すでに恋人がいる可愛い妖精おねえさんにいっぱい褒められて彼氏が妬ましくなる話
へ……? わっ<名前>くん!
どっどうしたの?
んと……。なんか顔色悪いし、すっごくしんどそうだよ……?
ああ、<名前>くん……疲れてるんだ。
えっと、大丈夫? おねえさんにできることがあったら何でも言ってね!
おねえさん、<名前>くんが元気で居てくれる方が嬉しいもん!
……え? 私、どう見ても年下?
『ミミちゃんは、はたち位にしか見えない』って? もうー、忘れちゃった? おねえさん、妖精さんだよ? 来年で101歳だよっ? そうさ……実はおねえさん、君よりずーっと年上なんだよ。
エッ。年甲斐がない? こどもっぽい?
仕方ないじゃん!! 100歳とは言っても、妖精では100歳なんて若者だし。標準化年齢っていう人間の年齢を基準にした年齢では私、20歳だし……。
そう。体の年齢はほんとに、はたちくらいだよ。
ウッ!
心の年齢が10代くらいにしか見えないとか言わないのー! 意地悪だよ!
え?
ああ……。
ふっふっふ。そうです。大正解です。
つまり、人間の男の子なんて皆、妖精で言うところのティーンエイジャーくらいという訳です!
ま、まあ、見た目がおじいちゃんとかおじさんとかだったら、多少は遠慮して敬語で喋るんだけどね……。
――って、話をそらさないの!
ミミおねえさんは君が心配なんだよっ。
すっごく疲れてる顔してるじゃん。どうしたの?
え? インターネットの人間関係とリアルの親子関係と親戚付き合いとクソみたいなマウント同期がしんどすぎる? 3分に一回黒歴史化した過去を引きずり出されてマウント取られるの……?
え、転職活動失敗した?
しかも楽しみにしてたゲームが発売中止になった?
あと少年漫画の好きな作者が腱鞘炎になって漫画しばらく描けなくなっちゃった? あと健康診断ひっかかった?
しかも、リアルの友達が最近、ネットでめちゃくちゃ喧嘩してて二人に板挟みにされてしんどい?
ていうか彼女欲しい?
あとお酒飲めないのにCMの広告で「お酒うめえー!」みたいなCMばっかり流れてきてしんどい?
ていうか、アプリを入れるアプリ、おすすめ一覧に出会い系アプリばっかり出てくるのがムカつく?
ていうか世の中ムカつく?
幸せそうなヤツみんな、豆腐のかどに頭をぶつけて馬に蹴られて失神&複雑骨折すれば良いのに?
ていうか親と仲がいいやつとか金持ちとか、学歴高いヤツとか週刊連載漫画が描ける上ですごい一般人見下してる新人漫画家とか、可愛くて優しい彼女居るヤツとか、エリートとか、上司とか、とにかく俺のことを嫌いなヤツと俺のことを見下してる邪魔なヤツら全員、滅んで海の藻屑になれば良いのに?
あとあの可愛いアイドルと付き合ったあのイケメン俳優、頭から毒キノコに寄生されて、一生キノコつきの頭になった上で100回電柱に頭ぶつければ良いのに?
う、うわあ……。
そ、そうなんだ……。
な、なんか、(名前)くん、だいぶ病んでない……?
い、いや! ナッ、ナンデモ、アリマセンッ……!
でも人間さんって大変だね……。
う、ううん! 逆にすごいよ! 一周回ってそこまでたくさん悩みがあるなんて、いっぱい色んなこと考えて生活してるんだね! 私だったらお腹すいたなぁとか眠いなぁと思って一日が終わるから……。
あっ!
でもでも、お仕事とか学校とかがしんどいのはよく分かるよ!
私も昔学生してた時はカーストの下の方で負け犬って呼ばれてたから、表面的って感じの友達関係がしんどいのは痛いほど分かる! それに、お仕事って大変だよね!
私もお祖母ちゃんの経営してる魔法雑貨屋で、釣り銭を渡し間違えて、お客さん怒らせちゃって、20分間くらい怒鳴られたことあるもん!
あっその時はお祖母ちゃんが助け舟を出してくれたから、だいじょうぶだったんだよ!? そんな、自分がしんどい時にまで私の心配をしてくれるなんて……。
やっぱり<名前>くんは優しいね!
