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ナインテイルより愛を込めて。  作者: 檸檬飴
異世界の始まり
9/18

コバンの毛並みを三毛猫→赤い毛並みに変更しました。

イメージは招福の赤猫です。


他、ログ・ホライズン本編のキャラクター達の登場は、あまり期待しないでください。

必要があった際には登場するはずです。


 コバンはただの〈大地人〉であった。

 ついこの間までは。


 少しばかり大きな家に生まれた、貴族にもなりきれないただの商家の嫡男だった。


 だが。初夏のとある日に、唐突に「そうだ、商人として大きなことを起こしてみよう」と思い至ったのだ。もちろん、家族のほとんどや使用人達には反対された。だから、数名の信頼できる部下だけ連れて家を出る。なにか、新しい事が起こりそうな予感に胸を膨らませて。


 そして。『なにか』は起こったのだ。


 〈冒険者〉達の挙動がおかしくなった。

 正しくは――より感情的に、非効率的に、なった。


 今までの〈冒険者〉と言えば、何を考えているのかも分らない、異常なほどに強い、あるいは異常な速度で成長する、強靭な者達であった。

 颯爽と現れては〈大地人〉同士、あるいは恐ろしいモンスターとのトラブルを解決し、少しの報酬を受け取るだけで見返りも大して求めない。まるで英雄かのような者達。


 そんな印象だったのだが、ある日を境にそうでなくなった。

 特に、〈ナカスの街〉の冒険者達は英雄のような活動を『しなくなった』。もちろん、そうでない者もいるようだが――よくわからないが、(今までも何を考えているのか分からない顔ではあったが)より生気のない顔でうずくまっていたり、食事をもそもそと食べていたりするのだ。


 別に〈冒険者〉達を恐れはすれど、コバン自身は過剰な幻想は抱いていなかったので特に大きな問題はなかったのだけれど。


 とにかく。商人として大きなことを起こしたいと思い至ったコバンは、まずは〈冒険者〉に声を掛けようと考える。だが、死んだ顔をしている〈冒険者〉は使えない。だって、コバンが起こそうとしていることは生半可な気持ちでは成しえないことだからだ。よって、活動的な〈冒険者〉を狙わなければならなかった。

 だが、活動的な〈冒険者〉はそれはそれで怖い。なぜかやけに殺気立っていたり、周囲を警戒していたりするからだ。おまけにレベルは高い者が好ましかった。なんというか、〈冒険者〉の大半はレベルがものすごく(というか異常なくらい)高いのだけれど。90などというとんでもないレベルの〈冒険者〉を、コバンは求めていた。


 そんな高望みをしまくりながら〈ナカスの街〉を彷徨って数日。

 とうとう、コバンのお眼鏡に適う〈冒険者〉が現れた、というわけだ。


「(にゃんと言うか、声を掛けやすかったですにゃ)」


 名前はヒルヒメと言うらしい〈冒険者〉の、人の良さそうな顔が決め手だった。ツキヨミとかいうもう一人の〈冒険者〉が釣れたのは幸運である。


「(しかし、〈冒険者〉という者は、すさまじいですにゃ……)」


 コバンをどこに連れて行こうかと相談する二人をちら、と流し目で確認した。

 ヒルヒメという〈冒険者〉は巫女のような恰好をしているが、その素材はとんでもなく質が良い。まるで春の姫のような佇まいで、その服飾品もいくら掛かるのかそろばんをはじいたら驚いてしまうだろう。

