5話 崩れていく日常
噂は忽ちに学園中に広まっていった。
「魔法殺しが学園に居るってさ」
「あの可愛い子だよね。やっぱり可愛いだけで、大したこと無いんだ」
「どんな手段で学園に入り込んだんだか」
周りの生徒が彼是と言う。
魔法殺しが居るのだから、当然と言えば当然のことだろう。
「まさかあの娘が魔法に適してないなんてね」
「魔法殺しと知り合いなの?」
その事実に、驚きを隠せない様子のエステル。そんな少女に友達は尋ねてき…
「あ、うん。一寸ね」
「この空気じゃ、その娘とは関わらない方がいいよ。酷い目に遭うよ」
「そうするね」
友人の忠告に、エステルは耳を傾けた。
ミラの方は。
「魔法適性率零とかヤバいね。よくこの学園に入学できたものだね」
「確かにそうなの」
「この国でそれとか関わらない方が良いよ。関わると碌なことにならないからさ」
「そうするなの」
魔法が全ての国なのだから、それも仕方の無いことだろう。
──戦闘には向いてない。
何故入学出来たのか不思議な位に。
シャネルと関わっていた人が、一人一人離れていく。
シャネルが教室へ表向きは笑顔で戻っていくと。
「アリシアは、どうだったんですか?」
前の席のアリシアへ声を掛けるも、返答がない。
聞こえなかったのかもう一度声を掛け様とするも、一歩引く。
──やっぱそうなるよね
理解したのだ。
こうなった起因を。
魔法に適性がないのもが、このトップクラスの学園にいるのだから。
ホームルームが始まり、色々な連絡事項を伝える。
連絡事項が終わると、ホームルームは終わり、先生は教室を出ていく。
──私は部屋に戻った。
『虹』は何時似なく静まり返っていた。
無理もない。状況が状況なのだから。
──二人は私を避けるようにしている。
時間は飛んどんと過ぎていき、それぞれがお風呂に向かい。
お風呂が終わると、食堂へ行き、一人寂しくご飯を済ます。
それから部屋へ戻り歯磨きを済ませて、横になる。
そして夢の世界へ入り込む。
──しかし何時になっても寝付かない。
何故魔法がないのか。どうして私だけ持っていないのか
どうして…どうして
普段はポジティブなシャネルだが、こればかりはネガティブになるのも無理はない。
悪い夢なら直ぐに覚めて、そう何度も願う。
しかし現実がシャネルへ言葉通り、痛く突き刺さる。
──何か可笑しい。この学園は試験が厳しいから、見逃す筈がないのに…
エステルはこの結果に疑念を抱く。
結局一睡も出来ずにいたシャネルは、踉蹌つきながら起き上がる。
──うぅ···眠い
一睡もしてないせいで、欠伸が止まらない。更に頭が重く、ボーッとしてしまう。
二人の姿はもう無い。
当然と言えば当然か。
重い足取りで部屋を出て食堂へ行き、食事を済ます。
シャネルが来るなり、どんどんと人が去っていく。
寂しい食事をただ一人寂しくするのであった。
「あ、昨日の」
「お姉さん、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
近付いてきたコレットに気付き、言葉を交わす。
「隣の席座って良い?」
「はい、どうぞ」
許可が下りたから、遠慮無くちょこんと座る。
すると黙々と食べていく。
「ホント、ここのパン美味しい~」
食べてる姿も可愛らしい。
三つ目を食べ終えたとかで…
「お姉さん、凄く有名だね。驚いちゃったもん」
「あんな風に有名になるのは嫌です」
「それでどんな方法使ったの?」
態とらしく言うコレットに、心底嫌そうな態度を見せるシャネル。
モグモグと新しいパンを食べなから、また尋ねてきて…
「ホントに何もしてないです」
──あれ? 本当にないの?? 細工したとかじゃなくて…
段々と、シャネルの発言が嘘ではないと分かり始めて…
「どうやって入学したの? お姉さんは」
「え~とですね。普通ですよ。普通に試験受けて、そして受かったんです」
──普通に試験受けたって、魔法も!?
「魔法の試験はどうだったの?」
「魔法は無かったですね」
試験を思い出して、そう口にする。
──この幼女、私と居て平気なのかな。周りから酷い目に遭わされたりしないのかな
関わりを持ってしまうと、後々面倒なことになる。
そのことを知らないのだろうか。
最後のパンを食べ終わった所に。
「コレット、そろそろ仕事行きますよ」
「はーい。じゃあ、またね、お姉さん」
銀髪の先生に呼ばれ、コレットは容器を片付けて立ち去った。
「仕事? つまりあの幼女は…」
そこで漸く幼女の正体に気付く。
「シャネル·ネージの採点したのそう言すば私だった。確か眠くて眠くて仕様がなくてつい寝てた時にだ」
自分の愚かさを知ってしまう。
食べ終わったシャネルも部屋に戻り、歯磨きを済ませて髪型をセットする。
そして教室へ向かう。
何時もと同じ席に着く。
教室内は静まり返っていた。
そこへ先生が入ってきたホームルーム開始。
「今日からは学科授業があります。自分がやりたい所を受講してもらえます。そして技術も身に付きます」
学科授業の説明をされた。
説明し終えるとホームルームが終わり、授業開始された。
退屈な授業が続き欠伸をする生徒もいる。
どんどんと時間が過ぎていく。
昼休みになり、学食でビュッフェを食べ…
午後からは学科授業な為、シャネルは教室に残っていると。
そこへ──
「シャネル·ネージュさん。ごきげんよう」
「学園長さん、ごきげんよう」
学園長が姿を現す。
「どうしてここに…」
「貴女、魔法適性が零って本当ですかね」
「あ、はい」
その返事を聞いた学園長は。
「やはりそうですか。話が早くて助かる。早速だが、貴女には学園を去ってもらう」
そう言い渡す学園長だが、「しかし」と続け…
「チャンスを差し上げましょう」
「チャンスですか?」
「ふむ、私が用意した二人の相手のどちらかに一勝でもしたら退学を取り下げましょう。両方とも負けた場合直に退学をしてもらいます」
──無茶な条件に、普通だったら呑むことはしない。
勝つことは不可能で、仕組まれた退学計画に見えて仕方がないのだから。
「その相手は片方だけ教えて差し上げます」
と言った直後──
教室の中へ一人の幼女──否、先生が入ってきた。
「お姉さん、ヤッホー」
聞こえのある声──そう、コレットだ。
「なーんて、レベルの違いを見せてあげる」
コレットは小さくて可愛い八重歯を覗かせながら笑う。
本性を表したコレットは。
「本当に適性が零なら、容赦しないもん」
「コレット、君なら大丈夫だと思うから、期待してるよ」
本気で落としに行くらしく。
ポンと肩を叩く。
「特別に猶予を上げます。精々無駄な足掻きを見せてください」
そう言って教室を後にした。
色々と言われ頭がパンクする。
ただ分かるのは、このままでは不味いと言うことだけ。与えられた猶予も、魔法が使えない時点で練習の仕様がない。
──何故そこ迄して退学させようとするのか
そのような疑問が、シャネルの中を過った。
とは言えど、決まったことは仕方がない。
あれやこれやと言ってる場合ではない。
──やるしかないのだ。
勝てないとしても、やれるだけのことは…
そう強く思い、シャネルは部屋へと戻って行った。