第6話 遊園地デート後編 side:博樹
「くっ、惜しい」
「甘い」
俺は腕を動かして鋭い攻撃を防いだ。久しぶりにやったけど、これも結構楽しいな。
俺たちはエアホッケーをしている。光里が動きっぱなしで疲れているようだったので、近くにあったゲームコーナーに入ったのだ。
車のレースやモグラ叩きをするものなど、内部にはゲームセンターによくあるゲーム機が多く設置されていた。その中で選ばれたのがエアホッケーだった。
俺はこの手の遊びは好きだ。友達ともたまに高校近くにゲームセンターに行って、リズムゲーとかをやっている。密かな自慢としては、そこそこの腕前である。
「隙あり!」
「やば」
そう思ったときにはすでに遅く、パックは俺のゴールに吸い込まれた。3対2になり、俺の負け。勝てそうだったのになあ。敗因は試合に関係のない考え事。
「あー、楽しかった」
「そうだな」
まあ、いいや。光里のいい顔が見られたのが最大の報酬だ。落ち込んでいた雰囲気はもうない。気分転換はうまくいったようだ。疲れも取れたみたい。
「どうしよっかなぁ」
光里は何を悩んでいるかというと。
実は、俺たちは賭けをして勝負を行っていた。賭けといっても、お金ではない。負けた方が勝った方の命令を1つ聞くというものだ。
どうせ催眠術を使われ、弱みを多く握られている。俺は光里からの申し出を快諾した。何を命令しようという考えはなかったが。
「そうだ」
嫌な予感がするぞ。この表情は、いいことを思いついた時のものだ。光里にとってのいいことは、俺にとっての悪いことである。
「空中ブランコ!」
おいおい、俺は浮遊感が苦手なんだが?
「あれれ博樹くん、約束破っちゃうのかなあ?」
にしし、と顔を傾けながら笑って上目遣いをする光里は最強で。
「わかったよ」
俺はその頼みに従うしかないのだった。
空中ブランコには予想よりも人が並んでいた。というわけで、今俺たちは大人しく列の最後尾に加わっている。それなりに待ちそうだ。
「じゃじゃん」
俺はかばんからあるものを取り出した。光里の目が輝く。
「じゃが○こだ。しかも、私の好きなじゃがバター味」
容量がないバッグだけど、備えが役立ってよかった。遊園地デートは待ち時間に気まずくなるってネットにあったから、わざわざ用意したのだ。
「昔、よく家に持ってきてたよな」
「うわ、懐かしいんだけど」
本当に懐かしい。あの頃みたいにはいかないけど、疎遠だった数年間を経て、こうして気安いやり取りができるようになれて嬉しい。
光里はこいつが好きで、美味しそうに食べている。俺も好きだから、まず1本手にとった。
「昔といえばさ、美咲って覚えてる?」
ミサキ、みさき。ああ、美咲か。思い出したぞ。
「小5で転校したやつだろ?」
「そうそう。私たち、結構仲良かったよね」
光里の言葉に俺はうなずいた。でも、なんで急に美咲の話題が出たのだろう。じゃが○こと関係があったっけ。
「実はあの子、こっちに戻ってきててさ」
へえ、それは知らなかった。
「クラスは違うんだけど、原田のこと好きらしいんだよ」
なるほど、なるほど。っておい。
「まじか。同じ高校にいて、あの原田が好き、とか」
衝撃情報が同時にやってきた。よりにもよって原田かよ。どれだけモテるんだあいつ。それにしても、おとなしそうだった美咲があのイケメンの原田狙いとはねえ。
光里は俺の理解が進んだのを見て、話を続けた。
「それでこの前、一緒にカフェに行ってあげたの。3人でね」
どういう状況だ。脳の処理が追いつかない。光里は原田と付き合ってるんじゃないのか?
「3人で」
「そう、3人で」
ええとつまり。
「それで?」
「いや、それだけ」
オチなしかよ。それだけってことは流石にないだろう。
「いやいや、美咲は大人しいし。原田も思い出作りに付き合っただけだから」
やっぱり恋愛はよくわからない。でも、光里が言うんだからそういうこともあるんだろう。
「光里は?」
「私?」
手のひらを自分に向けて反応した後、光里は手を元に戻した。
「友達が頼んできたから、付き合っただけ」
それだけでわざわざカフェまで行くか?
「原田も彼女に誤解されたくないだろうしね、気遣いってやつ」
「彼女?」
予想外の言葉にドキッとして、俺はついそのまま言葉を返した。
「実は原田、あの久石さんと付き合ってるから」
まじか。光里ほどではないがかなり可愛いあの久石さんと。学年1のビッグカップルだ。未公開情報を人に伝えたくてうずうずする。
なお、言っちゃだめだからねと人差し指を唇に当てた光里は、まじで可愛い。
「なるほどなあ」
そして、俺は思った。このときはやけに思考がクリアになっていた。
光里。完全にフリーなんだ。彼氏、いないんだ。
そして、こんな話でも思いの外時間は立っていたようで。
誘導に従って俺たちはそのまま空中ブランコに乗り込んだのだった。
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