 ツキヨミという〈冒険者〉は禰宜のような恰好をしているが、気配がただの人間じゃない。冬のような凍てつく鋭い気配に、背筋が凍ってしまう。

 双方ともに弓を持っているようだが、用途が違うように思える。ツキヨミの弓は普通の弓のようだが、ヒルヒメの弓は恐らく梓弓だ。


「(にゃにか……神事をしている方々にゃのですかにゃ?)」


 詳細は追々で聞くとして、そう予想を立ててみる。だが、〈冒険者〉が神事をしているなどという話は聞いたことがない。〈冒険者〉への謎がより深まった時、


「コバンさん、何か気になる場所ありますか?」


とヒルヒメが声を掛けた。柔らかな声色で、なんだか気が抜けてしまう。


「無ければそれでも良いですが。案内が早く終わるだけですので」


そうツキヨミが冷たく言い放つ。その二人の落差に翻弄されながらも、コバンは「あの建物はにゃんですかにゃ?」と問い掛けた。



「ふむふむ、〈ナカスの街〉の市場はこうにゃんですにゃね」


 コバンは周囲を興味津々に見回す。無論、ヒルヒメ達に声を掛ける前から市場の調査はしていたのだが、どうやら〈冒険者〉の利用できる市場とやらもあるようなのだ。


「需要……価格が上がっているものは果物類、と」


反対に価格が落ちているものは『完成している料理』のようだ。その点も記録しておく。


「(……今更、味についてこだわり始めたのですかにゃ?)」


以前は素材アイテムとなる果物類の価格はかなり低めに設定されていた記憶がある。逆に、様々な効力を発揮する完成した料理類は性能に合わせてそれなりの価格が付けられていた。だから、『〈冒険者〉は味に興味がにゃいみたいですにゃ』と思った記憶がある。〈大地人〉との商品のやり取りでは味のある食品は最高級品として出回ることが多いからだ。


 この違いも、〈冒険者〉達の異常と関係があるのだろうか。


「(――ともかく。この異変に気付けて良かったですにゃ)」


『味』が〈冒険者〉達にも効くのならば。コバンの奥の手が通用するという証左になる。



 それから、市場の調査が終わった後は〈ナカスの街〉の名所(と言われるオブジェクトの場所)にヒルヒメ達は移動した。


「にゃるほど。〈冒険者〉の皆様はこういうものがお好きにゃのですね」


と感心して頷いていたが、ヒルヒメ達の反応は微妙だった。違うのかしら、とコバンは首をひねる。


「コバンさんはプレ……〈冒険者〉との繋がりが欲しいんですよね?」


 ヒルヒメが問いかける。それは出会った頃にコバンの告げた台詞だった。


「そうでもありますが、それだけではにゃいですにゃ」


〈冒険者〉との繋がりは本当の目的の手段でしかない。それをどう言おうか、と逡巡している間に


「……〈ナインテイル九大商家〉、ですか?」


そうツキヨミが言葉を掛けた。


「にゃにゃ! 鋭いですにゃね」


 顔が見えないツキヨミなので、彼が機嫌を損ねていないか気になる。ヒルヒメの方はきょとんとした顔でツキヨミを見ていた。だが、ここで〈冒険者〉との繋がりが切れてしまったら、また探すところから始まってしまう。それをコバンは恐れていた。


「ここ〈ナカスの街〉の文化圏といえば、〈ナインテイル自治領〉。〈ナインテイル自治領〉の為政者は、〈ナインテイル九大商家〉。つまりは商家の支配する地域です。そこでわざわざ商人をやるということは、同盟するにしろ、敵対するにしろ〈ナインテイル九大商家〉とは嫌でも関わることになります」


「なるほど」


「ぼくとしては〈ナインテイル九大商家〉の皆様とはぜひとも仲良く(にゃかよく)していきたいのですにゃ」


ツキヨミの解説に頷くヒルヒメに、コバンは補足する。


 〈ナカスの街〉のある〈ナインテイル自治領〉は、〈弧状列島ヤマト〉の西南に位置する(地球世界の九州地方に相当する)地域を治める勢力だ。北側はトオノミ地方、南側はハヤト地方と呼ばれ、〈弧状列島ヤマト〉で唯一、商人の主導によって自治がなされている。

 ナインテイルは、もともとは〈ウェストランデ皇王朝〉から派遣された公爵家のひとつ、ナインテイル公爵家の統治下にあった地域であったが、〈第一の森羅変転〉の際に公爵家は滅亡した。その後、ナインテイル公爵家の末裔を自称する9つの勢力〈ナインテイル九大商家〉による各地域の分割統治と商家同士の同盟関係が続いている。


