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最終話 告白



 閉園の時間に近づくとかなり混雑すると聞いたので、俺たちはあえて早めに観覧車に向かうことにした。


 光里いわく、最後に乗りたいならまた来ればいいじゃない。


 それって、俺が誘えばまた一緒に来てくれるということだよな。そういうサインだよな。さっきの話も踏まえて俺は、もうその気になっていたのだ。


 単純な奴と思われるかもしれない。でも、もう我慢できない。好きな女の子と普通のフリして遊ぶなんて、俺にはもうできないんだ。


 てっぺん。


 てっぺんだよ。


 あの観覧車のてっぺんに行ったら、俺は光里に告白する。


 そう覚悟を決めた、決めてしまった俺は、観覧車に乗るまでに10分ほどの待ち時間、頭が真っ白になっていた。


 うん・ああしか言わない、くそ野郎になっていた気がする。もっとスマートに行きたいのに、うまく話すことができなかった。


 初恋の幼馴染に初めての告白をする。心臓が早く動きっぱなしだ。


 そして、俺は光里の正面に座り、観覧車に乗り込んでいる。ぐらんぐらんと揺れ続ける、観覧車独特の動きがやけに感じられた。


 景色を見る乗り物でもあるのに、俺は視線を右にやり左にやり落ち着かず、光里は顔を下に向けていた。当然、会話はない。


 その静けさがますます俺の緊張を高めていたが、一大決心をして俺は言葉を発した。


「「あの」」


 ようやく正面を向いた俺の言葉は、これまたようやく顔を上げた光里の言葉と重なってしまった。


 目を合わせ、ああ光里はやっぱり可愛いなと思った俺はなんだか恥ずかしくなり、再び視線を逸らした。


 待て待て。なにをやっているんだ、俺は。ここは、気にせず話を続けるところだろう。俺の告白より優先される話なんてないわけだし。


 まさか、光里が俺に告白してくるなんて都合が良いことはありえないんだから。


 くそ、雰囲気が台無しだ。俺たちの間にそんなものは滅多に存在しないけど、やっぱり告白だからそれも大事にしたい。


 考え込む間にも、観覧車は動き続ける。頂上の少し手前で風に煽られたのか、やや大きめに俺たちは揺られた。


 いまここで。俺が光里に告白しなかったら。


 もしかして、俺は一生、光里に告白できないんじゃないか。何の根拠もないけど、ふとそう思った。そんな人生を想像してみた。


 いつまでも俺は光里の幼馴染で。それでしかなくて。やがてあいつに恋人ができて、俺に紹介なんてされちゃって。結婚式で友人代表のスピーチをする。


 そんな未来、絶対に嫌だ。俺は、死ぬまで後悔をするだろう。


 確かにムードなんてものはかけらもない。むしろ今もお互いだんまりで、最悪ですらある。


 でも、それがどうした。


 雰囲気?話の流れ?恥ずかしさ?


