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〈ロングケイプ軍港〉への道は、切り立った崖と荒々しい海に挟まれた険しいものだった。岩だらけの道を進むと、遠くから聞こえる波の轟音と船の錨を巻き上げる音が響き渡る。〈ナインテイル自治領〉の防衛を担うこの軍港は軍事力で知られ、港には無数の戦船が並び海風に揺れる旗が勇ましさを物語っていた。ヒルヒメは、港に浮かぶ船の数を数えた。
「すごいね! 船がいっぱいだよ。これ全部戦うための船なの?」
「戦船ですね。リューゾ家は軍事力を重視してる筈ですから、海賊だろうが他家だろうが力で押さえ込む気なのでしょう」
と、ツキヨミが冷静に答える。彼は港の防備を観察しているようだった。
タケハヤは「ここなら依頼はモンスター退治が中心になるか?」そう呟く。隣に座るコバンが「にゃあ、そうにゃるとタケハヤ様の出番ですにゃね」とにこにこしながら頷いた。
〈ロングケイプ軍港〉を支配するリューゾ家は、〈ナインテイル自治領〉の防衛を担う意識が強く、他家に対して強硬派として振る舞う商家だ。海賊を起源とする武装商人であり、〈冒険者〉の実力を試したいと考えていると聞いていた。ヒルヒメ達の目的はその試練を乗り越え、戦力としての信頼を勝ち取ることだ。
「コバンさんが事前に聞いた情報では、わたし達は防衛戦に参加するらしいよ。二日間ガッツリ戦うみたい」
ヒルヒメは少し緊張した声で言う。シイナが「やっと本気出せるね」とタケハヤを見て笑い、スイテツとウケモチは無言で武器を点検していた。
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軍港に到着したヒルヒメ達は、リューゾ家の屋敷へと案内された。港を見下ろす岩場に建つその屋敷は、頑丈な石造りで、屋根には大漁旗が風に翻っていた。広間に入ると、そこに一人の女性が立っていた。
陽に焼けた褐色の肌、鍛え抜かれた体躯を持つ大柄なエルフ。煌びやかなウェーブロングの銀髪をたなびかせ、素肌を大きく晒した装束の上に大漁旗をマント代わりに背負っている。〈ナインテイル九山巫女〉の一人にして、〈リューゾ水軍〉の頭領、"海賊巫女"ヴェシュマ=リューゾだ。外見年齢22歳の彼女は、豪快な笑い声とともに一行を迎えた。
「ハハ! ようこそ〈ロングケイプ軍港〉へ! アタシはヴェシュマ、リューゾ家の者だ。アンタ達が噂の〈やおよろず〉だね? 防衛戦で使えるか試してやるよ!」
彼女が大漁旗をなびかせながら告げた。その声は広間に響き渡り、まるで嵐のように迫力があった。
コバンが一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。
「初めまして、ヴェシュマ様。ぼく、コバンと申しますにゃ。〈やおよろず〉の皆様と共に、貴家のお力になれればと参りましたのにゃ」
「アンタ、ちっちゃいのに礼儀正しいね! 気に入ったよ!」と、ヴェシュマが豪快に笑う。「だが、言葉より力だ。明日から二日間、海賊どもが港を襲うって情報が入ってる。アンタ達と一緒にぶっ潰してやるから、覚悟するんだよ!」
ヒルヒメが目を丸くして、「え、海賊!? 本物!?」と驚いたが、タケハヤが「準備しなきゃだな」不敵に笑った。シイナが「ふーん、面白くなりそう」と呟き、ツキヨミが「実戦で試されますか。まあ、悪くないでしょう」そう息を吐いた。
「そうそう。それともうひと組、〈冒険者〉達も手伝いに来てくれているんだ」
ヴィシュマはヒルヒメ達に告げる。
「〈快走!七福宝船団〉というギルドだ。アンタ達、知っているかい?」
そう聞かれて、ヒルヒメ達は顔を見合わせる。「知っているも何も……」
〈快走!七福宝船団〉はヤマトサーバーでも有数の海洋系ギルドだ。海洋系ギルドとは基本的には船舶の護衛や漁村を襲撃するモンスターの討伐といった海に関係するクエストをこなしたり、海産物などとも呼ばれるアイテムの採取や生産を主として活動するギルドのことだ。
もっともその構成人数は現在総勢200人にも満たず、最盛期の半分以下らしいが、それでもヤマトサーバーで最大のギルドだ。
「知り合い、ではありませんがこちらは存じ上げています」
ツキヨミは至極冷静に答える。
「そうかい。まあ、知っているんなら多少の自己紹介で顔合わせは済むだろう。こっちで仲介はしないから、自分達でやっておいてくれ」
ヴィシュマはそう告げた。
〈快走!七福宝船団〉が居るらしい場所へ向かうと、ボロ布を重ねたような奇怪なローブをまとった青年が出迎えてくれた。
「私は〈快走!七福宝船団〉の幽夜という。短い間だが、協力する」