 〈ナインテイル九大商家〉は〈ナインテイル自治領〉を統治する9つの豪商たちの総称だ。北部トオノミ地方の〈北部五家〉(クォーツ家、リーフトゥルク家、ウェルフォア家、ラレンド家、リューゾ家)と、南部ハヤト地方の〈南部四家〉(カルファーニャ家、オオスミ家、イトウ家、オイドゥオン家)で構成されている。

 彼らは皆、かつてこの地を治めていたナインテイル公爵家の末裔を自称する者達であり、過去には公爵家の正統後継者の地位とナインテイルの統治権を巡り、激しく争う間柄であった。しかし長年の戦で状況は膠着し、また亜人勢力との抗争が激化してきたこともあり、9つの商家が各地方を分割統治の形で治めることを決議し和睦した。これが〈九大商家〉の始まりである。これは同時に、戦乱によって失われた公爵領を取り戻そうとするウェストランデ朝廷からの介入を防ぎ、ナインテイルの独立を維持する狙いもあった。

 彼らは商人だが、領地の維持や統治のために各地の貴族同様に官僚集団や、オイドゥオン家の〈サツマ騎士団〉などに代表される独自の私兵集団を抱えている。また、祭事を取り仕切る〈九山巫女〉と呼ばれる専属の宗教組織をも擁しているのだ。


「ぼくはまだ駆け出しの商人ですが、やはり後ろ盾が欲しいのですにゃ」


恐る恐る、とコバンはヒルヒメとツキヨミを見た。


「——つまり。〈ナカスの街〉の案内の後は〈九大商家〉とのコネ作りに奔走しろ、ということですか」


「にゃあ。まあ極端にいえば、そうですにゃね」


 そのツキヨミの温度を感じられない言葉に、コバンは気まずさを感じ下を向く。

 コバン自身は、そこまで横暴なことをいうつもりは無かった。だが、結果としてはそうなってしまうだろう。なにせコバンは大した力のないただの〈大地人〉の商人だ。〈九大商家〉と繋がりを作るためにはそれぞれの治める土地に足を運ばねばなるまい。だが、それを〈冒険者〉の助けも無しにはどうやってもあり得ない。この温暖な〈ナインテイル自治領〉にはオークをはじめ、様々なモンスターが蔓延っているからだ。そうなると、必然的にコバンの護衛として〈冒険者〉を付き合わせることになる。


「……ギルドマスターに伺わねば」


 ぼそりと低く告げられたツキヨミの言葉は、コバンが想定していた拒絶の言葉では無かった。顔を上げるとにこにこと笑顔のヒルヒメと目が合った。おまけに、『ギルドマスター』と言わなかったか。たしか、ギルドマスターと言うと〈冒険者〉の中でも色々な権限を持つ者のはずだ。


「にゃ! あなた方の大元まで連れて行ってくださるのですかにゃ?!」


「……まあ、そうなりますね」


言葉の意味を理解し、思わず声を上げる。するとツキヨミはやや歯切れが悪そうに頷いた。その様子を見て、なぜかヒルヒメは柔らかく笑う。


「どんなに大変でも、断るつもりは無いですよ」


そう、ヒルヒメがツキヨミの言葉を代弁するかのようにコバンに告げた。


×


 ヒルヒメとツキヨミは、コバンを伴って〈やおよろず〉のギルドキャッスルに向かうことにした。


 「まあ。然程、話の展開は変わらないでしょうが」と呟きつつ、ツキヨミは念話を使い、ギルドマスターの伊舎那に「客人を連れてまいります。〈大地人〉の方で、私達に協力を仰いでいます。規模がやや大きい話なので、ギルドマスターの意見を伺いたく存じます」と告げた。

 まるでビジネスの連絡のようだと思いながらヒルヒメはちら、とツキヨミを見てから、コバンの方に視線を移す。


「にゃ……」


 どこか所在なさげに、おろおろしている様子がなんだか可愛らしい。恐らく事の行く末が不安なのだろう。


「心配しなくても、ギルドマスターは『いいよ』って言ってくれるはずですから。大丈夫です」


そうヒルヒメは声を掛ける。まあツキヨミと言っていることは概ね同じであったが。それを聞き「本当ですかにゃ?」と首を傾げるその様子も可愛い。

 とりあえず念話での報告は終わったらしく、「では、行きましょう」とツキヨミが声を掛けた。


 道中での会話は、主に『どうして声を掛けようと思ったのか』とかその周辺の話になる。どうやらコバン自身は自ら思い立ったのが一番のきっかけらしいが、最近の〈大地人〉にもそういう動きがあるらしい。


