや、ダンジョン関連企業への面接の際に持ち込む場合が多い。

 俺も他人のは初めて見たけど、これはある意味凄いな……。



「えーっと……」



 言葉をつなぐ意味で、改めて西園寺の格好に目をやった。

 冒険者然とした装備に防具。

 だが傷や使用感は全くなく、むしろ新品のように綺麗な表面だ。

 

 ……買ったはいいけどこのステータス値だと使い時なんてなかった、ってところかな?  



「うぅ~低くて、弱くてごめんなさい」


 

 沈黙に耐えかねたというような弱々しい声。

 見られている意図を察してか、羞恥で顔を赤くする西園寺がいた。

 細い肩を、居心地悪そうに余計縮こまらせている。

 

 ……確かにこれを普通だとか、高い能力値だとはお世辞にも言えない。



 天は二物を与えずとはよく言うが。

 西園寺なんて“校内一”とか言われる美少女なんだから、むしろステータスがこれくらい雑魚の方がつり合いが取れるというものである。

  

 

「――いや、むしろ弱いからこそ育成のし甲斐があるってものだ。じゃあ契約内容の話に入ろう」


   

◆ ◆ ◆ ◆


「えっ、テイマー?」


 

 俺の話を聴き、西園寺はキョトンとした表情。

 理解が追い付いていない様子だったので、重ねて説明した。



「そう。モンスターテイマーとかビーストテイマーとか、聞いたことあるだろう? あれの“人版”。俺、テイムした相手を育成できるんだよ」

 

「はぁ~なるほど」


 

 相槌を打ってくれてはいるが、西園寺はポワ~っとした柔らかな表情のままだ。

 ……本人がキチンと理解しているかどうかは怪しい。


 普段クラスではしっかり者の印象があるが、目の前の彼女は時に抜けた部分も見せるのだ。 

 ……まあそういう隙みたいなところも、男子が勘違いしやすい要素なんだろうけどね。 



「……報酬は、募集で見た額で本当にいいの? 雨咲君はダンジョンで得た報酬の2割、私が8割って」



 やはり能力関係についてこの場で全部理解するのは諦めたのか、西園寺は話を報酬面に進めてきた。   

 まあこちらは別にそれで問題ないんだけども……。



「ああ。それで大丈夫だ」


 

 西園寺一人だと確かに大した額にはならないかもしれない。

 だがこれをモデルケースにして、どんどんテイムする冒険者を増やせばいいのだ。

 

 そうすれば塵積ちりつもで、大きな金額にできる。



「…………」


 

 大体の説明が終わり、考慮するための時間を設けることにした。

 西園寺は事前に応募で見た内容や、今俺から説明を受けたことを合わせて熟考している。

 

 それを俺も急かさず。

 ギルド内の待合室にある自販機に立ち寄って、温かいお汁粉を飲んだりしながら気長に待った。

  


「――じゃあ、雨咲君。契約とテイム。よろしくお願いします」



 戻った時には判断が固まったらしい。

 改めて俺が対面に座ると、西園寺は律儀に立ち上がって頭を下げた。



「そっか。こちらこそ」



 頭を上げた西園寺が自然に手を伸ばしてきた。 

 こちらも反射的に中腰になり、その手を握り返す。


 ……うわっ、女子の手、握っちゃった。 

 ちっちゃ、柔らか!

 手袋越しでもそれが実感できるくらい、西園寺の手は異性のそれだった。


 

「――じゃあ、早速テイムするけど。大丈夫か?」


「う、うん。大丈夫です! あ、雨咲君、バッチこい!!」


 

 全然大丈夫そうじゃない、調子外れな声。


 顔を赤らめ大きく両腕を広げ、目をギュッとつぶっている。

 ハグか何かでも待ち構えているかのようなポーズに見えた。


 ……いや、俺、別に抱き着くわけじゃないんだけど。   



 緊張したこんな姿は、学校でも見たことがない。

 やっぱり西園寺なりに“他者にテイムされる”ということについてちゃんと考えた上で判断してくれたんだとわかる。

 


「よし、じゃあ行くぞ――【テイム】!!」   


 

 不確か・不安定なこの状態を長引かせるのも悪いと思い、早くテイムを終わらせてしまうことに。

 

 どうすればスキルが発動できるかは、自然と体が理解していた。

 まるで生まれた時からそれが備わっていたかのように。



 何もない空間から、西園寺の周囲に複数の魔法陣が出現する。

 今では当たり前となった、超常の力。

 

 そこから魔力でできた鎖が飛び出し、西園寺の体に飛びついた。

 


「――っ~!」


 

 西園寺が反射的に動こうとする前に、鎖は西園寺の全身に巻き付いていた。

 穢れを知らない無垢な美少女が、鎖で全身を拘束されている淫靡いんびな光景。


 だがそれは長続きせず。

     

 

「あっ――」



 魔力の鎖は脈動する心臓のように、小さな収縮と膨張を繰り返した後。

 まるで一体化するかのように西園寺の体に溶け沈み、消えていった。


 

 ……上手くいったみたいだな。

 


 そしてテイムの成功を知らせるように。

 西園寺の顔の横に、半透明な薄い画面が出現していたのだった。  



[調教ミッション]


●デイリーミッション


 腕立て伏せ20回 腹筋20回 背筋20回 スクワット20回   

 報酬:HP+1 筋力+1


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