 そんなの、どうだっていい。


 わかったんだ。今日のデートで。


 いや、本当は、ずっとずっと前からやるべきことはわかっていたんだ。俺の本当の気持ちも。


 だから、伝えてやる。俺の気持ちを光里に。あとのことなんて知るか。


「「好きだ、お前が好きだー!!!」」


 よし、言ったぞ。言ってやったぞ。


 そう達成感に満ちあふれていたのだが。なぜか思ったより声が大きかった。俺はこんなに声を出せただろうか。


 いや待て、光里の口がなぜか空いていたような気がする。それってまさか。


 俺は正面の光里の顔をじっと見る。


 光里の顔がどんどん赤くなって、たぶん俺の顔もそれと同じで、心臓の鼓動も今までにない速さだ。


 心から望んでいた状況に、心は追いつかなくて。俺たちの身体は固まってしまった。


 数分とも数時間とも思える時間。それを続けた。


「もう1週入りまーす!」


 ニヤついている係のお姉さんの声で、俺たちは我に帰った。


「「あの」」


 再び俺たちの声が重なる。今度はさっきと違って、耐えきれずに笑ってしまった。


「なに、さっきの不細工な顔」


「お前だって叫んでたじゃん」


 それは光里もお互い様だろ。お姉さんに聞かれたじゃないか。


 いつも通りの気安いやり取りで、俺たちは調子を取り戻した。気が付くと、光里が感傷的な顔をしていた。


「これで私たちも恋人かあ」


 恋人。その言葉はやけにふわふわで、なんだか現実味がなかった。


「てか、さっさと告ってくれよ。俺の気持ち知ってただろ?」


 俺がどんだけ悩んでたことか。いや、それも知っていたのか?


「いや、知らないし」


「催眠術があるだろ。さいみんじゅつ」


 人のこころを丸裸にする恐ろしい術。俺たちをもう一度結びつけてくれたありがたい術。


「使ってない」


「なんで」


 俺のことはなんでも知ってるって言ってたぞ。確かに嘘をついている風ではあったけど、こんな重要なことを知らないはずがない。


 俺の言葉に光里はばつが悪そうだった。


「怖かった、から」


 うん、顔を赤らめていう光里は相変わらず反則だった。


「可愛すぎる」


 思わず呟くと、光里が俺の胸を叩く。


「そういうこと、普通に言わないで」


 そんなんしてもなんとも無いぞ。ダメージはゼロだ。


「彼女を褒めたらダメなのか?」


「だめじゃ、無いけど」


 俺はそのまま光里を抱きしめた。ふんわりいい匂いがして、子供の頃の記憶より柔らかくて。


 それに、ビクッとしてから俺を抱きしめ返してくれた光里への愛おしさは、言葉では表現できない。


「それに俺は隠し事できない。あれがあるから」


 嘘をつく気なんてないけど、催眠術があれば隠しようがない。浮気とか、ありえないし。


「大丈夫。もう使えないから」


 光里の思いがけない言葉に驚く。どういうことだ?


「役目を終えたんだよ」


 でも、その言葉は意外にするっと理解できた。


「そうだな、もういらないはずだ」


 そうだ、お互いに勇気を出して恋人になった俺たちにはもう必要がないものだ。


 それがなくても、俺たちはうまくやっていける。喧嘩することもあるかもしれない。でも、その度に正直に気持ちを伝えればいいんだ。


 それほどうまくはいかないことが多いのだろうけど、俺たちなら大丈夫さ。


 ふと下を見ると、観覧車の下にきつねが見えた気がした。自然が多い遊園地ではあるけれど、珍しいこともあるものだ。いいことは続くものだな。


 そしてそのまま、光里と一緒に外を見た。


 どこまでもどこまでも、青い空が続いていた。



「疎遠になった幼馴染が俺にだけ催眠術を使えるらしい」を読んで下さり、ありがとうございました。

この話を持って、本作は完結となります。


気が向いたら、またはご要望があれば、番外編などを出すかもしれません。感想・評価を頂ければ嬉しいです。今後の励みになります。


本作は短い物語ですが、私にとって初めて完結させた物語です。作者にとって、感慨深いです。ここでは、博樹と光里という2人が、催眠術というものをきっかけにして、再び距離を縮めていきます。


なぜ催眠術なのか、使い始めてからデートまで空白の期間には何があったのか。あえて作品の中で触れていない部分もありますが、読者の方々のご想像にお任せしたいと思います。皆様なりの博樹と光里を想像してほしいと考えています。


改めまして、「疎遠になった幼馴染が俺にだけ催眠術を使えるらしい」に最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました。今後も恋愛ジャンルの小説を執筆する予定自体はあります。


また、作風はかなり異なりますが、拙作「幸運は勇者を好む〜不運な弱小陰キャが幸運の勇者様になるまで〜」もぜひお読みください。


それでは、ご縁があれば、またどこかでお会いしましょう。


鎌倉権五郎景正

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