「他の者達も〈冒険者〉の皆様(みにゃさま)にお声掛けをしようという動きがありまして。ぼくも駆け出しとはいえ商人の端くれ。乗れる(にゃみ)には乗っておきたかったのですにゃ」


そう、照れたようにコバンは告げる。

 言われてみれば、周囲をよく見てみれば〈冒険者〉に混じって〈大地人〉の姿が増えているような気がする。というか、ゲームだった頃と比べ、圧倒的に〈大地人〉の人数が増えていた。その理由を考えていたヒルヒメだったが、よくは分からない。


 それから、〈やおよろず〉ギルドキャッスルに到着した。


 ギルドキャッスルに入る前に、「あ、ちょっと待ってくださいにゃ」とコバンは自身の鞄を探って手提げの袋を取り出す。中には何か瓶のようなものが入っているようだ。それを持ち、「お待たせしましたにゃ」とコバンは準備が整った旨を二人に告げる。


 事前にツキヨミが連絡済みだからか、庭などで鍛錬している者の姿はなかった。心なしか、中も綺麗になっている。


「ようこそ、〈やおよろず〉へ。お待ちしておりました」


 玄関を開けると、きちんとした格好の黄泉津が出迎えた。


「あれ、マスターは?」


「まずは、客間にお通しして」


問うヒルヒメに黄泉津は(外向け営業用の)美しい笑みを返す。従えという圧を感じたので大人しくコバンを客間に連れていくことにする。


「では、このまま案内いたします」


「ありがとうございますにゃ」


ギルドキャッスル内では靴を脱ぐよう告げてから、ツキヨミは用意されている内履きを履くようにコバンに勧めた。

 コバンはやはり、緊張しているようにヒルヒメには見える。その緊張はどちらかと言うと、話し合いに対しての不安ではないように感じた。なんとなく、〈冒険者〉を恐れている。そんな感じだ。


 それからギルドキャッスル内を少し歩いてから、客間に到着した。「どうぞ、お掛け下さい」とツキヨミはコバンを上座へ案内する。


「失礼しますにゃ」


そうしてツキヨミ、ヒルヒメが着席してから伊舎那が客間に現れた。


「お待たせしてしまい、申し訳ない」


 そう照れたように笑顔を見せる伊舎那に、コバンはどこかほっとしたようだ。


「僕は堅苦しいのは苦手でね。砕けた口調だけれど許して貰えると嬉しい」

「にゃ、お構いにゃく……」


 コバンは恐らく『ギルドマスター』と聞いて、どんな恐ろしい〈冒険者〉が現れるのだろうと気になっていたのだ。それが物腰の柔らかい人物が相手だと分かり、少し安心したのだろうとヒルヒメは推測する。

 伊舎那はそれなりに背は高いが、ツキヨミのような圧は感じさせない。それは伊舎那自身の纏う雰囲気なのだろう。伊舎那の表情の作り方や言葉は柔らかく、するりと人の懐に入るのが上手い。