「わたし達は〈やおよろず〉の第一部隊です。よろしくお願いします」
会話は短いものだったが、互いに気にすることはない。〈冒険者〉同士、足を引っ張り合わなければ良いだけの話だからだ。
野良パーティを組む時と同じような感覚だ。軽く挨拶をして、互いに敵意がない事を示す。あとはクエストをこなして終わりに別れの挨拶をするだけ。報酬の分け方で話し合いをすることはあるが、今回は平等に同じ報酬が振り分けられると事前に話を聞いているのでそういった会話をすることもないだろう。
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翌日、ヒルヒメ達はヴェシュマと共に防衛戦に臨んだ。港の沖から迫る海賊船は、黒い帆を掲げ、大砲の音が轟いていた。ヴェシュマが先頭に立ち、「行くよ、アンタ達!」と叫びながら水軍を率いて応戦する。ヒルヒメ達も負けじと戦場に飛び込んだ。
タケハヤが刀を構え、海賊の矢を切り伏せ、「来いよ、まとめて相手してやる!」と吠えた。スイテツが剣を振るい敵を切り伏せ、ツキヨミが弓で援護に回る。シイナと大市の魔法でパーティのHPは一定量を保っている。ウケモチとヒルヒメは援護をした。ヴェシュマは大剣を手に海賊船に飛び乗り、「海賊共、港に近づくんじゃないよ!」と豪快に暴れ回った。
〈快走!七福宝船団〉の方も、問題なく海賊を討伐している様子だった。向こうは自前の船を持っているようで、それに乗って海賊達と戦っていた。
「それにしても……すごいねぇ」
彼らの方をちら、と見やりヒルヒメは呟く。幽夜の操る船はまるで幽霊船だ。その上、彼はアンデット系を操る〈召喚術師〉、要は死霊術師ビルドのようだった。
初日は激戦が続き、夜までに海賊の第一波を撃退した。ヴェシュマが汗を拭い、「アンタ達、なかなかやるじゃないか! 特に連帯。慣れてんねぇ」と笑った。
二日目も戦闘が続き、最後の海賊船が沈むまで戦いは止まらなかった。夕陽が港を赤く染める中、ヴェシュマが「よし、終わりだ! アンタ達、使えるね!」と満足げに頷いた。
屋敷に戻り、報告を受けたヴェシュマは大漁旗を背に豪笑した。「ハハ! 二日間みっちり戦って、港を守り抜いた。アンタ達の力、認めてやるよ!」
コバンがその隙を見逃さず、提案を切り出した。「ヴェシュマ様、ぼくからお願いがございますにゃ。この防衛戦を〈冒険者〉が定期的に支援する契約を結んで頂けませんかにゃ? 補給物資の調達もお手伝いしますし、報酬として軍港の装備を頂ければ幸いですにゃ」
ヴェシュマが腕を組み、「ほう、補給か。船は金食い虫だからね、それなら助かるよ。装備ならいくらでもくれてやる」と頷いた。
ツキヨミが静かに付け加えた。「我々の戦術知識も共有できる。〈エルダーテイル〉での経験を活かせば、水軍の戦いもさらに強くなるはず。連携も視野に入れてはどうでしょうか?」
「ハハ! いいね、水軍と組むなら面白そうだ。よし、その話、乗った!」と、ヴェシュマが快諾した。
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交渉の最終日、ヴェシュマは広間で正式に契約を結ぶことを宣言した。
「〈やおよろず〉の戦力とコバンの補給、悪くない組み合わせだ。定期的な防衛支援と戦術共有、装備をくれてやる。これで決まりだね!」
疲れた様子を見せないヴィシュマを見て「彼女、すごいね。二日間戦って疲れたけど、楽しかったかも」とヒルヒメは零す。
ヴェシュマは「ハハ! アンタ達、気に入ったよ! 次はもっとでかい敵をぶっ潰そうね!」そう笑った。
屋敷を後にする際、ヴェシュマが港の岸壁で見送りに出た。大漁旗が海風に翻り、彼女は大声で言った。「アンタ達は、アタシの水軍の仲間だ! 他家にゃ負けないから、しっかり港を守るんだよ!」
「任せてください!」と、ヒルヒメが元気に返すと、ヴェシュマが「ハハ! いい返事だ!」と笑った。その笑顔には、海賊巫女としての豪快さと、仲間を認める温かさが混ざっていた。
離れる軍港を、コバンが穏やかに見つめた。「ヴェシュマ様の信頼は大きいですにゃ。この絆が、他家への牽制にもなりますにゃ」
ツキヨミが静かに頷き、「彼女は戦力として私達を取り込むことで、軍事的優位を示したいのでしょう。タケハヤの武勲がいい働きをしました」と評価した。
〈ロングケイプ軍港〉を後にした一行は、次の目的地へと向かった。リューゾ家との熱い絆は、〈九大商家〉との旅路に新たな力を与えていた。
『潮風に呼ばれて』(https://ncode.syosetu.com/n2441cq/)より、〈快走!七福宝船団〉、幽夜さん
のネタを拝借しました。




