ヤンキー転生~婚約破棄されるのが分かっているのなら暴走するぜ!令嬢の話
「アリサ、お前との婚約は破棄をする!私は真実の愛に目覚めた!お前のような醜女と結婚は出来ない!義妹のロッテと結婚する!」
父は言う。
「アリサ、すまないが王子とはロッテと結婚してもらう。家の事を考えたら、姉妹どちらでも良い。どこか嫁ぎ先を決めてあげる」
お義母様も当然実の子の肩を持つ。
「ごめんなさいね。ロッテも侯爵家の血を引いているの。こればかりは」
私はアリサ19歳、このアルニム侯爵家の長女。
ここは侯爵家のロビー、私は皆の前で宣言された。
私の顔は男前だ。キリッとして赤髪で緋色、目立つ。
私は気に入っているがこの男は嫌いらしい。
そして、私のもう一つの身上は、転生者だ。丸木亞里砂苦しくも日本名と同じ名前で実はヤンキーだ。
転生前はヤンキーだった。
私は右手の指を鳴らす。
パチン!
すると、周りに控えていた使用人達が私の後ろにつく。もう、この家の七割の使用人は掌握した。
「お前達、何故、アリサの後ろにつく!」
従者が皆を呼びに行く。
メイド、執事たちは私の後ろに集まる。
皆、無言だ。私は喧嘩強くない。実はしたことない。家は貧乏、しかも、進学校のヤンキーだ。最弱のヤンキーと言っても良い。
しかし、ある特技がある。
ヤンキーで、いや、人である限り出世に必要な能力だ。
「アリサお嬢様!皆、集まりました!」
「ごくろう、リク!」
人心掌握術だ。
ゾロゾロと数十人か、庭師のハンスお爺さんまで顔を出している。
実は婚約破棄される事は掌握済みだ。
「ロッテ、聞きたい事がある!」
「ヒィ、ベルベルト殿下ぁ」
「貴様ら解散しないか!」
義妹とは口を利いていない。こいつだけは異質だ。
道子ちゃんとの約束を果たさなければ。道子ちゃんは高校の親友だ。
「皆、少し頑張ってもらうよ!王子はどうでも良いからロッテを捕まえて!」
「「「はい」」」
「王子を守れ!」
王子についてきたのは側近候補か・・・・
少し過去に遡る。
☆☆☆回想
私の家は串焼き居酒屋だった。二店舗ある。
父さんと母さんがバイトを雇って回していた。
しかし、567、ウクライナ戦争による物価高で店は閉店、二店舗目を開業して預金が少なかったのが災いした。
年収1000万はあろう中小企業の我家は没落。借金返済で父は働きに出た。
知り合いの町工場だ。
プライドがあるから飲食業に行けなかった。
残業もなく給料は低い。
母もスナックにパートに出た。そこでたちまち人気者になったらしい。
プライドの高い父は母を嫌いになり。喧嘩が絶えなかった。
でも、それでグレないよ。
しょうがない事くらい知っている。
「健太、図書館に行こうか」
「うん。姉ちゃん」
どこにも連れて行ってもらえなくなったので図書館に行く。
弟はDVDを借りて世界名作劇場を見る。図書館で視聴室がある。
あの『ルン!ルン!』と甲高いOPのものやレ・ミゼラブルのアニメ化したものや。
漫画も読んでいたな。
私は歴史書や小説を読むようになった。
だって、少し、私には無理目ぐらいが時間を潰せるから暇つぶしになったからだ。
☆☆☆
中学に行った時にグレた。
理由は教師だ。
国語の先生だったかな。厚見先生、アラフォーの女の国語教師だ。カマキリみたいな顔だった。
奴に読書感想文を否定されたのがきっかけだ。
題名は『ガリバー旅行記』
「ガリバー旅行記にはオランダ人の悪口が随所に書かれており。当時のイギリス人から見た社会情勢が読み取れます。また、日本人には畏敬の念を持って書かれており・・」
「そんなこと書かれていないわよ!そもそも、ガリバー旅行記なんて、子供用の作品を読むなんて!」
「先生、課題図書にはガリバー旅行記もありますよ」
「はい、次!」
先生はヒステリーを起した。
