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第2話 催眠術 side:博樹



 午後2時。


「おはよ」


 光里が俺の部屋にやってきた。約束した時間通りだ。こいつは真面目だから、約束を破るようなことはない。


「よう」


 いつもと同じく挨拶のような何かを返した。光里は勉強机の前に座る俺をチラッとみた後、ベッドにダイブ。


「おい、やめろって言ってるだろ」


 小さなダメージが累積して壊れるのだ。母さんに怒られるのは俺なんだぞ。何したのとニヤニヤして聞かれたときには軽く死ねる。


「いいじゃん、別に」


 光里は悪びれることもなく、ベッドの上にあった漫画を読み始めた。


「へぇ、また読んでるの?」


 俺が好きな漫画で、光里も読んでいるやつだ。無性に読みたくなって、1巻から読み直していた。


「いま、5巻のバトル中だ」


「あっ、ライバルとの戦い」


 そういえば、光里はライバルキャラが好きだ。俺は主人公が好きなので、それには言及しないようにしている。


 推しをめぐる争いは、終わった後に虚しさだけをもたらす。みんな違って、みんないいのだ。


 光里はベッドで横になったまま、漫画を読み始めた。体は扉の方を向いている。


 今日の光里は膝丈のスカート。足をあげたり寝返りを打ったりするたびに、中が見えそうである。


 胸だって結構あって、仰向けになったときには存在感を主張する膨らみがある。


 こいつは昔からそうなんだ。俺の部屋にやってきては、無防備な姿をさらし俺の理性を試している。


 小さいころは気にならなかったけど、今となっては俺も思春期の高校生だ。光里は可愛くて人気者で、俺は片思い中。


 俺は必死に手元のスマホに目線を落とし、チラ見に留めている。部屋に来なくなるのは嫌なんだ。また、関係がなくなってしまうのが。


 帰った後だって、ベッドに光里の甘い匂いが残っていて、どうにかなりそうだ。


 と言っても、俺の気持ちは催眠術を使えばバレてしまうのだ。変態って、思われているんだろうな。


「最低」


 蔑みの目で俺を見下ろす光里の姿が目に浮かぶ。いや実際に見たことはないけど、そうされているはずだ。俺にその手の趣味はない。


 でも、催眠術を使えるようになってから光里は毎週俺の部屋に来ていて、もう夏だ。光は俺のことをどう考えているのか。


 俺のことを単なる幼馴染としか思ってないんだろうな。少しぐらい嫌なところがあっても、それを受け入れられる関係。好きならとっくに恋人になってるだろう。


 それぐらい、俺たちは中学生になるまでは仲が良かった。その関係に少しでも戻れたと思えば、ちょっと嬉しい。


「ねえ」


 いつの間にか光里は漫画を読み終わっていて、俺の方を向いていた。


「今から、しよ」


 言葉だけ聞けば妄想が膨らむが、それは光里が俺の部屋に来る代償だ。俺はスマホを机に置いた。


「いいぞ」


 光里は俺にだけ、週に1時間、催眠術を使えるらしい。


 なんでそんな力を得ることができたのかは知らない。光里自身もわからないと言っていた。


 でも、その力は本物で、俺が意識を失っている間に光里に操られているらしい。


 どんな動作をさせるかも自由。どんな考えなのか、どんな記憶を持っているのか、すべてバレてしまう。


 正直に言えば、怖い。疎遠になっていた片思い相手の幼馴染に、それら全てを握られるのは。


 俺にもみんなに秘密にしておきたいこと。恥ずかしい失敗やキモい考えもある。当然、光里への大きすぎる想いも。


 でも光里なら、大丈夫。こいつはそういう奴なんだ。いろいろあっても、人が本当に嫌がる悪いことはできない。


 それにせっかくの仲を取り戻す機会を失うことはできない。


「じゃあ、いくね」


 今日も俺は、ギャンブルに挑んだ。




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