私、<名前>くんの優しいところ、大好きだよ!
え?
適当に褒めた?
そんなことないよ!
私、ほんとうに<名前>くんの優しい所も、思いやりにあふれてる所も、照れ屋なところも、素直じゃないけど実はめちゃくちゃいい人な所も、……それにそれに、実はちょっぴり性格が可愛いところも、たまに天然なところも、一生懸命なところも、話してて楽しいところも大好きなんだよっ!
私のこと面と向かってポンコツって呼ばないし……。
うん。どう考えても優しい。
それに可愛いし。なんとなく、見ててハムスターみたいでおもしろいかもっ。うん。庇護欲をそそるタイプだねっ、<名前>くんは。
まあヒマワリの種は食べないと思うけど……。
え? ああ、おつまみのヒマワリの種は好き?
ふ、ふふ。じゃあ、<名前>くんって、ほんとにハムスターだね。えへへ……。ほっぺにいっぱいヒマワリの種詰めてたら面白いかも。
あ、ごめん。
意地悪だったかな……。
え?
そんなことより俺のこと好きってマジでって?
うん。
ほんとだけど。
そんなことでおねえさん嘘つかないよ。
…………。
ふぇぁっ!?
恋愛!? 恋愛的な意味で好きなのかって!?
ちっ、ちがうちがう! 変な意味の好きじゃないよ!
私浮気とかしないし!!
大好きだけど、この気持ちはロマンスなラブじゃなくて、人と人が絆を結ぶ系の健全健康安全爽やかな『ライク』のほうだから! 変な目で見たりしてないよ! してないんだからね!?
いや、ほんとに。
…………。
…………。…………。
…………。…………。…………。
え?
<名前>くんはミミちゃんのこと、好きかも?
ていうか好き?
割と本気?
長めの小麦色みたいな柔らかそうな金髪がふわふわした癖っ毛っていうかカールヘアなのも可愛いし、目がエメラルドみたいで、人形みたいで、いっつもリンゴを使ったお菓子みたいな良い匂いがする……?
えっ。
実は初めて見た時からきれいだなぁーって思ってた?
しかも、性格が可愛い?
いやいやいやいやいや、それはおかしいよ! 絶対思ってないよね!?
<名前>くん! そんな冗談を……こんな年上のおねえさんに……。
…………。……ぇ。
……エッ。
ほんとに好き?
れ、恋愛的な意味で?
も、もうー! これが人間流のジョークなんですね!?
お、お主もやりおるな……。
って、ちがうちがう! ほんとに! もうっ!
何回好きって言うのかな――!?
おねえさんをからかわないでよー……!
私、妖精だよ? <名前>くんがおじいちゃんになっても私、ほとんど今の精神年齢と変わらないし……連れ添えないよ。
見た目だって……。
ていうかソレ以前に、……私、大事な恋人が居るし……。悪魔族の男の人なんだけどね……えっと、相思相愛だから……うん……だめ。浮気はよくないよ。
エッ、『彼氏とか初耳』だと……?
あれっ言わなかったっけ!?
毎回、彼氏の話、してたと思うけど……。
えっ。
いつか絶対に俺のこと好きになって貰う?
いやいやいやいや。私、彼氏、居るんだけど!?
こわすぎる! どうしちゃったんだ<名前>くんは!?
……うーん。
……おねえさん、そういう目では<名前>くんのこと見れないけど、ミミおねえさんも、<名前>くんが元気ないと心配しちゃうってコト、時々は思い出してね。
私、元気な<名前>くんが大好きだから。元気ない<名前>くんは見てて辛いよ。
もちろん無理したり空元気だすのは駄目だとおもうけど、ふかふかのおふとんで寝て、すきなものいっぱい食べて、のんびりして、自分のこと大切にしてあげてね。
うん。おねえさんとの約束だよ!
<名前>くんのこと、大切なお友達だと思ってるからね! へへ……。
うん、また会おうね!
じゃあねっ、<名前>くん!
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(よどんで病んだ目で<名前>くんが妖精のミミの後ろ姿を見ていることには、まだ妖精のミミは気がついていなかった……)