「ガリバー旅行記」、実はあちこちに毒が盛り込まれている。
小人の国は当時のイギリスとフランスの関係。
巨人の国は啓蒙国家、理想郷だな。
その他にも漂流し、日本にも到達し踏み絵まで書かれている。
史実と違うがオランダ人は喜んでやっている?みたいに取れる記述があった。
その他にも、日本人の手下となって海賊しているオランダ人。
日本人のキャプテンは紳士的。
まあ、話はそれた。
それから私は初めての反抗をした。
別にバイクを盗んで学校の窓ガラスを割るなんて事はしない。
家は貧乏だ。賠償しなければならないだろう。
職員室に行って学級主任の山中先生に図書館で借りたガリバー旅行記と、課題図書が書かれているプリントを見せて抗議をした。
「丸木、・・・本当だな。厚見先生には私から言っておこう」
「しかし、国語の先生でも知らないのですか?」
「ああ、先生は完璧ではないよ。知らない事が沢山あるが、一度、持ち帰って調べるべきだったな」
学級主任は剣道部の顧問でもある。
厚見先生は、山中先生にへいこらしていた。
「なるほど、そうですよね!」
「次からは気をつけたまえ」
私の読書感想文はコンクールで金賞を取った。
それから、ことある毎に厚見先生は私を馬鹿にするようになった。
「家は貧乏だからって、どこかの部活に入りなさい!」
「先生、家事をしているから、許可を受けて帰宅部になっています~」
「まあ、弟がいるのでしょう!弟にも負担してもらなさい!男も家事をするべきです!今からダメオスに飼育してどうしますか?」
「弟、小学校三年生です。火を使わせるのは防災上問題があると判断しました。炊飯担当や掃除、ゴミ出しをしてもらってます」
同調して、私をからかう者、無視をする者。
「うわ、貧乏がうつる」
「フン、あんたの父ちゃん作業着で学校に来ていたよ。水道屋だろ?」
「何、親を馬鹿にするな」
「お前が先にしたんでしょう!」
厚見は、感想文系の課題やテストをことごとく悪い点をつけやがった。
何か世界の全てが敵になったように思えた。
子供の世界は狭い。
化粧をしたりスカートを短くしたり。先生に反抗するようになった。
「丸木さん!」
「せんせ~い。一応、校則は守っていますよ~、スカート丈はギリギリを攻めました~、中学生らしいおしゃれです。おしゃれは主観的です」
「また、屁理屈を!」
相談する相手はいない。弟に愚痴をこぼしても可哀想だ。
外に出て
コンビニでフリーWi-Fiを使いQ&Aの質問サイトで人生相談をした。
皆、上から目線の説教だ。ネットはジジ、ババしかいないのか?
そこで年上のギャルに声を掛けられた。
「あんた、最近来ているね」
「先輩ですか?」
「あーし、高校中退系~」
それから、相談にのってもらい私もヤンキーと言われるようになった。
と言っても田舎のヤンキーだ。
コンビニにたむろし、フリーWi-Fiを使う。
コンビニはフリーWi-Fiをきりやがった。
田んぼの真ん中の自販機の前でたむろしたり。
先輩のバイクに乗せてもらったりした。
バイクは中古のスクーターだ。
族名は「〇竜」
某漫画のモロぱくりだな。玉を集めると出てくるドラゴンだ。
似たような境遇のどこか阻害されている仲間が出来た。
「中学は卒業しておきなよ」
「はい、優奈さん」
学校は欠席しないで真面目に行った。
そんな日々を送っていたら、中三の夏だ。
山中先生に呼び出された。
厚見先生も一緒だ。
どこか、厚見はオロオロしている。
知らないおじさんがいた。
「君の共通テストの成績はかなり良い。特待生としてうちに来ないか?」
進学高校の教師でスカウトだった。山中先生が高校に打診してくれたみたいだ。
「学費は?」
「免除だ。しかし、成績を保つ義務があるぞ。大学も受験してもらう」
「分かりました。是非!」
「すごいな。丸木は」
