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ナインテイルより愛を込めて。  作者: 檸檬飴
ゲームの終わり
16/18

16

 〈陽光の街ヒュウガ〉への道は、どこまでも続く黄金色の田んぼに彩られていた。馬車が緩やかな丘を進むたび、風に揺れる稲穂の音と遠くから聞こえる農夫の笑い声が耳に届いた。〈ナインテイル自治領〉の中でも農業を基盤とするこの街は、穏やかで現実的なイトウ家の支配下にあり、陽光が田畑を照らす光景が広がっていた。ヒルヒメは馬車の荷台から身を乗り出し、輝く田んぼを指さした。


「きれいだね! なんか平和な感じがするよ」と、シイナは笑う。


「農業が中心の街ですからね。イトウ家は他家との軋轢を避けて、安定を求める穏健派だそうです。〈冒険者〉にも中庸な態度を取るらしい」と、ツキヨミは答えた。彼は田んぼの向こうに見える街の輪郭を見据えている。


タケハヤも、「戦うより楽そうだな。たまにはこういうとこもいいぜ」と気軽に言った。コバンが「にゃるほど、穏やかな街は心も癒されますにゃ」とにこにこしながら頷いた。


 〈陽光の街ヒュウガ〉を治めるイトウ家は、穏健で現実的な商家として知られている。大きなリスクを取らず、他家とのバランスを保ちつつ安定した経済を求める姿勢が強く、〈冒険者〉に対しても深入りを避ける傾向があると聞いていた。ヒルヒメ達の目的は、贈り物と軽い協力で緩やかな関係を築くことだ。


「ここでは贈り物作戦らしいよ。地元産品とか渡すんだって」と、ヒルヒメが少し楽しげに言った。シイナが「簡単そうでいいね。戦わなくていいなら楽ちんだよ」と笑い、スイテツとウケモチは無言で荷物を確認していた。


×


 街に到着したヒルヒメ達は、イトウ家の屋敷へと案内された。田んぼに囲まれたその屋敷は、木造の素朴な造りで、庭には稲穂を模した飾りが置かれていた。広間に入ると、そこに一人の女性が立っていた。金色の髪を緩く結い、温厚な笑みを浮かべた彼女は、黄色と白を基調とした巫女装束に身を包んでいた。〈ナインテイル九山巫女〉の一人、"黄金巫女"八代目ヨーコ=イトウだ。豊穣を祈る伝統的な巫女として、農耕指導や儀式を担い、イトウ家の穏やかな影響力を保っていた。


「ようこそ、〈陽光の街ヒュウガ〉へ。私はヨーコ=イトウ、この家の巫女を務めております。遠くからお越しくださり、嬉しいです」


彼女が柔らかく挨拶する。その声は穏やかで、まるで陽光のように温かかった。


 コバンが一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。


「初めまして、ヨーコ様。ぼく、コバンと申しますにゃ。〈やおよろず〉の皆様(みにゃさま)と共に、貴家とのご縁を頂きたく参りましたにゃ。まずはこちらをどうぞ」


と、地元産のカボスジュースや工芸品を差し出す。それをヨーコが温厚な笑顔でそれを受け取り、


「まあ、なんて素敵な贈り物でしょう。豊かさを分かち合えるなら、私も嬉しいです」


そう感謝を述べた。


 ヒルヒメが少し緊張しながら前に進み出た。「わたし達は〈やおよろず〉の第一部隊で、わたしはヒルヒメと言います。この街のお役に立てることがあればと思って来たのですけど……」


「その気持ちだけで十分ですよ」と、ヨーコが微笑む。


「実は、田んぼに運ぶ物資が少し溜まっていて。軽くお手伝いしていただければ、私も助かります」


その言葉にタケハヤが「運ぶだけなら楽勝だな」と腕を組み、シイナが「戦闘より楽でいいね」と笑った。ツキヨミが「穏便な依頼ですね。印象を良くするチャンスです」と呟いた。


×


 翌日、ヒルヒメ達は田んぼへの物資運搬を引き受けた。ヨーコの依頼は、倉庫に溜まった肥料や農具を農夫に届ける簡単な仕事だ。〈冒険者〉の実力を控えめに示しつつ、穏やかに協力することに徹した。


 タケハヤが重い袋を担ぎ、ヒルヒメが荷物を整理して農夫に手渡す。シイナが周辺を見回し、スイテツとウケモチが荷車の管理を担当した。ツキヨミは全体を見渡し、「効率よく進めれば好感を持たれるでしょうね」と呟く。農夫たちが「助かるよ」と笑顔を見せ、穏やかな時間が流れた。


 作業を終え、屋敷に戻った一行は、ヨーコに報告を行った。彼女は運ばれた物資を見て、「お見事です。こんなに早く終わるなんて、農夫たちも喜びますね」と穏やかに認めた。


 コバンは提案を切り出した。


「ヨーコ様、ぼくからお願いがございますにゃ。たまにこういった依頼を〈冒険者〉が受ける形で、緩やかなお付き合いをさせて頂けませんかにゃ? その代わり、情報共有を頂ければ幸いですにゃ」


ヨーコが少し考えるように目を伏せ、再び開く。


「それは良いお話ですね。物資運びが楽になれば田んぼも助かりますし、情報なら私にも分かち合えるものがあります」


「ヨーコ様の儀式にも協力しますよ。豊穣を祈るなら、わたし達も一緒に盛り上げたいです」


ヒルヒメが付け加えた。


ヨーコが小さく笑い、「その提案、素敵ですね。儀式に力を貸していただければ、豊かさがもっと広がるかもしれません」と頷いた。


×


 交渉の最終日、ヨーコは広間で正式に契約を結ぶことを宣言した。


「〈やおよろず〉の皆様の協力に感謝します。たまに依頼を受けつつ、情報共有と儀式へのお手伝い、これで良しとしましょう」


 ツキヨミは「イトウ家は他家とのバランスを崩さない。大きなリスクを取らず、穏便に利益を得る姿勢が強いからだ」と分析した。

 コバンがにこりと笑い、「きっと、ヨーコ様は安定を第一に考えておられますにゃ。その穏やかさが、この契約をスムーズにしましたにゃ」と補足した。


屋敷を後にする際、ヨーコが田んぼの縁で見送りに出た。金色の髪が陽光に輝き、彼女は静かに言った。


「この街は穏やかさが命です。皆様のご協力が、それを支えてくれるなら嬉しいです。またおいでくださいね」


「絶対来ます! 次は田んぼのお手伝いもしたいです!」と、シイナが元気に返すと、ヨーコが「ふふ、楽しみにしています」と笑った。その笑顔は温かく、巫女としての穏やかさと、豊穣への願いが込められていた。


「ヨーコ様との絆は、緩やかですが確かですにゃ。この関係が、長く続く礎になりますにゃ」


コバンの言葉にツキヨミが静かに頷き、


「彼女は現実的です。他家との軋轢を避けつつ、私達から穏便に利益を得ようとしてる。緩い関係でも、足がかりとしては十分でしょう」


と評価した。

 ヒルヒメが田んぼを見ながら呟く。「戦わなくていいのもいいね。この街、なんかほっとするよ」


 〈陽光の街ヒュウガ〉を後にした一行は、次の目的地へと向かった。イトウ家との穏やかな契約は、〈九大商家〉との旅路に小さな安らぎを与えていた。

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