「ところで。そうして単身で来ているのは、誠意のつもりかな」


 にこやかな笑みのまま、伊舎那はコバンに問うた。それを聞かれ、一瞬身体を強張らせるも


「そのつもりですにゃ」


そうコバンは肯定する。

 どうやら、コバンには同行者が居たらしい。ヒルヒメはそれに気付けなかったが、伊舎那は見てきたかのように言い当てた。


「多分、従者かな。連れて来てくれるかい?」


「にゃ、良いのですかにゃ?」


「その方が緊張もほぐれるだろう。それに、彼らも近くに居るのなら共に話の場に居させた方が良い」


伊舎那の提案に、おっかなびっくりしながらもコバンは従者達を呼ぶことにしたようだ。それから然程長くない時間をおいて、従者も客間に通される。


「これで全員ですにゃ」


 現れた〈大地人〉はコバンを除いて5人。皆、猫人族だった。


「右から、マネキ、マヒル、ヨナカ、サカナ、トトラですにゃ。ぼくと小さい頃から共に居る、信頼できる者達ですにゃ」


 紹介されて、それぞれが丁寧に挨拶をする。


「マネキはぼくの妹で、マヒル、ヨナカ、サカナ、トトラは幼馴染(おさにゃにゃじみ)で従者であり護衛でもありますにゃ」


マネキはコバンとよく似た赤毛、マヒルは白猫、ヨナカは黒猫、サカナは鯖猫、トトラはガタイの大きな虎猫だ。



 それから、話し合いが始まった。

 コバンは〈冒険者〉との繋がりが欲しい。そして、伊舎那はこれからこの世界で生きていくために〈大地人〉との繋がりを欲していた。だから、そこだけを見れば利害が一致しているので話は進むはずだ。


「(……でも、そう簡単には行かない、のかな)」


 伊舎那とコバンの腹の内の読み合いをヒルヒメは横で聞いている。コバンがクエストを発注し、それを受けた相手としてヒルヒメとツキヨミはこの話し合いに参加していた。ツキヨミは静かに口も挟まず様子を見ている様子なので、それに習いヒルヒメも黙ってコバンと伊舎那のやり取りを見守っている。


「ひとまず手土産ですにゃ」


 「故郷の品なのですにゃ」と、コバンは手提げを差し出す。


「そうなんだね。故郷とはどんな場所なのかな」


伊舎那はそれを受け取り、上座側に置いた。特に悪い反応でなかったことにコバンは安心したようで、大分リラックスしてきている。


「故郷は〈ウスキネ〉と言いまして、〈ユフインの街〉の近くですにゃ」


 「こちら、ご進物(しんもつ)と同じ代物ですにゃ」とコバンは自身の鞄から小さな瓶を取り出した。それはラベルから推測するに、カボスのジュースだ。

 「どうぞ、中をお確かめくださいにゃ」と言われ、それに合わせて伊舎那は手提げ袋の中身を取り出した。そこにはコバンが取り出したカボスのジュースとカボスの酒が入っている。


「(わざわざ持ってくる、ということは……)」


伊舎那はコバンの方を見遣った。


「どうぞ、お飲みくださいにゃ」


その言葉と共に伊舎那はとある確信を持つ。「黄泉津、コップを人数分お願い」と短く告げれば控えていた黄泉津によってすぐさま用意され、コバンの取り出した小さいカボスジュースの方が開けられた。


 コップに注がれたそれは良い香りを放つ。


「自慢の品ですにゃ」


 伊舎那達が口を付けたのを見計らって、コバンは告げた。それはどこか自信たっぷりで、勝機を確信しているように見える。


「……あれ、思いの外反応がまちまちですにゃ?」


 だが。

 伊舎那達の反応は、想定していたよりも薄かった。


「味のある料理ならね」


コップを卓に置き、伊舎那は「例の物、持ってきて」と声を掛ける。すると少ししてウケモチが菓子を持ってきたのだ。

 それはただの饅頭であった。


 不思議そうにするコバンに、「どうぞ、お茶菓子です」とウケモチがコバン達に緑茶と共に饅頭を並べる。

 並べられたそれをコバン達は口に運んだ。


「こ、これは……!」


「うちでも食べられるんだよね」


「そ、そんにゃ……」


 コバンはかなり大きなショックを受けた様子だった。それはそうなのだろう。この〈エルダー・テイル〉によく似た世界では、料理に味がないのはほとんど常識だったのだから。だからこそ、味のあるカボスジュースが、取り引きでの有用な手段だとコバンは考えていたのだ。