「そうよ。私が指導しました。ねえ。丸木さん」
厚見が急に手のひらを返しやがった。
「はあ?ババ!何を言っているの?わざと学内テスト滅茶苦茶な点数つけているくせに!」
「え、それは・・」
「厚見君、調べるぞ・・・全く、君には研修が必要だ。担任も変えよう」
・・・・・・・・・・・・
「アリサ様!ロッテ様、捕まえました!」
こいつだけは、私と話そうとしなかった。
私は転生をした。高校に入ってからは充実していた。
メイク、ミニスカートの制服を着ていたが、金持ち学校の生徒達は、
「ストリートファッション?とも違う。これは何というファッションですか?」
「いや、普通に着たいものをきているだけだよ」
「まあ、アクセサリーも独特だわ。スマホに沢山つけるのね。意味はありますか?」
「ないよ」
蔑むのではなく、興味を持つ。珍しいからだ。
私は文芸部に入った。読書は好きだからな。
そこで佐藤道子ちゃんに出会った。父は評論家、母は大学の助教授のバリバリの知識エリートだ。
「ふう、最近の大衆文学を調べているけど、これ、分からなくて」
「え、なろう?!って何?そういや、健太はなろう系アニメはスルーとかいっていたな。それか?」
「ルサンチマンの解消って言うのは分かるけど、私が分からないのはピンクブロンド系よ」
道子ちゃんは話してくれた。
私、「なろう」を読んで困惑しているわ。
古代ローマのスッラの妻、クレオパトラ、中国の三大悪女、いろいろ問題はあるけども、宮廷でのしあがる才覚はあるわ。
機微をとらえ権力者の心をわしづかみにする。
でも、「なろう」のピンクブロンド系はかなりの馬鹿のように描写されているわ。
時代劇の悪代官と言えばそうだけども、彼女たちは何故王子を籠絡して、その後はどうするつもりだったのかしら。
もしかして・・・
・・・・・・・・・・・
私は転生した後、ヤンキーのコミュニティで学んだ人心掌握術で、使用人達の心を掴んだ。
まあ、舐められない。人望を保つ。そのベクトルが他の社会集団よりも強い。
手が震え手元が危ないメイドに声を掛けた。
「貴方、一体どうしたの?」
「え、それは、その」
「手が震えているわ。そんな調子で仕事をしたら危ないわよ」
「実は、母が危篤で」
ここで、すぐに帰りなさいとは言わない。
ポジョションを守る。
メイド長を呼び出し、事情を説明して、彼女を実家に帰す。
帰るときに、宝石をポンと一個あげた。
「これ、お母様の快気祝いの先渡しよ」
「お、お嬢様・・グスン、グスン」
メイド長からは感謝された。
「申し訳ございません。私の責任です」
「じゃあ、その上のお義母様の責任ね」
「そ、そんなこと申しておりません」
「・・という事になるから滅多に責任とか言わない。何か、相談しにくい環境にあるみたいだね」
仕事でも何かをしてもらったら、お礼を言う。
用事を言いつける時は、今、やっている仕事が終わるまで待つ。
何度かそれを繰り返していたら、
「お嬢様、大変です。王子殿下が義妹君と会っています」
「有難う」
情報を教えてくれるようになった。
使用人達が周りにいるのに、婚約破棄の計画とか浮気とかバレない方がおかしい。
私は情報を集めた。
・・・・・・・・・・・・・・・
ロッテはすぐに捕まった。王子は一人で逃げたのだ。
私はメイドたちに押さえられたロッテを尋問する。
「馬鹿王子だからリボンを巻いてあげるよ。だけど順番間違ってねえ?」
「・・・・・・・・・・」
無言だ。
「あんたもあいつ馬鹿だと分かっているよね。しかもロッテを見捨てて逃げ出した。控えめに言ってクズだよ」
「王子捕まえました!」
「そう、連れてきて」
「離せ!反逆罪だ!皆、死刑になるぞ!」
「どうせ死刑になるのなら、アリサ様とともに!」
ロッテは王子を心配そうに見つめる。王子は自分の心配だけをしているのに。
