第5話 遊園地デート中編 side:光里
「もう怖がりすぎでしょ」
「あの、頂上で浮く感覚がダメなんだよ」
絶叫系が好きな私は、早くもグロッキーになった博樹をからかっていた。
昔から博樹はこの手のアトラクションが苦手で、小さいときは何度も乗る私を地上で待っていた。
私は一緒に乗って楽しみたくて無理に手を引っ張っては、お父さんに怒られていた。
「あれは、絶叫させるアトラクションだから、俺が正解なんだ」
弱者が言い訳を吐いている。その気分が悪そうな顔で言っても説得力が皆無だ。
まあ、毎回へとへとになって私の肩を借りる博樹は面白かったから、もう1回乗らないのは許してあげる。まだ私は満足していないのだ。
「早めに食べる?」
今から他のアトラクションに並び始めると、昼時を逃してしまいそうだ。何だか、食べるところも混みそうな感じだから。
「ああ、そうしよう」
博樹の同意を得られたので、私たちは飲食ゾーンまで移動する。この混み具合だと早めに来たのは正解だったと思う。
「見てよ、これ」
私は、永久保存が決定している写真を見せた。
「ど、どこでこれを」
博樹の寝顔はたくさん撮ってあるけど、こういう間抜けっぽい顔はレアだ。案の定、博樹は慌てている。
普段のかっこいい顔も好きだ。でも、寝顔や子供っぽい顔も好きだ。つまり、私は博樹が大好きだということ。
「途中にカメラがついてたみたいで、あそこで買っちゃった」
私がお茶目に言うと、最終的には博樹は許してくれる。博樹は私には甘い。
どのタイミングって顔をしている。私は先んじて答える。
「博樹がへばってる間にね」
ベンチに座らせたときも上の空だったから、チャンスだと思った。気付かれたら邪魔されちゃうからね。
目的地に着くまでに消してくれってうるさかったから、つい言い争いになってしまった。
博樹が何と言おうと、絶対に消さない。お互いにおじいちゃんとおばあちゃんになっても、今日の写真を見せて、あのときの写真だねって笑い合うことになる予定。
そう、私は今日、ずっと大好きだった博樹に告白するのだ。
それを意識するといつも通りに振る舞うのが難しかった。事前に見つけていたレストランは大混雑で、落ち着いて食べることができなかった。
ネットの情報は、必ずしも当たらない。やっぱり、下見した方が良かったかな。
「ごめんね」
「光里が謝ることじゃない。俺たちはアトラクションを楽しみに来たんだし」
博樹に慰めてもらうと、いつでも気分が回復する。私にとっての薬だ。
「うん、ありがと」
今日は私が誘ったんだから、私がしっかりしないと。手帳をめくって予定を確認する。
「次はお化け屋敷、だね」
「大丈夫か?」
私がお化け屋敷が苦手だから、心配なのだろう。昔の私のことを覚えていてくれて、嬉しい。
あの頃、博樹は怖がる私を無理に連れ込むことはしなかった。そういうとなんだか私がわがままみたい。子供ってそんなものだけど、博樹は昔から優しいんだよね。
「いいの。私も高校生だし」
これは建前。本当はちょっと怖い。でも、私が可愛く怖がって博樹に頼り、女の子らしさをアピールするという計画だ。
漫画にもたくさん出てくる定番シチュだし、効果ありそう。
……。
という計画は、所詮は女子高生の浅知恵だった。漫画は、現実にはないから漫画になるのだ。私はそれを忘れて、乙女思考をしていた。
初めは、わざとらしく怖がって、博樹をからかっていた。そして、徐々に怖くなった振りをして計画を実行していった。
両腕を使って博樹の左腕を掴み、顔を見る。
わかりやすく顔が赤くなり、私の腕や胸や顔をチラチラ見ていた。全部バレてるから。他の誰にやられても嫌だけど、博樹に見られると嬉しい。
でも、途中で人が変なところから出てきて、びっくりして、怖くなってしまった。余裕がなくなって、博樹の腕をぎゅっと掴む。
博樹の体温と匂いに、私は少し安心する。それでも、怖いものはこわい。
「ひろきぃ」
前を見ている博樹はいつも通りだ。頼もしいような、私の1人相撲が虚しいような。
「そろそろ出口だ」
「やった!」
やっと終わりだ。しばらくお化け屋敷には入りたくない。
「何か言った?」
「気のせいじゃないか?」
何か喋った気がしたんだけど、気のせいか。緊張しすぎみたい。
「出口だ!」
私は、博樹と一緒に出口に駆けていった。
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