「〈ウスキネ〉……ってことは臼杵かな。じゃあもしかして、他にも用意してる? 例えば醤油……豆類を水や塩で加工したもの、とか」


「にゃ?! にゃぜ、それを……」


 言いながら、コバンは黒い液体の入った瓶を取り出した。受け取り検分すると、少し砂糖の入った醤油のようなものだと分かる。


「もしかして、味噌……半固体状のものも作ってる?」

「そうですにゃ……にゃぜご存知なのですにゃ?」


伊舎那がコバンに視線を向けると、コバンは頷いた。


「お刺身に付けて食べると、素晴らしい味ですにゃよ」

「そうだろうねぇ」


負け惜しみのように告げるコバンに伊舎那は深く同意した。


「(……タイミングが悪かったなぁ)」


そう、コバンと伊舎那のやり取りを見、ヒルヒメはそう言う感想を抱いた。というか〈やおよろず〉はウケモチのおかげで〈大災害〉初日で味覚の問題はほとんど解決済みだったからだ。

 仮にウケモチが料理について何も発見していなければ……もしかすると、この商談はコバンの方が優位に立てていたかもしれない。


「ど、どうしたら良いですにゃ?」


 とっておきの手が使えず途方に暮れるコバンは、それでも〈冒険者〉の手を借りたいと伊舎那に声を掛ける。


「気にしなくていい」


だが、伊舎那は相変わらず柔らかい声色でそう告げた。それを聞き、『やっぱりだ』とヒルヒメは安堵の息を小さく吐いた。隣のツキヨミは相変わらず微動だにしないが、恐らくヒルヒメと似た心境だ。


「にゃ、それは……どういうことですにゃ?」

「そんなことをしなくたって、〈やおよろず〉は君に協力する、って話だ」

「にゃ?!」

「丁度、そろそろやらなきゃって思っていた頃合いだったし」


「そうだよね?」と伊舎那がヒルヒメ達の方を向く。それに合わせてヒルヒメは頷いた。「えぇ、そうですね」とツキヨミも返事をする。

 丁度、ヒルヒメ達はレベル上げのために〈ナインテイル自治領〉全体を回る用事があった。それのついでにコバン達を連れ回しても何ら問題はないし、〈やおよろず〉自体も伊舎那の方針により〈大地人〉との繋がりを欲していた。

 初めにヒルヒメ達がコバンに告げていた通り、『いいよ』という案件だったのだ。


「それともう一つ。さっきみたいなのはダメだ」


 伊舎那は少し険しい顔でコバンに告げた。コバンはよく分かっていないような顔をしていたが、


「〈冒険者〉の中には、さっきの君みたいに『どうしたら良いか』と聞いた相手、特に〈大地人〉のような者にかなり強気に出る者達も居る。だから、言葉には気を付けて」


そう伊舎那の言葉にはっとした顔をする。


「僕達〈やおよろず〉はそんな人は居ないはずだけど。……運が良かったね」


「……はいにゃ……」


 まるで親に叱られた子供のようだ。だが。〈冒険者〉が〈大地人〉に『強く出る』のはありえない話ではない。〈冒険者〉は余程特別なNPCでない限りだが〈大地人〉と比べて能力が圧倒的に優位なのだ。

 いつか、どこかの〈冒険者〉が〈大地人〉相手に迷惑をかけると言うのは、絶対に無い未来の話ではない。もしかすると、現にどこかでそういったことが起こっているかもしれない。