道子ちゃんはピンクブロンド系の行動原理を・・・
「あのさ。王宮費の使い込み。バレているよ。婚約者へのプレゼント予算だ。貴族派に連絡して、もう、すでに王家と話し合いがついたよ。没落さ。この家も」
すると、ロッテはパアアと顔が明るくなりやがった。
「本当、お義姉様」
「そうだ。不幸になれるぞ」
「嬉しい!」
たまにこんな女がいる。
いわゆる、ダメンズだ。
不幸である事で自分の幸せを実感できる。
道子ちゃんはピンクブロンド系を破滅願望の持ち主と仮定した。教える方法はないけど。
これで乙女小説はおしまいだ。
「グスン、グスン、私、不幸になりたくて、こんな難しい男とよく付き合えるねと言われたいわ」
「おい、何を言っている!」
「殿下、いえ、もう殿下ではないかも知れませんが、私、王子を不幸に出来ます!」
「はあ?おい、アリサ!何とかしろ。婚約破棄を撤回してやる!」
「やだね」
「グスン、グスン、お義姉様、ありがとう」
「おう、気にするな。親もつけるぜ」
「何だと!」
「アリサ!私は無関係よ!」
初めてロッテからお礼を言われたぜ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
その後、侯爵家は王党派の貴族が引き継ぎ和解した。
王子とロッテ、両親は市井をさまよう。
使用人のほとんどは、実家に残った。
行動する使用人達だ。新たに当主になった者は大事に扱うだろう。
これを機に契約を見直してもらった。
私は資金をもらって貴族籍を抜け。
私についてくる使用人たちと南のバカンス都市で串焼き屋居酒屋を始めた。
私も働く。店先でジュウジュウ串焼きを焼く。看板娘と、面倒な客がきたときの対処だ。
いや、「なろう」だと、追放された悪役令嬢はお洒落なカフェをやるみたいだけど、あれは利益率が低い。
大手がチェーン展開をして、グッズを売って利益を出しているのだ。
もう、乙女小説の世界は終わりだろう。
「あ、熱い!」
「お客さん。大丈夫かい?」
金髪碧眼のイケメンのお客様が串焼きを落とした。
貴族のお忍びか?
「串焼きは熱々さ。もう一本あげるよ」
「いいの?」
「食べ方も教えてあげる。ほら、こうやって、フーフーして冷ますんだ」
「有難う・・・実はずっと屋敷の中にいて、冷めたものしか食べてこなかったんだ」
「ほお、猫舌さんかい?」
「若ぁーーーー」
「坊ちゃん!」
「あら、使用人たちが呼びに来たよ」
「うん。また、来ていい?」
「もちろんさ。私はアリサ」
「僕はフレンゲル」
それから、イケメンは店に来るようになった。
護衛つきだ。
「ねえ。実は僕、ここら辺全然知らなくて」
「私もあまり知らないよ。気にしなくていいよ」
「実は・・・街を案内して欲しい」
「いいよ。今度の休みはどうだい」
「はい!じゃあ、あの塔の前で、10時に!」
いいな。観光だ。元使用人達に話したら。皆、嬉しそうだ。皆も観光したいのか?
「あの、アリサ様、フレンゲル様と言えば隣の大国ガイア王国の第三王子殿下と同じ名で、病気療養で暖かい我国に滞在していると聞きますわ」
「へえ、まあ、同名って沢山いるでしょう」
何故か、元使用人たちは、私にお洒落をしろと迫る。
「平民用のドレスを見に行きましょう!」
「お嬢様、カンパです。ドレスとアクセサリー代に使って下さい!まさか、その平民の服でデートに行く気でしたか?」
「はあ、デートだと!!」
もう、乙女小説は終わりだよ。こいつら何言っているの?
後に、ガイア王国の第三王子は隣国出身の赤毛の女性と結婚した。
彼女は平民だが、貴族にルーツを持つとされる。
病弱な王子を助け。
兵を率いて賊討伐を実行し。ガイア王国初の女将軍になったと伝えられている。
最後までお読み頂き有難うございました。