「大丈夫。僕達〈やおよろず〉は君達〈大地人〉には危害は加えないと約束するよ。無論、相手が理性的な対応をする限り、だけれど」


「にゃ……それは……」


「信用できないのは無理ないよ。うーん、君との信用構築としても、〈ナインテイル九大商家〉との会合はやらなきゃだねぇ」


「にゃんでそこまでしてくださるんですにゃ? 利がにゃいでしょう?」


「それが〈冒険者〉だから、かな」


伊舎那はウィンクをしたが、コバンには通じていなかったようだ。ぱちくりと瞬きをした。


「どうしても利害関係があった方がやりやすい、って言うなら。それでも良いさ」

「にゃ?」


伊舎那の言葉にコバンは伊舎那の顔を見る。


「醤油と味噌、その他、君の扱う商品達をこの〈やおよろず〉に融通してもらいたい」


そう言われた時、コバンはかなり嬉しそうな顔をしていた。もしかすると、故郷の品を受け入れてもらえたことが嬉しかったのかもしれない。そう、ヒルヒメは思う。


「もちろん、必要があれば護衛として雇っても良い」

「にゃ、分かりました」


 こうして、〈大地人〉コバンと〈やおよろず〉は関係を組むことになった。


×


 その夜。

 〈やおよろず〉のギルドメンバー全員が集まる夕飯の時間を少し早めて、コバン達の紹介と受けたクエストの話が披露された。メンバー全員に告知されたのは『コバンが〈九大商家〉と会う道の護衛を依頼している』『ヒルヒメとツキヨミがその依頼を受け、〈やおよろず〉もそれに協力する』といった内容だ。

 ほとんどのメンバー達は〈大地人〉からの依頼ということで特に問題にせず、「必要があったら声をかけてね」と軽く反応しただけだった。


 クエスト内容が『レベル90以上』という制約が付いている以上、関係があるのは第一部隊と第二部隊のメンバーくらいなのだ。だからか、少し他人事感がある。


 それから改めて第一部隊と第二部隊の者達を集めて事の詳細を告げる。


「受けちまったんなら、最後までやらないとだな」


 そうタケハヤが告げただけで、他のメンバーからは異論の声は出なかった。そもそもがギルドマスターの決定であるし、自身らもそろそろ何かしらを行動したいと考えていた頃合いだったので、丁度良かったのだ。


 まず、どの順番で各家に行くかを決めることになった。


「そうだなぁ……」


顎に手を遣り、伊舎那は考え込む。


「ツキヨミ」

「はい」

「君が占って()()。君は『星詠み』だよね」

「は」


伊舎那の軽くも淡々とした言葉に、ツキヨミは文句も告げず快諾した。


「できるの?」

「やってみます」


問いかけるヒルヒメに短く返し、ツキヨミは何やら道具を取り出し広げ始めた。


 それから。


「見えました」


 ツキヨミが見えたものを紙に書き出し、それを伊舎那に見せる。


「じゃあその順で行こうか。多分、その方が間違いはない」


頷きそう伊舎那が告げたので、クォーツ家のある〈アキヅキの街〉、リーフトゥルク家のある〈パンナイルの街〉、ウェルフォア家のある〈貿易港ノースゲート〉、ラレンド家のある〈ユフインの温泉街〉、リューゾ家のある〈ロングケイプ軍港〉、カルファーニャ家のある〈エイスオの街〉、イトウ家のある〈陽光の街ヒュウガ〉、オオスミ家のある〈ツルマル城砦市〉、オイドゥオン家のある〈千年雪の街バスケタ〉の順序で向かうことになった。


「沖縄……フィジャイグ地方に行く、というか行けるかは一旦置いて。まずは準備をしなきゃだね。確か、気候がかなり温暖なんだよね?」


そう伊舎那が問い、一度その周辺まで向かったことのある第一部隊のメンバー達は頷く。


「温暖、って言うか熱帯のジャングルみたいだったよ」


そうシイナが答えた。だが、〈冒険者〉の頑丈な体だからか、あまり暑さは感じなかった、と続ける。

 だが、〈大地人〉のコバン達はどうなのだろうか。もしかすると、かなり暑く感じるのではないのか。モンスターに襲われたらどうしようか。そういった話も含めて、より入念な準備を行った。


 準備期間は1週間ほど取り、それから第一部隊のメンバーとコバンはクォーツ家のあるアキヅキの街へ向かうことになった。


〈大災害〉からひと月経ちました。


辺境の街にて(櫛八玉、がんばる!)より、現実世界の10時間程度でレベルが50台に乗る、12倍の時間が流れるとの叙述から

10×12÷24=5 により、24時間動きっぱなしだと5日で50台に上がる事がわかる。

(流石にそれはあり得ないので)

120時間を労働時間と同じ8時間で割ると15(日)。

つまり、大体1日8時間頑張ると15日程度でレベル50台に上がれるということです。

と言うことで、〈やおよろず〉のメンバー達は大まかにレベル下限が40〜50になりましたとさ。

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